【完結】愛する人が出来たと婚約破棄したくせに、やっぱり側妃になれ! と求められましたので。

Rohdea

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47. 癒しの時間

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「シオン様、す、すごい顔です……」
「あぁ、うん。ちょっとね一晩中、激しい戦いをしていた」
「そう……だったのですか……」

  私がスヤスヤと気持ちよく眠っていい夢を見ていた時にシオン様は、一晩中何かと戦っていた。
  とてもとても申し訳ない気持ちになる。

「……フレイヤ、そんな顔をしないでくれ」

  私が顔を曇らせたことに気付いたシオン様が優しく頭を撫でてくれる。
  こんな時まで私のことを考えてくれるシオン様の優しさに胸がキュンとした。

「僕はフレイヤが楽しそうに笑っているのが好きだから、笑って?」
「シオン様……」

  (でも、すごい疲弊しているわ───そうだ!)

「シオン様!  わ、私に何か出来ること……ありませんか!?」
「え?」

  こういう時には、どういうことをしてあげれば好きな人が喜んでくれるのか、疎い私にはさっぱり分からない。なので、うだうだ悩むよりズバッと本人に聞くことにした。

「す、少しでもシオン様が元気になるように何かしたいのです!」
「フレイヤ……」
「!」

  シオン様の心が揺れているわ!  これは何かしてもらいたい事があるに違いない!
  私はグイッと迫る。

「フレイヤ……また、近い近い近い!」
「どんなことですか?  ギュッてしますか?  あ、今のシオン様がしてくれたみたいに頭を撫でますか?」
「フ、フレイヤにしてもらいたいこと…………そ、それはもちろん……くっ……だが……うっ」
「?」

  シオン様は何かを言いかけては止めるを数度繰り返した。
  そうして、しばらく葛藤した後、何かを決意したようにようやく口を開いてくれた。



「シオン様、どうですか?  辛くないですか?」
「辛い!?  ……まさか。すごく幸せだよ」

  シオン様が嬉しそうに微笑んだので、私もつられて笑顔になった。

  ────今、シオンさまの頭は私の膝の上に乗せられている。

「私、膝枕……なんて初めてしました」
「そうなんだ?  心地いいよ」
「ふふ、それは良かったです」

  私は微笑みながら、そっとシオン様の頭を撫でた。

  (髪の毛サラサラ……)

  普段、触ることのないシオン様の髪の毛を私はじっくり堪能した。

  (まさか、膝枕とは……)

  葛藤の末、シオン様が私にお願いしたのは「膝枕をして欲しい」だった。
  少しびっくりしたけれど、私は喜んで膝を差し出すことに決めた。

「……懐かしいなぁ……子供の頃、よく、は…………に、あの頃は、しあ……」 
「シオン様?」
「……」

  シオン様の言葉が途切れ途切れになって途中で終わってしまったので、おや?  と思いそっと顔を覗き込む。

「あ、寝ちゃってる」

  シオン様はスースーと寝息を立てて眠ってしまっていた。

「……一晩中?  起きていたのだから眠いのは当然ですよね」

  私は起こさない様にそっとシオン様の頭をもう一度撫でた。
  気持ちよさそうに眠るその顔は、年齢よりも幼く見えて何だか可愛く思える。

  (……愛しいってこういう気持ちなのね)

  ドキドキしたり、キュンキュンしたり……
  シオン様といるだけでこれまで知らなかった感情が私の中にたくさん生まれてくる。
  それが凄く嬉しくて幸せだ。

「───大好きです、シオン様」

  私は小さな声でシオン様に向かって囁く。

「ん……フレイヤ……むにゃ」
「え?」
「……」

  急に私の名前を呼んだものだから起こしてしまったのかと思って慌ててしまったけれど、どうやら寝言だったらしい。

  (もう!  びっくりするじゃないの!)

  でも、夢の中でまで私を想ってくれている……こんなに嬉しいことはない。
  私の頬が自然と緩む。

「ふふ、まだ、使用人が起こしに来るまでは時間があるはずよね、それまではゆっくり───」
「…………は、ははうえ……」
「えっ!」

  シオン様の寝言が、お母様……アーリャ妃のことを呼んだ。

「シオン様……」

  先程、眠りに入る寸前に言っていた言葉……
  “懐かしいなぁ……子供の頃、よく、は…………に、あの頃は、しあ……”
  よく聞こえなかった部分はきっと“母上”と“幸せだった”と言っていたのではないかしら?

  (子供の頃にアーリャ妃に膝枕をしてもらっていた……そんな記憶が甦ったのかも)

  ────……あの日から、泣きも笑いもしなかった殿下が……あんな表情豊かになって。
  ────最初にアーリャ妃の異変に気付いたのはシオン殿下だった───僕のことを知らない人のような目で見て来る、と言ってな。
  ────その後、医師の診察でアーリャ妃が記憶を失くしたと分かった時も、シオン殿下は泣きも笑いもせず黙ってアーリャ妃を見つめているだけだった。

  お父様が言っていた言葉を思い出す。

  (シオン様、あなたは……)

  シオン様は私のことを強いね、と言ってくれるけれど、私はシオン様の方が強いと思う。
  魔力のことで父親からは見放され、唯一そばに居てくれた母親にまで存在を忘れられてしまう。
  まだ、子どもだったシオン様には相当ショックだったはずなのに……

  ────だから……あの人は今も真っ白な世界で生きている。帰国する度に様子を見に行っているけれど……記憶が戻る様子は見られないね。
  ────ただ、僕が見るに、記憶のない今の方が幸せそうに見えてしまうのだけどね。

  (あの話を聞いた時、まるで捨てられた子供のような表情で笑っている、そう思った)

「……シオン様、いい夢が見られますように」

  私はそう願ってもう一度、そっとシオン様の頭を撫でた。



  その後、シオン様はゆっくりと目を覚まし、凄かった顔色は幾らか改善されていた。

「夢の中でもフレイヤが可愛かったよ」
「かっ!」

  更に、デレッとした顔でそんなことを口にするものだから、こっちの方が恥ずかしくなってしまう。
  その後は真面目な顔をしてブツブツと「こんな毎日を手に入れるためにも、やはり結婚を早める必要がある……」と呟いていた。

  どうやら、シオン様は膝枕の為に結婚を早めたいらしい。


◇◆◇


  本日から私たちは忙しくなる。
  陛下からの引き継ぎ──エイダン様たちの処分、ベリンダ嬢の処分……法改正や人事の入れ替え……やらなければいけない事は沢山ある。

  (だから、忙しくなる前にどうしても───)

「え?  フレイヤ……今、なんて?」

  シオン様が驚いた顔をする。
  複雑な気持ちなのは分かっている。
  シオン様を傷付けたいわけではないのだから無理にとは言わない。

「……ですから、もしもシオン様が嫌でなければ……ですけれど」
「……」
「私を、アーリャ妃に会わせていただけませんか?」

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