【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが

Rohdea

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17. 助け合いましょう!

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✤✤✤✤✤


 セアラが嘆き悲しんでいることを想像してほくそ笑んでいたら───……


 ビュォォォオ~
 ザァァァーーーー
 ゴオォォ~~ 

(ひっ!)

 グラッ……

「きゃあ!」

 今日の雨風は激しくてまるで嵐のよう。
 しかも、どんどん酷くなって来た気がする。
 そのせいなのか馬車が揺れた。

(~~~もう、やだ!  いつになったらこの状態から解放されるの!?)

「ね、ねぇ、マイルズ様──……」

 あまりの怖さに私は涙目で震えながらマイルズ様に向かって“抱きしめて欲しい”と期待を込めて手を伸ばす。

「うっわ。めちゃくちゃすごいな……これじゃ復旧の見込みは全然たちそうにないね」

 スカッ
 マイルズ様は窓の外を見るためにと席の端によってしまった為、私の伸ばした両手は虚しく宙を舞う。

「……」

(は?  なんで私がこんなに怖がっているのに抱きしめることも無ければ、慰めの言葉一つも言わないわけ?)

 ここは優しく私を抱きしめて、
 ───心配ないよ。安心して?  君のことは僕が守るから……
 って甘く囁いて頭を撫でる所でしょう?

(この間までのマイルズ様なら絶対にそうしてくれたのに!)

 ここに閉じ込められてからどんどん険悪な雰囲気が漂って来て、今は私じゃなくて窓の外ばっかり見ている。

(おかしい……本当におかしい。こんな薄情な人だったの?)

 セアラといる時のマイルズ様はもっとまめまめしくて優しく見えたし、頼りがいもあるように見えていた。
 あれはなんだったの?  幻?
 これなら、私が捨てたあの無愛想だった婚約者ジョエル様と何も変わらなくない?
 しかも……

(顔だけなら圧倒的にジョエル様あっちの方が……悔しいけどいい男よ)

 これじゃ私はいったい何のためにマイルズ様を誘惑したのか分からないじゃない!
 ギリッと唇を噛み締める。

(セアラ……)

 “私より先に結婚するなんて”
 最初は、ただただ幸せそうなセアラが憎かった。
 何度も何度も思いとどまるように釘を指したのに……

(それなら、ちょ~っとだけ二人の間にヒビを入れられたらいいなぁって思ったのよ)

 ジョエル様……婚約者に冷たくされていて辛いのって泣きついたら優しく慰めてくれたわ。
 最初は軽い気持ちだった。
 でも、だんだんマイルズ様こそ私の運命の人だったって思えたのに……
 けれど、マイルズ様はセアラの婚約者で結婚式の予定も決まっていた。
 私たちは許されぬ恋……

 だから思い切って決断したのに────!

「……ねぇ、マイルズ様。私、お腹が空いたわ?」
「シビル嬢。君はそう言って今朝も僕の食料を漁っていなかった?」

 マイルズ様がじとっとした目で私を見る。

(な、何よ……その目!)

 私はムッとして反論した。

「だって、私よりマイルズ様が持ち出した荷物の方が多いじゃない!」

 決行の日。
 最初から、両親と完全に別行動取ることになっていたマイルズ様とどうにか両親を欺いて家を出た私とじゃ荷物の量が全然違うのに!

(なにより、私のことを愛しているなら……)

「……だからって僕の荷物ばっかり頼りにするのはどうかと思うけどね」
「そ、そんな!」

 マイルズ様はまた深いため息を吐いた。

「シビル嬢……君って口うるさいだけじゃなくて、こんなに怒りっぽい人でもあったんだね?」
「なっ!?」

 その言葉に私はさらにカッとなる。
 だから!
 なんで?  どうして私がそんな目で見られなくちゃいけないの?

 最初、馬車がどちらの方向にも動けなくなったと分かって、ショックを受けた私に言ってくれていた、
 ───大丈夫!  二人で協力すれば乗り越えられるさ!

 あの頼もしい言葉と笑顔はなんだったの?

「~~~マイルズ様っっ!」
「ああ、ほらまた、そうやってすぐに怒鳴るんだね」
「そ、それはあなたが頼りないから!」

 ピクッ 
 その言葉にマイルズ様の眉が反応した。
 そして怪訝そうな目で私を見る。

「……シビル嬢。僕は君のことを信じてよかったのかな?」
「え?」
「おじい様とおばあ様の元に行けばなんとかなる!  そう言っていたけど本当?」
「もちろんよ!」

 だって私は、セアラと違ってすごくすごく可愛がられているもの!
 これまで私のお願いを聞いてくれなかったことはないのよ?

