28 / 35
第28話 王妃の罪
しおりを挟む私がそう呼びかけるとビクッとお義母様は肩を震わせた。
(やっぱり様子が変だわ)
「───だ、だから何の話よっ!」
「……」
目線を逸らしたまま怒鳴るお義母様。
……この人は絶対に何かを隠している。
“それ”が何かは分からないけれど私はそれを知らなくてはいけない。
不思議とそう思った。
グッと拳を強く握りしめて訊ねる。
「あなたは、本当は私に何かしらの力があることだけは知っていたんじゃないですか?」
「だ、だから! な、何を言っているのよ! 私が知っているはずがないでしょう? だ、だから今、こうしてびっくり……驚いているじゃない!」
「……」
そう言って驚いた顔を見せるお義母様。
(だけど──)
…………本当にそうかしら?
だって、この人だけは反応が他の三人と違った。
私に力があったことに驚いていたのではなく、私の“力の内容そのもの”に驚いていたように見えた。
「お義母様! あなたはいったい何を隠しているのですか? どうして私自身も知らなかった事を──」
「なっ、何も隠してなどいないわ! 言いがかりは止めてちょうだい!」
(駄目ね、これはすんなり喋ってくれる気がしないわ)
あまりこういう事はしたくなかったけれど……
そう思いながら私は真っ直ぐお義母様の目を見つめた。
「そこまで仰るなら仕方がありません……今、私の持っていた力がどんなものかは聞きましたよね?」
「は?」
私はフッと鼻で笑う。
「今、ここで私が“お願い”をしたら、あなたは隠していることを全て洗いざらい喋ってくれるのでしょうか」
「……え? す、全てを?」
お義母様の顔色がサーッと変わる。
もちろん、これは完全にハッタリで実際に願ってもそんな事はさせられない。
だけど、脅しとしてなら効果はあるはずよ。
「嘘を言わないで」
「嘘ではありません。だってそれが私の“力”ですから」
私がそこまで言った時、お義母様が頭を抱えて叫び出した。
「……っ! や、止めてよ! わ、私はあの女……ロディナが最期に言っていたのを聞いただけよ! ク、クローディア、あなたはこの国にとって重要な子だからと!」
「……」
「さ、最期の時よ? そ、そんな時にそこまで言うのだから、きっと何か本当に力を持っていると思うのが普通でしょう!? 私はその言葉を信じていただけよ!」
「……」
この言葉に嘘が無いのならお母様の言った私が国にとって“重要な子”というのは、もう一つの力の事を言っているのかもしれない。
だけど……
(それよりも今、私が気になるのは───)
「……いつ、お母様と話をしたのですか?」
「え? だからロディナの最期の時よ……その頃のあなたは公爵家に居たから知らないでしょうけど!」
「……」
確かにお母様が最期を迎えたあの時、私はお母様の指示で王宮から離れてお祖父様の所にいた。
「ですが今、お母様の最期に……とあなたは仰いましたが、お母様は倒れてからまず最初に言葉が発せなくなったのですが? 本当にお母様と“会話”をしたのですか? 筆談ではなく?」
「え? 嘘っ、しまっ……!」
お義母様が慌てて口元を押さえる。
その表情は焦っていた。
「そもそも、あなたは一度もお見舞いにすら来ていなかったと私は記憶しています。なので、その会話をお母様と本当にしたのなら、別の時ですよね? 何故、嘘をつく必要があるのでしょうか?」
「……っっ」
また、目線が泳いでいる。
私は更に念を押す。
「本当はいつなのですか?」
「……」
また、黙りになってしまった。
「クローディア、ちょっといいかな?」
「ベルナルド様?」
それまで黙って話を聞いてくれていたベルナルド様が口を挟む。
「アピリンツ国やクローディアのことを調べている内に分かったんだけど、クローディアの母君、公には病死と発表されているけど、本当は違うと思うんだ」
「え? 違う? どういうことですか?」
「……」
驚いた私が聞き返すと、ベルナルド様は悲しい顔をした。
そして私を抱きしめる腕にグッと力を入れた。
(……あ)
その時、お姉様からジロリと睨まれた気がするけれど見なかった事にする。
「うん……今、クローディアが言った、母君が倒れた後は最初に言葉が発せなくなった、と言うのを聞いてその疑いは強まった」
「……?」
ベルナルド様の手が震えている?
「クローディア。これは、我が国が長年頭を悩ませている問題の一つでもある闇ルートで販売されているある“毒薬”を飲んだ時の症状によく似ているんだ」
「え?」
(──毒薬ですって!?)
