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番外編
運命の出会いは拳と共に ②
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後々、エリヤはこの時のことをこう語った。
『あの時のあなたは、私に殴られたせいで頬は腫れているうえ、鼻血をダラダラと流しているのに、なぜか笑顔を向けて来ていたのよ? 色んな意味で恐ろしくて私の方が脅えてしまったわ』
まさか、自分の顔面がそんな大変なことになっているとは知らない私は、彼女の反応に首を傾げる。
(やはり可愛いらしい人だな)
今はなぜか顔が真っ青だけど、あの強気な発言をしていた時の顔は特に良かった。
もう一度見たいな。そんな気持ちがムクムクと湧いてくる。
「あの……」
「っ! ご、ごめんなさい!」
私が声をかけようとしたら、彼女はますます顔が青くなってしまった。しかも何やら謝っているぞ?
何をそんなに私に向かって謝る必要が?
「……はっ!」
あぁ、そうか。間違えて殴ったことを気にしていたのか、とやっと気付く。
そんなこと気にしなくていいのに。むしろ……
ようやく彼女の顔が青い理由を理解した私は何を思ったかこう口にしていた。
「───気にしないでくれ。あなたにならまた殴られてもいいとさえ思っている」
「……え」
女神は私の顔を見て固まった。
◆◇◆
「あなたは、阿呆なんですのーーーー!?」
「失礼だな。私のどこが阿呆なんだ、テロリン」
「テ!? その! 相変わらずのわけの分からない名前の呼び方からして阿呆そのものですわーーーー!!」
「……」
翌日、我が家を訪ねて来たリロリンが大興奮している。まぁ、これはいつもの事だ。気にしてなどいられない。
未来の王妃になるつもりなら、もう少し大人しくした方がいいと思うのだが……果たしてこれは余計なお世話なのだろうか?
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この後、我が家には昨日のあの美しい女神がやって来るのだ!
───わ、私は、フルーム伯爵家のエリヤ……と申します。この度は本当に本当に申し訳ございませんでした! 明日、両親と共にお詫びにお伺いさせてください……! 治療費ももちろんお支払い致しますので───
(エリヤ……と名乗っていたな)
また、殴られてもいいなどという言葉を口にしたせいで、かなり引かれた気がしたが、彼女は石化が解けた後もひたすら私に謝り続けていた。
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昨日、夜会から帰った私の姿を見た両親と公爵家は上から下までの大騒ぎとなってしまった。
父上は、目を血ばらせながら「公爵家に喧嘩を売るとはな! 今すぐこんなことをした犯人を叩き斬る!」と言って剣を持ち出すし、母上はワンワン泣いて「こんな時までポヤンとしているわぁぁぁ」と意味不明なことを言っていた。
あんなに可愛いくて美しいエリヤが斬られる姿なんて絶対に見たくないので、慌てて父上の説得にかかる事にした。
友人の為に人間違いで殴ってしまったらしい、と説明しても、どこか納得しない様子の父上の前で「彼女は本当に何も悪くない!」と目を開けて怒鳴ったら、どうにか納得してくれたのでホッとした。
「これから、エリヤ嬢がやって来るんだ。もう帰ってくれ」
「え? バレット。あなた今、なんて言いました?」
シャロリンが目を大きく見開いて私の顔を凝視してくる。
「だから、これからエリヤ嬢が……」
「エリヤ! あ、あなた、エリヤの名前は覚えているんですの!?」
「……? 何を言っているんだ? 昨夜の彼女はエリヤ・フルーム伯爵令嬢だろう? マロリン」
「マロ! あぁぁ、もう腹が立ちますわ! なのにエリヤのことは家名まで正しく言えているなんて! どういう事ですのよーー!」
「? エリヤ嬢はエリヤ嬢だろう?」
キロリンが一体何を言っているのか私にはよく分からなかった。
だが、とりあえずうるさいのでそのまま追い出した。
◆
そうして、遂にエリヤ嬢が家族と共に我が家にやって来る時間が近付いて来た。
ソワソワして落ち着かなかった私は、先程から何度も何度も時計を見るがいつ見ても一分しか進んでいない。なぜだ!
早く時間になれ────そう願ったとき、門の前に馬車が止まる音がした。
(き、来た!)
困った!
私の胸のドキドキが止まらないのだが。こんなのは初めてだ。
ドキドキしながら私はフルーム伯爵家の面々を出迎えた。
「この度は、私共の娘が本当に本当に申し訳ないことを……」
女神の父は額を床に擦り着けそうな勢いで謝り倒している。
「娘は少々、昔からじゃじゃ馬で……昔から人を殴る時は相手をよく見てからと散々言い聞かせて……いや、違う……そうじゃない……」
緊張のせいか女神父は支離滅裂な発言になっている。
そんな父親の傍らでエリヤ嬢は母親に支えられながら今日も青い顔で頭を下げていた。
(うーん、そんな顔ではなく……また笑って欲しいのだが……)
「───エリヤ嬢」
「は、はい……!」
私に声をかけられてエリヤ嬢はパッと顔を上げた。
(可愛い!)
やっとこっちを見てくれた! そして私と彼女の目が合う。
「そんなに申し訳ないと思うなら……」
「は、はい……」
「────今度、私とデートをしてくれ!」
「デッ!?」
エリヤ嬢は目を大きく見開いて両親と共にその場に固まり、私の父上と母上も顎が外れるそうなくらいポカンと口を開けていた。
◆
こうして、私は無事に再びエリヤ嬢と会う約束を取り付けることに成功した。
フルーム伯爵家ご一行が帰られた後、父上は私に詰め寄った。
「デデデデートとは何だ! バレット!」
その言葉に私は眉を顰める。まさかと思うが……
「……? まさか父上はデートを知らない……?」
「知っとるわー! なぜ、フルーム伯爵令嬢をデートに誘ったのかと聞いているんだ!」
(そんなの……)
頭の中に可愛いエリヤ嬢の姿が浮かび、私の頬がポッと赤く染る。
それを父上と母上は見逃さなかった。
そして何故か私を見て二人が涙を流し始めた。
「お、おい見たか? ……ま、まさか、こ、こんな日が来るとは……」
(どこに行こうか? 彼女は何が好きだろう?)
「ええ、あなた。常にポヤンとしてるからそんな感情は持ち合わせてないとばかり……」
(やはり、美味しい食事をとれる所がいいだろうか? 美味しいって笑ってくれたら嬉しいなぁ)
「奇跡だ……」
「奇跡よ……」
(その笑顔はきっと美しいに違いない)
意味の分からないことを言いながら、おいおい泣いている両親を無視して私の頭の中はエリヤ嬢と出かけることしか考えていなかった。
────そうして、このデートの日から私とエリヤの追いかけっこが始まるのだった。
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