【完結】愛する人が出来たと婚約破棄したくせに、やっぱり側妃になれ! と求められましたので。

Rohdea

文字の大きさ
上 下
23 / 57

23. 腹の立つ虫(陛下)

しおりを挟む


「えっと、フレイヤ、本当に大丈夫?」
「は、はい……そ、それよりも陛下の元に急ぎましょう!」

  色々恥ずかしくなってしまった私は、赤くなった顔を冷ましながらシオン殿下の隣を歩く。
  まだ頭の中での混乱が続いているせいか、少し早足になってしまう。

  (何でこんなタイミングで気付いちゃうの……)

  愛だの恋だのという感情はろくな結果を招かないと学んだばかりなのに───

  私はチラリと横にいるシオン殿下の顔を見る。

「ん?  フレイヤ?」
「……っ」
「また、そんな顔を……」

  そう言ったシオン殿下がそっと私の頭を撫でた。
  その優しい手付きにまた胸がキュンとしてしまう。

  こんな感情は邪魔なのにと思う一方で、一度気付いたら捨てられないものなのだと思った。


────
  

「はて?  ──シオンだけだと聞いていたのに、これはどういう?  だが、フレイヤ嬢はようやく元気になったということかな?」
「……ご無沙汰しております。そしてご心配おかけしました」

  色々言いたい事もあるし、なんなら今すぐ殴りたい気持ちでいっぱいだけど、私は静かに腰を落として挨拶をした。

「快復したなら良かった。だがな……あいにく、エイダンは視察に向かっておってな。暫くは不在なのだ」
「……存じております」
「だが、こうして姿を見せてくれたので、エイダンとの話が進められるな」

  陛下は嬉しそうに頷きながらそう言った。
  わざわざシオン殿下と共に現れたのに、私が“側妃”になる事を了承しに来たと思える神経が凄い。

「──失礼ですが、陛下。その件で大切なお話がございます」
「……なんだ?  早くエイダンに帰ってきて欲しいということか?」
「違います!  エイダン様には、ゆっくり視察を続けてもらいたいと思っておりますわ。大事な大事なお仕事ですもの」

  私はにっこり微笑んでそう口にする。もちろん本音は……

  (邪魔だから帰ってこなくて構いません!)

「そうか。側妃という身で迎えられるとなってもしっかり夫となる者の都合を考えたその発言。さすがフレイヤ嬢だな……」
「……」

  これはバカにしているのかしら?  と思えるような事で褒め出す陛下に私は心の底から軽蔑した。

「───お前の母親もその辺を弁えておればのう……なぁ、シオン?」
「……」

  陛下はチラッとシオン殿下に視線を向けるとそう口にした。

「私は忙しい身だったと言うのに、いつも、大したことない用事で私を呼び付け引き止めようと……」
「……」
「何がせめて子供の顔を見ていってあげてくださいだ!  顔など見せなくても子は育つだろう?  私が顔を見せて魔力が増えるならいくらでもそうしたが……なぁ、シオン?」

  国王陛下は明らかにアーリャ妃の事をバカにしていた。
  それも、息子であるシオン殿下の前で!
  だけど、シオン殿下はこの言葉にショックを受けている様子はない。
  つまり、陛下にこういう事を言われるのは慣れっこなんだと分かった。

「アーリャも、素直で愛らしい令嬢だと思っていたが……愛しさのあまり反対を押し切って側妃として迎えたが、やはり身分も低く教育のなっていない令嬢に地位を与えると良くないものだと痛感させられた。散々、調子に乗った挙句、ちょっと傷ついたからといって自分の殻に……」

  陛下はため息を吐きながら言う。
  …………どうしましょう。イライラが募って仕方がない。

「フレイヤ嬢。子へと受け継がれる魔力の件も含めてエイダンには、男爵令嬢のことは諦めて何度もそなたを正妃とするようにと言ったが、全く聞く耳を持たぬのだ」
「……そう、ですか」
「なので、私からも改めてお願いする。正妃となるべく育てられたフレイヤ嬢には屈辱だと分かっているが、エイダンの正妃は諦めて側妃としてエイダンと男爵令嬢を後ろから支えてやって欲しい」
「……」
「婚約破棄の件はエイダンが謝罪したはずだ。あれで許してやってくれ……!」
「誠心誠意の謝罪……ですか?」
「そうだ!」

  ───はい?
  あのとんでもなく上から目線の手紙が?  誠心誠意の謝罪……?
  陛下はエイダン様が私にどんな手紙を送ってきたかご存知……ない?

「世継ぎのことも心配は要らぬ。男爵令嬢から生まれる子供ではそこのシオンのようになりかねんから、そなたの産んだ子にも王位継承を与えられるようにするつもりだ。エイダンとフレイヤ嬢の子供なら魔力は強いに違いな……」

  “そこのシオン”
  その言葉に私の苛立ちがピークに達した。

  (どこまでシオン殿下をバカにするのよーーーー!)

  ────バキッ!

  苛立ちがピークに達した私の右手が床にめりこんでいた。
  陛下に今すぐ殴り掛かりたいのをどうにか我慢して抑えた込んだ結果、私の拳は床に向かった。

  (思っていたより床は脆かったわね…………さすがに少し痛いけれど)

「……フ、フレイヤ嬢……な、なにを?」
「──フレイヤ!  手!  手は大丈夫!?  見せて!」

  私の目の前で顔をピクピクと引き攣らせる陛下と、慌てた様子で私の手の心配をするシオン殿下。
  シオン殿下の手に包まれたら、右手の痛みがすっと引いていく気がした。
  
「大丈夫ですわ、ちょっと目の前にあまりにも腹の立つ虫がいたものですから、つい……ふふ」

  私はにっこり笑顔を陛下に向ける。

「は、腹の立つ虫……だと?」

  陛下は私の笑顔を見てさらに顔を引き攣らせる。

「そ……そ、そういえば……フレイヤ嬢の魔力は“強化させる”事に特化しておった……な」
「ええ!  腹の立つ虫を確実に仕留めるためにもこの力は必須ですわ」
「……そ、そう、か」

  陛下の顔色が明らかに悪くなっていく。
  これは話を変えようとしたけれど、ご自分が殴られる想像でもしたのかしら、ね?

  (そんなにお望みなら今すぐ……)

  そんな物騒な考えを持った私にシオン殿下が心配そうに声をかけてくれた。
  
「えっと?  フレイヤ……本当に手、大丈夫……なのか?」
「シオン殿下?  ありがとうございます。大丈夫です……ん?」

  (と、いうよりも……痛み、完全に引いているのだけど?  まさか……)

  私は慌てて顔をあげてシオン殿下の顔を見る。
  目が合った殿下はきょとんとしている。

  (え?  もしかしてシオン殿下、自分で分かっていない!?)

「どうしたの?  フレイヤ、手、痛む?」
「いえ!  そうではなく……シオン殿下、あなた、あなたの魔力って……もしかして」
「僕の魔力?」

  私がそう言いかけた所に、陛下が間に入って邪魔をする。
  顔色も戻って来ているので気持ちは立て直したみたい。虫のくせに!

「───それで、シオンの話とはなんだ?  まさか……また世迷いごとを言いに来たのか?」
「父上……」
「何度、話を求められても私の答えは変わらぬ」
「……」
「エイダンは確かに話は聞かないくせに頑固な上に諸々頼りないが、その頼りない部分はフレイヤ嬢がいてくれれば全て問題なしだ!  だから、お前がいくら魔力以外が優秀だったとしてもわざわざ代わりになる必要は──」
「───ふざけるな!」

  今度はシオン殿下がキレる番だった。
  
しおりを挟む
感想 367

あなたにおすすめの小説

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

婚約者と親友に裏切られた伯爵令嬢は侯爵令息に溺愛される

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のマーガレットは、最近婚約者の伯爵令息、ジェファーソンの様子がおかしい事を気にして、親友のマリンに日々相談していた。マリンはいつも自分に寄り添ってくれる大切な親友だと思っていたマーガレット。 でも… マリンとジェファーソンが密かに愛し合っている場面を目撃してしまう。親友と婚約者に裏切られ、マーガレットは酷くショックを受ける。 不貞を働く男とは結婚できない、婚約破棄を望むマーガレットだったが、2人の不貞の証拠を持っていなかったマーガレットの言う事を、誰も信じてくれない。 それどころか、彼らの嘘を信じた両親からは怒られ、クラスメイトからは無視され、次第に追い込まれていく。 そんな中、マリンの婚約者、ローインの誕生日パーティーが開かれることに。必ず参加する様にと言われたマーガレットは、重い足取りで会場に向かったのだが…

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢セラヴィは婚約者のトレッドから婚約を解消してほしいと言われた。 理由は他の女性を好きになってしまったから。 10年も婚約してきたのに、セラヴィよりもその女性を選ぶという。 意志の固いトレッドを見て、婚約解消を認めた。 ちょうど長期休暇に入ったことで学園でトレッドと顔を合わせずに済み、休暇明けまでに失恋の傷を癒しておくべきだと考えた友人ミンディーナが領地に誘ってくれた。 セラヴィと同じく婚約を解消した経験があるミンディーナの兄ライガーに話を聞いてもらっているうちに段々と心の傷は癒えていったというお話です。

希望通り婚約破棄したのになぜか元婚約者が言い寄って来ます

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢ルーナは、婚約者で公爵令息エヴァンから、一方的に婚約破棄を告げられる。この1年、エヴァンに無視され続けていたルーナは、そんなエヴァンの申し出を素直に受け入れた。 傷つき疲れ果てたルーナだが、家族の支えで何とか気持ちを立て直し、エヴァンへの想いを断ち切り、親友エマの支えを受けながら、少しずつ前へと進もうとしていた。 そんな中、あれほどまでに冷たく一方的に婚約破棄を言い渡したはずのエヴァンが、復縁を迫って来たのだ。聞けばルーナを嫌っている公爵令嬢で王太子の婚約者、ナタリーに騙されたとの事。 自分を嫌い、暴言を吐くナタリーのいう事を鵜呑みにした事、さらに1年ものあいだ冷遇されていた事が、どうしても許せないルーナは、エヴァンを拒み続ける。 絶対にエヴァンとやり直すなんて無理だと思っていたルーナだったが、異常なまでにルーナに憎しみを抱くナタリーの毒牙が彼女を襲う。 次々にルーナに攻撃を仕掛けるナタリーに、エヴァンは…

処理中です...