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番外編 結婚式のその後で
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悲しかった一度目の結婚式……をガラッと塗り替える勢いで行なわれた二度目の結婚式。
愛を誓う場面でジョエル様の長~~~~い熟考というザワザワするハプニングはあったものの、
無事(?)に式を終えることが出来た。
その後は、ギルモア侯爵邸で簡単な結婚パーティーを開催。
そんなパーティーが始まってすぐ、私たちに声をかけて来たのは───……
「やあやあやあ! 愛しの花嫁を抱えての入場とはさすがジョエルだ!」
「……」
「結婚式とは厳かに入場するものだと聞いていたがあんな方法もあるとは驚きだよ!」
「……」
エドゥアルト様が楽しそうに今日の結婚式を振り返る。
そんなジョエル様はエドゥアルト様の話を聞きしかめっ面している。
ジョエル様のこの表情はきっと、
厳かに入場するもの……? 聞いた話と違うぞ……?
とか思っているに違いない。
そして私は思った。
(エドゥアルト様のこの反応、ジョエル様にこの知識を植え付けたのは彼ではないのね?)
思った通り、エドゥアルト様は目を輝かせてジョエル様に訊ねる。
「なあ、あの素晴らしい入場方法はまさかとは思うがジョエルが考えたのか?」
「……」
「ん? その顔は違うようだな。では誰かの助言か?」
(それ、私も気になる!)
私はそっと聞き耳を立てる。
いや、もうこの場合は消去法で入れ知恵した人の予想はついているけれど!
「……」
そうして、少し考える素振りを見せたジョエル様が口を開こうとした時だった。
「ホーホッホッホッ! 助言? そんなのこの私に決まっているじゃない!」
「!」
その高らかな笑い声に私は勢いよく後ろを振り返る。
「お、お義母様……!」
義母となった侯爵夫人が夫の侯爵様を従えて軽やかにヒールを鳴らしながら歩いてくる。
(やっぱり……!)
「お義母様だったのですね……?」
「そうよ! セアラさん。だってね、ジョエルったら……」
「ジョエル様がどうかしたのですか?」
私が聞くとお義母様はニヤリと笑った。
「この子……こっそり前日に、セアラさんとの入場のシミュレーションを一人でやっていたのよ、ね! あなた!」
「ああ」
お義母様の言葉に侯爵───お義父様もコクリと頷く。
どうやら、その場面を二人で目撃したらしい。
「えっ……! シ……」
シミュレーション!?
それは初耳だ。
私はチラッとジョエル様の顔を見る。
ジョエル様は顔色変えずに黙々とお義母様の話を聞いていた。
「……!」
(こっそり行為がバレて、しかも暴露までされているのにこの澄ました顔……すごいわ)
「ふふ、それでしかも、その時のジョエルの様子ったら───」
ゴクリ。
私とエドゥアルト様は唾を飲んでドキドキしながらお義母様の話の続きを待つ。
「緊張のあまり、両手両足同時に出しているんだもの!」
「───!!」
ひっ! と私は息を呑んだ。
(ジョエル様ーーーー! また? またなのーー!?)
「笑えたわ! もうお腹抱えるくらい笑えたけど、こんなの放っておいたら絶対セアラさんを巻き込んで転んじゃうでしょう?」
「ああ……ジョエルなら確実にやる」
お義父様も深く頷き同意する。
「せっかくの晴れの日。可愛い義娘をそんな目に合わせるわけにはいかなかったのよ」
「お義母様……」
「だからね、シミュレーションを終えたジョエルに言ったの。お姫様は抱っこして運ぶものなのよ、って」
「!」
「ジョエルはね、疑いもせず真顔で頷いたわ」
(そ、そして、素直に実行した……ということね?)
「……っっ」
うわぁぁ~と恥ずかしくなった私は両手で自分の顔を覆う。
あの恥ずかしかった入場の裏事情を知ったらもっともっと恥ずかしくなってしまった。
(だだだだって、結婚式の入場のシミュレーションしていたのよ!?)
新郎が花嫁である私の知らないところでめちゃくちゃ可愛いことしていたって何事!?
(もう!)
私は顔を覆っている指の隙間からそっとジョエル様の顔を盗み見る。
(無……)
ジョエル様はここまで暴露されているのに取り乱す様子もなく淡々としている。
そんな堂々とした姿にはキュンと胸がときめいた。
「なぁ、ジョエル……今、すごく色々と暴露されたぞ? 少しは照れるとか恥ずかしいとかないのか?」
さすがに顔色一つ変えないジョエル様のことが心配になったのか、エドゥアルト様がおそるおそる訊ねた。
しかし……
ジョエル様は首を傾げる。
「照れる? なぜだ?」
「え!」
(え!?)
エドゥアルト様のように声には出さなかったけれど私もびっくりした。
「ようやく迎えた大事な大事なセアラとの結婚式だぞ?」
「お、おう……?」
「ならば! ───何百回でも何万回でもシミュレーションするのは当たり前のことだ!」
ジョエル様がキッパリとそう言い切る。
(多くない!?)
「あれは俺との結婚式をセアラの一生の思い出にするためには必要なこと」
(ジョエル様……!)
「そのための準備に恥ずかしいことなど何一つない!」
「───ジョエル! ……君ってやつは……」
さすがのエドゥアルト様も、ジョエル様のこの言葉には感激し───……
「だが、ジョエル。一見、とてもかっこいいことを言っているが……両手両足を同時に出していたのはさすがにダサいとしか思えないぞ?」
「……なっ!」
さすがにその言葉は聞き捨てならなかったのか、ジョエル様がカッと目を大きく見開いた。
そして、すごい勢いでじっと私の顔を見つめてくる。
「!?」
(ちょっ……圧! 圧がすごいから……!)
