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第16話 この幸せが続いて欲しいと願う
しおりを挟む器用に私を抱き抱えたまま、寝室のドアを開けたベルナルド様は、そのままベッドの真ん中に私をそっと降ろした。
(や、やっと降ろして貰えたわ)
なんてホッとしたのもつかの間。
「クローディア……」
「ベルナルド……様」
甘く優しい響きで……そして、何より大切そうに私の名前を呼んだベルナルド様が、そのままチュッと私の唇を奪う。
「!」
(ベッドの上でこういう事をするのは……て、照れるわ)
場所が場所なだけに何だかいけないことをしている気持ちになる。
でも、とっても“幸せ”
そうも思う。
しばらく互いに言葉を発さずにお互いを求め合っていたら、ベルナルド様がそっと訊ねてきた。
「……クローディア、ガウン、脱がしてもいい?」
「!」
いい? なんて口ではそう聞いているくせに、既にベルナルド様の手はガウンを脱がしにかかっている。
これはもう脱ぐ以外の選択肢がない。
(恥ずかしい───でも、やっぱりもっと私に悩殺されてほしい!)
そう思った私は覚悟を決めて頷いた。
「……ん」
そうしてガウンは脱がされ、侍女曰く、「陛下はこれでメロメロになるはずです」というラブラブ恋人用の夜着姿だけになった。
ベルナルド様がじっと私を見つめる。
「クローディア……」
そして、見る見るうちにその端正なお顔が真っ赤になっていった。
(え!?)
「あの、ベルナルド様、お顔が……真っ赤っかです」
「知っている…………だってクローディア……なにこれ? 可愛すぎるよ」
「えっと……悩殺、されてくれました?」
私のその言葉にベルナルド様は顔が赤いままフッと笑う。
「悩殺されまくりだよ……」
(やったわ!)
嬉しくて私も微笑む。
「……! 良かったです。こ、これ、ラブラブ恋人用の夜着なんです」
「ラブラブ恋人用?」
「はい! だから、可愛いのも当然で──」
ベルナルド様は人差し指で私の唇を押さえる。
「そうじゃない、クローディア。君が可愛いから、その夜着も可愛いんだよ」
(───ん? どういう意味……?)
私はパチパチと目を瞬かせた。
「クローディア……俺の可愛い可愛いお嫁さん。今の君のその格好が“ラブラブ恋人用”なら、その通りにしないといけないよね」
「え? きゃっ!?」
そう言いながらベルナルド様が私を抱き寄せ優しく包み込む。
「……クローディアはどこもかしこも柔らかい」
「え? ……そ、うですか?」
ベルナルド様はチュッチュッと音を立てながら私の身体に触れていく。
「そうだよ。頬も、唇も……全部甘くて……柔らかい」
“ここ”と言いながら、どんどんその場所に口付けをしていくベルナルド様。
少し、擽ったい。
だけどこれは──……
「……だ、抱きしめるだけって言ったじゃないですか!」
「それは眠る時だよ。眠る前の今は……もう少しクローディアを味わいたい」
「なっ!? それは、へ……」
屁理屈と言うのではありませんか?
私のそんな抗議の声は、優しく唇を塞がれて言葉にならなかった。
「───好きだよ、クローディア。俺は君が大好きだ」
「……!」
私の身体のあちこちを堪能したベルナルド様が、今度は私を押し倒しながら耳元で愛を囁いていく。
(あぁ、もう私の頭の中はトロトロだわ)
「私……もです……んんっ」
「クローディア、君がファーレンハイト国で、幸せだ、ここに来て良かったな、そう思える国となるよう俺はこれから努力していくよ」
「も、もう既に私は幸せですよ?」
ベルナルド様と出会って唯一の味方だったお母様から受けていたのとは違う “愛”を知った。
誰かを愛しいと思う気持ち。
ベルナルド様を幸せにしたいと思う気持ち───……
そう考えた時、ポゥッと私の身体が熱くなった気がした。
「そうかな? でもまだまだ、足りないよ」
「……!」
「これから、もっともっと君を幸せにするよ。俺は欲張りだからね。国も愛する人も全部幸せにしたいんだ」
「ベルナルド様……」
それはベルナルド様らしい考えね、そう思って思わず笑みがこぼれる。
「それなら、私にもそのお手伝いをさせてくれますか?」
「勿論だ。クローディアが一緒に頑張ってくれたら俺も嬉しい」
「……」
胸がキュッとなった。
(なんて嬉しい言葉をくれるのかしら?)
