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2. 運命は変わらない
しおりを挟む再び、私は学園の3年生となる新学期の初日に戻って来たようだ。
どうして、あのまま死なせてくれなかったのか。
死ぬ事すら許されないなんて思ってもみなかった。
「……許される時はやってくるのかしら」
前回、2度目の悪夢のような3年生の1年間を再び過ごした事で、私の心は完全に冷え切っていた。
1度目の人生はともかく冤罪でも処刑されるなんて、この世界はどうやっても私を殺したいとしか思えない。
そして、それをまた繰り返させるとは。
ぼんやりとそんな事を考えていたら、馬車が停車した。
どうやら、学園に着いたらしい。
ここから降りれば、またあの2人の光景を目にする事になるのだろう。
そう思ったらチクリと胸が痛んだ。
「……どうしてかしら?」
何故、胸が痛むのかしら?
殿下と彼女がどうなろうと私にはもう関係ないはずなのに。
……殿下のことを慕っていたのは1度目の私。
2度目の私も、3度目となった今の私ももう殿下への想いなど無いはずなのに。
「~~~っ」
だって、私の処刑の命令を降したのはレインヴァルト殿下。
私は慕っていた男性に死んで欲しいと願われた身。
時が戻ったからと言って、再びそんな人に恋心など抱くはずがない。
だから、胸が痛んだのは気のせい────
そして、私は覚悟を決めて馬車から降りた。
しかし……
「……こ、これはどういうこと?」
その光景を見た私は呆然としながら呟いた。
私の記憶の中にある光景は、レインヴァルト殿下とメイリン・ヒューロニア男爵令嬢が出会い、寄り添いながら会場へと向かって行く姿だったはずなのに。
今、メイリン男爵令嬢の横にいるのは、殿下ではない別の人間だった。
「あれは……ロイ・フェンディ様?」
この国の宰相を務めているフェンディ公爵の嫡男で、将来の宰相候補と言われている。
そして、レインヴァルト様の側近でもある。
言わずもがな、あの日……殿下の横で私の罪状を読み上げ、かつ、私に処刑宣告をしに来た人物だ。
「…………どちらにせよ、私は関わりたくない」
私は目を伏せる。
そんな事もあり、ロイ・フェンディ様は私の中では、殿下とメイリン・ヒューロニア男爵令嬢の次に関わりたくない人物だった。
(だけど、何故……殿下ではなく彼が?)
殿下はどこに行かれたのかしら??
もしかしたら、今世は1度目とも、2度目とも違う未来が待っている……?
「…………っっ」
なんて、そこまで考えたけれど、期待なんてしない方がいいに決まっている。
どうせ、また私は同じ運命を辿るのよ。
「────フィオーラ嬢? そんな所に突っ立ってどうかしたのかい?」
「……っ!!」
突然、後ろから声が聞こえて私は思いっきりビクッと肩を震わせてしまった。
そろっと振り返る。
そこには思った通りの人物がいた。
そう────……
「レ、レインヴァルト殿下……」
「ごめんごめん、突然後ろから声かけるなんて驚かせてしまったよね」
殿下はふっと優しく笑った。
「い、いえ……」
まさか今、殿下がこの場に現れるなんて!!
私はうまく答える事が出来ず俯いてしまう。
「……? 何だか元気ないみたいだけど、大丈夫?」
「!」
そうだった。
今から1年後、冷たい目で私に婚約破棄を告げる事になるこの王子様は、この頃はまだ私に優しかった。
こんな私を愛してはいなかったでしょうけれども、ちゃんと婚約者として扱ってくれていたのだったわ。
(……最初の人生で愚かにもそれを全てぶち壊したのは私だけれど)
「だ、大丈夫、です。あ、私もう行かないと……先に失礼致しますわ!」
「え? フィオーラ嬢!?」
戸惑いの表情を浮かべる殿下の方を見ないようにして、私はその場から逃げ出した。
***
こうして始まった私の3度目の人生。
この3度目の1年間も、前回や前々回の人生とやはり少し違っていた。
まず、メイリン男爵令嬢がロイ・フェンディ様と懇意にしている。
それも人目も気にせずイチャイチャと……
よって、今世も2度目と同じように殿下と彼女の関わりは無さそうだった。
だからこそ、私は懲りずにまた淡い期待を抱いてしまった。
今度こそって───……
しかし、やはり運命は変わらないもので。
「今、この場で皆に発表させてもらおう! フィオーラ・オックスタード侯爵令嬢。君と私の婚約は今、この時をもって破棄させてもらう!!」
そう私に告げる殿下はとても冷たい目をしていた。
あの日、心配そうに声をかけてくれた時の優しさなど微塵も感じない。
「……」
私はそっとは瞳を閉じる。
殿下とメイリン男爵令嬢が恋仲にならなくても。
私がくだらない嫉妬をして虐めを実行してもしていなくても。
結局、私は婚約を破棄されて断罪を受けるという未来は決して変わらない───……
3度目に聞く、この宣言を私は黙って受け入れた。
あぁ、また私は牢へと連れて行かれ、最期はまた処刑されて死ぬんだわ。
そう覚悟した私に殿下から告げられた言葉は────
「フィオーラ・オックスタード侯爵令嬢を国外追放とする!」
「…………え?」
私はバチッと目を開けた。
思わず素の表情と声で聞き返してしまうほど驚いた。
国外追放……?
今回は処刑ではないの?
死なないの?
まさかの展開に頭がついていけていない。
でも、確かに聞いたわ。
“国外追放”だと。
どうしてか分からない。
けれど、死なない道が出来たらしい……
ついに、3度目にして許されたのかしら、私。
…………ここから新しい人生を始める事が出来るのかしら……?
この時、私の胸は高鳴った。
───────
────……
なーーんて、あの時そう思っていた自分の愚かさに呆れてしまう。
「ゲホッゴホッ……ケホッ…………っっ」
(苦しい……力、が入らない……もう、ダメね)
だって、私は……もうすぐ死ぬ。
2度も死んだのだから、死期が迫っていると何となく分かるわ。
寝台に横たわりながらそう考える。
────もう、私の身体は思うように動いてくれない。
私はあれから、本当に国外追放となった。
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その先は自分で働いていかなくてはならなかったけれど、生きている!
それだけで何でも出来る気がしていた。
しかし、追放生活が始まってすぐ、私の住んでいる地域に病が流行した。
一度かかると身体がどんどん衰弱していき、最後は息絶える。
治療法の見つかっていない病だった。
私は……それに罹患した。
そして、その病によりもうすぐ私は………………
「ど…………し、て…………」
(レインヴァルト…………殿下)
薄れゆく意識の中で、何故か最後に浮かんだのは彼の顔。
そして、私はどう足掻いても自分は死ぬ運命なのだと改めて思い知りながら、結局また18年の短い生涯を終えたのだった───
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