【完結】愛する人が出来たと婚約破棄したくせに、やっぱり側妃になれ! と求められましたので。

Rohdea

文字の大きさ
上 下
7 / 57

7. いつもと違う使者

しおりを挟む


  ───さて、今日は誰が使者としてやって来るのかしらね?

  朝、私は起こしに来たカレンに言った。

「カレン、胸痛繋がりで今日の症状は胸がチクチク痛い……でいいかしら?」
「そうですねぇ、昨日は動悸が激しくて苦しい……だったので大丈夫かと」

  腹痛、頭痛、腰痛……胸痛になってからは、痛い種類のバリエーションを増やしてみた。

  だけど、思っていた以上にエイダン様は執拗い。
  なので、いつまでもこのままではいけない。
  今のところ、使者は騙せているけれどそれだっていつまで持つことやら……だった。


───


「お父様、そろそろ、病気のフリをして登城を延ばすのもギリギリだと思いますの」
「……フレイヤ」
「お父様が私に新しい婚約者を探している事は知っていますけど──……」

  朝食の席でそう切り出すと、お父様は「うぅ……」と顔を曇らせた。
  どうやら、いい感じの新しい婚約者候補はいないらしい。

「…………やっぱり王太子殿下に婚約破棄された令嬢なんて、次の縁談は難しいですわよね」

  公に罪は問わないと言いながらも、よく分からない冤罪までプラスされたわけだし……
  婚約破棄もだけど、あの冤罪もかなりのマイナス要素なのは間違いない。

「皆、関わりたくない様子とみえる。殿下が圧力をかけている……のかもしれん」
「なっ!」

  (───エイダン様っ!)

「殿下の圧力に負けないとなると、同じ王族くらいしかおらん」
「……」
「そうなると、他国の王族か、もしくは───」
「……お父様。周辺の国の私と近しい年齢の王子様方には、皆様、婚約者がおりますわよ?」
「うっ……」

  それはお父様も分かっていたようで言葉を詰まらせていた。

「はぁ……殿下は側妃の話を諦める様子は無いのだな?」
「ええ……恐ろしいくらい執拗いですわ」
「陛下も抗議を聞き入れてくれん。“すまないが分かってくれ”としか言わんのだ」
「……」

  私は一旦、食事を止めて、ため息を吐きながら椅子の背もたれにそっともたれ掛かる。
  仮病で登城することを逃げ回りながらも、私はエイダン様に“お断りさせてください”といった内容の手紙を送ってみた。
  しかし、それでもエイダン様は連日の召喚命令は取り下げず、更に返事として寄越した手紙に書かれていたのは……

  ───なぜだ!  貴様のような性悪で厄介者女を側妃として受け入れてやるんだぞ?  光栄だろう?  (意訳)

  ───そんなに正妃になれない事が不満なのか?  強欲な女だな。ベリンダを見習え!  (意訳)

  ───病気だと?  いいからとにかく早急に城に来い!  (意訳)

  (凄いわよねぇ……心配の言葉一つすらないなんて)

  そして、何故こうも上から目線なの?
  確かに私達は臣下だけどこれはどうかと思う。

  何よりも、ベリンダ嬢を見習え?
  私はこの言葉に一番カチンと来た。
  そのベリンダ嬢の正妃としての素質が問題になっているから、私に側妃になれ!  と言っているくせに?

  (恋は盲目……とは言うけれど、呆れるわ)

  昔のエイダン様はちゃんと具合が悪いと言えば、心配してくれる優しい心を持っていた人だったのに。
  なので、この手紙を読んだ時は激しい怒りと同時に虚しさを感じた。

「……お父様、私のこれまでって何だったのでしょうね」
「フレイヤ……」

  私が遠い目をするとお父様も悲しそうな顔をした。

「お父様。病弱印象はかなり植え付けたと思いますし、とりあえず、病気を理由に一度領地に戻ろうと思います。さすがに疲れましたわ」
「……分かった。これ以上は仕方がないだろう。あの殿下が納得するかは分からないが、私からも病状が日に日に悪化しているので領地で静養させると話をしては、みる」

  (やったわ!)