「……本当なのかな……」
「───マイルズ様!」

 それっきりマイルズ様は黙り込んでしまった。 
 普通に声をかけても無視。
 笑顔で話しかけても無視。

(なんで?  どうして?)

 荒れる空模様と一緒に、私の苛立ちもどんどん強くなっていった。



✤✤✤✤✤



「───そういう訳だから、あの者たちの“駆け落ちごっこ”は案外早く終わるかもしれん」
「侯爵様……」 

(駆け落ち“ごっこ”……)

 侯爵様はそう切り捨てると私の顔を見た。

「セアラ嬢。君に伝えたあの件について予定より早く進めようと思うが問題はないか?」
「は、はい!  よろしくお願いします」

 私は侯爵様に頭を下げた。
 ジョエル様にもギルモア侯爵家の皆様にも……私は本当に助けられている。

(私もそれぞれへの慰謝料請求の準備を進めなくちゃ……!)

 そう思っていると、ガチャッと部屋の扉が開いてジョエル様が戻って来た。

(あ、顔色は元に戻っている!)

「あら、ジョエル。おかえりなさい。ちゃんと身体は温まった?」
「……」

 侯爵夫人の確認に無表情で頷き返すジョエル様。

「その顔。どうやら、体温も元に戻っているようね」
「やはり風呂に入ったことで目が覚めたか」

 ウンウンと頷く侯爵様。
 ……そういう問題かな?  とは思ったけれどジョエル様の心が落ち着いたならそれでいい。

 私はジョエル様の元に近付いてから声をかける。

「ジョエル様!」
「セッ!」

(……ん?)

 ジョエル様はコホンッと軽く咳払いをする。
 そして気を取り直したように私の名前を呼んでくれた。

「セ、セアラ!」
「はい!」
「……」
「セアラ……」
「はい、ジョエル様?」

 ザーーー!
 ドバァーーーーー!

 相変わらず、外は大嵐だけど私たちの間には、ほんわかした空気が流れる。

「タオル……」
「え?」

 一瞬、なんのことかと思って首を傾げたけれど、さっき私が取りに行ったタオルのことだと分かった。

「タオルがどうかしましたか?」
「……」
「ジョエル様?」

 もしかして、ゴシゴシ拭いたのが嫌だった?
 でも、あのまま放置して風邪をひかれる方が嫌だし……

「……っ」

 ジョエル様はグッと息を呑んだあと、数回ほど深呼吸してから口を開く。

「ありが……とう」
「え……?」
「俺は……ああいう細かい所に気が利かないから助かった」
「ジョエル様……」

 こんな風にお礼を言われるなんて思わなかったので驚いた。

(嬉しい!)

 頬を緩ませて私は微笑みながら言った。

「それなら!  ジョエル様が不得意なことは私が助けます」
「え……?」
「ですから、ジョエル様は私が不得意なことにぶつかった時は助けてください」
「!」

 ジョエル様の目が大きく見開く。
 あらら?  ちょっと表情が崩れた?

「俺がセアラ、を助ける?」
「そうです。今はまだ私たちは婚約者同士ですけど───ふ、夫婦ってそういうものだと思うんです」
「……ふ!」

 クワッとジョエル様の目が更に大きく見開いた。

(っっ……なんでかな……?)

 自分で口にしておきながら恥ずかしくなってきた。

「と、とにかく───苦手なことは助け合いましょう!」
「───っ!」

 ジョエル様が何かを言いかける。
 そして、その顔は何だか嬉しそう───?

(あ!  これはまさか……)

「……ジョエル様?」

 あることに思い至った私はじとっとした目でジョエル様を見る。

「なんだ?」
「助け合う……とは言いましたが、あなたの苦手なピーマンを代わりには食べませんよ?」
「……!!」

 私がそう言ったらジョエル様の表情が崩れて、“絶望”の表情になった。

(──やっぱりだわ!)

 私がそう確信した所で、横から侯爵夫人が声をかけてきた。

「ジョエル、セアラさん……あなたたち」
「母上?」
「どうして?  どうしてそっちにいっちゃうのよ!」
「?」

(いったい何の話……?)

 ジョエル様も首を捻っている。

「……まあ、いいわ。ゆっくり見守るのも楽しいから。それよりジョエル。明日、あなたはどうするつもり?」
「明日?」

 夫人が笑顔でピシッと固まる。

「……あなた、明日。友人の誕生日パーティーに呼ばれていたわよね?」
「……」

(ゆ、友人ですって!?)

 い、居たの……?
 ついつい、そんな失礼なことを考えてしまった。

(そうよね……いくらジョエル様でも、大事な友人の一人や二人くらい───……)

「……───忘れてた」 

(え!)

 ジョエル様は淡々とした表情でそう一言だけ口にした。

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