【完結】愛する人が出来たと婚約破棄したくせに、やっぱり側妃になれ! と求められましたので。

Rohdea

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それから ②

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「───実家が没落?  私は平民となって修道院に行く……?  嘘っ!  嘘を言わないで!」

  ───私の目の前でそう叫んでいるのはベリンダ嬢。
  私は冷静に告げる。

「嘘ではありません。これは決定事項です」
「……酷いですっ!  しかも、どうしてそれをフレイヤ様が言いに来るんですか!  もう、王妃気取りなんですか!?」
「……」

  (男性が皆、あなたに会いたくないと言ったからよ!)

  ベリンダ嬢はあの日からずっと、王宮の牢屋に収監されている。
  その間に彼女の実家である、ドゥランゴ男爵家は我が家を始めとした多くの家から多額の慰謝料請求をされていた。

『こ、こんな金額……払えません!』

  男爵は請求書を手にするとガタガタと震えていた。

『ど、どうしてこんな事に……』

  男爵は娘の交友関係が少々派手なことは知ってはいた。
  けれど、男爵家では知り合うことの難しい格上貴族と繋がりを持つ事が出来て、かつ家の繁栄につながるのなら、と、むしろ喜んでいたそうだ。
  更には王太子だったエイダン様にまで見初められた。
  しかし、ここまで娘がふしだらだったとはさすがに思っていなかったらしい。
  
『ふ、不倫……まで!?  しかも一件二件ではない!?』
『全てお嬢さんのしてきた事で間違いありません』
『そん、な……』

  お兄様の用意した分厚い報告書を見た男爵と夫人はその場で泡を吹いて倒れたという。

  (娘がエイダン様の正妃になって明るい未来が待っていると思っていたでしょうに……)

「なんで、平民の修道院なの!  せめて貴族用にしてよ!  私は男爵令嬢なんだから」
「先に言ったはずです。残念ですが、あなたの実家は没落しました。よってあなたはもう男爵令嬢ではありません!  ただの……べ、ベリンダです」

  (危な……!  お父様やお兄様がおかしな名前ばかりで呼ぶものだから一瞬、ベリンダ嬢の名前が分からなくなってしまったわ)

  次に間違えたりしないように、
  ベリンダ、ベリンダ、ベリンダ、ベリンダ、ベンリダ……
  と、心の中で唱えた。(ちょっと間違えた)

「ベ……リンダさん、大人しく処分を受け入れてください。あなたが異を唱える度にご両親が苦しまれますよ?」
「~~~っ」

  エイダン様と出会うまでの過去のことはもう掘り返してもしょうがない。
  でも……エイダン様と出会って正妃にと望まれていたのに、不貞を働いていたのは看過できない。
  少なくともエイダン様は本当にベリンダさんを運命の相手だと思っていたはず。
  なのにまさか、二人の間にこんなにも温度差があったなんて……

  (きっと、ベリンダさんは心の底から誰かを愛したことがない)

  彼女の行くことになっている修道院は最も規律が厳しく、結婚は疎か異性との交遊も全て禁止。今後の一生を神に祈りを捧げて過ごすことが義務付けられている。
  多くの男性を誑かしてきた見た目や性格も女性たちの中ではきっと通用しない。

「準備が出来次第、出発となります」
「……」
「残りの人生で神に祈りながら自分のして来たことを反省してください」

  その場でガックリ項垂れたベリンダさんはそれ以上言葉を発することは無かった。




「───シオン様、終わりましたよ」
「フレイヤ、お疲れ様」

  私が話をしている最中、シオン様は護衛と共にすぐ側で控えてくれていた。

「女狐、思った通り反発していたね。最後は静かになっていたけど」
「……そうですね。でもこの決定は覆しませんよ」

  私がハッキリそう告げたらシオン様も頷いた。

「そういえば……シオン様はどうしてベリン……ダさんに惹かれなかったのですか?」
「え?」
「エイダン様を含め、多くの男性が彼女の虜になっていたじゃないですか。でも、シオン様は最初から突き放していましたよね?」
「……」

  私が訊ねるとシオン様はポッと頬を赤く染めた。
  え?  なぜ?

「……フレイヤ」
「はい」
「…………先にフレイヤを見かけていたからだと思う」
「……えっ?」

  つられて私も赤くなった。

「こんなに綺麗な女性フレイヤを見かけた後じゃ、どんな令嬢だって霞んでしまうよ」
「そ、それは他の方にも悪いですし、い、言い過ぎです!」

  私が真っ赤になって否定すると、シオン様は、ははは……と笑いながら私の髪を手で掬ってそこにキスを落とす。

「!」
「公爵やギャレット殿なら喜んで同意してくれそうだけど」
「もう!」
「……真面目な話、女狐は明らかに演技をしていたからね」
「演技……」

  サラッと言われたけれど、そこをあっさり見抜けるシオン様は、それだけ人を見る目があるのだろう、と私は思った。
  それは各国を転々として多くの人と交流を深めていたからなのかもしれない。

「───さて、次はエイダンか。嫌だなぁ」
「……」

  シオン様、うっかり本音が漏れていた。


────



「───き、貴様ら!  揃って何しに来たんだ!」

  (思っていたよりも元気だわ──……)

  あの日以降、エイダン様は離宮で過ごしていた。
  
「わ、私を惨めだと笑いに来たのか!」
「今更ですか?  ……あなたのこれからについて話に来たんですよ」
「ぐっ……」

  シオン様に今更だと言われてエイダン様は悔しそうな顔をする。
  すでに大失恋したうえに廃嫡されるという罰は受けているエイダン様だけど、あの混乱を引き起こした帳本人として、やはりそれだけでは甘いという意見が多数。よって……

「へ、僻地にて幽閉生活……だと!?」
「もちろん、監視付きですのでご安心を」
「安心など出来るか───!」

  エイダン様は憤慨した。
  そんなエイダン様の様子にシオン様は大きくため息を吐きながら言う。

「……そうですか。そんなに嫌なら、もう“これ”しかないですね」
「これ?  な、なんだ……?」

  シオン様はニッと笑う。

「王族から追放されて平民となり、同じく平民となった女狐……元男爵令嬢ベリンダとけっこ……」
「絶対に嫌だぁぁぁぁぁぁぁーーーー!」

  エイダン様は最後まで聞くことなくそう叫んだ。
  顔は真っ青で目には涙まで溜めている。
  かつてあんなに愛していた気持ちはどこへ?  と聞きたくなるくらいの全力拒否だった。

「……では、幽閉生活の方で決まりですね」
「くっっ!」

  シオン様はにっこり笑顔を浮かべるとこれ以上の反論は許さないとばかりに問答無用で打ち切る。
  エイダン様は涙目のまま、口をパクパクさせていた。

  (シオン様……なんて恐ろしいの……)

  ベリンダさんは、もう修道院行きが決定しているから、たとえエイダン様が王族追放されて平民になったとしても二人の結婚は有り得ない。
  それなのに敢えてそれを黙って誘導するとは……

  

「シオン様って恐ろしい人です」
「うん?」
「シオン様って怖いものとかなさそうですよね」

  次に向かうは元陛下。
  廊下を歩きながら私がそう言うとシオン様は小さく笑った。

「───あるよ?  怖いもの」
「え?  そうなのですか?」

  私が聞き返すとシオン様がピタッと足を止める。
  そして、私の手を取ってそっと握った。

  (……!)

  胸がトクンッと高鳴る。
  
「フレイヤ」
「え?」
「君に嫌われることが一番怖い」
「!」

  その言葉を聞いた私の顔は一気に真っ赤になってしまう。
  恥ずかしくなった私は目を逸らして歩き出す。

「っっっ、は、早く、い、行きましょう!」
「フレイヤ、照れた?」
「き、気のせいです!  い、行きますよ!  王妃様が待っています!」

  私はプイッと顔を逸らしながら先を歩いた。

  王妃様は元陛下への処分の言い渡しには是非とも同席したい、そう言っていた。
  なので、遅れるわけにはいかない。
  そう思ってシオン様と急いで向かったところ……

「───も、もう勘弁してくれぇぇぇえ、わ、私が悪かったぁあ……!」

  元陛下のいる部屋の方から、必死に助けを乞う情けない声が聞こえて来た。
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