【完結】婚約破棄されて処刑されたら時が戻りました!?~4度目の人生を生きる悪役令嬢は今度こそ幸せになりたい~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
5 / 52

4. これが殿下の本性らしい

しおりを挟む

(──え?)

 一瞬、 誰が口を開いたのかと思った。
 だけど、私の前にいるのはレインヴァルト殿下、ただ1人。
 状況が理解出来ずポカンとしている私に、殿下は更に言葉を続けた。

 ……先程と同じ様な口調で。

「運命の相手?  そんなもん知らねぇよ。俺は俺の意思で結婚する相手は決める」
「!?」

 …………間違いなく殿下の口から発せられている言葉だった。

(え?  え?  この方は間違いなくレインヴァルト殿下よね……!?)

 偽物を疑いたくなるくらいな私の動揺など気にする様子もなく殿下は続ける。

「そういうわけで、俺とお前の婚約は解消しない」
「はい?」

 何がそういうわけなのか全く分からず、思わず首を傾げてしまった。
 そんな私の様子を見て再度、
『お前はバカか?』
 と言っているような目を向けられた。  

「っっ!」

 何で私がそんな目をされなくちゃいけないの!
 そう思ったけれど、どうしてもこれだけは聞かずにいられない。

「で、殿下……!  そ、それよりも、その……」

 私は殿下の口調とこの態度が気になって仕方なかった。
 あまりの衝撃に婚約解消を願っていたことなど、いつの間にやらすっかりとどこかに吹き飛んでいた。

「あ?  ……ああ、そうか。俺の口調と態度に驚いているのか」

 殿下はあっさりとそう口にした。

「えっ、あ……いえ、はい……」
「どっちだよ」

 うまく答えられず、しどろもどろになっていたら突っ込みを入れられてしまう。
 えぇい!  
 もうここは躊躇っている場合じゃないわ!
 私はキッパリと告げる。

「───はい。驚いています!」
「……」

 私の言葉を受けて、殿下はちょっと不貞腐れたような顔をしながらも答えてくれた。

「……いつも、あんな誰にでもニコニコしながら丁寧に接してるのが、“素”なわけないだろ。どこの聖人君子だっての。あんなの息が詰まって仕方ねぇよ」
「そ、そうでしたか……」

  つまり?
 今までの人生も含めて、私が見てきた殿下は、敢えて“王子様”として振舞っていた殿下であり、本来の性格は今、目の前の殿下という事らしい……

「……こんな奴でガッカリしたか?」

 殿下が少しどこかバツが悪そうな表情をしながら聞いてきた。
 どこか気まずそうだ。

「……いいえ。驚きはしましたが、息が詰まると言うのはその、私も分かる気が致しますし……」

 深く考える事もなく私は自然とそう答えていた。
 そもそも今の私からすればこんなことでガッカリも何もすでに……

(あなたへの想いは枯れていますから!)

 けれど、こうなって改めて思わされる。
 私は殿下のこと、何も分かっていなかったのね、と。

「……」

 最初の人生ではあんなに好きだと思っていたのに。

 最初の人生で婚約者として過ごした6年。
 何故か過去に戻り過ごしたあの2度の1年間……
 過去に戻った時は逃げ回っていたけれど、合計8年間も殿下の近くにいたのに。  

(……私は、ずっと彼の何を見ていたのかしら)

 胸がチクっと痛む。

「……そうか。王族らしくない、と注意はしないんだな」
「え?」

 どこか少し不安そうな口振りの殿下の質問に私は首を傾げながら答える。

「常に誰といてもどんな時もその口調と態度でしたら、さすがに困ってしまいますが……」
「が?」
「殿下はちゃんと使い分けるべき所を心得ていらっしゃるではありませんか。なのに何故、注意が必要なのです?」
「!」

 私の言葉に殿下は目を丸くして驚いた様子を少し見せた。
 そして、とても小さな声で、再び「そうか……」と呟いた。

 それはどこか安心したような声と表情だった。

「……」
「……」

 そして何故か、私たちはそのままお互い沈黙してしまった。




「あ、あの殿下。私、そろそろ失礼致しますわ。明日からの学園の準備もありますし」

 ……この空気無理だわ!
 そう思った私は、この妙な空気に耐えられず自らそう口にした。
 今日はもう撤退した方が良さそう。

「あ?  あぁ……そうか。急に呼び出して悪かったな」
「いえ、私の方こそ…………失礼致します」

 こうして私は静かに執務室を出た。

  

 ****



 結局、何が何だかよく分からず、さらに目的だった婚約解消にも同意をもらえないまま屋敷に戻って来てしまった。
 と、言うよりも驚きの方が大きくて、それどころじゃなくなってしまった。

「うぅ……私、何やってるのかしら……」

 部屋で1人反省し、これからの事を考える。

 殿下は婚約解消をしてくれなかった。
 このままではまた同じ事を繰り返してしまうだけだ。
 だったら、何の為に3年も巻き戻ったのか。

「……やっぱり、未来は変えられないのかな?」

 でも、前回の人生は処刑されなかった。
 結果として命を落とした事は変わらなかったけれど、確かに変化はあった。

 だから、きっと!  
 今世だって違う未来がある……!

