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46. 長い長い夜
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エイダンから王太子の座をもぎ取り、父親だった国王陛下を退位に追い込んだその日の夜。
帰り際にリュドヴィク公爵とギャレット殿と“フレイヤが一番好きなのは自分だ”という絶対に負けられない戦いがあったけれど、どうにか無事に帰路についた。
(ちなみに対決は決着つかず)
そして、フレイヤと今日は疲れたからゆっくり休もう。
明日から頑張ろうと約束して別れた……はずなのに!
(なんでだ!)
入浴を終えて部屋に戻ったら───
「……えっと、フレイヤ? これはどういう状況だろう?」
「おかえりなさいませ、シオン様! 実は言いそびれていたのですが、お父様から許可が出たのです!」
可愛いフレイヤがニコニコと嬉しそうな顔で今、僕の部屋……僕の目の前にいる。
それもちょっと刺激的な格好で。
僕は少し目線を逸らしながら訊ねる。
「公爵……の許可?」
僕の頭の中にポヤンとした公爵の顔が浮かんだ。
ポヤポヤしながらもフレイヤの事になると途端にギラギラになる公爵……
その公爵の許可……だと?
(婚姻の日までは、清く正しく、節度を持って! ではなかったのか?)
公爵はいったいフレイヤになんの許可を与えたんだ!?
「待っ、待って待ってくれ、フレイヤ!」
「どうしましたか?」
「まさか、とは思うけれど……夜、に僕の部屋を訪ねる事を公爵が許可……したのか?」
期待半分、フレイヤの突っ走り半分の気持ちで訪ねると、フレイヤは、うーんと首を傾げた。
「人前ではないところでなら、シオン様とたくさんギュッと抱きしめ合っていいよ、という許可です!」
「え!」
たくさんギュッと抱きしめ合ってもいい、だと!?
それは本当なのか!?
公爵……いったいどんな心境の変化があってそんな寛大な…………ん?
(待て! 人前ではないところでなら?)
「ですから、そうなると私たちが人前ではなく、確実に二人きりでいられるのは、お互いの部屋にいる時しかないと思ったのです!」
「フレイヤ……」
───だから、突撃してきました!
と、フレイヤはめちゃくちゃ可愛い笑顔で言った。
(本当にこの子は……)
きっと公爵はそういう意味で言ったのではないだろう。
手を繋ぐだけだったのを抱きしめること、までは許した。だが、人前ではするなよ……
これはつまり、公爵に言わせると、二人きりになれる時間の少ないお前たちにイチャイチャはさせん!
という意味のはずだ。
が……
なぜか、フレイヤの中では二人きりになれる夜なら“夜這いしてイチャイチャしてもいいよ”に変換されたようだ。
「本当に君は……すごいな」
(こっちがどれだけ我慢していると……)
「シオン様?」
きょとんとしているフレイヤが可愛い。
もう一度言う───めちゃくちゃ可愛い。
(……全てが愛しい)
僕は腹を括ることにした。
大丈夫だ。フレイヤの着ている夜着はちょっと透けているけれど凝視しなければ大丈夫。
今夜はたくさんギュッとするだけ。それ以上はしたくても僕が我慢すればいい。
「……フレイヤ」
「?」
「おいで」
「シオン様!」
僕がそう言って手を広げたらフレイヤは嬉しそうに抱きついてきた。
どうしよう……あまりの可愛さに我慢すればいいという気が一瞬で消え去ってしまった……
そんな僕の気も知らずにフレイヤはこれまた可愛い声で言った。
「シオン様、とっても温かいです! 私、この温もりが大好き……」
(可愛いフレイヤが僕の腕の中で可愛い声で可愛いことを言っている!)
「……フレイヤも温かいよ?」
「良かったです! ふふ、とっても幸せです」
「僕もだ」
フレイヤはとても嬉しそうにギューッと僕に抱きついた。
───
暫く互いの温もりを感じあっていたら、フレイヤが「そうでした!」と声を上げた。
「どうしたの?」
「忘れてました! これだけは聞かなくてはと思っていたのに!」
「?」
首を傾げる僕にフレイヤがグイッと迫って来る。
「シオン様! 結局、シオン様はむ、胸……は育っている方がお好みなのですか!?」
「───!?」
ブフォ!
