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閑話① (レインヴァルト視点)

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「明日の朝は迎えに行くからな」と言い残して俺は、フィオーラの屋敷を出た。
  王宮に戻る為の馬車の中で、これまでの事を思い返す。

  とりあえずは、元気そうだった。
  倒れた時は本気で動揺した。俺の知ってるフィオーラはいつも気丈に振舞うフィオーラばかりだったから。
  大丈夫なのかと余計に心配になった。

  まぁ、我ながらさすがに取り乱し過ぎたな、とは思うが。

  そこまで考えた所で俺は頭を抱える。

「……情けなさすぎて、フィオーラには俺が取り乱したなんて知られたくないな……」



  フィオーラは変わった。
  俺に婚約解消の話を持ちかけに来た事も、冷静に考えれば簡単な話では無い事くらい分かったはずだろうに、堂々と真正面から乗り込んで来た。
  こんな事が出来る令嬢だったのかと内心、俺は驚いた。

「まぁ、それほどまでに俺との婚約を解消したいと望んでいる、という事か……」

  それはそれで仕方が無いと分かっていても、落ち込……複雑な気持ちにはなるが。
  だけど、俺はどうしてもそれを受け入れるわけにはいかない……
  それがフィオーラを苦しめていると分かっていても。


  学園では最低限の授業を受けるだけにしようとしていたくせに、俺に捕まると文句を言いながらも何だかんだで大人しく真面目に授業を受けている。
  そこは、やはりフィオーラらしいなとも思う。
  
  それにしても、だ。
 
「……フィオーラのあんな風に笑った顔は初めて見た気がするな」

  先程の笑ったフィオーラの顔が頭に浮かんだ。

  今まで俺が見てきたフィオーラの笑顔は、いつもどこか無理した笑顔だった。
  ずっとそれが昔から気になって気になって仕方無かった。
  でも、さっき見た笑顔は違う。あれは心からの笑顔だったと思う。

  ずっと感情を押し殺していると、必ずどこかで爆発してしまう時が来る。
  それは自分の経験からも言える事だ。
  だから、とこかで吐き出して欲しいと俺はずっと願っていた。

「決して泣かせたくはないが、フィオーラには泣く事も必要なんだろうな……」

  昨日の取り乱していた様子のフィオーラを思い出す。
  がずっと隠していたフィオーラの本当の気持ちなのだろう。

  気付いたら、俺はフィオーラを抱き締めていて謝罪の言葉を口にしていた。

  ……フィオーラをあそこまで追い詰めたのは俺だ……俺のせいなんだ。
  分かっている。あんな言葉くらいでなんて俺だって思っていない。
  あとどれだけ何度、どんな謝罪の言葉を述べたとしてもきっと俺は許されない。

  それでも……

  フィオーラと過ごしていて、もしかしたら……なんて甘い考えを持ちそうになってしまう時があるのも事実だ。

「俺は本当にバカだな……」


  ただ、今はフィオーラに笑っていて欲しい。
  感情豊かに毎日を過ごして欲しい。

  俺はそう願っている。



  俺が、素の態度を見せた事で、フィオーラの俺に対する態度も気安くなっていて、だいぶ昔より俺達の間にある壁が薄くなって来たようには思える。
  だがこれはまだほんの取っ掛りに過ぎない。

「まぁ、その為に本性を隠すのをやめたんだからな」

  今までの俺のままじゃ、フィオーラとの間にある壁を壊す事は出来ない。
  そう思って素の自分を明かしたのだがーー……

  そこまで考えてフッと笑ってしまう。
  意外とすんなり受け入れられたな、と。
  真面目なフィオーラの事だ。「王族らしくありません!」くらい言うかと思ったんだけどな。

「……なぁ、フィオーラ、俺はお前を……」

  それ以上を口にするのは止めた。
  言葉にしなくても俺の決意は揺るがない。
  まだまだ、俺にはやらなければならない事がたくさんある。


  願わくば、今日のフィオーラが安らかな気持ちで眠りにつけているよう祈るばかりだ。

  そう────決して悪夢など見る事の無いように。
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