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エピローグ
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───その昔、この国には大魔法使いと呼ばれた存在がいた。
その大魔法使いには娘が2人いた。
大魔法使いの娘だけあって、2人の魔力も相当なものだった。
そんな娘達は、1人は、時を戻す力を得意とし、もう1人は転移術を得意としていた。
やがて時を戻す力を得意としていた娘は王家に嫁ぐ事になり、もう1人の転移術を得意としていた娘は国の中枢を担う貴族の元へと嫁いだ。
この時、すでに魔法使いの存在は少なくなっており、魔力を持つものは限られていた。
そんな世の中で強すぎる魔力は時に諍いの元となる。
それを危惧した大魔法使いは、娘達の子供に引き継がれるであろう力に制約をつける事にした。
力を使えるのは、“次世代を統べる定めの者” に限る、と。
大魔法使いは、王家に繋がれていくであろう、時を戻す力は発動する可能性を大いに秘めている為、そこにさらなる制約をつける事にした。使えるのは3回まで。そして戻せる年数も最大で3年間という制約を。
貴族の中で繋がれていくであろう転移術は、力を受け継いでいく者が次世代を統べる定めの者には当てはまらない事から、発動する可能性は今後無くなるだろうと思い、それ以上の制約はつけなかった。
王家に引き継がれた、時を戻す力は粛々と今も受け継がれ制約と共にある。
貴族の中で受け継がれた転移術の力は、大魔法使いが思った通り発動する機会が訪れなかった為、いつしか忘れられていった。
もはや、どこの家の者に受け継がれているのかさえも分からなくなっていた。
そんな大魔法使いの力と真実が書かれた本は、王の管理する部屋に保管されている。
そして、ここに書かれている内容を知る事が出来るのは、“次世代を統べる定めの者”が、自分の世代を統べるようになってからと決まっていた。
だから、フィオーラが昏睡状態から目覚めたあの時はレインヴァルトもまだこの事実をもちろん知らなかった。
フィオーラに力があるのでは? と、語っていた事はあくまでも憶測に過ぎなかった。
その誰が受け継いだのか分からなくなってしまっていた転移術の力は何の運命かフィオーラが引き継いでいた。
次世代を統べる定めの者という文言の意味には未来の王妃、すなわち──王太子妃も含まれる。
よって、実質、王太子妃となる事が決まっていたあの時のフィオーラは転移術の力を発動させる事が出来たのだった。
そんな大魔法使いも想像していなかった事だろう。
自分の力を受け継いだ2人から生まれる子供が、かつて分かれた2つの魔力の両方を持って誕生する事までは。
****
「陛下、妃殿下!! レオンハルト様は少々やんちゃが過ぎます!!」
今、私達の目の前でプリプリと怒りを顕にしているのは、子守りの1人だ。
その顔は酷く疲れ切っている。
あれからも色々な事があった。
ここまで来るのはやっぱり平坦な道では無かったけれど、
無事に私はレインヴァルト様と結婚し、私達の間にはこの王子──レオンハルトを授かる事が出来た。
そんな息子、レオンハルトのやんちゃっぷりに、この子守りはどうやらいつもいつも手を焼かされているらしい。
「今日は何をしてたんだ?」
レインヴァルト様が聞き返す。
「かくれんぼです!」
あぁ……と、それを聞いて私達は頭を抱えた。
そして思いっきり彼女に同情した。
大魔法使いの力を宿した私達から生まれたレオンハルトは、当然ながら王家の力を持って生まれてきたけれど、同時に私の力も引き継いで生まれてきたようだった。
その力────すなわち『転移術』
その名の通り、この力は自分の知っている、もしくは記憶している場所に望むと転移出来るというものだった。
あの時の私は、レインヴァルト様の所に戻りたい!
