【完結】愛する人が出来たと婚約破棄したくせに、やっぱり側妃になれ! と求められましたので。

Rohdea

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愛する夫と可愛い子供たちと…… ②

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◇◆◇


「ちちうえ、ははうえ、それでどこに行くの?」

  馬車に乗り込んですぐにイーサンが私たちに訊ねる。

「僕の……大事な知り合いに会いにいくんだよ」

  シオン様が優しくイーサンの頭を撫でながら説明する。

「だいじな知り合い?」
「そうだ。とってもとっても大事な人なんだ。イーサンもエヴァナも好きになってくれたら嬉しいな」
「ふーん」

  よく分かんないけど分かった!  と笑顔で答えるイーサンとは対照的に、何故か私の膝の上にちょこんと座っているエヴァナがおかしな顔をしている。

「ん?  エヴァナ、何か言いたそうな顔をしているけど?」
「お父さま……」

  シオン様が声をかけるとエヴァナがキッと顔を上げて、シオン様を睨む。
  愛娘に睨まれてシオン様は大きく動揺した。

「お父さま!  これは、うわき!  やっぱりうわきなのね!?」
「え……」
「だいじな人って言ったわ!  うわきよ!」
「ちょっ……ちょっと待て!  エヴァナ!  何でそうなる!」

  私とシオン様はその発言に慌てた。
 
  (いったい誰がこの子に浮気なんて言葉を教えたの……!)

「ちがうの?」
「違う!  僕は誓ってお母様……フレイヤ一筋だ!」
「お母さまをあいしてる?」
「ああ!  この先何年、いや、何十年経とうとも僕はフレイヤを愛してる!」

  シオン様は大きな声で娘に向かってそう宣言した。

「シオン様……」
「……フレイヤ」

  その言葉が嬉しくて私が頬を染めてシオン様を見つめたら、シオン様もどこか熱っぽい目で私を見つめ返してくれた。

「分かったわ、お父さま。そのことば、信じてあげる」
「ちちうえとははうえが、仲よしなのはうれしい!」
「「……」」
  
  何故か上から目線の娘と、マイペースな息子の姿に私たちは笑いあった。




  
「まあ!  陛下!  それに王妃殿下まで!」
「こんにちは、アーリャさん」
「え?  それに……そちらのお二人はもしかして!」

  シオン様の突然の訪問に驚いた様子のアーリャ妃……元側妃はイーサンとエヴァナまで一緒に来ていることに驚いていた。

「はい。僕とフレイヤの息子と娘です」
「やっぱり!  王子殿下と王女殿下ですか!?」
「まあ!  まあ!  どうしましょう!」

  当然だけれどアーリャ様は……そんなまさか!  お会い出来る日が来るなんて!  と、大きく動揺していた。

  シオン様は国王になってからも相変わらず時間を見つけてはここへと足を運んでいた。
  私も時々、一緒に訪ねていたけれど、実は子供たちを連れての訪問は今日が初めてだ。

「二人ともなんて可愛らしいの!」
「ありがとうございます……アーリャさんにどうしても会わせたかったので」
「陛下……」

  その言葉にアーリャ様が嬉しそうに微笑む。

「殿下が国王になられた時も驚きましたが、こんな可愛い子供たちのお父様に……なられて」
「また、子供扱いですか?」
「ふふ」

  シオン様とアーリャ様の関係は相変わらずだった。
  そんな二人の様子をじっと見ていたイーサンがポツリと小さな声で呟いた。

「……にてる」

  (え?  今なんて?)

  イーサンがトコトコとシオン様とアーリャ様の元に近付いて行く。
  自分たちの元に近付いてきたイーサンの姿に気付いたシオン様がそっと抱き上げた。

「どうした?  イーサン」
「ちちうえ……」
「まあ!  王子殿下……シオン陛下にそっくりですね。私はアーリャと申します、よろしくお願いします。イーサン殿下」

  アーリャ様がイーサンに向かって微笑んだ。

「……ばー…………抱っこ」

  イーサンはアーリャ様を見ながら何かを言いかけると、何故か手を伸ばして抱っこをせがんだ。

「え?  イーサン?  もしかして、アーリャさんに抱っこされたいのか?」
「うん」

  コクリと頷くイーサン。
  シオン様はアーリャ様に大丈夫ですか?  と確認したあと、そっとイーサンを渡した。

「───まさか、この私が王子殿下を抱っこする日が来るなんて!  夢みたいです!」
「それは良かった」
「ありがとうございます、陛下────……」

  最初はそんなことを言いながら、はしゃいでいたアーリャ様が突然黙り込む。

「アーリャさん、どうしました?」
「─────よく似ているわ。の小さかった頃に……ふふ、そう。いつもこんな感じで私が抱っこすると大人しくなって……」
「え?  アーリャさん?」
「私の大事な大事な……大切な私の…………子─────オン」
「!」

  (───!)

  アーリャ様の突然のその言葉にシオン様が固まる。
  気のせい?  
  聞き間違いでなければ……今、アーリャ様は“大切な私の息子、シオン”と言った?

「…………ってあら?  私ったら何を言っているのかしらね?  あら、陛下?  どうされました?」

  だけど、すぐに夢から覚めたようにハッと顔を上げる。

「い、いや……何でも……ない」
「そうですか?  でも、不思議ですね。イーサン殿下を抱いているとすごくすごく懐かしい気持ちになります」
「……」
「ずっとずっとどこかに置き忘れた大切な忘れ物が見つかった……そんな気持ちになれて──ふふ、何故かしら?」
「……っ」

  アーリャ様のその言葉に懸命に涙を堪えているシオン様の姿が見えた。

  (……完全になくなってなんかいない。シオン様と歩んできた記憶はきちんと残っている)

  イーサンの中にシオン様の面影を見つけたのか、アーリャ様の口から自然と溢れたその言葉を聞いた私は強くそう思った。
  
「むぅ!  イーサンだけずるいわ!  私も抱っこ!」
「まあ!  王女殿下まで?  嬉しいです。王女殿下はフレイヤ様……お母様にそっくりですね!」

  今度はエヴァナまで抱っこをせがんだ。
  もしかしたら、二人は本能で悟ったのかもしれない。この人が“お祖母様”なのだと。

  (そうだったらいいな……)

  アーリャ様がシオン様のことを思い出す日はそんなに遠くないのかもしれない。
  ───そんな予感がした。

  (そうね、その時が来たらアーリャ様と一緒に前国王をボコボコにしに行かなくては──!)

  和やかな空気の中、私はグッと拳を握りしめた。


─────


「……シオン様、泣いていました?」
「泣いてない!」

  夜、寝室のベッドの上で可愛い夫は昼間に泣きそうになっていた事を必死に否定する。

「強情ですねぇ……」
「……」

  プイッと顔を逸らすシオン様。
  私の夫は相変わらずだわ、と思わず笑ってしまう。

「───大好きです、シオン様」
「くっ!  フレイヤが今日も可愛い……毎日可愛い……勝てない」

  どこか悔しそうに呟いたシオン様は、優しく私を抱きしめるとそっとキスを落とした。



  ───この国の王の正妃となるべく育てられた私。  
  でもあの日、ずっと婚約していたエイダン様に「愛する人が出来た」と、突然婚約破棄されたはずなのに、やっぱり側妃になれ!  などと求められ……

  そんなめちゃくちゃな話から始まった私の運命は────
  愛する夫と可愛い子供たちと……大好きな家族に囲まれて、今日もとってもとっても幸せです!


~完~




✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼



これで完結です。
ここまでお読み下さり本当にありがとうございました。
まずは短編どころか私の書く話の中でもだいぶ長くなってしまった事をお詫び申し上げます。

アーリャ妃に子供たちと会いにいくラストシーンだけは最初から決めていたので、そこに持っていくまでに広げた風呂敷を畳もうとしたらどんどん延びてしまいました。

冒頭で夫の名を明かさなかったから、最初は元サヤかとざわつかせ、お父様とお兄様のうろ覚えで大喜利が始まり……何だかとても感想欄が賑やかだったな、と。
返事は完全にストップしてしまっていますがありがとうございました!
楽しく読んでます。

ちなみに、このお父様のうろ覚えはほんの軽い気持ちで始めたものでして……
こんなに反響があるとは……と本気で驚きました。
ベリンダという本名も、適当に名付けたものでして、決して“フリンダ”にする為の計画的な名づけではありません。全部、偶然です。
また、作者の自分が彼女の本名を忘れそうになったりと実は大変でした。
そして盛大にネタ切れも起こしていて感想欄をヒントに色々捻り出させて頂いたり……
ありがとうございました!
あ、どの名前が好きでしたか?

それから、お父様ことポヤン公爵。こちらにも熱い支持をありがとうございました。
父&母の馴れ初め話のリクエストが多くてこちらも驚いています。
新しく別連載にするほどの話ではないので、番外編として続きを書けたらいいなと思い、今、考えている所です。
一旦、完結にはしましたが、お父様ファンの方はよければこのまま続きをお待ち下さい!

一つ前の話の後書きにも書いたように、元々は別の私の書いた話、
『出来損ないと罵られ~』の主人公母と同じような境遇になった令嬢が「正妃ではなく側妃?  ふざけるな!  お断り!」という道を選ぶ。という話が書きたかっただけなのですが……
想像以上にフレイヤは強かったです。

最後までお読みくださった方に心からお礼を申し上げます。
お気に入り登録、感想、エール等々本当にありがとうございました!

次作も始めています。
『偽りの愛は不要です! ~邪魔者嫌われ王女はあなたの幸せの為に身を引きます~』

よろしければ、またお付き合い下さいませ!
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