【完結】憧れの人の元へ望まれて嫁いだはずなのに「君じゃない」と言われました

Rohdea

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20. 兄妹の訪問

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(どうしてこの二人が……)

 そう思わずにはいられない。
 プラウズ伯爵家の兄、ロイドは人妻のマーゴットを二度も口説いた不届き者だったはずだ。
 報告を受けて以降は、マーゴットから話を聞くことは無かったから、てっきりマーゴットのことは諦めたのだとばかり……
 そして。
 妹───マーゴ。

「……きっと、これがマーゴットに出会う前なら浮かれていたかもしれないな」

 今の俺は名前を見て冷静にそう口にするくらいマーゴ嬢に対する想いは“無”だった。

「遠目で見て惹かれて、雰囲気や噂だけで癒しの人だと思っていた……が」

 本当にあれは恋だったのだろうか?
 この一年間でマーゴットに感じてきた想いとは全然違うように思える。
 だって、本当に心が癒されるということがどういうことなのかを俺はマーゴットの愛情によってたくさん教わったから。

「……マーゴット」

 こうしてマーゴ嬢の名前を見ても俺の頭の中に浮かぶのは全部、マーゴット。
 改めて自分の心の中には、もうマーゴットしかいないのだと思わされた。



(───名目上は“マーゴット”のお見舞い……か)

 マーゴットを探すためにも俺は、先日王宮へ挨拶に向かい、騎士団への復帰をお願いした。
 この一年、なまりになまったこの身体でいきなりの戦闘要員としての復帰は難しい。
 だが、雑務などをこなす裏方からなら──と、一年ぶりに俺の復帰が大々的に発表されたばかりだ。

 周囲からの復帰するのはもう少し落ち着いてからでも……という説得を振り切って復帰を急いだ目的は、もちろん、マーゴットの捜索のため。
 騎士団はあらゆる地域や場所に派遣されるから、各所の情報を得やすくなる。
 ……しかし。
 俺が復帰するとなると、今度はマーゴットの不在が目立ってしまう。
 マーゴットは、サイン済みの離縁届けを置いていったが、俺がまだサインをして提出をしていないので、現状、マーゴットは俺の“妻”のまま。
 マーゴットの意思に反することとなり心苦しいが、ちゃんとマーゴットと会って話をするまではどうしても提出する気になれなかった。

 そうなると───
 これまでは、マーゴットが社交界にあまり現れなくても、“夫の看病”と思われ不思議に思われることはなかった。
 だが、俺が復帰したとなるともうそれは使えない。
 そのため、父上とも話して今度はマーゴットが療養中だということにしたが───……

(こんなに早く訪ねてくるとは……何が目的なんだ?)

 不審に思いつつ、俺はマーゴットに繋がる何かがある可能性も捨てきれないため、プラウズ伯爵家の兄妹を迎えることにした。


────


「突然の訪問、申し訳ございません、プラウズ伯爵家の嫡男、ロイドと申します」
「同じく、娘のマーゴと申します」

 そうして迎えたプラウズ伯爵家の二人。
 兄の方もたまに社交界で見かける程度。まともに話をしたことはない。

(何だかナヨナヨした雰囲気だな……)

 女性に騒がれそうな甘いマスク……顔立ちをしているが、何だか胡散臭いオーラが全開だった。
 ……マーゴットを口説いた男……というのが俺の中にあるせいなのかもしれないが。
 そして、マーゴ嬢はというと……
 チラリと視線を向けると、目が合った彼女は優しく微笑んだ。
 姿を見るのは一年ぶり以上になるが……

(……)

 その微笑みを見ても心が全く動かない。
 改めてマーゴ嬢に抱いていた気持ちは過去のものなのだと思わされた。

 むしろ、これがマーゴットだったなら……
 マーゴットはちょっと照れくさそうに微笑むことが多かった。
 その微笑みにつられてか俺も照れくさくなって頬が熱くなり胸がポカポカして──
 ……などと考えてしまう始末。

(───それにしても、今日のマーゴ嬢……)

