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プロローグ

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「今、この場で皆に発表させてもらおう!  フィオーラ・オックスタード侯爵令嬢。君と私の婚約は今、この時をもって破棄させてもらう!!」

 今日は、王立学園の卒業パーティー。
 卒業生達がこれからの未来に向けて心躍らせる一時であるはずの時間に、場違いとも言える発言が飛び出した。

「…………何故ですの?」

 突然、婚約破棄を突きつけられたのは、この国の王子、レインヴァルト・リュシアンフェル殿下の婚約者だった、フィオーラ・オックスタード侯爵令嬢だ。
 気丈に振舞っているようだが、いささかその声は震えている。

「何故だと?  君がメイリン・ヒューロニア男爵令嬢をあの手この手で虐めていた事は調べがついているんだ!  証拠も証人も揃っている。反論はあるか?」

 この言葉を受けて、殿下の脇に控えていた側近の口から、フィオーラが行った数々の悪事が暴かれていく。

「…………っ」
「君への処分は追って伝えよう。しばらくは牢で頭を冷やすといい」

 その全てが図星だった為か、一切反論する事も出来ず、フィオーラは衛兵に牢屋へと連行されて行った。





 どうして!  どうして!  どうして!  どうして、私がこんな目に!!!!
 騎士に連行されながら、フィオーラは頭の中でそうひたすら繰り返していた。
 ……メイリン・ヒューロニア男爵令嬢を虐めた事は……事実だ。
 そこは否定出来ない。
 それは、嫉妬から来るものだった。

 今年学園に入学してきたヒューロニア男爵令嬢は、私の婚約者である殿下と入学式に出会い、何故かその後、2人はどんどん親しくなっていった。
 ヒューロニア男爵令嬢と一緒にいる殿下は、私と一緒にいる時では見た事のない顔を見せるようになっていった。

 6年も婚約者として過ごしてきたのに。
 将来の王妃になる為、たくさん勉強してきたのに。

 何で、何で、何で?  何で私では駄目だったの?


 許せなかった。


 私と殿下は、政略による婚約だった。
 始まりに愛は無かった。
 でも、私は違った。
 婚約者候補として初めての顔を合わせたその時に一目惚れをしていたからだ。金髪碧眼の容姿端麗な、王子様に私は心を奪われ、婚約者に決定した時は歓喜に震えた。

 しかし殿下は、私ではない令嬢を選んだのだ。

 あまりの悔しさに私はメイリン嬢を虐めた。
 自分の友人を使い自身の手は汚さずに。
 それでも鬱憤は晴れなかった。
 当たり前だ、私が彼女をを虐める度に、メイリン嬢を慰めるのは殿下の役目だったのだから。
 私がした事は2人の距離を近付けただけ。
 そして、罪は暴かれ私は婚約破棄された。

 メイリン嬢を虐めた事は後悔していない。
 だから私は決して謝ったりなどするものか!!

ここから出たら覚えていなさいよっ!!」

 ……その時の私は直ぐにこの場所から出られるとばかり思っていた。




 だけど─────



 一向に釈放の話が出ない。
 牢の中で何日過ごしたのだろう? 
 余りにも先の見えない日々のせいか、私は段々と生きる気力を失い、かつての上位貴族の影をみる事も出来ないほどやつれていった。

 そしてある日、私の元へ殿下の側近の1人がやって来て告げた。



「フィオーラ嬢、君の処刑が決まった」



 この言葉を聞いた時、“あぁ、私は殿下にとって邪魔な存在なのだ”と悟った。
 殿下が愛しい令嬢と添い遂げる為には、私が生きている事はきっと色々と都合が悪いのだ。
 だから私は処分されるのだ、と。



 もう涙すら溢れなかった。




 そうして私は、18年の短い生涯に幕を降ろした。




 かつて、心から愛しいと想っていた人の手によって。
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