47 / 57
47. 癒しの時間
しおりを挟む「シオン様、す、すごい顔です……」
「あぁ、うん。ちょっとね一晩中、激しい戦いをしていた」
「そう……だったのですか……」
私がスヤスヤと気持ちよく眠っていい夢を見ていた時にシオン様は、一晩中何かと戦っていた。
とてもとても申し訳ない気持ちになる。
「……フレイヤ、そんな顔をしないでくれ」
私が顔を曇らせたことに気付いたシオン様が優しく頭を撫でてくれる。
こんな時まで私のことを考えてくれるシオン様の優しさに胸がキュンとした。
「僕はフレイヤが楽しそうに笑っているのが好きだから、笑って?」
「シオン様……」
(でも、すごい疲弊しているわ───そうだ!)
「シオン様! わ、私に何か出来ること……ありませんか!?」
「え?」
こういう時には、どういうことをしてあげれば好きな人が喜んでくれるのか、疎い私にはさっぱり分からない。なので、うだうだ悩むよりズバッと本人に聞くことにした。
「す、少しでもシオン様が元気になるように何かしたいのです!」
「フレイヤ……」
「!」
シオン様の心が揺れているわ! これは何かしてもらいたい事があるに違いない!
私はグイッと迫る。
「フレイヤ……また、近い近い近い!」
「どんなことですか? ギュッてしますか? あ、今のシオン様がしてくれたみたいに頭を撫でますか?」
「フ、フレイヤにしてもらいたいこと…………そ、それはもちろん……くっ……だが……うっ」
「?」
シオン様は何かを言いかけては止めるを数度繰り返した。
そうして、しばらく葛藤した後、何かを決意したようにようやく口を開いてくれた。
「シオン様、どうですか? 辛くないですか?」
「辛い!? ……まさか。すごく幸せだよ」
シオン様が嬉しそうに微笑んだので、私もつられて笑顔になった。
────今、シオンさまの頭は私の膝の上に乗せられている。
「私、膝枕……なんて初めてしました」
「そうなんだ? 心地いいよ」
「ふふ、それは良かったです」
私は微笑みながら、そっとシオン様の頭を撫でた。
(髪の毛サラサラ……)
普段、触ることのないシオン様の髪の毛を私はじっくり堪能した。
(まさか、膝枕とは……)
葛藤の末、シオン様が私にお願いしたのは「膝枕をして欲しい」だった。
少しびっくりしたけれど、私は喜んで膝を差し出すことに決めた。
「……懐かしいなぁ……子供の頃、よく、は…………に、あの頃は、しあ……」
「シオン様?」
「……」
シオン様の言葉が途切れ途切れになって途中で終わってしまったので、おや? と思いそっと顔を覗き込む。
「あ、寝ちゃってる」
シオン様はスースーと寝息を立てて眠ってしまっていた。
「……一晩中? 起きていたのだから眠いのは当然ですよね」
私は起こさない様にそっとシオン様の頭をもう一度撫でた。
気持ちよさそうに眠るその顔は、年齢よりも幼く見えて何だか可愛く思える。
(……愛しいってこういう気持ちなのね)
ドキドキしたり、キュンキュンしたり……
シオン様といるだけでこれまで知らなかった感情が私の中にたくさん生まれてくる。
それが凄く嬉しくて幸せだ。
「───大好きです、シオン様」
私は小さな声でシオン様に向かって囁く。
「ん……フレイヤ……むにゃ」
「え?」
「……」
急に私の名前を呼んだものだから起こしてしまったのかと思って慌ててしまったけれど、どうやら寝言だったらしい。
(もう! びっくりするじゃないの!)
でも、夢の中でまで私を想ってくれている……こんなに嬉しいことはない。
私の頬が自然と緩む。
「ふふ、まだ、使用人が起こしに来るまでは時間があるはずよね、それまではゆっくり───」
「…………は、ははうえ……」
「えっ!」
シオン様の寝言が、お母様……アーリャ妃のことを呼んだ。
「シオン様……」
先程、眠りに入る寸前に言っていた言葉……
“懐かしいなぁ……子供の頃、よく、は…………に、あの頃は、しあ……”
よく聞こえなかった部分はきっと“母上”と“幸せだった”と言っていたのではないかしら?