 過去2回、散々期待を抱いては砕かれたのに、私はやっぱり生きることを諦められないらしい。

「それにしても……本当に驚いたわ」

 もちろん殿下のこと。
 まさか、あんな素の顔を持っていたなんて。
   レインヴァルト殿下と会うのは怖かった。
 けれど、私の記憶から3年前にあたる15歳の殿下は、あの婚約破棄を告げる殿下とは当然だけど違っていて、更にあの口調と態度……何だか全てが拍子抜けしてしまった。

(──まさか、多少困惑はしたものの、4度目はこんな穏やかな気持ちで殿下と向き合えるとは思わなかったわ)


「不思議なものね……」

 始まったばかりの4度目の人生は、すでに過去と違う事が起きている。
 本当に何でだろう。

 そこまで考えた時、ふと突然思い出した。

「そうだわ!  病!」

 前回の人生で私は治療法の無い病で命を落とした。

「病について調べてみてもいいかもしれない……!」

 私は医学の心得があるわけではない。
 けれど、調べる事くらいなら出来るかもしれない。
 自分の命の問題だけでなく、あの病では多くの人が命を落としていたのだから。
 今後の役に立つことも何か見つかるかもしれない!

「あぁ、もう!  どうせなら学業の時間を、病を調べる時間に使えればいいのに」

 学業に関しては言わずもがな、私は最初の人生では努力に努力を重ね優秀な成績を収めてきた。
 3年生の1年間に至っては更に2度も繰り返した。
 もう十分すぎるくらい勉強したと思う。
 と言うか、正直もうお腹いっぱいだわ。
   
「……最低限の授業だけ出席すれば……きっと大丈夫、よね……?」

 入学したら、さっそく可能かどうか調べてみなくちゃ!  
 そう密かに決意した。

  
 どうして、今回の人生は1年ではなく3年も巻き戻っているのかは分からない。
 たとえ待ち受ける結末が変わらなかったとしても、私はやっぱり最後まで足掻きたい。
 繰り返された過去のせいで、私の心はあんなに冷え切っていたはずなのに、こうして再び期待と希望を抱くようになっていた。
 そう思ったのは、この4度目の人生がすでに色々違っていたから。


 ──そして更なる衝撃が翌朝、私を襲うのだった。

しおりを挟む
感想 158

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。

秋月一花
恋愛
「イザベラ。君との婚約破棄を、ここに宣言する!」 「かしこまりました。わたくしは神殿へ向かいます」 「……え?」  あっさりと婚約破棄を認めたわたくしに、ディラン殿下は目を瞬かせた。 「ほ、本当に良いのか? 王妃になりたくないのか?」 「……何か誤解なさっているようですが……。ディラン殿下が王太子なのは、わたくしがユニコーンの乙女だからですわ」  そう言い残して、その場から去った。呆然とした表情を浮かべていたディラン殿下を見て、本当に気付いてなかったのかと呆れたけれど――……。おめでとうございます、ディラン殿下。あなたは明日から王太子ではありません。

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。 失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜

津ヶ谷
恋愛
 ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。 次期公爵との婚約も決まっていた。  しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。 次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。  そう、妹に婚約者を奪われたのである。  そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。 そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。  次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。  これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。

悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ

春ことのは
恋愛
深夜、高熱に魘されて目覚めると公爵令嬢エリザベス・グリサリオに転生していた。 エリザベスって…もしかしてあのベストセラー小説「悠久の麗しき薔薇に捧ぐシリーズ」に出てくる悪役令嬢!? この先、王太子殿下の婚約者に選ばれ、この身を王家に捧げるべく血の滲むような努力をしても、結局は平民出身のヒロインに殿下の心を奪われてしまうなんて… しかも婚約を破棄されて毒殺? わたくし、そんな未来はご免ですわ! 取り急ぎ殿下との婚約を阻止して、わが公爵家に縁のある殿方達から婚約者を探さなくては…。 __________ ※2023.3.21 HOTランキングで11位に入らせて頂きました。 読んでくださった皆様のお陰です! 本当にありがとうございました。 ※お気に入り登録やしおりをありがとうございます。 とても励みになっています! ※この作品は小説家になろう様にも投稿しています。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

処理中です...