【完結】愛する人が出来たと婚約破棄したくせに、やっぱり側妃になれ! と求められましたので。

Rohdea

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43. やっぱり許せませんので

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「……えっと?」

  陛下はいったい何をしていらっしゃる?
  そんな気持ちで王妃様に訊ねた。

「シオンに自分とは真逆とも言える姿をこれでもかと見せつけられて、どんどん沈んでいったわ」

  王妃様の陛下への長年の恨みは相当深いのか、それはそれは愉しそうにそう言った。

「ここでシオンを追い詰めて自分への支持を取り返したかったのでしょうけどね、逆効果!」
「……」
 
  王妃様は陛下を冷たい目で一瞥し、なんて無駄な希望を……とあっさり吐き捨てた。

「無駄な希望、ですか?」
「───シオンがフレイヤ嬢に近付いたきっかけが何であれ、今、フレイヤ嬢の事を大事にしていることなど少し見ていれば分かるものを」
「え?  そうなのですか?」

  私が驚きの声を上げたら王妃様も「え?」という顔をした。
  そして、すぐに「あぁ、そうか……そうよね」と悲しそうに呟いた。

「……シオンへの想いが“初めての恋”だと言っていたものね。フレイヤ嬢はそうやってわたくし達に長年、躾られてきた……」
「愛だの恋だのという感情は……正直、よく分からなかったのですけど、でもシオン様と出会ってその感情を知ることが出来ました」

  私がそう口にすると、王妃様がますます悲しそうな表情になった。

「そうは言っても──フレイヤ嬢。あなたには申し訳ない事をしたと思っています」
「え?」
「この国の決まり事だったとはいえ、これまでのあなたの人生の大半をエイダンの婚約者として縛り付け振り回してしまった。そしてわたくしはそれを止めることは出来なかった」

  王妃様はそう言って悔やむけれど、それは仕方がなかったと思う。
  下手に陛下に逆らって怒りを買ってしまい、王妃様がアーリャ妃みたいに早々に排除されていたら、この国はとっくに崩壊していたかもしれない。
  そして、歳を重ねるごとに陛下に似ていくエイダン様を見ていることは母親として一番辛かったのでは?

  (ベリンダ嬢が現れてからは特に胃が痛かっただろうし)

「いいえ……こうしてシオン様と出会えて、私のこの十数年がこれからの彼の力になれるのなら、無駄ではなかったです」

  シオン様は私の努力を認めてくれた上で好きだと言ってくれた。
  だから、これでいい。
  そんな気持ちで私は王妃様に微笑んだ。

「……フレイヤ嬢は強いですね。そうでしたね。あなたは昔からいつだって前だけを見ていました」
「はい!  それが取り柄です!」

  私はえへんと胸を張った。

「ふっ……父親の公爵はあんなにポヤンとしているというのに…………いや、怒らせてはならぬ人なのですけども」

  その言葉には苦笑するしかなかった。

「さて、シオン、フレイヤ嬢。今、この場でカスの陛下に最後に言っておきたい事はありますか?」

  王妃様にそう言われて、私はシオン様と無言で見つめ合う。
  シオン様はコクリと頷いてくれた。






「───陛下」
「……」

  シオン様と共に項垂れている陛下の元へと近付いた私は声をかけた。

「もう充分、お分かり頂けましたよね?  ですから今、この場ではっきり宣言をして貰えませんか?」
「宣言……だと?」
「ええ」

  私はにっこり微笑む。

「もちろん。シオン様に玉座を譲って退位する事ですわ」
「……!」

  すでにこれだけ打ちのめされた様子の陛下にはもう権威なんてものは全く感じないけれど、これだけは、大勢の前ではっきりさせておかないといけない。

「──今更、無駄な足掻きなんてしませんよね?」
「……くっ」

  しばらくは往生際が悪く「あぁ……」とか「うぅ……」とか唸っていた陛下だったけれど、長い葛藤の末、ようやく退位することに頷く。
  王太子の座はすでにエイダン様からシオン様に移っていたので、これでシオン様が王となる事が決定した。

  (やったわ!)

  これで……これでようやく心置き無く……

「シオン様!」

  私は振り返ってシオン様の顔を見る。

「……フレイヤのしたいようにどうぞ」
「ありがとうございます!」
「な、なんだ……?」

  私たちの会話に不穏なものを感じたのか、陛下の顔が引き攣った。

「──陛下。いえ、もう元陛下ですね。王妃殿下に先を越されてしまいましたが……」
「……ッ!?」
「私もこの時を待っておりました」

  そう言って私はにっこり笑顔で右手を陛下に見せる。
  その瞬間、陛下の顔色がサーーと青くなった。

「待っ……待て!  待つのだ……!  み、見ろ!  わ、私の頬はすでに王妃に……!」
「そうですね。王妃様の拳、惚れ惚れするくらいとても綺麗に決まっていました」
「だ、だろう!?  ならば、も、もう!  いいではないか!」

  必死に命乞い(?)する陛下の様子はとても見苦しかった。
  きっと脳裏にはあの日の穴が開いた床と壁が浮かんでいるに違いない。

「──どうしてですか、それとこれとは別ですわ」
「な、に?」
「王妃様は王妃様。私は私ですから!」
「──なっっ!」

  私はブンッと右手を振り上げる。
  だって、シオン様とアーニャ妃……そして王妃様……身勝手な考えと振る舞いで多くの人を振り回したこの方を簡単に許すことは出来ない。

「魔力、魔力とそればっかり。もっと大事なものがあるはずでしょう!」
「待っ───フ、フレ………ぐ、ぐはっ」

  私に殴られた陛下は呻き声を上げてその場に倒れた。
  すでに王妃様が一度殴り倒しているので、かなり手加減したけれどそれでも効いたみたい。

「な、なひをする……!」

  女性に二度も殴られ倒れるのはかなりの屈辱だろう。それだけでもかなり胸がスッとした。
  だけど……

「……シオン様、こちらに来ていただいてもよろしいですか?」
「フレイヤ?」

  私はシオン様を自分の隣に呼ぶ。
  シオン様は不思議そうな顔をしながら私の隣にやって来た。

「陛下の顔に手をかざしてもらえますか?」
「手を?  かざすだけでいいの?」
「はい」

  自分の“力”について自覚のないシオン様はますます不思議そう。
  私はそっとシオン様の手に触れた。

「……魔力至上主義の元陛下」
「……っ!」

  その呼び方が気に入らなかったのか、元陛下が再び鼻血を流しながら私を睨む。

「最後に一つ教えて差し上げます」
「な、なひをだ!  え、えらひょうに!」
  
  二度も殴られておいて随分と元気ね、と感心する。
  私はにっこり微笑んで言った。

「これが……あなたが散々バカにし、見下し続けたシオン様の“魔力”ですわ」
「なっ!?」
「え?  フレイヤ?  何の話?」

  私がそう口にした瞬間、シオン様の手から光が溢れだした。

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