ベルナルド様の言葉を聞いてから、私はお義母様の方に視線を向ける。
お義母様はますます青ざめていてブルブルと身体を震わせていた。
(───この反応! まさか、まさか、まさかっ!!)
「まさか、あなたがお母様にその毒薬を……?」
そう口にした私の声も震えていた。
なんということ。
お母様の死は病気ではなかった!?
───まさか、殺されていたというの?
(嘘でしょう!? そんな事が……)
「……アピリンツ国王」
「な……なんだ」
動揺で身体が震え出す私をベルナルド様は優しく抱きしめてくれる。
そして、ここでベルナルド様はお父様に声をかけた。
「アピリンツ国の王妃の身体検査と荷物検査をしてもらいたい」
「は? な、なぜだ?」
お父様が不思議そうに聞き返す。
「……最近、摘発出来た毒薬の闇ルートの一つなんですが、直近でアピリンツ国と毒薬販売のやり取りした記録があるんですよ」
「な、に!?」
「それも随分、高貴な方に買って貰ったと供述しているようでね」
「っ!!」
一斉に疑惑の目がお義母様へと向けられる。
「マデリン……まさか、それはお前が……?」
「ち、違っ……私では……!」
お義母様は一生懸命否定するけれど、それが逆に嘘くさく感じる。
「違うなら何も問題ないだろう? なので検査を求める」
淡々とそう口にしたベルナルド様の声はその場にとてもよく響いた。
お義母様はますます顔を青くして身体を震わせていた。
そして、私はベルナルド様に支えられてどうにかその場に立っていた。
────
「アピリンツ国の王妃、マデリン。これが何なのか説明してもらおうか?」
「……」
身体検査の結果、お義母様のドレスの中から、まさにベルナルド様が言っていた毒薬と思われる物の小瓶が見つかった。
急いで鑑識に回しているけれど、例の毒薬に間違いないだろうと言う。
「今度は誰を狙おうとしましたか? まさか、私の可愛い可愛いクローディアではありませんよね?」
「……っ!」
図星をさされて言葉を失うお義母様。
そんなお義母様を残りの三人も唖然とした様子で見ている。
「───そんなのクローディアに決まっているでしょう? 憎い女、ロディナの娘なんだから」
「!」
「目障りなクローディアの“何らかの力”を警戒しつつも、どうにかロディナを消せたのに……何故、今回は発覚してしまったのよ」
「お、お義母様……あなたは」
私がそう呼びかけると、お義母様は観念したかのように笑い出した。
「ふふ、そうよ、クローディア。ロディナのあの言葉は嘘ではなく、本当に聞いた言葉だったけれど、確かに話したのは最期の時ではなかったわね」
「……!」
「正解は毒を服用させたすぐ後よ。あの目障り女、ロディナは勘だけは良かったのか飲んだ直後にあの言葉を言ったのよ!」
アハハハと狂ったように笑い出すお義母様。
「今度こそ昔と違って自分は死ぬって分かっていたのでしょうね、ふふ、はは!」
───昔と違って?
その言葉が私の胸に引っかかった。
お義母はそんな私の動揺を感じ取り鼻で笑う。
「……あら? ふふ、あなたって本当に何も知らないし、覚えてもいないのね?」
「え?」
「もっと昔。あなたがかなり小さかった頃、最初に私がロディナの暗殺を企んだ時よ、あの女の命を救ったのはやっぱりお前だったんでしょう? クローディア?」
「……!?」
(───どういうことなの? 私がお母様を救った?)
全く身に覚えのない話に私は驚き固まった。
236
お気に入りに追加
9,304
あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

公爵令息様を治療したらいつの間にか溺愛されていました
Karamimi
恋愛
マーケッヒ王国は魔法大国。そんなマーケッヒ王国の伯爵令嬢セリーナは、14歳という若さで、治癒師として働いている。それもこれも莫大な借金を返済し、幼い弟妹に十分な教育を受けさせるためだ。
そんなセリーナの元を訪ねて来たのはなんと、貴族界でも3本の指に入る程の大貴族、ファーレソン公爵だ。話を聞けば、15歳になる息子、ルークがずっと難病に苦しんでおり、どんなに優秀な治癒師に診てもらっても、一向に良くならないらしい。
それどころか、どんどん悪化していくとの事。そんな中、セリーナの評判を聞きつけ、藁をもすがる思いでセリーナの元にやって来たとの事。
必死に頼み込む公爵を見て、出来る事はやってみよう、そう思ったセリーナは、早速公爵家で治療を始めるのだが…
正義感が強く努力家のセリーナと、病気のせいで心が歪んでしまった公爵令息ルークの恋のお話です。

氷の貴婦人
羊
恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。
呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。
感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。
毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる