【完結】婚約破棄されて処刑されたら時が戻りました!?~4度目の人生を生きる悪役令嬢は今度こそ幸せになりたい~

Rohdea

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25. 通じ合う気持ち

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「…………」
「…………んっ」

  いつの間にか、レインヴァルト様の片手は私の後頭部に回っていてがっちり固定されていた。
  レインヴァルト様は角度を変え何度も何度も私の唇に自分の唇を重ねてくる。
  その合間に囁かれる、

「……フィオーラ」

  と、私を呼ぶ声が甘さを含んでいて、その度に私の胸を甘く締め付ける。

  どれくらいそうしていただろう。
  ようやく唇が解放された時の私は息も絶え絶えだった。
  そんな私の様子を見てレインヴァルト様が慌てふためく。

「わ、悪い……つい、その、加減が出来なくて」
「……わ、私は初めてだったんですから……て、手加減してください……」

  私が涙目でそう訴えると、レインヴァルト様は、きょとんとした顔で言い放った。

「何を言ってる?  俺だって初めてだ!」

「え?」

「え?」

  お互いしばしポカンとした顔で見つめ合う。

「レインヴァルト様……も初めてだったんですか……?」

  ……てっきり最初の人生ですでに……そう思っていたのに。

  そんな気持ちが顔に出ていたのか、ジロリと睨まれた。

「お前は俺をどんなヤツだと思ってたんだ……」
「えーと……」

  浮気者?
  と、思わず答えそうになっていたら、
  レインヴァルト様は、「そんな簡単にホイホイ手を出すわけないだろう!?」と、プンプン怒り出した。
  婚約者ではない女性に心惹かれている時点ですでに色々どうかとは思うのだけれど、さすがに手を出す真似はしていなかったようだ。どうもその辺の分別はあったらしい。

  ……どうしよう、嬉しい。そんな気持ちがジワジワと胸の中に広がっていく。

  そして、プンプンしている姿がちょっと可愛いと思ってしまったので、とりあえず笑って誤魔化しておいた。
  ……それにしても誠実なのか不誠実なのかよく分からない人だわ。
  そう思ってレインヴァルト様を見つめていたら、ちょっと照れ臭そうに顔を逸らしている。
  その顔は耳まで真っ赤だった。

「……コホッ!  それよりもだ!  そ、その……お前は、いいのか?」
「何をです?」
「俺を……許して……俺の気持ちを受け入れてくれる…………のか?」

  最後の語尾が弱々しくなっていったのは、レインヴァルト様自身が不安に苛まれているからなのだろう。
  おそらく口にしなくても私の気持ちが伝わったからだとは思うけれど、私の気持ちを聞かないまま、口付けをしてきたくせに何を今更と思う。しかも、これはホイホイ手を出したと言えるのでは?
  なんて思ってしまったけど、私だってちゃんとレインヴァルト様に告げたい。

  ──ねぇ、レインヴァルト様。今度は言わせてくれるわよね?  

  そう思いながら口を開く。

「……私、処刑が決まった時、そこまでレインヴァルト様に疎まれていたのかって思ったんです。愛されていない事は分かっていましたけど、死んでくれと願われる程、邪魔だったのかと」
「それはっ!」

  私の言葉にレインヴァルト様の顔は一瞬でサァッと真っ青になった。
  赤くなったり青くなったり大変だ。

「分かっています。ここまでの話を聞いて分からない程、私は馬鹿じゃありません」
「……フィオーラ」
「レインヴァルト様、ありがとうございます。無茶を通してでも、この世の理を破ってでも私を……何度も何度も助けようとしてくれて」
「…………全部俺の身勝手な望みだ。そして結果は何度もお前を苦しめただけだった」

  レインヴァルト様はそう言いながら苦しそうな顔をする。

「それでもです。最初の人生の私は報われないながらも、貴方を想っていました。でも処刑されて貴方を憎み嫌悪した事も事実です。でも……今世で……今まで知らなかった貴方の姿や想いに触れて私は……」
「フィオーラ?」

  レインヴァルト様は戸惑い気味に首を傾げる。

「いつしか、もう一度貴方に恋をしていました。今世はただ、死なずに生きたいという、それだけだった思いから、レインヴァルト様とこの先を生きていきたいと思うようになっていました」
「…………」
「そして、この時戻りの真実を知りました。……全部レインヴァルト様だった」
「…………」
「色々、言いたい事はあるんです……文句だって。それでも今、私が言いたいのは……言わなくてはいけないのは……」
「フィオーラ?」

  レインヴァルト様の瞳が不安に揺れている。
  ……嫌だわ、お願いだからそんな顔をしないで?  
  私は心の中でそう思いながら告げた。
  ずっとずっと……最初の人生から本当は素直になって一番伝えたかった言葉を。

「レインヴァルト様の事が好きです。貴方と……レインヴァルト様の隣で生きて行く事を望んでもいいですか?」

  私が泣き笑いの表情でそう告げると、私をただひたすら見つめていたレインヴァルト様の顔が、みるみるうちに涙を堪えるような表情になった。
  そして、力いっぱい抱き締められた。

「…………い、いいに決まってんだろ!?  ずっと俺の隣で幸せそうに笑ってろ。絶対に、俺が誰よりも幸せにするから!」
「…………はい!」


  これからの未来をそう誓い合って、私達はもう一度唇を重ねた。




****



「……話が長くなったが、フィオーラの冤罪の噂に関わってるのはあの3人で間違いないだろう」
「それって2度目と3度目の人生もそうだったんでしょうか?」

  私の疑問にレインヴァルト様もしばし考え込む。

「……当時、どちらも全然情報が仕入れられなかったが、その後に起きた事を考えても間違いないだろうな」

  レインヴァルト様がウンウン頷きながら言った。

「では、メイリン男爵令嬢の目的って何なのでしょうか?」
「うん?」
「最初の人生では、王妃になりたかったから私が邪魔だと言っていたのでしょう?  実際、レインヴァルト様のお気持ちも手に入れていたからそう言ったのは分かります。でも、2度目と3度目の人生では、レインヴァルト様のお気持ちはメイリン男爵令嬢には無かったんですよね?  だから、例え王妃になりたくてもなれなかった筈です。ならば、何が目的だったのかなと。まぁ、これは現在もそうですが……」
「確かにそうだな……」

  男爵令嬢の彼女は、王家に嫁ぐには身分が低い。
  レインヴァルト様の気持ちが彼女にあるのならまだしも、それも無いのに私を引きずり下ろした所で、新たな婚約者の座が彼女に回ってくる訳では無い。

「もし、私がレインヴァルト様と婚約を解消したら、どなたが次の候補になるのです?」
「あ?」

  え?  レインヴァルト様が、物凄い顔で睨んできたわ……! 
  私はちょっとビックリして思わず仰け反った。

「そ、その、婚約を解消したいわけではなくてですね…… 私をレインヴァルト様の婚約者の地位から引きずり下ろして喜ぶ人間は誰かしらと思っただけです!」

  変な誤解をされたらたまったものじゃない。私は首を横に振りながら慌てて否定する。

「そういう意味か……頼むから心臓に悪い事言わないでくれ……」
「うっ!  すみません」

  レインヴァルト様は私の弁解を聞いてどこかホッとした顔を見せた。 
  婚約解消という言葉はレインヴァルト様の中では聞きたくない言葉らしい。
  ……それもそうよね。
  
「そうだな……未だに娘はどうかとゴリ押ししてくる、アキュラス侯爵の所のユーリカ嬢だろうか。身分的にも」
「ゴリ押しされてるんですか……?」

  まさかのゴリ押し発言に驚いた。
  アキュラス侯爵家は我が家と同じくらい力を持った家だ。
  ただ、そこの娘のユーリカ嬢は現在まだ10歳。
  6年前、当時のレインヴァルト様の婚約者候補を決めるに当たって4歳は幼すぎるだろう、という事で私が選ばれた。
  もちろん、お父様のゴリ押しとか含め、他にも色々あって私に決まったのだろうけれど。

「アキュラス侯爵は何度断ってもしつこいんだよな」

  レインヴァルト様はうんざりと言った顔をしているので、これは相当しつこそうだ。

「……ユーリカ嬢が、結婚適齢期を迎える頃、若さを武器に側妃にとか言ってきそうですね」
「フィオーラ!!」
「ひっ!」

  ちょっとモヤッとした気持ちがありつつも、何気なく頭に浮かんだ事を言っただけなのに、怒鳴られてしまい、私はびっくりして小さな悲鳴をあげた。

「俺はお前以外を妃に迎えるつもりは無い!  そこんとこよーく覚えとけ!!」
「は、はい……」

  その言葉が嬉しくて、怒られたはずなのに思わず顔が緩んでしまうのは……
  うん。許して欲しいわ。

「はぁ……そんな顔してると、襲うぞ?  …………ったく!  話を戻すぞ」
「襲っ!?  えっ……と、そうですね!  アキュラス侯爵家が、ヒューロニア男爵家と何か繋がりがあれば別ですが、無ければアキュラス侯爵家は無関係ですね」

  何だか聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたけれど、追及するのは止めておこうと思った。
  今のレインヴァルト様は何をするか分からないもの。

「そうだな。一応、裏を取ってみるがその線は薄いだろう」
「と、なるとメイリン男爵令嬢の目的とは?  の話に戻ってしまいますね」
「…………」
「…………」

  沈黙が生まれた。
  ダメだ。考えても分からない。

「うーん。いっその事、こちらから喧嘩売ってしまいましょうか?  そうしたら、何か白状するかもしれませんよ?」
「はあ!?  そんな事したらますます噂に拍車かけるだけだろ!?」
 
  私の言葉にレインヴァルト様が焦りの色を浮かべた。

「むー……でも、考えても分からないし。このまま黙っていても同じですし」
「…………忘れてた。お前は……意外と好戦的なんだった……すっかり忘れてたよ……」

  レインヴァルト様は項垂れた。

「そんな私はお嫌いですか?」

  私はわざと、こてんと首を傾げながら訊ねる。

「そ!  んなわけねーだろ……」
「では、好きですか?」
「……っ!  言わせるのかよ…………!」
「聞きたいです」
「…………だよ」
「?」
「そんなお前も好きだって言ってんだよっ!!  可愛いとか思っちゃってるよ!!」

  レインヴァルト様が顔を真っ赤にして怒鳴るように言った。

「えへへ、ありがとうございます」

  ちょっと無理やり言わせた感もあるけれど、嬉しくて心がほっこりする。
  私だってレインヴァルト様が好き。
  もうこの気持ちを失えないし失いたくない。

「分かりました。こちらからは喧嘩は売りません……でも、向こうが仕掛けてきた場合は容赦しません。買いますよ!」
「買うのかよ……」

  私の言葉にレインヴァルト様は、ちょっと呆れた顔をしていた。


  私は静かに微笑む。
  レインヴァルト様には言わないけど、何となく予感がするのだ。
  おそらくだけど、メイリン男爵令嬢はそう遠くない内に直接仕掛けてくる気がする。

  だって彼女がレインヴァルト様を狙っているのは、誰の目から見ても明らか。
  ただし、それは王妃になりたい云々と言うよりも……
  どちらかと言うと、見目麗しい男性達を侍らせたいと言ったような感じがした。

  ただ、本当にそんな事が理由で?
  と、思わなくもないので、やっぱり私には彼女の目的は分からない。



  ──そして、
  私の予感は現実のものとなる。

  その日は意外と早くやって来たのだった。
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