34 / 52
閑話⑤ (メイリン男爵令嬢視点)
しおりを挟む私の名前は、メイリン・ヒューロニア。
身分は一応男爵令嬢だけど、私は他の人とは違う特殊な人間なのよ。
──それを知った……いいえ、思い出したのは、ちょうど10歳の誕生日を迎えた頃だったわ。
風邪を引いて寝込んでいたその日の夜。
熱でうなされる私の頭の中に流れ込んで来た映像。
それはかつての私、日本という国で生きていた頃の記憶だった。
「……まさか、これって異世界転生ってやつ!?」
目を覚ました私は、起き上がるなりそう叫んだわ。
そして興奮したわ。まさか、まさかの異世界転生! こんな事が本当に起きるなんて!!
次に歓喜に震えたのは、ここが私が前世でやり込んだ乙女ゲームの世界だと知った時だった。
そして、私はそのゲームのヒロイン!!
何それ、最高じゃないの! ここは私の為の世界なんだわ!!
もう嬉しくて嬉しくて神様に感謝したわ。
前世の私は、地味で目立たない単なる乙女ゲーム好きのつまらない女だったわ。
仕事だけは真面目にやってたけど、誰に評価されるわけでもなく、恋人もいない変わり映えしない毎日を送ってた。
だからこそ!
そんなひっそり目立つ事なく人生を終えてしまった私に神様はご褒美をくれたのよ!
──私がヒロインの世界なのだから好きに生きなさいってね。
誰を狙おうかしら?
やっぱりメインヒーローのレインヴァルト殿下?
それともヤンデレ枠のロイ様? いや、真面目で一本気なハリクスだって……そして大人の教師ラルゴ先生との秘密の恋……!
あぁ、みんなみんな捨て難いわ。
──そうよ! 誰か一人を選べないなら、逆ハーエンドを狙えばいいのよっ!
このゲームの攻略対象は4人という乙女ゲームにしては珍しく少ないものだった。
隠しキャラが居るのでは? 何かの切っ掛けでルート開放されるんじゃ? と躍起になって何度も何度もプレイした覚えがある。ま、結局見つからなかったけどね。
でも、そのお陰でどのルートもストーリーはバッチリ覚えているわ。
いけるわ! 私が幸せになる為の世界!
私の為の世界なんだから、私の思う通りになるって決まっているのだもの!
「学園の入学式が楽しみだわ」
私はこの先の未来を思うと楽しみで楽しみでしかたなかった。
****
──そうして迎えた学園の入学式。
この日は大事なイベントなの。
私は学園の校門前で迷子になって途方に暮れる。そこを攻略対象者が助けてくれるの。
微妙に登校時間を変える事でお目当ての人がやって来るシステムよ。
ここで助けられた攻略対象者のルートに入るのが鉄板ね。好感度が上がりやすくなるから。
まぁ、後でも軌道修正は可能なんだけど、そうなると後々好感度上げるのに苦労するのよね~。
だから、ここで出会う人が肝心なの!
そしてもちろん、狙うはレインヴァルト殿下!!
何故なら、逆ハーエンドに行くには殿下との入学式の出会いイベントをこなす必要があるから。これだけは必須よ!
それ以外の攻略対象者だと、その人単独のルートに入りやすくなっちゃうもの!
レインヴァルト殿下との出会いイベントをこなしさえすれば、逆ハーエンドのルートが開かれるんだから これは外せないでしょ。
そうして、私は意気揚々と校門前で立ち尽くして殿下を待っていたのだけどー……
「お困りですか?」
「そうなんです! 入学式の会場が分からなくてー……」
よっしゃ! 声がかかったわ! 出会いイベント開始よ!!
って思って振り返ったけど、
そこに居たのは、フィオーラ・オックスタード侯爵令嬢。
このゲームにおける悪役令嬢だった。
(え? 何で!? どうして悪役令嬢が私に声を? レインヴァルト殿下は!?)
動揺した私は思わず呟いていた。
「……っ!? どうして、あく……フィ、フィオーラ様が……」
「え?」
悪役令嬢は私の言葉に驚いていた。
しまった!! 自己紹介もされていないのに名前を呼んでしまったわ!!
しかも、つい悪役令嬢とか言いそうになっちゃったし。
あぁぁ、これ、何で私の名前を……? とか思っちゃってるわよね……ヤバいわー
あ、でもちょっと待って? この悪役令嬢はレインヴァルト殿下の婚約者よね?
つまり、誰にでも顔を知られている存在よ!
なら、私が知っててもおかしくないはず!
──そう思って答えたのに。
(は!? 社交界デビューしていない? 何言ってんの? そんなハズないわよ! ゲームでは済ませていたでしょ?)
何かがおかしかった。
そう感じたけど、私はとりあえず悪役令嬢を振り切り、仕方ないから自力で会場に向かう事にした。
……もちろん学園内のマップは、ばっちり頭の中に入っているから迷う事なんてないわよ。
それからもこの世界は私の世界のはずなのに、私の知ってるゲームの通りに進まない。
殿下と出会いイベントを果たした後は、悪役令嬢からの最初の嫌がらせが起こるの。
差し入れようとしたクッキーを踏み潰されるのよね~。私ったら可哀想……
入学式での出会いイベントが失敗したから、ちょっと別の形でのイベント発生にはなるけど、殿下と出会いさえすればこっちのもの!
そう思って挑んだのに!!
悪役令嬢は嫌がらせをしなかった。でも、これから恋に落ちる可愛い私からの差し入れなんだから、殿下も受け取ってくれるでしょ? そう思ったのに何故かそこも失敗。
(それよりも! どうして、レインヴァルト殿下と、悪役令嬢が仲睦まじくなってるの!?)
おかしいわよ。2人は無理やり政略結婚の為に結ばれた婚約者同士。
悪役令嬢はレインヴァルト殿下の事を愛してるけど、殿下は違う。
だから、私と恋に落ちるのに。
なのに。どうしてなの!?
