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33. 家族の訪問

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(そんな呑気にお茶を飲んでる場合じゃないと思うわーーーー!?)

「ジョエル様!  本当に、ふ、踏んだんですか?」

 さすがにこの話は聞かずにはいられなかった。
 ドキドキしながら返事を待っていると、ジョエル様は少し考えてからポツリと言った。

「───邪魔だった」
「……!」

(そのまんま!)

 とりあえず、邪魔だったことは本当らしい。
 いつかの“消す”発言といいジョエル様はどこまで本気なのかしらと思う。

 ジョエル様のその言葉を聞いたエドゥアルト様はうんうんと頷きながら言った。

「確か……その時の僕はジョエルを含んだ数人の子息の前で金持ち自慢をしていたんだ」

(か、金持ち自慢……)

「他の人たちは僕のことを憧れの目で見つめてくれたのに……ジョエルだけは……」
「無関心でした?」

 苦笑するエドゥアルト様。
 どうやら正解らしい。

「その反応が悔しくて悔しくて僕は、ジョエルにまとわりついたんだ───とにかく“凄い”とその口から言わせたくて。でも……」
「ジョエル様の口から飛び出した言葉は、凄い……ではなく邪魔だ……?」
「そういうこと」

 エドゥアルト様曰く、同時に踏まれてそこで目が覚めたのだという。

「あの時、ジョエルに踏まれていなかったら今の僕はいないだろう……」
「そ、そこまで!?」

 エドゥアルト様は踏まれたことで人生変わってしまったらしい。
 別の意味でも心配になる。
 でも……

(傲慢な性格だったと自分で言っていたからで目が覚めたのはいいこと、よね?)

 そんなことを考えていたらエドゥアルト様は笑顔で椅子から立ち上がった。

「───さて、報告も終えたし、そろそろ僕は帰るかな」
「あ……」
「これ以上、ジョエルの婚約者とのデー……茶の時間を潰したら後が怖いからね───じゃあ、ジョエル、また来るよ」
「……エ、エドゥアルト様!」

 私は部屋を出ようとするエドゥアルト様に後ろから声をかける。
 エドゥアルト様はゆっくり振り返った。

「セアラ嬢?」
「……あ、ありがとうございました」

 エドゥアルト様がいなかったら今頃、私には酷い悪評が立っていたかもしれない。

「エドゥアルト!」

 そんな私の横に、いつの間にか立ち上がっていたジョエル様が並んでいた。

(い、いつの間に!?)

 エドゥアルト様も少し驚いた様子で目を見張る。

「あれ?  ジョエル?  見送りなんて珍し……」
「………………ありがとう」
「!」

 ジョエル様が、口にした“ありがとう”という言葉に、大きく目を見開いたエドゥアルト様。

「───ジョエル!」
「……」
「ハハハ!  ジョエルが僕にお礼を言う日が来るなんて……」

 エドゥアルト様は、その後とっても嬉しそうに手を振って帰って行った。


 そんな微笑ましい二人の様子にほっこりしていた私はジョエル様に訊ねる。

「───素敵な友情ですね?」
「……」

 ジョエル様は私のその言葉に答えてくれなかった。
 けれど、無表情のはずのその顔はなんとなく照れている……そんな気がした。


─────


 その後、少々長くなった休憩を終え戻った私は、侯爵夫人にお姉様のパーティーでの様子の話をした。
 すると、オーホホッホホーと華麗に高笑いしながら夫人は私に言った。

「つまり───シビルさんは、自ら墓穴掘ってしまったのね?」 
「そうなりますね……」
「周りをチョロいと思って強気に出て大失敗だなんて。それも散々だったようね……人を陥れよようとするからよ」

 夫人はそう吐き捨てた。
 そして、じっと私を見つめて訊ねる。

「さて、セアラさん?  こうなったらあなたのお姉さんは今後どう出てくるかしら?」
「……」

 そんなの一つしかない。

「社交界に噂を広めることは諦めて……もう直接ここに来ると思います」
「目的は?」
「───元に戻る……再び自分がジョエル様の婚約者になるため……です」

 私がそう答えたら、侯爵夫人はやれやれと肩を竦めた。

「……せいぜい茶番劇くらいは楽しませて貰えるといいのだけど」
「……」



 そんな話をした数日後。
 ワイアット伯爵家から訪問の連絡が届いた。



(慰謝料請求に関しては返答せずにただただ訪問の連絡だけを寄越してきた……)

 これは、そんな金額払えない! 
 ではなく、
 だって、払う必要ないからね!  
 と言っているのかもしれない。

「……」


 そんなワイアット伯爵家の面々が指定した訪問日。


 私は鏡を見つめながら深呼吸をする。
 正直、気が重い。

(でも、大丈夫。私は一人じゃない)

 私は手に持っていたジョエル様から買ってもらった髪留めを髪につけた。



「セアラ!」

 着替えと髪セットを済ませた私が応接室に姿を見せると、ジョエル様が驚いた声を上げる。
 その目線は髪留めにある。
 私は小さく微笑んだ。

「……何にも負けない勇気が欲しくて」
「セアラ……」
「ドレスもこの髪留めに合うような色とデザインのドレスにしました」  

 これまでの私と違って今は全体的に華やかな装い。

「……」

 ジョエル様が手を伸ばしてそっと髪留めに触れる。

「どうですか?  似合っていますか?」
「……っ!  にっ…………」
「可愛いでもいいですよ?」    
「かっ!?」

 ちょっといたずら半分の笑顔でそう言ってみたらジョエル様の頬が赤く染まった気がした。

「ジョエル様?」
「……」
「ジョエル様ーー?」
「…………っっ」

 パっッと顔を逸らしたジョエル様は、とても小さな声で“可愛い”と言ってくれた。




 その後、ギルモア侯爵家にやって来た、ワイアット伯爵家の面々。

(お父様とお母様は苦々しい表情ね……お姉様は───……)

「セアラ~~」
「!」

 応接室に通し挨拶もそこそこにお姉様が飛び出して来て私をギュッと抱きしめた。

「私、私ね?  本当にどうかしていたみたい……」
「!」

 そして思った通りの言葉が飛び出してお姉様得意の泣き真似が始まった。

(よーし!  今こそ侯爵夫人との特訓の成果を見せる時!)

 お姉様に抱きつかれている私は、お姉様に顔を見られていないのをいいことにギルモア侯爵家の面々と目を合わせる。 

 ───演ります!

 お姉様に気持ちよく本性をあらわしてもらうために頑張るわ!

「お、お姉様……」

(よし!  い、いい感じに戸惑いの声を出せた気がする……!)

 本当はお姉様ごとひっぺ剥がしたいけど……今は我慢!
 そんなお姉様は私をキツく抱きしめながら涙を流す。

「うぅ……ごめんなさいね、セアラ……私がもっとマイルズ様からの誘いを強く拒めてさえいれば……」
「お、お姉様は悪くないわ!  悪いのはマイルズ様よ!」

(あ、今のはちょっとわざとらしかったかな?)

 演技は難しい。
 でも、私がそう口にした瞬間、お姉様の身体が震えた。
 顔は見えなかったけれど、なんとなく嬉しそうに笑っている気がした。

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