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21. 王宮へ
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「───父上は僕をどう扱うか悩んでいたようだから、留学の許可を出したようだけど、まさかこんな事になるとは思わなかっただろうなぁ」
シオン殿下は手紙に目を通しながらそう言った。
「国内だけだと僕についてくれている支持者はエイダン派といい勝負だったけど、これで、同盟国からの承認は全部揃った……各国を転々とするのも悪いことばかりじゃなかったね」
(同盟国の承認……いつの間に!)
どうやら幼い頃から各国を転々としていたシオン殿下は、そこでしっかり人脈作りに励んでいたらしい。
同盟国から“次期国王”としての承認をしっかりもぎ取っていた。
シオン殿下はこれでもう一度陛下の元に直談判をしに行くと言った。
「──私も一緒に王宮に行ってもいいですか?」
私の言葉にシオン殿下は少し驚いた様子を見せる。
「え? でも……」
「だって会うと厄介で一番面倒くさそうなエイダン様はいませんよ?」
「フレイヤ……」
エイダン様が戻ってくる前までに、何としてもシオン殿下と私の婚約を陛下に認めさせないと。
それをシオン殿下に頼りっぱなしは嫌だ。
陛下にはちゃんと私の話を聞いてもらいたい。それと───
「───もし可能なら、私は一発ほど陛下をこの手で殴……」
「待って! フ、フレイヤ!? 何だか物騒な発言が聞こえた! 何でそこで腕を捲るんだ!?」
そう口にしながら腕を捲った私を見たシオン殿下が慌て出した。
頭の中で陛下をボコボコにした私の姿を想像してしまったのかもしれない。
正直、腹が立って仕方がないので本音は陛下をボコボコにしたいけれど──
「コホッ……本当にするわけではありません──それくらいの気持ちだということです」
「な、ならいいんだ」
シオン殿下は安心したのかホッとした顔で頷いてくれたけど、それでもどこか心配そうな目で私を見てくる。
(本音が見透かされている気がするわね──……)
そこで、困った私は話を変える事にした。
さっき、ふと疑問に思ったことだ。
「───そういえば、シオン殿下が転々と留学を繰り返していたのは陛下の指示だったのですか?」
「え?」
「陛下はシオン殿下の扱いに悩んでいた、とさっき言ってましたよね? ですから……」
私がそう訊ねると、殿下は首を横に振る。そして次に意外な人物の名をあげた。
「違う。父上は留学の許可を出しただけ。最初に僕に留学することを勧めたのは王妃殿下だ」
「王妃様?」
「王妃殿下が父上に進言したんだ。それもどこか一つの国ではなく各国をまわらせるといいとまで言ってね」
「……」
(それって王妃様がシオン殿下を厄介払いをしたかったということ?)
側妃の子であるシオン殿下の事を正妃である王妃様が疎ましく思う気持ちは分からなくはないけれど……
口にはしなかったけれど、表情でそんな私の気持ちが伝わったのかシオン殿下が補足する。
「──厄介払い。その頃にはエイダンもいたし、幼かった僕も実はそう思っていたんだけど」
「けど?」
「初めて留学する出発前夜に、王妃殿下が僕の所に来て言ったんだ」
「な、なんて、言ったのですか?」
シオン殿下は静かに微笑むと、そっと私に近付き耳元で囁いた。
────追い出されると思って悔しいか? 今は分からずとも、この経験はいつか絶対にそなたの力になる。だから誰にも負けない“力”をつけて強くなって帰って来なさい。
「──え? それって……」
私は顔を上げてシオン殿下の顔を見た。殿下も頷く。
「不思議な人だよね。正直、父上より王妃殿下の方が僕は何を考えているのか分からない」
「……」
同感だった。
“力をつけて強くなって帰って来なさい”
そしてそれは現実となり、各国を回り人脈作りにも励んだシオン殿下はエイダン様を王太子の座から降ろし、陛下にも早々の退位を迫ろうとしている───
「───よし! 行くわよ!」
そして翌日。私は鏡の前で気合を入れる。
「フレイヤ、大丈夫?」
「え、大丈夫? ──あ、陛下への殴り込みの準備ですか? もうばっちり…………あ!」
シオン殿下に後ろから声をかけられて、油断していた私は、つい本音が口から漏れた。
慌てて口を押えたけれど遅かった。
「……フレイヤ」
「……」
ニコッと笑って誤魔化してみたけれど、さすがにシオン殿下には通用しない。
(お兄様ならこれですぐにデレッとしてくれるのだけど──……)
「……そんな可愛い顔を見せても僕は騙されないぞ」
「うぅ……」
そう口では言いながらも、シオン殿下はそっと私の頭を撫でた。その手つきは優しい。
「まったく。これだから本当にフレイヤは目が離せない」
「……えっと」
「でも、そこがフレイヤのいい所だからなぁ……潰したくはないよなぁ……」
「ひゃっ!?」
そう言って今度は抱きしめられた。
最近、気づくと私はいつもこの人の胸の中にいる気がする。
「いいか? フレイヤ。どうせ、あの父上のことだから昨日の今日ですぐには納得なんてしない。なので今日は様子見。だから、その拳はまだしまっておいてね?」
「はい……」
(“まだ”……って言ったわ)
絶対にダメだとは言わないシオン殿下は、何だかんだで私に甘いのかもしれない。
そう思ったら何だか嬉しくなって私の方からも殿下の背中に腕を回してギュッと抱きしめ返した。
────
「この空気……久しぶり……」
馬車を降りて王宮に入った私は、思わずそう呟いた。
「フレイヤが王宮に来るのは、エイダンに婚約破棄されたパーティー以来?」
「そうなりますね、エイダン様はパーティーの後は私に家で謹慎してろと言いましたし、召喚命令が出てからもずっと仮病で逃げ回ってましたから」
「謹慎って……エイダンは本当に何を……」
シオン殿下がブツブツ呟きながらため息を吐く。
「私が犯した罪? は、“天使のように優しいベリンダ嬢による心優しい温情”により不問となりましたけどね」
「……あれが天使ってますますエイダンが阿呆にしか思えない」
顔を引き攣らせて、さらに深いため息を吐くシオン殿下を見ながらふと思った。
殿下はベリンダ嬢の事をかなり毛嫌いしている様子。いったい何があったらそんな状態にまでなるのかしら、と。
最近帰国したばかりのシオン殿下とベリンダ嬢にさほど接点があったとは考えにくい。
(……聞いてもいい話かしら?)
と、言うよりも気になったら聞かずにはいられない。
「──あの、シオン殿下!」
「うん?」
「シオン殿下は、ベリ……」
そこまで口にしかけた時だった。
「きゃあぁぁぁぁーーーー」
(──な、何!? って、ひ、人が───)
突然、女性の悲鳴が頭上から聞こえた、と思ったら階段から人が転がり落ちてきた。
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