だけど、私は逆ハーエンドの為にもどうしてもレインヴァルト殿下に近付かなくちゃいけない。近づく事さえ出来れば彼も私に恋に落ちるんだから!
そう決めて近付いたのに……
「どうしてよ!?」
私は思い通りに進まない展開に苛立ちを募らせていた。
どんなにどんなに近付いてもレインヴァルト殿下は私を見ない。
しかも、ロイ様とハリクスを側近候補にしていないって、どういう事よ!?
おかしいわ。何これ、バグってんの?
****
「ねぇ、私、ロイ様にお願いがあるんですっ!」
「なんだい? メイリン」
レインヴァルト殿下以外の3人の攻略は簡単だった。びっくりするくらいアッサリと私に落ちてくれたの。やっぱりヒロインって凄いわ! それともゲーム補正ってやつ?
やっぱりコレが正しい姿よ!
殿下と悪役令嬢がおかしいんだって、よーく分かったわ。
「私、レインヴァルト殿下と仲良くなってみたいんですけど、ロイ様からも紹介してくれませんか?」
「うーん……それはちょっと難しいかな」
ロイ様は残念そうに言った。
「君の望むことならどんな事でも力になってあげたいんだけど……」
「……そうですか、残念です……(チッ、役立たずね)」
「だけど、そんな事を言うなんて……メイリンは僕だけじゃ足りないの?」
「……え? いいえ! そんな事ないですよー? 私はロイ様が1番ですから」
ヤバっ! これ以上この話を続けるとロイ様のヤンデレスイッチが入っちゃうわ。
ニッコリ笑って誤魔化しておく。
だけど、何なのよ! ロイ様ならもっと使えるかと思ったのに!
そう言えば、ロイ様の父親である公爵様も、2年くらい前から勢いが無くなったってどこかで聞いたわね……そのせいなのかしら。
それにしても、ロイ様って本当に役立たずだわ!
あー、困ったわ。
このままでは、悪役令嬢が私を虐めない。
それでは困るの。逆ハーエンドの為にも悪役令嬢には私を虐めてもらわないといけないのに。
何してんのよ、悪役令嬢!!
そんなある日、私のレインヴァルト殿下や悪役令嬢に対する礼儀がなっていないと苦言を呈してくる令嬢達が現れたわ。
(何で悪役令嬢じゃなくて、アンタ達が来るのよ。モブがでしゃばっちゃって! ……いや、待って? コレを上手く使えば……悪役令嬢の仕業に出来るんじゃない?)
こうして、仕方が無いので私はこれを利用して一向に虐めを実行する気配のない悪役令嬢に冤罪を着せる事にしたの。
ラルゴ先生には嘘の証言で泣きついて、ロイ様とハリクスには噂を広めて貰ったわ!
実際なんてどうでもいいのよ。
私が“悪役令嬢に虐められた”という噂が広がればいいだけなのだから。
実際に私は嫌がらせを受けてるしね。いけるいける。
そして、その噂のせいで悪役令嬢は卒業パーティーで、殿下から婚約破棄されて処刑されればOK!
悪役令嬢が処刑でも何でも死んでくれさえすれば逆ハーエンドに辿り着けるようになってるから、婚約破棄と悪役令嬢の死は必須なのよ。
経緯はなんであれ、そうなれば私のハッピーエンドは確約されたようなもの。
そうすれば、今は何故か私に靡かないレインヴァルト殿下だって私のモノになるんだから!
39
お気に入りに追加
4,099
あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。

あなたと出会えたから 〜タイムリープ後は幸せになります!〜
風見ゆうみ
恋愛
ミアシス伯爵家の長女である私、リリーは、出席したお茶会で公爵令嬢に毒を盛ったという冤罪を着せられて投獄されてしまう。数十日後の夜、私の目の前に現れた元婚約者と元親友から、明日には私が処刑されることや、毒をいれたのは自分だと告げられる。
2人が立ち去ったあと、隣の独房に入れられている青年、リュカから「過去に戻れたら自分と一緒に戦ってくれるか」と尋ねられる。私はその願いを承諾し、再会する約束を交わす。
その後、眠りについた私が目を覚ますと、独房の中ではなく自分の部屋にいた――
※2/26日に完結予定です。
※史実とは関係なく、設定もゆるゆるのご都合主義です。

今更ですか?結構です。
みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。
エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。
え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。
相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。


婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?
しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。
そんな小説みたいなことが本当に起こった。
婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。
婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。
仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。
これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。
辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる