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2. 婚約破棄宣言の後……
しおりを挟む───大混乱に陥ったパーティーはそのまま中止となり、私は自宅で謹慎してろとエイダン様に命令され、何が何だか分からず頭が混乱したまま馬車に乗せられ邸に帰らされる事になった。
「……」
私は、エイダン様曰く“天使のように優しいベリンダによる心優しい温情”により処罰を受ける、事はないらしい。
ただ、エイダン様との婚約が破棄されただけ。それを事もあろうに公の場で宣言されただけ……
(……って、普通に屈辱よ!?)
婚約破棄宣言された私に向けられた目は様々だった。
エイダン様は令嬢にモテたので、以前から私に敵意を持っていた人はざまぁみろと嘲笑って来たし、逆にこんな公の場で……と、同情の目や擁護の声も上がっていた。
だけど、エイダン様はそんな声も全て黙らせ、よく分からない罪を私に擦り付けて婚約破棄宣言を続行した。
(結局、陛下の許可を得ているのかまではよく分からなかったわ)
エイダン様は、跡継ぎの王子は公爵家の娘を娶る……という取り決めはどうするつもりなのかしら?
陛下に話が通っての宣言なのか、公爵令嬢を娶らなくてはならない決まりはどうするのか……に関しては、怒鳴り散らす事で誤魔化してはっきり答えようとしなかった。
「……婚約破棄、かぁ……」
生まれてからずっと、エイダン様の正妃となり、未来の王妃になる事を求められて来たので、突然それが無くなりました!
と、言われてもピンと来ない。胸の中にポッカリ穴が空いた気分。
「どうして、ベリンダ嬢を側妃にする……ではダメだったのかしら?」
王家には変な取り決めがあるので、側妃を持つ事を禁じてはいない。
現国王にだって側妃はいる。
ただし、跡継ぎは正妃の子供に限る……だけれども。
だから、正妃となった際には側妃が選ばれる覚悟をしておくように、ともずっと言われて来た。
「エイダン様……ベリンダ嬢のことを愛してるって言っていたわ」
そんな言葉、エイダン様からは一度も聞いたことが無い。
愛は愛でも親愛の情と信頼関係でうまくやって行きたい……そう思っていたけれど、どうやらそれは私だけだったらしい。
「バカみたい……」
私は小さくそう呟いて、目尻に溜まった涙をそっと拭った。
◆◇◆
「───こ、婚約破棄、だと!? 殿下が、殿下がそう言ったのか!?」
「はい」
「陛下は? 陛下はなんと?」
「その場にはいらっしゃらなかった為……分かりません」
エイダン様の成人祝いパーティーの日は、泊まりがけの仕事で地方に行っていたお父様。
戻ってくるなり、婚約破棄の件を聞き大激怒した。
お父様が怒るのも当然で、エイダン様は公爵家の当主である父にさえ話を通していなかった……
「しかも、フレイヤが令嬢を虐めていただと!? そんなの言いがかりではないか!」
「私には身に覚えがありません」
「当たり前だ!」
私は、お父様がエイダン様の話を鵜呑みにしなかった事にホッとした。
そんなお父様はとにかく色々と我慢ならなかったらしい。
「王宮に……今すぐ王宮に確認に行ってくる!! フレイヤはとりあえず休んでいなさい!」
「は、はい」
そう言ってお父様は怒り心頭のまま王宮に乗り込んで行ったので私はその背中を見送る。
後はお父様にお任せする事にした。
(───私はどうなるのかしら?)
このまま婚約破棄されて、社交界で嘲笑われて生きていくか、婚約破棄宣言が撤回されて元の関係に戻されるか……
(どちらにしても私、笑い者になるのでは?)
なんであれ、結果がどちらに転ぶのか……私には全く分からなかった。
「───フレイヤ! 戻ったぞ!」
「お父様!」
日が暮れてだいぶ経ってからようやく戻ってきたお父様。
何か進展はあったのかと話が聞きたくて私は慌てて出迎えて駆け寄る。
すると、お父様は私の顔を見るなり言った。
「婚約は無くなった」
「え?」
「殿下が絶対に正妃はあのラベンダーだかブレンダー嬢だかにすると譲らなくてな」
(ベリンダ嬢ですわよ、お父様……)
「そんなに言うのなら殿下のお望み通り、そのベランダ嬢を正妃にして差し上げれぱよろしいかと存じます! と言ってきた」
「そう、ですか……」
今度はベランダになっていたけれど、もはやそこにツッコミを入れる気も起きなかった。
人の名前と顔を覚えるのが苦手なお父様には意味のない事だから。
───婚約破棄を受け入れる。
当主のお父様がそう決めたのなら、もうそれは決定事項だ。
「陛下は?」
肝心の国王陛下はどうだったのかとお父様に訊ねる。
だけど、お父様は首を横に振った。
「会えなかった。だからエイダン殿下としか話は出来ていない……が、殿下があそこまで言い切るのだ。陛下も納得の上での話なのだろう」
つまり、公爵令嬢でなければいけない取り決めを改正するか、もしくはベリンダ嬢を我が家以外の公爵家の養子にするか……?
(……でも、どちらも簡単ではないはずよ)
法改正はとにかく時間がかかる。
そして、公爵家は自分たちの血筋を重んじている。
それに今更、王家とパイプを繋ぐ必要は無い。なのでわざわざ男爵令嬢を養子として迎え入れるという要請は受けないのでは? と私は思っている。
(まぁ、もう私には関係ないわよね)
むしろ、これからどうやって生きていけばいいのかしら?
社交界に出ればただの笑い者。
我が家と縁を結びたい貴族はいても、王子に婚約破棄された令嬢と結婚だなんて面倒でしかないでしょうし……
(うん! 一生、独り身かな!)
王都にいるとうるさそうだし、領地に帰ってひっそり暮らすのが一番いいのかもしれない。
リュドヴィク公爵家の跡継ぎにはお兄様がいるので、私がおひとりさま人生を満喫してもきっと大丈夫……のはず!
(よし! 今後の人生はこれで行くわ!)
と、意気込んでいたらお父様が悲しそうに私の頭を撫でた。
「すまないな、フレイヤ」
「え?」
「暫くは社交界でも騒がれるだろう。殿下に婚約破棄された令嬢だと笑われるかもしれん」
「……そうです、ね」
まぁ、それこそ、影でプークスクスだと思うけれど。
表からぶつかって来る人はあんまりいないと思うわ。誰だって公爵家を敵には回したくないはずだもの。
「フレイヤの今後はゆっくり考えようではないか」
「お父様……」
「あんなバカ王子、どうなっても知らぬ! フレイヤが居なくなってから精々困るがいい!」
お父様は大袈裟だわ、と私は苦笑いする。
「フレイヤ? 笑っているが今までお前がしてきた事を、あんなぽっと出のダンゴ男爵令嬢に出来るはずがないのだ!」
「は、はあ……ダンゴ……? ドゥランゴではなくて……?」
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「似たようなものだろう! とにかく後で婚約破棄の話は無かった事にしてくれーーと泣きついて来ても遅いのだ!」
(エイダン様が泣きついてくる姿なんて想像出来ないわねぇ……)
……その後。
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