【完結】出来損ないと罵られ続けた“無能な姫”は、姉の代わりに嫁ぐ事になりましたが幸せです ~あなた達の後悔なんて知りません~

Rohdea

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第26話 勢揃い

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「……」
「クローディア……」
「ベル……あ!」

 ベルナルド様との何度目かの口付けを終えた後、馬車が止まった。

「着いたみたいだ、残念、もっとこうしていたかったな」
「……私もです」
「ははは、続きはまた後でね?  クローディア」
「はい!」

 笑顔で返事をした私はそっとベルナルド様から離れてヴェールを被り直し、馬車を降りる為の準備を始める。

「大丈夫?  クローディア」
「はい、今行きます」

 そして、先に馬車から降りたベルナルド様が私に向かってエスコートの手を差し出し私が手を伸ばした、その時だった。



「……これは、どういうことなんだ!?  何故入れんのだ!」
「お父様。だから、わたくしがそう言ったでしょう?」

 バンッ、バシンッという音と共に聞き覚えのある声が私の耳に届いて来た。

(お父様と……お姉様の声だわ)

「私はアピリンツの国王だぞ!?  こんな仕打ちが許されるとでも思っているのか!?  おい、ブルーム!  これはどういうことなのか説明しろ!」
「……ですから父上、何度も言っているようにこれは私にも……」
「もう、信じられないわ!  何で私まで入れないのよ!」

(お兄様とお義母様の声もする…………これで勢揃いね)

 そして、やはり……と言うべきか。
 お姉様とお兄様はもちろんのこと、やはり全員がファーレンハイト国に立ち入る事が出来ないでいるのが馬車の中ここにいても分かった。

「……見苦しい程、揉めているなぁ」
「そうですね……」

 私は彼らを冷ややかな目で見つめる。
 あの人たちは気付いているのかしら?
 今、自分たちがどれだけ注目を集めていて、周りにどんな目で見られているのかを。

(お付きの護衛たちも呆れた様子で見ているじゃないの )

 もはや、ため息しか出なかった。

「クローディア」
「ベルナルド様?」

 ベルナルド様がキュッと優しく私の手を握ってくれる。
 その温もりが何だか心強い。

「色々思うことはあるだろうけど、今は決着をつける時だ」
「……決着」
「長い間、クローディアを蔑ろにし続けたことは決して許される事じゃない。彼らにはしっかり報いを受けてもらう」
「ベルナルド様……」

 ベルナルド様の真剣な瞳に吸い寄せられそうになる。

「それに、クローディアのことは抜きにしてもファーレンハイトの国王として、アピリンツ国の王族のここまでの振る舞いはもう黙っていられない」
「……はい、そうですよね」

 私も頷いた。
 そしてしっかり手を握り、馬車から降りた私とベルナルド様は彼らの元に向かった。



「ブルーム!  この役立たずが!!  それなら、お前の“守護”の力は何の為にある!?」

 自分だって天候の制御がまともに出来なくなっているくせに、それを棚に上げて偉そうな発言をしているお父様。
 そんなお父様に向かってベルナルド様が声をかける。

「これはこれは、アピリンツ国の王族の皆様、お揃いで。ファーレンハイト国へようこそ」
「「「「!!」」」」

 全員が一斉にこちらに振り返る。

「何やら騒がしい様子なのでこちらから出向いてしまいましたよ。こんな所での挨拶となりますが……改めまして、亡き前国王ローランドに代わり、新たにファーレンハイトの国王となりました、ベルナルドです」

 ベルナルド様の登場にそれまで騒いでいたお父様たちもようやく静かになる。
 私はベルナルド様の隣で黙って彼らの様子をヴェール越しに見ていた。

(……お姉様のあの顔。完全にベルナルド様に見惚れているわ)

 ベルナルド様は誰が見ても素敵な人だから、気持ちは分かるけれど絶対に彼は渡さないわ!

「こ、これはこれは……私はアピリンツ国王、ゲイリーだ。それから、王妃マデリンと王太子のブルームに王女のナターシャ……」

 お父様は皆を紹介していく。
 ベルナルド様はにっこり笑った。

「まさか、一家総出で訪ねて来られるとは驚きましたよ。それほどまでに我が妃のクローディアに皆で会いたかったのですか?」
「!」
「っ!」
「……」
「……っ」

 ベルナルド様がクローディアの名前を出すと、皆それぞれ違った反応をした。
 そんな中、笑顔を崩さないベルナルド様に最初に食い付いたのはお父様だった。

「ベルナルド陛下……その、あなたは我が娘のクローディアとの正式な婚姻はまだのはず。なのに……き、妃と呼ぶのはまだ早」
「前陛下の喪が明けるまで確かに婚姻は保留となっているが、クローディアはもう私の妃も同然なのでこう言っている。何か問題でも?」
「き、妃同然ですって……!」

 ベルナルド様のその言葉には皆、驚いたようだけれど、その中で最も分かりやすい反応をしていたのはお姉様だった。

(凄い顔……それに身体もプルプル震えている)

 お姉様の表情は、声を発さずとも  “クローディアが妃だなんて有り得ない” と言っている。

「と、ところで陛下?  そうは言いますも、クローディアの姿が見えないようですが……?  クローディアは一体何処に?  まさか、ここには連れて来ていないのでしょうか?」

 お父様がベルナルド様の周りをキョロキョロと見回しながら不審そうに訊ねる。

(──え?)
  
 私はその言葉に驚いた。

「それに──隣に連れている女性はどなたでいらっしゃる……?  漂う雰囲気からは高貴な女性とお見受け致しますが……コホンッ……なぜこの場に?」

 お父様のその様子は、貴様が来いと言うから来てやったのに女連れとはどういう事だ!  と言いたいのが透けて見えるようだった。

「……」

 私は静かに息を吐く。

(あぁ、そうなのね……お父様には本当に分からないのね?)

 確かに今の私はヴェールを被っている。
 だから、顔の見えない謎の女。

(でも、あの日、私にヴェールを被るように命じたのはお父様でしょうに)

 そして、ベルナルド様ははっきりとクローディアのことを妃同然だと口にした。
 それのに、今、彼の隣にいる女性を見ても私と結び付けることすら出来ない。
 ────それは、きっと私がベルナルド様に愛される存在だなんて微塵も思ってもいないから。

 グッと拳を握る。

(本当にこの人たちにとって私ってどうでもいい存在だったのね?)

 そう思った時だった。

「ああ、陛下。ということは、やはりクローディアでは満足出来なかったのですね?  情けない妹で申し訳ございません……」
「ナターシャ!」

 お姉様が突然、嘆き始めた。
 お父様が慌ててお姉様を止めようとするけれど、お姉様が許可なく口を挟んだのは一目瞭然。

「あ……も、申し訳ございません。わたくしがあの子の代わりに謝罪しなくてはとついつい思ってしまい……」
「……構わない。続けろ。クローディアでは満足出来ない?  それはどういう意味だ?」

(……!)

 ベルナルド様がこれまで聞いた事がないくらいの低く冷たい声でお姉様に訊ねる。
 私には分かる。 
 これは明らかに怒っている。
 それはもちろん許可なしに口を挟んだ事より、発言内容に対しての怒り。

「失礼ながら……ベルナルド陛下は妹では満足出来ないから、そちらの女性を共にされているのだとわたくしは思いましたわ」
「……」
「妹、クローディアは我がアピリンツ国の王女として生まれながら、何の力もない“無能な姫”と呼ばれておりました。わたくしはそんな妹のことがいつも可哀想で可哀想で……」

 お姉様がツーと静かに涙を流す。
 本性を知らなければ騙されてしまいそうなくらいの美しい涙。

「ですから……この度は無礼を承知で妹の我儘を叶えてあげたくて、わたくしの代わりに送り出してしまいました……このことを改めて謝罪させて下さいませ」

 お姉様が静かに頭を下げる。

「……」
「ベルナルド陛下のお言葉は、おそらく前国王陛下の為に差し出された花嫁のクローディアを憐れに思い、そのまま妃の座にはつけてあげようという慈悲の心によるものだと推測されます」
「ほう?」
「……ですが、やはり出来損ないのクローディアですもの。陛下の事を満足させられなかった。そういう事ですわよね?」
「……」
「ですが、ご安心ください!  わたくしなら……」

 お姉様は長々と何を言いたいのかしらと思っていたけれど、要するに私に満足出来なくて他の女を侍らかすくらいなら、自分はどうですか?  と言いたいらしい。
  
(なんて厚かましいの?)

「今、傍らにいらっしゃる女性も、残念ながら顔は拝見出来ませんが、陛下が側に置いていらっしゃる方ですもの。気品溢れる素敵な方だとお見受けしますわ!」
「……」
「ですが、陛下!  わたくしも決して負けておりません!  是非わたくしとの事もお考え下さいま──」

 お姉様が自信満々にそこまで言った時、ベルナルド様が大きく笑い出した。

「ははははは!  言いたいことはそれだけか?  ナターシャ王女」
「え?」
「心にもない“可哀想な可哀想な妹姫”を心配する心優しい姉のフリは大変だろうな」
「……え?」
「だがな。その胸糞悪い茶番はもう結構だ」
「…………え?  茶番?」

 お姉様の表情が引き攣り声も上擦る。

「本当に何でお前たちは揃いも揃って分からないんだ?  私の妃はクローディアだけだとさっきからはっきり言っているだろう?」
「ま、まさか……!」

 お姉様の声に他の三人の視線も一斉に謎のヴェールの女……私へと向かう。

「妃だけじゃない。こうして私の隣に堂々と立てる女性も生涯、クローディアだけだ!  私はクローディアを心から愛している!」

 ベルナルド様はそう声を張り上げると私の顔を覆っていたヴェールを皆の前であげた。

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