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閑話② (レインヴァルト視点)
しおりを挟むフィオーラを屋敷に送り届けて、俺も王宮に戻り、執務室で今日出来なかった仕事に手をつける。
……フィオーラは楽しんでくれただろうか?
笑顔でお礼を言われた。
だから楽しんで貰えたのだと、そう思いたい。
フィオーラはあの祭りに興味を持っていた事を俺は知っている。
だからこそどうしても、フィオーラを連れて行きたかった。
まぁ、一緒に行くのが俺では本当に楽しめるのかは分からなかったが。
それでもあの祭りは5年に1度、これを逃せば次は5年後だ。
どうしても今年一緒に行きたかった。
あの頃のフィオーラは、祭りに興味があるような素振りを一切見せなかったから俺は気付きもしなかった。
周囲の楽しそうな話を聞きながら、あの笑顔の裏で寂しく思っていたのかと思うと胸が痛む。
コンコン
そんな事を考えていたら、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
このタイミングで来るのは一人しかいないな。
「入れ」
「失礼致します、殿下。こちらの書類も本日中にお願いしますよ」
「……げっ!」
そう言って大量の書類と共に現れたのは俺の側近、ショーンだった。
「はぁ……その言葉遣いにその表情。お願いですからきちんとなさってください」
「……」
他に誰もいないんだから、いいじゃねぇかと訴えたかったが、ジロリと睨まれた。
俺より10歳上のこの側近には昔から敵わない。
「あれもこれもそれも殿下が側近候補をお決めにならないからですよ! 私だって後輩育成をしなくてはならないのに」
「……」
「それに聞きましたよ? フェンディ公爵家のロイ様だけでなく、騎士団長子息の側近兼護衛の任命も断られたとか……せっかく騎士団長の息子で本人も相当の腕前の子息が同じ学園に通っているのにどうしてなんですかね、全く!」
お決まりの説教が始まった。
始まると長いんだよなぁ……
そう思いながら目の前の書類に目を通す。
「だいたい殿下はフェンディ公爵家を敵に回すおつもりですか!? 筆頭候補だったロイ様を側近候補にもせず、さらに公爵様に対しても……」
「確かに進言したのは俺だが。公爵に対してのあれは、父上も認めた事だ」
「それはそうですが……」
ショーンの顔には不満がありありと現れていた。
──分かってるさ。
それでも必要な事だったんだ。
アイツらを俺の側近候補にする訳にはいかないし、フェンディ公爵だってこのままでいられたら困るんだ。
だから、父上と話をして決めた上で、ちゃんと周りの承認も得た。
フェンディ公爵は、今回もきっと最後まで納得していなかっただろうが。
下準備はそれなりにやったはずだ。
それでも最大の懸念事項はやはりーー……
だが、今はまだどうする事も出来ない。
きっと今は何も起きない。
全てが始まるのは、俺達が3年生に進級した時からだろうから。
「……ここ最近の殿下は変わられましたね」
「は?」
ショーンの発言に俺は驚いて顔を上げる。
「色々な事に積極的に動くようになりましたし。……何より婚約者のフィオーラ様への接し方が変わられました」
「……」
「もちろん良い意味で、ですよ。学園入学前のお2人はどこかよそよそしい厚い壁がありましたからね。特に殿下の方がです」
その言葉でこれまでの色々な出来事が頭を駆け巡る。
初めてフィオーラと顔を合わせた日の事。
婚約者となってから過ごした時間。
そして……
「……俺が変わらなくちゃいけなかったんだよ」
「ん? 何か仰いましたか?」
「何でもねぇ。ほら、その書類もこっちに寄越せ」
「はぁ、どうぞ」
そう言って手を伸ばし書類を受け取り仕事を再開させる。
ショーンはまだ、何か言いたげな目をしていたが俺はこれ以上この話を続ける気は無い。
そろそろフィオーラだって疑問に思うはず。
……ただ、きっとフィオーラは自分からは俺に聞いてこない気がする。
ずるい俺はそれに甘えて、きっとギリギリまで話しをせずこうしているんだろう。
結局俺はフィオーラを悩ませるばかりの存在でしかないのだと思わされる。
それでも俺は望んでしまうんだ。
──これからのフィオーラが生きる未来を。
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