 さらに、俺は彼女の姿を一目見てからずっとある不信感が芽生えていた。

「───マーゴット様が療養中と聞いて心配で心配で……こうしてお兄様にお願いして本日は訪問させてもらうことにしましたの。お受けくださりありがとうございます」
「そうですか、こちらこそありがとうございます。では、立ち話もよくないので中へどうぞ」
「ふふ、ありがとうございます。お邪魔させていただきます」

 そう言って頬を赤く染めて嬉しそうにフワリと笑うマーゴ嬢。
 兄と共に上がり込むそんな彼女からは少々キツめの香水の匂いが漂ってきた。

「……」

(……療養中の人間を見舞うという名目なのにその香りはキツくないか?)

 そんな疑問が頭の中に浮かぶ。
 そもそも最初に抱いた違和感もこれだ。
 マーゴ嬢は、今日はそのまま夜会にでも参加するのかと聞きたくなるくらいに気合いの入った装いだったから。
 公爵家への訪問だから改まった装いで……そう言われればその通りなのだが、それにしても……という思いを抱いた。
 そして、とどめとなるこのキツイ香水だ。
 全くもって理由がわからなかった。



「え!  マーゴット様にはお会い出来ないんですの?」
「申し訳ないが面会は全て遠慮させてもらっています」
「ええ……そんな……せっかく会いに来たのに……」

 俺がそう説明すると、マーゴ嬢は悲しそうに目を伏せて分かりやすく肩を落とした。

「こら、マーゴ。無理を言って困らせるな」
「お兄様……ですけど私、本当にマーゴット様のことが心配で心配で……」
「……」

(なんなのだろうな、この違和感は……)

 普通にマーゴットの容態を心配してくれているだけのはずなのに。
 そう考えて、あぁそうかと思った。
 マーゴットの口から、兄のロイドの話は聞いたが、マーゴ嬢の話は全く聞かなかったからだろうか。

(マーゴットのことだ……俺に気を使ったのだろう)

 だが、本当に二人は見舞いに来るほど仲が良かったのだろうか?
 マーゴットのことで肩を落とす彼女の姿を見ながらそんな疑問が浮かぶ。

(穿った見方かもしれないが何だか別の目的があるように見えてしま……)

「仕方がないさ。ナイジェル殿には彼女を私たちに会わせられない事情があるのかもしれないだろう?」
「お兄様ったら!  確かに社交界では噂になっていますけれど……」

(──ん?)

 会わせられない事情?
 社交界の噂?
 騎士団には復帰したが、社交の場には姿を見せていないのでそう言った噂はまだ俺の耳には入って来ていない。

「……コホンッ、それはどういう意味だろうか?」
「え、あ……」

 兄のロイドが何か言いにくそうに目を泳がせる。

「すまない。こちらも病み上がりなもので情報には疎くてね。何の話だろうか?」
「そ、それは……」
「───ナイジェル様とマーゴット様が不仲だという噂ですわ」

 言いにくそうな兄の横からマーゴ嬢が口を開いた。

「……不仲?」

 さすがにそれは聞き捨てならない。

「え、ええ。お二人の結婚のきっかけはナイジェル様が療養生活に入られたことがきっかけだという話でしたから……」
「……」

 俺とマーゴットが結婚したのは俺が療養中に治癒能力持ち家系であるマーゴットと出会って恋に落ちたから──なんて騒がれていたことは知っている。
 まさか、俺が無事に治癒して復帰したことで、マーゴットは用済みだと捨てられた……そんなことを言われているのでは?

 そう思ったが……実際はもっと酷いものだった。

「マーゴット様は……自分の治癒能力を武器にナイジェル様に近付いていて……そして立場を利用してナイジェル様を亡き者にし、あわよくばと財産を狙っていたけれど失敗した。それで二人の仲は冷え切ったものになった……と」
「……」
「そんな、とんでもない話……まさかと驚いてしまいますわよね」
「……」
「ですが、まさか、ナイジェル様がこの話をご存知なかったなんて!  ナイジェル様……私はあなたのことが心配でしょうがなかったんです……」

 マーゴ嬢は瞳に涙を浮かべると、手を伸ばして俺に擦り寄ろうとして来た。

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