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第12話 破滅に向かう祖国と新しい居場所となる国
しおりを挟む「も、森が枯れているですって!? あなた達、何のデタラメを……」
「デタラメではありません、ナターシャ様! 本当に……本当に起きているのです」
「……っ」
(嘘よ……そんなの嘘に決まっているわ!)
ナターシャはその話に大きな衝撃を受けていた。
緑を操る力を持ち、これまでその力を使って国を潤して来たナターシャにとって、森が枯れるなんて話は有り得ないし起きてはならない事。
「この現象をどうにかするには、ナターシャ様のお力しかありません!」
「ナターシャ様! どうか我々をこの国をお救い下さい!」
「ナターシャ様!!」
「……っっ!」
どいつもこいつもうるさい!
……と怒鳴りたくなるのをナターシャは必死で耐えた。
そしてどうしてこんな事になったのかを考えたけれど、全く分からない。
(どういう事なのよ……!)
原因も分からないのに、どうにか出来るわけないじゃないの。
なのに、コイツらは揃いも揃ってナターシャ、ナターシャって!
(とりあえず今は、このうるさいヤツらの口を黙らせるのが先決よ)
「皆様、どうか落ち着いて? これは、お父様やお兄様と話をしてから──……」
ナターシャが皆にそう言いかけた時、血相を変えてその場に飛び込んで来る者が現れた。
「た、た、大変だーー! 大変だーー!!」
緊迫したその声に何事かとその場にいた者達が一斉に振り返る。
飛び込んで来た男は真っ青な顔で震えながら言った。
「……ま、魔獣が! 国境付近で魔獣の目撃情報がありました!」
「!」
(な、何ですってぇぇぇ!?)
ナターシャは目を見開いて思わずそう叫びそうになる。
その者が持ち込んだ報せにその場は騒然となった。
そんな中で、誰かがナターシャに向かって叫んだ。
「ナターシャ様! ブルーム様は今どこにいらっしゃいますか!? 魔獣だなんて! ブルーム様の守護の力はどうなってしまったのです!?」
「え、お兄様の今? そんなの、わ、わたくしに言われても分からない……わ」
物凄い剣幕で詰め寄られたナターシャは必死に首を横に振る。
(なんなの? 今度は魔獣ですって? いい加減にしてよ、どういう事なのよ!?)
そんなことは有り得ない!
それこそデタラメ情報だわ!
ナターシャはそう叫びたかった。
そもそも。
ここ数年の我が国はお兄様の守護の力で固く守られていた。
お兄様が守護の力持ちだとわかった時、国は歓喜に溢れ誰もが明るい未来を想像した。
───なのに!
本来なら魔獣なんてものが我が国に現れるはずがない。
それなのに! いったいどこから侵入して来たと言うの……?
───枯れていく森、現れた魔獣……
(本当になんなの。これは何……いったい何が起きているの……)
「ナターシャ様!」
「ナターシャ様ーー!」
「っっ!!」
(────うるさいわよ、愚民ども!)
ナターシャは更に詰め寄られ、しばらくその場から動く事が出来なかった。
────祖国がそんな事になっているなんて、欠片も知らないその頃の私は……
「ベルナルド様が夜にこの部屋にやって来る!」
うわぁぁ、と顔を赤くして一人部屋で悶えていた。
部屋に戻る間もずっとベルナルド様の事を考えていたのに、部屋に戻ってもずっと私の頭の中は彼の事ばかり。
もはやこれは何かの病気なんじゃないかって思うくらいだった。
「……うん。やっぱり冷静に考えるとどう転んでも恥ずかしいわ」
夫(となる人)が、妻(となる人)の部屋に夜にやって来るんだもの。
「…………無理っっ!」
こうして色々、考えて悶えた結果……私は侍女を呼んだ。
「まぁ、陛下が!」
「そ、それで、失礼のないようにお出迎えをしたくて。協力してくれるかしら?」
「勿論です! クローディア様!」
(……あ!)
今、“クローディア様”と呼ばれた!
ベルナルド様の言う通りだわ。
(“ナターシャ”ではなく“私”……クローディアでいいんだ……)
クローディアとして皆の前に立っていいんだ……
じわじわと胸が温かくなる。
嬉しくて思わず涙が出そうになったのを、必死で隠した。
「どうしましょうか? ここは思い切って悩殺する方向でいきましょうか?」
「の、悩殺!?」
生まれてこの方、さっぱりと縁のなかった言葉に私は驚き、目を剥いた。
(びっくりして声がひっくり返ってしまったわ……)
「そうですよ! クローディア様のその可愛らしさを前面に押し出して陛下をメロメロにするのです!」
「メロメロ……」
更には、聞きなれない言葉まで飛び出す。
頭の中がパンクしそう。
「クローディア様が陛下へと嫁がれる事は既に広がっていますが、陛下の妃の座を狙っていた令嬢はたくさんいますからね」
「!」
「諦めきれない彼女達がいつ何処で隙を見て、陛下を誘惑するかも分かりません」
「……」
それは嫌だと思う。
私はよほど分かりやすい顔をしていたのか、侍女は私を見ながらにっこり笑う。
「そのお顔、クローディア様が陛下の事を想って下さっているのが伝わって来て嬉しいです」
「だって……」
単純かもしれないけれど、嬉しかったの。
(こんな大国の王なのよ? 望めば側妃の一人や二人……好きなだけ迎えられるのに)
それなのに“私だけ”そう言ってくれた事が、まっすぐ私を見てくれた事が嬉しかったの。
(不思議だわ……)
こうして、ベルナルド様の事を想うと胸の中がドキドキだけでなく、ポカポカと温かくもなる。
それに……
私はじっと自分の手のひらを見つめる。
あれは何だったのかしら?
ベルナルド様のプロポーズを受けて、自分もこの人の側にいたい!
そう思った時、何かが身体から出てくるような感覚がした。
(それと、あの音……)
「でも、今は何も感じないのよね……」
私はポツリと呟いた。
「クローディア様? どうかしましたか?」
「あ、いいえ、何でもないわ」
今はそれよりもベルナルド様との夜よ夜!
よく分からない現象よりこっちの方が大事、と思い直す。
「それでは、クローディア様。今夜のお召し物ですがこちらは如何でしょう?」
「……!?」
そう言ってルンルンした侍女の見せて来た夜着に私は絶句した。
おそるおそる訊ねる。
「そ、それは、き、生地が薄いのではなくて?」
「ほほほ、そうです。悩殺するならこっちの必殺スケスケ新婚初夜用の夜着をおすすめしますよ?」
「新婚初夜用ですって!? そ、それはちょっと……さすがに」
───早い!
どう考えても早すぎる!
私は全力で首を横に振った。
「そうですか……では、残念ですが、こちらは初夜の日にとっておく事にしましょう」
「……」
侍女はかなり残念そうに新婚初夜用のスケスケの夜着をしまう。
(えええええ!? 今でなくても着ることは決定事項なの!?)
驚きすぎて言葉が出ない。
侍女は次に別の夜着を手に取る。
「───では、こちらは如何でしょう?」
「……」
「ラブラブ恋人用の夜着ですよ!」
「ラブ……」
色々、突っ込みたい事はあったけれど、新婚初夜用に比べれば生地の透け感が減り、悩殺度は低くなった気はする。
「でも、まだ少し恥ずかしい気がするの」
「クローディア様! 恥じらっているお姿も大変可愛らしいですが、時には攻めることも大事なのです」
「そ、そう?」
これまで、まともな人付き合いをしてこなかった私には知らない事が多すぎる。
特に男女の事に関しては。
(……なんだか楽しいな)
アピリンツ国にいた頃は、侍女も私には冷たかったから……
こんな風に気兼ねなく話せるということが凄く嬉しくて楽しい。
───私の事を省みなかった……むしろ、虐げていたアピリンツ国なんかより、私はファーレンハイト国の方が好きだわ、と心からそう思った。
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