【完結】愛する人が出来たと婚約破棄したくせに、やっぱり側妃になれ! と求められましたので。

Rohdea

文字の大きさ
上 下
14 / 57

14. 単純な王子

しおりを挟む

◆◆◆


  (どうしてこうなった!  何で私があんなコケにされて追い出されなくてはならなかった!?)

  つまみ出されるかのようにリュドヴィク公爵家を追い出されたエイダンは、城に到着しても納得がいっていなかった。

  (しかも、フレイヤは何処に行きやがった?  わざわざ悪評まで広げたのにフレイヤに求婚者だと?  有り得ない!)

「───で、殿下?  フレイヤ様を連れて帰って来るはずでは?  何故……お一人……」
「うるさい!  私に今、話しかけるな!」
「も、申し訳ございません」

  部屋に戻ったエイダンが一人だったので側近がおそるおそる声をかけたけれど、怒鳴られて一蹴されてしまう。
  あんなに意気込んで公爵家に向かったのになぁ……と怒鳴られた側近がため息を吐いた時、部屋の扉がノックされた。

「でーんか!  おはようございます。今日は朝から勉強の日なので先に会いに来ちゃいました!」
「───ベリンダ!」

  愛しのベリンダの登場に荒んでいたエイダンの表情がみるみるうちに明るくなる。

「あら?  もしかして何か落ち込んでますか?」
「わ、分かるのか?」 
「当然ですよ!  エイダン殿下の事ですから!」
「ベリンダ……」

  愛しいベリンダに泣きつくのは、情けなくてかっこ悪いことだと頭では分かっていながらも、エイダンは愚痴を言わずにはいられなかった。


───


「───そうだったんですねぇ」
「ああ!  私は許せない!  あのポヤン公爵は王太子である私を何だと思っているのか!」

  憤慨するエイダンをよしよしと慰めながら、ベリンダはこてんと首を傾げて訊ねる。

「でも~、フレイヤ様に求婚者というのは本当の話なのでしょうか?」
「ん?」
「ほら、公爵様の嘘話って可能性は無いんですかぁ?  殿下にはそう言っておいて実はこっそり領地で匿っている可能性もありますよね?」

  ベリンダのその言葉を聞いてエイダンは表情をパッと明るくする。

「──ベリンダもやはりそう思うか!」
「は、はい!  だって悪評もあって公の場で殿下に婚約破棄された令嬢に求婚するなんて……」
「そうさ!  やはり……間違いない。あれは公爵の嘘だ!」

  (フレイヤなんかに求婚者……おかしいと思ったのだ!)

「つまり今頃、公爵は私を上手く騙せたとほくそ笑んでいる……という事だな!?」
「酷いですねぇ……」
「……早速、リュドヴィク公爵領に向かう時間を調整するぞ!  ───おい!  この先の私のスケジュールはどうなっている?  早く教えろ!」

  エイダンは部屋の隅で二人の会話を聞きながら呆れていた側近に向かって声をかける。
  側近はこんなのが将来の王で本当にこの国は大丈夫なのだろうか……と思いながらエイダンのスケジュールを確認した。

「──よし、明後日からならリュドヴィク公爵領に向かえそうだな。ははは!  待っていろ、フレイヤ!  今度こそ貴様を捕まえてやる!」
「ふふふ、良かったですね、エイダン殿下」
「ハッ……ベリンダ……!」

  エイダンはベリンダを放ってしまっていたことに気付き慌ててベリンダの元に駆け寄る。

「すまない。君を放置していた」
「いいえ、フレイヤ様をお迎えする事はとっても大事なことですもの。仕方ないですよ」
「そ、そう言ってくれるのか!」

  エイダンはベリンダの健気さに思わず涙ぐむ。
  側妃なんて存在、普通は厄介に思ってもおかしくないはずなのに。
  母上やフレイヤみたいに、わけではない令嬢がそんな風に言ってくれるとは!

  (あぁ、なんて得難い存在なんだ……!)

「そんなの当然です!  フレイヤ様は絶対に絶対に…………必要な方、なのですから」

  ベリンダは満面の笑みでそう言ってくれた。
  その笑顔に感動し感極まったエイダンはベリンダを抱きしめる。

「ベリンダ!  さすが私の唯一の人!」
「殿下…………あ、ダメですよ。ほら私、これから勉……あっ」

  エイダンは、やんわりと拒否するベリンダの口を無理やり塞ぐ。

  (よし!  このまま押せばいける!)

「いいだろう?  少しくらい……私がリュドヴィク公爵領に向かえば暫く会えなくなるんだ」
「それは……そうですけどぉ」
「寂しく思わないでくれ。フレイヤを見つけたら、すぐにベリンダの元に戻って来るさ!」
「ええ、待ってます、殿下……」


  ───こうして、裏をかいたつもりのエイダンは、どう頑張ってもフレイヤとは絶対に会うことの出来ない旅に時間をかけて出かける事になった。
  (つまり二度目の無駄足)



◆◇◆



  その日のお昼頃、シオン殿下が私の部屋を訪ねて来て教えてくれた。

「───エイダン様が公爵家を訪ねて来た、ですか!?」
「そうなんだ。今、連絡が届いた。すごく、非常識な朝早い時間にやって来たらしい」
「そ、れは……」
「ああ……」

