【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが

Rohdea

文字の大きさ
上 下
23 / 43

23. 駆け落ち失敗?

しおりを挟む


(すごい顔……)

「ジョエル様……」
「……」
「ギ、ギュッとしますか?」
「……!」

(恥ずかしいことに変わりはないけれど……)

 そう思って声をかけた。
 すると、ジョエル様はこちらに顔を向けると、じっと私の目を見つめてくる。
 そしてフルフルと首を横に振った。

「……大丈夫だ」
「え!?」

 帰りの今も乗り込む前からすごい顔をしているのに!? 

「……いつまでも苦手などとは言っていられない」
「その通りかもしれないですが急に何故ですか?」
「……」

 私が聞き返すとジョエル様は少し沈黙したあと、ポソッと口を開く。

「このままでは、セアラが……」
「私?」
「セアラが出かけたい時に共が出来ない」
「え!」

 まさかの言葉に胸がドキンッと大きく跳ねる。

「セアラは、これから街に出て買い物したい……や、観劇に行きたいとか……あるだろう?」
「!」

 つまり、私のことを気遣って?
 でも、それならば。

「それなら護衛をつければジョエル様が一緒ではなく、私だけでも……」
「駄目だ!  セアラを一人で行かせるなんて以ての外!  それに……」
「……それ、に?」

 ジョエル様は下を向く。
 そのせいで表情があまり見えない。

「───俺がセアラのことが心配で気になって手つかずになる!」
「え?  心配、ですか?」
「そうだ!  だ、だから……!」

(ジョエル様……)

 私が心配だから?
 そう思ったらとたんに胸が擽ったくなる。

(もう!)

「…………それなら、無理はしないでください」
「……ああ」
「必要なら……ギュッとしますから!」
「…………ああ」

 ジョエル様は深く深く頷いた。

「……それでは、帰りましょうか?」
「ああ」

 ジョエル様は私をエスコートしたあと、ガチガチの顔で馬車に乗り込んで来た。



✤✤✤✤✤


(────やったわ!)

 馬車の外に出て復旧作業の様子を確認して来た私は、待ちに待った情報を手に入れてマイルズ様の待つ馬車へと戻った。

「戻りました」
「……」
「……チッ」

 いつもなら飛んでくる“おかえり”の言葉がない。
 思わず舌打ちしてしまう。

(でも、この情報を聞けば……)

 マイルズ様の態度も軟化するはずよ!
  
「マイルズ様、いらっしゃいます?」
「……」

 チラッと視線だけ寄越すマイルズ様。

「今日は雨が止んので、復旧作業を急いだところ、明日には片方の道が通れるようになりそうなんですって!」
「……」
「ただ、それがではなく、を戻る方の道路らしいのですけど」
「……」
「なので、先に進むのは難しいみたいなんです」
「……」
「マイルズ様……聞いてますか?」

 相づちすら打たないってどういうこと? 
 何様のつもりよ!

(───あああ、もう!  本っ当に腹が立つ!)

「ねえってば!  マイルズ様!」

 イラッとした私は声のボリュームを大きくし、怒鳴るような口調でマイルズ様の名前を呼ぶ。
 それでも答えない。
 冷たい目で私を見つめるだけ。

「……」
「マイルズ様ったら!!」

 昨日から必死に私が話しかけているのに、マイルズ様は全く答えてくれなくなった。
 さっきの話すら反応無しってどういうこと?
 ようやく、ここを脱けだせそうになったという話なのよ?

(……チッ)

 ギリギリ唇を強く噛み締めながら私は思う。
 絶対、間違えた。
 この駆け落ち失敗だったわ……
 こんな男だと最初から分かっていたなら……セアラから奪ってやろうなんて考えなかったのに!

(誤算も誤算!  最低!)

 その時、脳裏に浮かんだのは私が必死に話しかけているのに五語しか話してくれなかった婚約者の姿。
 無視されるより五語の方が全然マシじゃないの!
 それに……

(向こうの方が身分の高い侯爵令息。そしてなにより顔がいい……)

 そこでふと思い出す。
 今日は確か、エドゥアルト・コックス……
 コックス公爵家の令息の誕生日パーティーとやらがあるのではなかった?
 確か、コックス公爵令息は友人だからパートナーとしてパーティーに参加して欲しいって言って……

(あああ、もう!)