  お父様が頷いてくれたので、これで更なる時間稼ぎが出来る。
  使者が領地にまで来るかは分からないけれど、確実に頻度は減るはずだ。
  たとえ、やって来てもいつものように追い返す事にもちろん変わりは無いけれども。
 
「お父様!  それでは、早速荷物をまとめて準備をしますわ!」

  今日の使者を追い返したらすぐに出発よ────




「申し訳ございません。お嬢様は本日も具合が悪くて寝込んでおります」
「……」

  玄関先でカレンがいつもの応対をしてくれている。
  連日やって来た(日替わり)使者達はエイダン様に“必ず連れてこい!”と命令されているため、絶対にここでは引き下がってはくれない。

  (今日もか弱いフレイヤを演じてお帰りいただくわよーーー! そして、領地へ行くんだから!)

  私はぐっと拳を握って気合を入れた。



「……え、えっと、お、お嬢様はこちらの部屋で療養しております」
「聞いたところによると、腹痛、頭痛、腰痛、胸痛……随分と広範囲に渡っているようだが?」
「え、ええ……そ、そうです、ね」

  (……?)

  カレンと本日の使者と思われる人の話し声が近付いてきて、足音が私の部屋の前で止まった。
  何だか今日の使者は、どこかお堅い感じの声がするので、ちょっといつもと違うのかもしれない。
  そのせいなのか、カレンの声もどこか固く感じる。

  (なんだか心配になってきた……今日の使者もちゃんと騙されてくれるかしら?)

「……」

  ──いえ。何を怖がっているの?  私は女優・フレイヤなんだから! 
 



「……なるほど。確かにフレイヤ様は具合が悪そうですね」
「……!」

  カレンと共に部屋に入って来た今日の使者は、 想像した通りいつもと雰囲気が違っていた。

  (な、何この空気……)

  ピリッとしたはりつめた空気を感じる。
  ──今日の使者はチョロくない。絶対にチョロくないわ。私は直感的にそう思った。

 (と、言うよりも……この人、何でフードを被ったままなの?)

  何故か今日の使者はフードを被ったまま脱ごうとしない。
  そのせいで全く顔が見えない。

  私はチラッとカレンに視線を向ける。
  目が合ったカレンは慌てて困った顔で首を横に振った。
  
  (今日の使者はいつもと違う……カレンもそう感じているのね)

  せっかく今日を乗り切れば領地に行けるのに!  
  どうせ、次の縁談は難しいので私はもうのびのびとおひとりさま生活を満喫するつもりなのよ!

  絶対に負けるものか!  と私は女優魂に火をつけた。

  
しおりを挟む
感想 367

あなたにおすすめの小説

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

婚約者と親友に裏切られた伯爵令嬢は侯爵令息に溺愛される

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のマーガレットは、最近婚約者の伯爵令息、ジェファーソンの様子がおかしい事を気にして、親友のマリンに日々相談していた。マリンはいつも自分に寄り添ってくれる大切な親友だと思っていたマーガレット。 でも… マリンとジェファーソンが密かに愛し合っている場面を目撃してしまう。親友と婚約者に裏切られ、マーガレットは酷くショックを受ける。 不貞を働く男とは結婚できない、婚約破棄を望むマーガレットだったが、2人の不貞の証拠を持っていなかったマーガレットの言う事を、誰も信じてくれない。 それどころか、彼らの嘘を信じた両親からは怒られ、クラスメイトからは無視され、次第に追い込まれていく。 そんな中、マリンの婚約者、ローインの誕生日パーティーが開かれることに。必ず参加する様にと言われたマーガレットは、重い足取りで会場に向かったのだが…

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

希望通り婚約破棄したのになぜか元婚約者が言い寄って来ます

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢ルーナは、婚約者で公爵令息エヴァンから、一方的に婚約破棄を告げられる。この1年、エヴァンに無視され続けていたルーナは、そんなエヴァンの申し出を素直に受け入れた。 傷つき疲れ果てたルーナだが、家族の支えで何とか気持ちを立て直し、エヴァンへの想いを断ち切り、親友エマの支えを受けながら、少しずつ前へと進もうとしていた。 そんな中、あれほどまでに冷たく一方的に婚約破棄を言い渡したはずのエヴァンが、復縁を迫って来たのだ。聞けばルーナを嫌っている公爵令嬢で王太子の婚約者、ナタリーに騙されたとの事。 自分を嫌い、暴言を吐くナタリーのいう事を鵜呑みにした事、さらに1年ものあいだ冷遇されていた事が、どうしても許せないルーナは、エヴァンを拒み続ける。 絶対にエヴァンとやり直すなんて無理だと思っていたルーナだったが、異常なまでにルーナに憎しみを抱くナタリーの毒牙が彼女を襲う。 次々にルーナに攻撃を仕掛けるナタリーに、エヴァンは…

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

処理中です...