  私とシオン殿下は目を合わせる。互いに思った事は一つ。
  ギリギリだった……だ。

「お父様や使用人は……無事だったのでしょうか?」

  私がいない事を知って激怒したエイダン様がおかしな事をしていないかと心配になった。

「それは大丈夫みたいだ。リュドヴィク公爵が追い払ったようだよ」
「お父様が?」
「うん。それにどうも……開眼していた、とか……」
「───お、お父様の目が!?」

  私は信じられないという表情でシオン殿下を見る。
  だけど、シオン殿下の様子からいってそれは嘘では無い。私は大きく動揺した。

「お父様の目……め、滅多に開くことが無い、のに……」
「そうだね。あの瞳の奥は闇が凄いからね。さすが闇属性の強力な魔力の持ち主だよ。一度見たら──」
「──え?」
「うん?  どうしたの?  フレイヤ」

  相槌を打ってくれたシオン殿下の言葉に違和感を覚えた。

「…………シオン殿下もお父様の瞳の奥を見たことがあるのですか?」
「えっ?」
「お父様が闇属性魔力の持ち主なのは誰もが知っている事ですが、瞳の奥のことまでは見た事がある人しか……」
「……」

  シオン殿下がスッと気まずそうに目を逸らす。

「……殿下?」
「……」

  私は顔の向きを変えてシオン殿下の目を追いかける。
  でも、殿下はやっぱり目を逸らしてしまう。

「……シオン殿下?」
「……っ」
「───~~~!  もう!  何で目を逸らすのですか!」
  
  私は両手でシオン殿下の頬を掴むとグイッと自分の方へと顔を向かせた。

「フフフフフレイヤ!  ちちちち近い!」

  シオン殿下が、顔を赤くして訴えてくるけれどそれどころではない!
  何故、殿下がお父様の目の奥を知っているのか、の方が今は大事だった。
  なので私はグイグイ迫る。

「───シオン殿下、いつ見たのです!?」
「ち……近っ!  うっ…………で、ではなくて……コホッ」
「……殿下!」
「き、昨日、フレイヤが部屋で荷造りしている、時だ……よ」
「え?」

  あの二人で深刻そうな表情で語り合っていた時?
  まさか!  あの時、お父様目を開けていたの?
  その事に驚いた。でも……

「なるほど。それだけ真剣な話をされていたと──」
「せ……正式に結婚するまでフレイヤに手を出したら許さん!  と、脅されて……た」
「──は、い……?」

  私が聞き返すと、シオン殿下は頬をほんのり赤く染めたまま続ける。

「あくまでも今はまだ婚約者候補……なのですから、阿呆王子から逃すために娘の身は預けます……が!  くれぐれも節度を持った清く正しい関係を……と」
「……」
「そ、その時に公爵の目が……こう……」

  殿下が目を見開く真似をする。

  (おーとーうーさーまー!?)

「あれは、エイダン様を蹴落としてこ、これからの国の未来についてを熱く語っていたのではなかったのですか!」
「え?  国の未来?  そんな深い話は……」
「で、ではあんな深刻そうにいったい他にも何を長々と!」

  私は更にグイグイ近付く。

「え、いや、フ、フレイヤがいかに可愛い娘なのかを延々と語られていた……のだけど?」

  まさかの娘の惚気!  殿下はそんなものをずっと聞かされていた!?
  私はがっくりと力が抜けてしまった。

「フレイヤ!?」

  力が抜けて倒れ込みそうになった私をシオン殿下が慌てて抱きとめてくれる。

「大丈夫!?」
「……大丈夫、です……そして、すみません……でした」

  私が謝るとシオン殿下はおかしそうに笑った。

「いや、何でフレイヤが謝るの?」
「うっ……何ででしょう……」
「ははは!  それだけフレイヤは公爵に愛されているんだね」
「あ、愛!  ……は、恥ずかしい、です」

  そう言って顔を赤くする私を見て殿下は静かに微笑んだ。
  
「いい事だと思うよ?  それに……本音を言うとちょっと羨ましい、かな」
「……殿下?」

  そう口にした殿下のその微笑みは、どこか寂しそうにも見えた。
  
しおりを挟む
感想 367

あなたにおすすめの小説

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

婚約者と親友に裏切られた伯爵令嬢は侯爵令息に溺愛される

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のマーガレットは、最近婚約者の伯爵令息、ジェファーソンの様子がおかしい事を気にして、親友のマリンに日々相談していた。マリンはいつも自分に寄り添ってくれる大切な親友だと思っていたマーガレット。 でも… マリンとジェファーソンが密かに愛し合っている場面を目撃してしまう。親友と婚約者に裏切られ、マーガレットは酷くショックを受ける。 不貞を働く男とは結婚できない、婚約破棄を望むマーガレットだったが、2人の不貞の証拠を持っていなかったマーガレットの言う事を、誰も信じてくれない。 それどころか、彼らの嘘を信じた両親からは怒られ、クラスメイトからは無視され、次第に追い込まれていく。 そんな中、マリンの婚約者、ローインの誕生日パーティーが開かれることに。必ず参加する様にと言われたマーガレットは、重い足取りで会場に向かったのだが…

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢セラヴィは婚約者のトレッドから婚約を解消してほしいと言われた。 理由は他の女性を好きになってしまったから。 10年も婚約してきたのに、セラヴィよりもその女性を選ぶという。 意志の固いトレッドを見て、婚約解消を認めた。 ちょうど長期休暇に入ったことで学園でトレッドと顔を合わせずに済み、休暇明けまでに失恋の傷を癒しておくべきだと考えた友人ミンディーナが領地に誘ってくれた。 セラヴィと同じく婚約を解消した経験があるミンディーナの兄ライガーに話を聞いてもらっているうちに段々と心の傷は癒えていったというお話です。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

処理中です...