 私は頭を抱える。
 それなら、こんな男と駆け落ちなんかしないで、あの無愛想男のエスコートを我慢して受けていれば!
 公爵家のパーティーに参加していた方が、セアラに自慢出来たんじゃないかしら?
 だって伯爵家の交流関係なんてたかがしれているし。

(そして、あわよくば新しい出会いの可能性だってあったかもしれないのに!)

「……」

 チラッと私はマイルズ様を見る。
 彼はもう全く私のことを見ようともしない。
 窓の外ばかり見ている。
 つられて私も窓の外を見た。

 今日の天気は持ちそうね。
 昨日みたいな嵐は本当に勘弁よ!

(そして明日になれば……)


 ───やっとこんな苦痛の時間ともおさらばよ!

 復旧するのは元来た道側のみ。
 つまり、私たちは引き返すことになる。

(まずはお父様とお母様に謝って……)

 セアラは───……

(きっと落ち込んでいるはず……ふふっ)

「あーあ……駆け落ち失敗ね」
 私はマイルズ様に聞こえないくらいの小さな声でそう呟いた。

(でも、きっと今ならまだ大丈夫────……)


 セアラは今頃どうしているかしら?
 私が戻って来たら、どんな顔をするかしらねぇ。
 ふふ、色々ごめんなさいね、セアラ。  

(でも、安心して?)

 こんな男マイルズ様はあなたに返してあげるから────



✤✤✤✤✤



「着きましたよ?  ───ジョエル様!  大丈夫ですか?」
「……」

 コクリ。
 ジョエル様は青い顔で頷く。

「全然、大丈夫そうな顔色ではありませんが……生きていてくれて良かったです」
「…………くっ、長い道のりだった」
「……」

(いえ、めちゃくちゃ近いですからね!?)

 そう思ったけれど、苦痛の時間というのは長く感じるものだから仕方がない。



 そうして、無事に馬車を耐え抜いたジョエル様と共に、侯爵様と夫人の元に挨拶に向かう。

「戻りました」
「ジョエル、セアラ嬢!  パーティーはどうだった?」

(ジョエル様が用意したエドゥアルト様の“変装”のせいで笑いを堪えるのが大変でした……)

 とは、さすがに言えない。

「すこく盛り上がりましたよ?」
「そうか。で、その…………コホンッ、大丈夫だったか?」
  
 その質問は、ヒソヒソクスクスの心配だろう。

「ジョエルでも役に立ったかしら?」

 夫人も心配そうな目で私たちを見る。
 私はふふっと笑って答えた。
  
「はい!  ジョエル様のおかげであまり長い間、アレコレ言われずに済みました!」
「あら、そうなのね?」
「はい」
「それは良かったわ。やっぱりジョエルは便利だったでしょう?」
「!」

 その言葉に私は苦笑した。
 室内にはそんなほのぼのした空気が流れる。

 けれど、次に侯爵様が真面目な顔つきになって私に言った。

「……セアラ嬢。土砂災害で通行不能になっていた道のことだが……」
「え?  あ、はい」
「明日、一部だが復旧する見込みが立ったらしい」
「!」

 それは、つまり二人が───

「通れるようになるのは……こちら側に“戻る道”だ」
「戻る……道」

(つまり、お姉様たちは先に進むわけではなくこちらに戻って、くる……?)

 これは、慰謝料請求するチャンスね!

 そう思った。
 だけど、何故かしら?
 何となく嫌な予感もする───……

 私の胸が少しザワついた。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います

ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には 好きな人がいた。 彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが 令嬢はそれで恋に落ちてしまった。 だけど彼は私を利用するだけで 振り向いてはくれない。 ある日、薬の過剰摂取をして 彼から離れようとした令嬢の話。 * 完結保証付き * 3万文字未満 * 暇つぶしにご利用下さい

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

処理中です...