と、願った事から、あの生と死の狭間の空間からレインヴァルト様の元へと転移し戻って来れた、というのがどうやら真相らしい。
まぁ、ただあれは……本来とは違う特殊なケースで、戻って来れたのは私の意識だったのだけれども。
先日のレインヴァルト様の即位に伴い、王家の持つ『魔法使いの力と真実』を知った事でこうしてようやく全ての事が繋がった。
おかげで、息子のレオンハルトが秘めている力は誰よりも強大なものとなってしまったようで……
私達の即位によって、次世代を統べる定めの者、となったレオンハルトは現在、転移術の力を無自覚に使いまくっている。
私はあれから無自覚でも何でも力を使う事は一度も無かったのに、ホイホイと使いまくる息子の将来が末恐ろしい。
おそらく、秘めている力が強大になってしまったのも関連しているのだろう。
しかし、まだ幼すぎて力の事を説明しようにも難しい。
とりあえず、知らない場所には行けない事だけが今は救いだと思っている。
「フィオーラ」
私がレオンハルトの心配をしている事を感じ取ったレインヴァルト様が、心配そうな顔をしながら私の顔を覗き込む。
「レインヴァルト様……」
「心配するな。レオンハルトは大丈夫だ」
「でも……」
「レオンハルトはちゃんとこれから俺達が導いていこう? だから大丈夫だ」
「……そうですね」
私が微笑むとレインヴァルト様も笑った。
「俺の王家の力は、愛するフィオーラの為に使った」
「私の力は、愛するあなたの元に戻る為に使いました」
「…………」
「…………」
……こうして言葉にすると、何だろう……
「どうしてかしら? ちょっとむず痒い気がします……」
「……奇遇だな、俺もだ」
私達は顔を見合わせてフフフと笑い合う。
そんな私達の元に、レオンハルトが駆け寄って来る。
レインヴァルト様に似たやんちゃな笑顔で。
「ははうえ、おなかの赤ちゃんは元気ですか?」
「えぇ、元気よ」
「わぁい! 早くあいたいです」
レオンハルトが無邪気な笑顔でそう口にした。
そう、私は今お腹に2人目の子供を妊娠していて、来月出産予定だ。
新しい家族が増える事が今から楽しみで仕方ない。
そんな私を優しく抱き寄せ、そっと額に口付けながら、レインヴァルト様が私に聞いてきた。
「なぁ、フィオーラ。…………お前は今、幸せか?」
そう口にしたレインヴァルト様は、
少しだけ。
ほんの少しだけ不安そうな顔をしていた。
この質問は4度目の人生が始まった頃にも受けた覚えがある。
あの時の私は答えられなかった。
けれど、今は……今なら。
だから、私は満面の笑みを浮かべて答えた。
「もちろん、幸せです!」
この幸せは、全部レインヴァルト様がくれたものだ。
あなたがいたから。レインヴァルト様が私が生きる事を願い強く望んでくれたから。
だから今がある。
「……レインヴァルト様も幸せですか?」
だからこそ、私も知りたい。
……あなたも今、幸せなのかと。
幸せだと思ってくれているのか、と。
私が聞き返すとは思っていなかったのか、レインヴァルト様はちょっと驚き目を丸くした後、私と同じ満面の笑みを浮かべて言った。
「決まってるだろ? ──すげぇ、幸せだよ」
良かった……心の底からそう思った。
だって私だけが幸せじゃダメなんだもの。
私とレインヴァルト様……2人とも幸せだって思えなくては、それは本当の幸せじゃないから。
そして、レオンハルトと、今度産まれてくるこの子も入れて皆で幸せになりたい。
……いえ、ならなくちゃ!
私は大きく膨らんだお腹を撫でながらそう思った。
──────……
かつて3度命を落とした記憶と、
4度目の……今のこの人生で隙あらば私を死へと導こうとしていた運命の事を忘れた事は無いけれど。
それらを経験し、乗り越えた事で今があるから。
だから私は今、ようやく自信を持って言える。
4度目の人生は、幸せです!
~完~
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
これで完結です。
ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました!
このお話は色んな意味でハラハラさせてしまってばかりだったかと思います。
確か、“この世界が乙女ゲームの世界だと知らない悪役令嬢” を書きたい!
それが全ての始まりだったはずなんですけども……それが随分と可哀相な目に……
また、エピローグに至るまでに、色々あったであろうアレコレは、
最後の最後になってようやく2人が口にした、“幸せ”という言葉に全て込めています。
あとは、また家族も増えて訪れるであろう、これからの幸せを祈って貰えたら嬉しいです。
お気に入り登録、感想、本当に嬉しかったです! ありがとうございました。
そして、エントリーしていました第14回恋愛小説大賞も、投票して下さった方々、読んでくださった方々に心からお礼を申し上げます。
実は、ギリギリまでエントリーするか悩んだんですけど、まさかあんな、3,000近い作品の中から30位以内をウロウロする事になるとは夢にも思いませんでした。
初めて順位を見た時は、桁が違うんじゃないか? と心から思いました。
全部、読んでくださった皆様のおかげです!
本当にありがとうございました!!
そして、最後にまた新しいお話も投稿します。
『記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました』
全然、タイトルが思い浮かばなくて、もうそのまんまでいいや! (;ノ´∇`)ノ
って投げたので、何の捻りもないその通りの話です 笑
特に、今の流行り(?)を追ってるような話でもありませんが、もしよろしければ!
(長編にはしません)
いつも最後まで長々とすみません!
ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました!⸜(*ˊᵕˋ*)⸝
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