この国での私は、力があっても無くても関係ない。
“出来損ない”とも“無能の姫”と呼ばれない。
一緒に頑張ろうって言ってくれる。
そのことが堪らなく嬉しい。
「……ベルナルド様。あなたはご存知だと思いますが、私の祖国は緑豊かで自然災害も少なく、特殊能力で手厚く守られているような国です」
「うん」
私の周りにいた人たちは、最低な人ばかりだった。
けれど、それでもあの国に暮らしている民はいつも幸せそうだった。
「私はあの国では何の役にも立てませんでした……ですが、この国では皆の幸せの為に頑張りたいです」
「クローディア」
ベルナルド様が私の上に覆い被さったまま、顔を近付けて来る。
そのまま甘くて幸せな口付けが降って来た。
だから、こう願わずにはいられない。
────このまま、この幸せな瞬間が続きますように、と。
そして、ベルナルド様は本当に私を抱きしめて眠ることを一切譲らなかった。
「ほ、本当に……一つのベッドで……ね、眠るのです、か?」
「うん。大丈夫だ、クローディアが俺の妃になる事は決定しているから誰も怒らない」
「問題はそこではないのですが……」
「そう?」
そうして一緒に横になり転がったベッドで後ろからギュッと抱きしめられる。
(こんなのドキドキしすぎて眠れる気がしないわ!)
なんて当初こそ興奮していた私だったけれど、
──すごく温かい。
知らなかったわ、人の温もりってこんなに温かいものだったのね。
なんて、ベルナルド様の温もりを堪能していたら、だんだん眠気に襲われた。
私がウトウトし始めたのを感じ取ったベルナルド様が耳元で優しい声で囁く。
「…………おやすみ、クローディア。よい夢を」
「ベル……ナ……ルド、さま」
そのまま私は眠りに落ちた。
──────
暫くすると、スースーと軽い寝息の音が聞こえて来た。
(どうやらクローディアは眠ったみたいだ)
……良かった。
かなり(俺ががっついたせいで)興奮していたから、眠れなかったらどうしようかと思ったが。
「ああ、クローディアは本当に可愛いな……」
俺はすやすや眠るクローディアの可愛い顔を覗き込む。
「……」
(こんな女性に会ったのは初めてだ)
今まで自分が出会った女性たち──特に身分の高い女性は、笑顔の裏に懸命に隠してはいるが高いプライド、傲慢な性格……そういった内面が滲み出ていたものだけど。
だが、クローディアは違う。
「こんな素直で真っ直ぐで可愛い王女がいるなんて……」
こんないい子を虐げていたアピリンツ国の奴らは何を考えていたのか。
(力が無いから……か)
軽くため息を吐く。
「ファーレンハイトでは必要ないものでも、小国のアピリンツにとっては力の有無が大事な問題なのは分からなくもないが……だからと言って」
あんなにも自分を卑下する程にまで追い詰めるのは絶対におかしい。
間違っているだろう。
(クローディアはずっと一人で耐えて来たんだ)
側妃の娘、クローディア。
その側妃は既に亡くなっている。
きっとその時から彼女は一人だった。
「……っ」
起こさないように気をつけながら、ギュッとクローディアを後ろから抱きしめる。
柔らかい身体、どこか漂う甘い香り。
そして、可愛いデザインながらも悩殺的な格好。
(全く……悩殺されまくりだよ!)
本音は今すぐ手を出したい気持ちを必死に押えて、俺は眠っているクローディアの髪を手に取りそこにキスを落とす。
「クローディア。俺は必ず君を幸せにする。だから、毎日その可愛い笑顔を俺に見せてくれ」
クローディアが隣にいて笑ってくれるだけで俺も嬉しい。幸せだ。
何でもやれる気がしてくる!
「…………だが、アピリンツ国はこのまま大人しくしてくれるだろうか」
父王が亡くなったこと、クローディアをこのまま娶ること……
抗議も入れて送った手紙はもうすぐアピリンツ国に届くだろう。
「……だが、何があっても俺はクローディアを守るだけだ。手放さない」
そう呟いて俺は温かくて柔らかいクローディアを抱きしめながら眠りについた。
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