エドゥアルト様……あなた、なんて余計なことを言ってくれたの!
少しだけ彼を腹立たしく思う。
「え、えっとですね、ジョエル様……」
「!」
(ひっ!)
さらに圧が強くなった。
ここは───お礼を告げて濁す……しかないわ!
「わ、私との結婚式を……素敵なものにしようとして下さりありがとうございます」
「セアラ……!」
「今日の結婚式は一生の思い出になりました」
私は笑顔でそう伝える。
悲しかった記憶は本当にガラリと塗り替えられたから決してこの言葉は嘘じゃない。
「セアラ!」
「!」
(ひえぇぇぇ~!?)
ガバッと皆が見ている前でジョエル様に強く抱きしめられた。
そんなジョエル様の行動に驚いていると、そっと耳元で囁かれた。
「ああ、そうだな……世間の常識なんてどうでもいい」
「え?」
「セアラのその笑顔が見れたから……俺はとても幸せだ」
「!」
(……ジョエル様)
───私はあなたのこういう所が愛しくて愛しくてたまらない。
そんな気持ちで微笑み、私からもギュッと背中に腕を回して抱き締め返した。
─────
その日の夜────
夫婦となって初めての夜。
そう、ドッキドキの初夜。
(いっぱい肌を磨かれてしまったわ)
私はドキドキしながら今夜から使用する“夫婦の寝室”に入り、ジョエル様の訪れを待つ。
とにかく心臓が落ち着かない。
「と、とりあえず、ベッドに座って待っていればいいのかしら?」
(ジョエル様はどんな風に私に触れてくれる……?)
「!」
心臓をバクバクさせながらジョエル様がやって来るのを待っていたら部屋の扉が開いた。
(き、来たーーーー!)
「───セアラ」
「ジョ、ジョエル様……!」
ジョエル様は私の名前を呼ぶとそのままベッドに座っている私の横に並んで座った。
「……」
「……」
私たちは無言でお互いの顔を見つめ合う。
(ジョエル様の顔もほんのり赤い……かも)
「……あ」
そう思った時、ジョエル様の手が私の頬に触れ、そのまま顔が近付いてくる。
チュッと唇が触れた。
(キスはこれまでだって何度もして来たのに……)
初夜というだけで、何だか全てがいつもと違う気がする。
「……」
「……」
しばらくキスを続けた後、ジョエル様の唇が離れて今度はそっと手を取られた。
「…………寝るか」
「っっ! ハ、ハイッ!」
(いよいよ……いよいよだわ!)
私はギュッと目を瞑る。
このままガウンを脱がされて?
そして、そのまま流れに身を任せ……
「…………?」
そう覚悟を決めたのに、何も起こらない。
なのに、手だけはずっと繋がれたまま。
(えっと?)
不思議に思った私はそろっと目を開けた。
そして、その光景に目を剥いた。
「───!?」
(ええええ! なんでジョエル様、先に一人で横になっているの!?)
ど、どういうプレイ!?
私が戸惑っているとジョエル様が不思議そうに私を呼ぶ。
「セアラ?」
「……」
「寝ないのか?」
「……! ね、寝ます……けど」
(何かおかしくない!?)
私は恥ずかしながらも勇気を振り絞ってジョエル様に訊ねた。
「ジョエル様……! 今夜は……私たち……」
「ああ。初夜、だな」
「!」
やっぱり分かってくれてはいたのね!
そう喜んだのも束の間────
ジョエル様はポッと顔を赤らめて言った。
「だから、今夜は一晩中、手を繋いで眠る、のだろう?」
「……は、い?」
ピシッ
私は笑顔のまま固まる。
「ずっと手を繋いで隣で眠る…………緊張するな」
(ちょっ……え? これ頬を赤らめるところ!?)
「……て、手ですか?」
「手だ」
ジョエル様は大真面目な顔でギュッと私の手を握った。
(う、う、嘘でしょうーーーー!?)
「あ、あの? ……ジョエル様? だ、誰があなたにいったいそんな(大嘘な)話、を?」
これはエドゥアルト様? お義母様? どっちなの!?
「?」
ジョエル様は不思議そうに首を傾げて言った。
「父上だが?」
「ちっ……」
ここでまさかのお義父様の登場に私は目を剥いた。
(今度はお義父様!? ギルモア侯爵家の教育はどうなってるのーーーー!?)
───実はこの初夜の作法の話は、子どもの頃のジョエル様がお義父様に、
「初夜とは何をするのか?」
と大真面目に訊ねたので、まだ上手く説明出来ず誤魔化すためにでっちあげた話───
そう発覚するのだけど……
こうして私、セアラ・ワイアット改め、新婚ホヤホヤ、セアラ・ギルモアは、
不器用な夫に振り回されながらも楽しくて刺激的で幸せな毎日がこれからも続いていく────……
❋❋❋❋❋❋
番外編、お読み下さりありがとうございました。
こちら、完結してから思いがけず皆様からたくさんのあたたかいコメントを頂き……
多くの方がポンコツな二人を応援してくれていたのだな、と嬉しくなりました。
本当にありがとうございます。
嬉しかったので、ちょっとだけ続きを書きました!
そして……お待たせしました!
リクエストが多かったジョエル父母の話を開始します!
この番外編と一緒にアップしました。
『誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら』
話そのものは何の捻りもないテンプレ婚約破棄物語です。
また、勿体ぶるのもあれなので、
一話目に踏みつけた時の話を持って来ています。
気になる方は、どうぞもう一つのボンコツ物語、父母馴れ初め話にもお付き合いください。
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