(子供の頃にアーリャ妃に膝枕をしてもらっていた……そんな記憶が甦ったのかも)
────……あの日から、泣きも笑いもしなかった殿下が……あんな表情豊かになって。
────最初にアーリャ妃の異変に気付いたのはシオン殿下だった───僕のことを知らない人のような目で見て来る、と言ってな。
────その後、医師の診察でアーリャ妃が記憶を失くしたと分かった時も、シオン殿下は泣きも笑いもせず黙ってアーリャ妃を見つめているだけだった。
お父様が言っていた言葉を思い出す。
(シオン様、あなたは……)
シオン様は私のことを強いね、と言ってくれるけれど、私はシオン様の方が強いと思う。
魔力のことで父親からは見放され、唯一そばに居てくれた母親にまで存在を忘れられてしまう。
まだ、子どもだったシオン様には相当ショックだったはずなのに……
────だから……あの人は今も真っ白な世界で生きている。帰国する度に様子を見に行っているけれど……記憶が戻る様子は見られないね。
────ただ、僕が見るに、記憶のない今の方が幸せそうに見えてしまうのだけどね。
(あの話を聞いた時、まるで捨てられた子供のような表情で笑っている、そう思った)
「……シオン様、いい夢が見られますように」
私はそう願ってもう一度、そっとシオン様の頭を撫でた。
その後、シオン様はゆっくりと目を覚まし、凄かった顔色は幾らか改善されていた。
「夢の中でもフレイヤが可愛かったよ」
「かっ!」
更に、デレッとした顔でそんなことを口にするものだから、こっちの方が恥ずかしくなってしまう。
その後は真面目な顔をしてブツブツと「こんな毎日を手に入れるためにも、やはり結婚を早める必要がある……」と呟いていた。
どうやら、シオン様は膝枕の為に結婚を早めたいらしい。
◇◆◇
本日から私たちは忙しくなる。
陛下からの引き継ぎ──エイダン様たちの処分、ベリンダ嬢の処分……法改正や人事の入れ替え……やらなければいけない事は沢山ある。
(だから、忙しくなる前にどうしても───)
「え? フレイヤ……今、なんて?」
シオン様が驚いた顔をする。
複雑な気持ちなのは分かっている。
シオン様を傷付けたいわけではないのだから無理にとは言わない。
「……ですから、もしもシオン様が嫌でなければ……ですけれど」
「……」
「私を、アーリャ妃に会わせていただけませんか?」
111
お気に入りに追加
5,160
あなたにおすすめの小説
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。
三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

婚約者と親友に裏切られた伯爵令嬢は侯爵令息に溺愛される
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のマーガレットは、最近婚約者の伯爵令息、ジェファーソンの様子がおかしい事を気にして、親友のマリンに日々相談していた。マリンはいつも自分に寄り添ってくれる大切な親友だと思っていたマーガレット。
でも…
マリンとジェファーソンが密かに愛し合っている場面を目撃してしまう。親友と婚約者に裏切られ、マーガレットは酷くショックを受ける。
不貞を働く男とは結婚できない、婚約破棄を望むマーガレットだったが、2人の不貞の証拠を持っていなかったマーガレットの言う事を、誰も信じてくれない。
それどころか、彼らの嘘を信じた両親からは怒られ、クラスメイトからは無視され、次第に追い込まれていく。
そんな中、マリンの婚約者、ローインの誕生日パーティーが開かれることに。必ず参加する様にと言われたマーガレットは、重い足取りで会場に向かったのだが…
【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」
婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。
婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2022/02/15 小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位
2022/02/12 完結
2021/11/30 小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位
2021/11/29 アルファポリス HOT2位
2021/12/03 カクヨム 恋愛(週間)6位
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢セラヴィは婚約者のトレッドから婚約を解消してほしいと言われた。
理由は他の女性を好きになってしまったから。
10年も婚約してきたのに、セラヴィよりもその女性を選ぶという。
意志の固いトレッドを見て、婚約解消を認めた。
ちょうど長期休暇に入ったことで学園でトレッドと顔を合わせずに済み、休暇明けまでに失恋の傷を癒しておくべきだと考えた友人ミンディーナが領地に誘ってくれた。
セラヴィと同じく婚約を解消した経験があるミンディーナの兄ライガーに話を聞いてもらっているうちに段々と心の傷は癒えていったというお話です。

希望通り婚約破棄したのになぜか元婚約者が言い寄って来ます
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢ルーナは、婚約者で公爵令息エヴァンから、一方的に婚約破棄を告げられる。この1年、エヴァンに無視され続けていたルーナは、そんなエヴァンの申し出を素直に受け入れた。
傷つき疲れ果てたルーナだが、家族の支えで何とか気持ちを立て直し、エヴァンへの想いを断ち切り、親友エマの支えを受けながら、少しずつ前へと進もうとしていた。
そんな中、あれほどまでに冷たく一方的に婚約破棄を言い渡したはずのエヴァンが、復縁を迫って来たのだ。聞けばルーナを嫌っている公爵令嬢で王太子の婚約者、ナタリーに騙されたとの事。
自分を嫌い、暴言を吐くナタリーのいう事を鵜呑みにした事、さらに1年ものあいだ冷遇されていた事が、どうしても許せないルーナは、エヴァンを拒み続ける。
絶対にエヴァンとやり直すなんて無理だと思っていたルーナだったが、異常なまでにルーナに憎しみを抱くナタリーの毒牙が彼女を襲う。
次々にルーナに攻撃を仕掛けるナタリーに、エヴァンは…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる