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21. 今度こそ貴方と二人で幸せに……
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「父上達が本当に親友同士だったなら、まだどうにかなる部分が残ってるかもしれないと思ってそれに賭けてみたんだ」
「……どうにかなる?」
「そう。互いの言い分もどこかズレている気もしたし」
それは、私も感じていた事だった。
「二人とはどうやって話をしたのですか?」
「長い事、顔を合わせてなかったみたいだからさ、これ案外、顔を合わせたら上手くいくんじゃ……って思って嘘ついて呼び出して二人を引き合わせてみた」
「強引!」
上手くいかなかったら大惨事になっていたような……
冷たいヒヤリとした汗が流れた。
(上手くいって良かったわ……)
「ただね、顔を合わせても二人ともかなり意固地になってたから、最終手段として、フリージアとの駆け落ちを示唆して脅したらようやく話し合いを始めてくれたよ」
「駆け落ち……」
「二人ともさすがに駆け落ちされると色々と困るからね」
その響きはどうしても前世を思い出す。
「私と駆け落ち……する気だったのですか?」
「フリージアだって、勘当されるつもりだっただろう?」
「うっ……」
「俺だって全てを捨ててでもフリージアと生きたいと思ったよ」
ルーセント様が私の頬にキスをしながらそう言った。
「でも、それは本当にどうしようも無くなった時の最終手段だと思っていた」
「……」
「フリージアと居られれば結局のところ俺はどんな形でも幸せだとは思うけど、やっぱり逃げた先で幸せになるより、まずは最後まで立ち向かって幸せを掴むべきだと思った」
ルーセント様からのその言葉はとても重い。
デュカスの記憶は無いはずなのに。
魂のどこかに刻まれているであろう悲しい記憶が彼にそう思わせたのかもしれない。
(でもね? 終わりは悲しかったけど、それでもデュカスと過ごした時間は幸せだったわ……)
「ルーセント様……ありがとうございます」
「俺はフリージアが欲しかっただけだよ?」
「私も……貴方が欲しいです」
私達はふふっと笑い合って、そっと互いの唇を重ねた。
◇◇◇
「──結局の所、お父様達の二人の確執はそれぞれ三人の話し合いが足りなかった、結局はそういう事でしょう?」
「お嬢様……」
私はリリィに向かって語る。
「お父様はお母様と出会って一目惚れした時、お母様とディギュム侯爵様はまだ婚約の話が成立したばかりだったせいで、お父様はその事を知らずにお母様に猛アプローチ繰り返したとか」
「えぇ……」
「最終的に、お父様に絆されたお母様がお父様を望んで、ディギュム侯爵様とは話し合いの末、二人は円満に婚約を解消したはずなのに、お母様がお父様に気持ちをちゃんと伝えなかったからお父様が勝手に、疑心暗鬼に陥ってお母様との仲まで微妙になったとか」
「拗れてますねぇ……」
「ディギュム侯爵は侯爵で、お父様とは親友のはずなのに何も話してくれなかった! って落ち込んでお父様を避けるようになったとか。元々、結婚は政略的なものとしか考えてなかったのにってどういう事!」
「会話は大事ですよね……」
蓋を返してみれば確かに色恋沙汰。
それも、それぞれ話し合いが足りなさ過ぎて拗れに拗れた。
「いい大人が何年も何していたの! って、気分よ。本当にこっちは巻き込まれただけだわ!」
私がそう憤慨しているとリリィが、まぁまぁ、と宥めてくれる。
「……色々ありましたが、ようやくこの日を迎えられたではありませんか、お嬢様」
「そ、それはそうだけど。あのね、久しぶりにこの話をしたのは私が改めて決意する為なの」
「お嬢様?」
「私はルーセント様と絶対に幸せになるって決意。お父様達の失敗を教訓にしようと思って」
私がそう語ると、何故かリリィが渋い顔をする。
「婚約して3年。それなのに毎日毎日、人の目があってもすぐに二人の世界を作ってしまう激甘お嬢様達と旦那様達では全然、違う気がしますけど……教訓になりますかね?」
「二人の世界?」
「はい。お嬢様達のイチャイチャっぷりはそれはもう有名です!」
「イチャイチャ……?」
おかしいわね?
確かに婚約したばかりの頃はルーセント様と人前でキスをした事は何度かあったけれど、恥ずかしいから人前は止めて? ってお願いして今は人前ではしてないはずなのに。
「お嬢様は分かっていないのですね?」
「何が?」
「お嬢様達は二人でいるだけで甘いのです!!」
「いるだけで?」
そう語るリリィはかなり興奮している。
「見つめ合う、繋いでいるだけの手、そんな事ですらお二人から流れ出る空気のその全てが甘々なんですよ!!」
「あまあま……」
「そういうわけで、本日のお嬢様達の結婚式はとても注目されています。どれだけ甘いのかと!」
「えぇ!?」
私は驚き過ぎてひっくり返りそうになった。
あの婚約を結んだお騒がせパーティーから3年。
学院を無事に卒業した私達は、今日結婚式を挙げる。
(ようやくこの日が……)
前世で駆け落ちしたアマーリエと、デュカスは夫婦のように暮らしてはいたけれど、当然、式も挙げていないし婚姻届も提出していない(出来ない)
(今世は皆に祝福されて彼の妻になれるんだ)
そう思うだけで幸せが込み上げてくる。
「──フリージア? 支度は出来た? キャルン侯爵がさっきから涙目でプルプル震えて叫んでいて怖いんだけど?」
ノックと共に控え室に現れたのは本日から私の夫となるルーセント様。
「……お父様が?」
「うん……“娘が……可愛い娘が嫁に……ついに嫁に行ってしまう……どうしたらいいのだ、フローラ!!”って叫んでる」
「え……」
「何か俺、可愛いフリージアを奪った男! とか言われて消されそう」
「ぶ、物騒な事を言わないで!? 貴方は私と幸せになるんだから!」
(やっとこの日が来たのに!)
私の言葉にルーセント様が苦笑しながら私の頭を撫でる。
「知ってるよ。可愛い子供達と、可愛い孫に囲まれるのが夢なんだろう?」
「そうなの! 絶対に叶えてみせるわ」
「……じゃあ、まずは可愛い子供から。今夜は覚悟してね? フリージア」
「え?」
その言葉に私の顔がどんどん赤くなる。
そっか、子供って……
「あ、あぅ……」
「フリージア?」
「あぅ……」
照れくさくなってしまい両手で顔を覆いながら「あぅあぅ」しか言っていない私にルーセント様の顔が嬉しそうに綻ぶ。
「フリージアは、本当に可愛いなぁ。今日のウェディングドレス姿も最高だ」
「あぅ」
「初めて声をかけた時から、ずっと可愛いと思っていたよ」
そう言って私の両手を顔から退かすと優しい目で見つめる。
「見た目も中身も可愛くて、そんな子に毎日空き教室に呼び出されたらさ、行かないなんて選択肢は無いよね」
「……!」
「愛してるよ、フリージア。今度こそ君を幸せにする。俺と一緒に生きよう!」
(今度こそ……)
私は頷く。
「さぁ、皆の前でフリージアへの愛を誓う時間だ。行こうか」
「はい」
そう言って差し出された手を取って、私達は一緒に歩き出す。
(そうね、今度こそ……)
アマーリエとデュカスの分も込めて私は皆の前でこの人に愛を誓おう。
「ルーセント様!」
「うん?」
「愛しています、ずっと! ずっとずっと貴方だけを!」
「フリージア?」
あの日、途切れてしまった幸せの続きを今度こそ。
姿形、名前は違っても。
前世でも愛を誓った貴方と一緒なら、何処にいても何をしていても絶対に幸せだから───
~完~
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
ありがとうございました!
これで完結です。
最後までお読み下さりありがとうございます。
生まれ変わりのやり直しの物語、最後まで二人を応援頂きありがとうございました。
今回の話は珍しく横恋慕令嬢やらヒドインやらがいないので、
おかげで気持ち悪さは全て殿下に……
前世の人格や記憶を上手く消化出来なかったらこうなるのかな? なんて思いながら書いていました。
彼は生涯幽閉ですね。
フリージアが結婚した事、子供が生まれた事などを聞いて、
どんどん灰になって行くのではないでしょうか。自業自得です。
ここまでお付き合い下さり本当にありがとうございました!
いつもの事ですが、次の話も始めてます!
『出来損ないと罵られ続けた“無能な姫”は、姉の代わりに嫁ぐ事になりましたが幸せです ~あなた達の後悔なんて知りません~』
サブタイトル入れるか悩んだんですけど(ざまぁメインっぽくなるので)
でも、思い知らせたいし……
よければ、またお付き合い下さい!
それでは!
ありがとうございました~
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