【完結】愛する人が出来たと婚約破棄したくせに、やっぱり側妃になれ! と求められましたので。

Rohdea

文字の大きさ
上 下
3 / 57

3. 婚約破棄宣言の裏では

しおりを挟む


◆◆◆


  時は少し遡り、婚約破棄宣言をしたパーティーの後。
  エイダンは「どういう事か説明してください!」と、騒ぐ側近や家臣を無視してベリンダを連れて私室に引っ込んでいた。

「ベリンダ!  やったぞ!  遂に皆の前で言ってやった」
「エイダン殿下……いえ、エイダン様、あれ……本当に大丈夫なのですか?」
「大丈夫、とは?」

  首を傾げるエイダン。
  ベリンダは目を伏せて言いにくそうに告げる。

「フレイヤ様が私たちを虐めた……という“嘘”の件です」
「ああ!  それか」

  どこか心配顔で訊ねるベリンダに、エイダンは自信満々に頷いた。

「本来、フレイヤを私の婚約者の座から引きずり下ろすにはあれくらいの嘘は必要だ」
「エイダン様……でも、フレイヤ様がそんなことはやっていないと主張したら……」

  エイダンはそっと心配顔のベリンダを抱き寄せる。

「ははは、大丈夫さ。フレイヤはあの場で否定しなかったしな。後から色々言ってきても“今更遅い”だよ」
「そ、それはそうかもしれませんけど……」
「あの場で否定もせず、反対意見でフレイヤを庇う者が居なかった。その時点でもう私の勝ちさ!」

  ───唯一の自分の婚約者と認められていた公爵令嬢が未来の王妃としては相応しくないと脱落した──そうなれば、他にもう“公爵令嬢”の候補者はいない。ならば、私が望む花嫁を迎えたっていいはずだ!

  (それでも万が一、うるさい奴らが黙らない場合は別の公爵家に恩でも売ってベリンダを養女にさせればいい!)

  それで形式は“公爵令嬢”が正妃となるしな!  それで問題はマルっと解決だ!
  ───エイダンはそう思い込んでいた。

「フレイヤも昔こそ素直で可愛かったが……成長と共にどんどん生意気になっていったんだ」
「まあ!  そんなに?」

  驚いた様子のベリンダが聞き返すとエイダンは、どこか嬉しそうにこれでもかとフレイヤの悪口を語り出した。

「フレイヤの奴……すぐに私の述べた提案に口を出してくるんだ。ちょっと自分の方が講師から優秀だと褒められているからと調子に乗ってな!」
「そんな!  王太子殿下はエイダン様なのに……」
「そうだろう?  魔力もそうさ。フレイヤはちょっと珍しい光の魔術が使えるからと言って私を見下してくる!」
「酷いですね!」
「ベリンダ……君は優しいな。だからこそ、私は正妃の地位を君に与えたい」
「ふふ、エイダン様……ありがとうございます」

  エイダンは自分のこんな愚痴を嫌な顔一つせずに優しく聞いてくれるベリンダを愛しく思い、抱きしめてキスをする。

「あ、エイダン様……ダメですよ。こんな所で……」
「ははは、何を躊躇う?  ここは私の私室だぞ?  私が呼ぶまで誰も入っては来ない」
「ん……そう、ですけど……」

  それでも……と躊躇うベリンダにエイダンはひたすら迫る。

「時代遅れとしか思えないような取り決めで、フレイヤが私の婚約者と決められたが……私は本当に愛せる人を探していた」
「本当に愛せる人ですか?」
「もちろん、君の事だよ?  ベリンダ」
「エイダン様……!  嬉しい!」

  ベリンダが嬉しそうに笑ってエイダンに抱きつくと、エイダンはそのまま、もう一度ベリンダにキスをする。
  そしてベリンダをベッドに押し倒すと慣れた手つきでベリンダのドレスを脱がしにかかった。


─────……


    翌朝、こっそり部屋に泊めたベリンダを一旦、屋敷に帰すとエイダンは父親である国王に呼ばれた。


「……お前は本気でフレイヤ嬢との婚約を破棄するのか?」
「当然です。その気がなくてあんな場で発表するはずがありません!」

  国王は息子の自信に満ちた表情でのその受け答えに愕然とする。

「バカだ……とは、思っておったが……ここまで、とは……」
「父上?  何かおっしゃいましたか?」
「……お前はあの取り決めをどうするつもりなのだ?」

  現時点で正当な王位継承権を持つのは王妃が産んだ子は一人だった為、エイダンのみ。
  そして、伴侶になれる公爵家の血筋を持つ丁度いい年齢の令嬢もフレイヤ嬢のみ。

「そんなもの新しく変えていけばいいではありませんか!  今は貴族だって自由恋愛の時代ですよ?  そんなに言うならどうぞ、ベリンダを別の公爵家の養女に──」
「エイダン!  お前はなぜ、王家が代々公爵家の血筋を持った令嬢を正妃に据えて、跡継ぎも正妃の子に限定しているのか分かっておらんのか!」

  何度も何度も言って聞かせたはずなのに。
  その上で、フレイヤ嬢を大事にするようにと伝えたはずなのに。
  国王は本気で頭を抱えた。

「えっと?  聞いた気はしますが……」
「この魔力を維持するためだと何度も言っているだろう!」
「あー……そういえば」

  魔力は身分が高ければ高いほど強い。
  王族は国を護る為にも強い魔力が必要だ。よって昔から相手は公爵家の血筋の者として来た。
  
  (それに、プライドの高い公爵家の面々が“正妃”以外の立場に収まるのを良しとするはずがないからな)

  だから、代々公爵令嬢を正妃として娶って来たというのに!  この息子は……!
  よりにもよって選んだ相手は男爵令嬢……もっとも魔力が低い。

(……リュドヴィク公爵とも話し合いをせねばならん……だが、今は地方に行っている……)

  なんて間の悪いことよ……と、国王は嘆いた。
  エイダンを何とか説得し、帰って来たら公爵と話をして……と頭の中でこれからの段取りを組んでいたら、阿呆の息子王子は呑気な顔で言った。

「愛があれば魔力の高さなど気になりません!」



  国王の誤算はもう一つ続いた。
  なんと、地方に行っていたリュドヴィク公爵が戻ってくるなり、真っ先にエイダンの元に突撃してしまった。
  自分が視察で城を開けていた日の事だった。

「父上、リュドヴィク公爵が婚約破棄を受け入れてくれましたよ!」

  満面の笑みでそう報告に来たエイダンの言葉に耳を疑った。

「ベリンダを正妃にするといい、という言葉まで貰えました」

  公爵家がなんと婚約破棄を受け入れてしまっていた……!
  公爵家との縁組が絶望になった国王は、とりあえず、エイダンの愛する相手──ベリンダ・ドゥランゴ男爵令嬢がどのような令嬢なのかを確かめる事にした。

  (魔力に関してはもうどうも出来ぬが、令嬢に正妃たる素質があれば……)

  そう期待をかけたが────

「あ、私、ダンス苦手なんです~……」

  と言ってパートナーの足を踏みまくる。

「えっと、我が国の隣の国はザザールでしたっけ?  あ、違うサザール国?  学園で学んだはずなんですけど、私、昔から暗記が苦手なんです~……」

  と言って貴族の子息令嬢が通う学園で学んだはずの基本的な教養知識まで抜け落ちている始末。

  エイダンがそこまでして彼女を正妃にと言うなら……
  と、考えたものの肝心の男爵令嬢がポンコツ過ぎる!  とてもじゃないが正妃は務まらん!

  誰もが苦悩していたその時、一人の大臣がポツっと何気なく独り言をこぼした。

「───エイダン様が正妃の座は男爵令嬢で!  と、譲らないなら、フレイヤ様が殿下の側妃となって正妃のカバーをして貰う事に納得してくれれば、何とかなりそうなんですけどねーー……」

しおりを挟む
感想 367

あなたにおすすめの小説

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

婚約者と親友に裏切られた伯爵令嬢は侯爵令息に溺愛される

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のマーガレットは、最近婚約者の伯爵令息、ジェファーソンの様子がおかしい事を気にして、親友のマリンに日々相談していた。マリンはいつも自分に寄り添ってくれる大切な親友だと思っていたマーガレット。 でも… マリンとジェファーソンが密かに愛し合っている場面を目撃してしまう。親友と婚約者に裏切られ、マーガレットは酷くショックを受ける。 不貞を働く男とは結婚できない、婚約破棄を望むマーガレットだったが、2人の不貞の証拠を持っていなかったマーガレットの言う事を、誰も信じてくれない。 それどころか、彼らの嘘を信じた両親からは怒られ、クラスメイトからは無視され、次第に追い込まれていく。 そんな中、マリンの婚約者、ローインの誕生日パーティーが開かれることに。必ず参加する様にと言われたマーガレットは、重い足取りで会場に向かったのだが…

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢セラヴィは婚約者のトレッドから婚約を解消してほしいと言われた。 理由は他の女性を好きになってしまったから。 10年も婚約してきたのに、セラヴィよりもその女性を選ぶという。 意志の固いトレッドを見て、婚約解消を認めた。 ちょうど長期休暇に入ったことで学園でトレッドと顔を合わせずに済み、休暇明けまでに失恋の傷を癒しておくべきだと考えた友人ミンディーナが領地に誘ってくれた。 セラヴィと同じく婚約を解消した経験があるミンディーナの兄ライガーに話を聞いてもらっているうちに段々と心の傷は癒えていったというお話です。

処理中です...