フレイヤのあまりにも大胆で直球な発言にむせてしまった。
(これは……アレだ……ギャレット殿の発言……ボインダのせいだ!)
なんで女狐をあんなへんてこりんな名前で呼んだんだ!
そのせいで、フレイヤは妙な動きを見せていた。あの場で止めなかったら公爵やギャレット殿の前でこの質問をされていたのではないだろうか?
「シオン様!? 大丈夫ですか?」
「ゲホゲホ……ゴホッ……だ、大丈夫……」
「え? で、でも、苦しそうですよ?」
フレイヤはそう言って僕の背中をさすってくれるけど、距離が近い近い近い!
───ああ、もう! フレイヤはどうして恋愛ごとになると急にポンコツになるんだ!
その理由は分かっているからこそ、フレイヤの受けてきた“王妃教育”に恨みを覚えてしまう。
「……フレイヤ、僕は君が好きだ」
「え? シオン様?」
僕はそのままフレイヤをギュッと抱きしめる。
「僕はそのままのフレイヤが好きだから……そ、その、わざわざ無理して育てなくても構わない!」
「シオン様……いいのですか?」
「僕は、見た目も中身もそのままの強くて可愛いくて格好良いフレイヤでいて欲しい」
そう言って僕はフレイヤの頬にそっと手で触れる。
フレイヤは擽ったそうに「ふふふ」と笑う。その顔も可愛かった。
(ああ……このままフレイヤの唇に触れたいな……)
すでに、こっそり額へのキスは何度かしてしまったけれど、そもそもキスの解禁はいつなのだろう?
───まさか、結婚式か!?
いや、さすがにそれは困る! 何としてもそれより前に許しをもらわねば!
なんて考えていた時だった。
フレイヤが最大級の爆弾発言をした。
「……シオン様」
「どうした?」
「……今夜、シオン様とこうしてギュッとしたまま眠りたいです……」
「………………え!?」
……空耳かな?
うん、空耳だ。そうに違いない!
「ギュッとする許可……は出ているんです……ダメですか?」
「~~~!」
「他に人もいませんし……」
「フ、フレ……イヤ」
「シオン様……」
公爵ーーーー!
僕はポヤンとした公爵の顔を思い浮かべて心の中で助けを求めた。
その夜、僕は一睡も出来なかった。
フレイヤにあんなに可愛く頼まれたのに断る? そんなこと出来るはずがないだろう?
(手は出さない、手は出さない……ギュッと抱きしめて眠るだけ……)
なのに、フレイヤは僕の隣でこれまた可愛い寝顔ですぐにスヤスヤと眠りに落ちてしまう。
「……フレイヤ。本当に君は……最強だよ」
僕は一生君には勝てない気がする。
しかし、だ。もうこれ、キスくらいしても許されるのでは……?
でも、あとでバレてしまって眠っている時にそんな事をするなんて! と、フレイヤに嫌われるのは絶対に嫌だし、ここにはいないはずの公爵の圧も感じる気がする……
なので、グッと我慢した。
◆◇◆
「……ん」
翌朝、私はとっても幸せな気持ちで目が覚めた。
(すごくいい夢を見た気がする……)
それに、私を包み込む温もりがとても温かい。
「……フレイヤ、起きた?」
「シ、シオン様!」
私はパッと目を開ける。
そうだった! 昨夜はシオン様の部屋に突撃してギュッとしてもらって一緒に眠って……
(だからいい夢を見れたのね!)
と、いい気分でシオン様の顔を見た……のだけど。
「おはよう、フレイヤ」
「……!? シオン……さま?」
昨夜、お願いした通りに私をギュッと抱きしめてくれていたシオン様は、まるで一晩中、何かと戦った後のような顔をしていた。
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