【完結】憧れの人の元へ望まれて嫁いだはずなのに「君じゃない」と言われました

Rohdea

文字の大きさ
上 下
10 / 34

10. 初めての会話

しおりを挟む


(な、なぜ……!  よりにもよって貴女なの!)

 まさかのマーゴ嬢の突撃に驚きを隠せない私。
 そんな私の表情を感じ取ったマーゴ嬢は「あっ!」と小さく声を上げた。

「ごめんなさい!  ……ご結婚されたんですよね、失礼しました……」
「い、いえ」

 今回のパーティーに参加した目的そのものだし、会いたいとは思っていたけれど、向こうから話しかけられることは想像していなかったので、うまく言葉が出て来てくれない。
 そんな私とは対照的に、マーゴ嬢は明るい華やかな笑顔を私に向ける。

「ですけど、マーゴット様とはこれまで中々、お会いすることが出来なかったので……本日のパーティーには参加されると聞いてつい……」
「参加すると聞いた?」

 私が聞き返すとマーゴ嬢はふふっと笑った。
 声は可愛いし笑顔は美しい……

(ナイジェル様が一目惚れするのも分かるわ)

 そんなことを考えてしまって少しだけ胸がチクっと痛む。

「このパーティーの主催者のロビート侯爵令嬢のリリスからですわ!」

 それを聞いてやっぱり二人の仲が良いというのは間違っていなかったのね、と思った。

(それにしても……)

 マーゴ嬢が、話しかけて来た目的は何?
 私は内心で警戒する。

「マーゴット様が結婚されたので、もう私たち“紛らわしい”なんて言われずに済みますわね」
「……そうですね」
「家名だけでなく、名前までこんなに似てしまって……」

 本当に私と話がしてみたかっただけなのか、マーゴ嬢はこれでもかとよく喋った。
 そして、話題はやはりというか私の結婚話に───

「突然の結婚に社交界には大きな衝撃が走りましたわ」
「で、ですよね……!」

(私も色んな意味で衝撃でした!)

「婚約ならまだしも、いきなりの結婚でしょう?  しかも、それまでマーゴット様とフィルポット公爵令息様が親しくしている様子もありませんでしたから」

 ……これは、探りを入れられている、で、いいのかしら?

「確かに急ではありましたが、ご縁がありまして……」
「……ご縁が」

 私がそう答えると、一瞬だけマーゴ嬢の眉がひそめられた気がした。

「……マーゴ様?」
「あ、いえ!  なんでもありませんわ!  あんな素敵な方とご縁があったなんて羨ましいと思ってしまいましたの、ほら、私は……」
「失礼ですが、マーゴ様は結婚のご予定は?」

 ちょうどマーゴ嬢自身の話になったので、無粋だと分かっていたけれど私はすかさず訊ねる。
 だって、ナイジェル様の呪いが解けるまでの間にマーゴ嬢が誰かと結婚してしまう可能性があるのか……知りたかったから。

 ナイジェル様は、マーゴ嬢に今さら求婚なんて出来ない……みたいなことを言っていたけれど、いざ、呪いが解けて私と別れた後にマーゴ嬢が独身だったらやっぱり求婚を考えると思う。

「私?  今のところ予定はないですわね」
「……そう、ですか」

 すると、マーゴ嬢は少し遠い目をしながら言った。

「それに、私にはずっと憧れている人がいて、ですが相手はちょっと身分が───……」
「え?」
「あ、なんでもないです……今のは独り言なので忘れてくださいませ」

 マーゴ嬢は言いすぎたと思ったのか笑って誤魔化してしまった。

(憧れている人……)

 自分にも憧れていた人……ナイジェル様という存在がいたせいなのか、無性にその言葉が心に残った。



 その後、もう少し話を続けようと思ったけれど、ちょうどその辺で痺れを切らした他の人たちが私たちの元へとやって来てあっという間に囲まれてしまった。

「マーゴだけずるいわ!」
「私にも話を聞かせて!  どうやってあのナイジェル様と結婚したの!?」
「出会いは?  きっかけは?」
「療養が長引いているけれど、身体の具合は?」

 噂好きの令嬢たちは一度、火がつくと止まらない。
 次から次へと繰り出される質問はとどまることを知らなかった。

 事前に囲まれたらなんて答えるかは、予め公爵様と取り決めておいたので、私は当たり障りのない返答をしてその場から逃げた。



 輪の中から逃げ出した私は、会場の隅で息を整える。

(───やっぱり質問責めにあったわね……)

 ただ、思っていたよりもバチバチの目で見られなかった。
 “じゃない方のマーゴ”が相手だなんて……くらいの嫌味は言われるのかと思っていたのに。

「……あ、そっか。婚約者ではなく、もう結婚しているから……?」

 当主が付き添ってパーティーに現れた私に、喧嘩を売るのはフィルポット公爵家に喧嘩を売るのと同じこと。

「すごいわ……公爵家って」

 私がそう呟いた時だった。

「────マーゴット・プラウス伯爵令嬢!  ……じゃない、フィルポット夫人……」

 男性の……知らない声、誰かしら?  と思いながら振り返る。
 振り返ってその姿を見て驚いた。
 話したことはなかったけれど、存在は知っている───……

「突然、声をかけてすみません。先程、姿を見かけたのでつい……あ、私は」
「存じております……初めまして。ロイド・プラウズ伯爵令息様」

 私はどうにか笑顔を見せたものの内心では焦っていた。

(なんで、今日は次から次へと!)

 なんとここに来て声をかけてきたのは、マーゴ嬢の兄、ロイド様。
 マーゴ嬢同様、存在は知っていたけれど、いざこざによりこれまで接触らしい接触をすることのなかった方───……

(美形兄妹として有名なのよね……)

 こんな間近で顔を見るのは初めてかもしれない。
 そう思ってロイド様の顔をチラッと見る。

(……確かに美形だなとは思うけれど……やっぱりナイジェル様には敵わな……ハッ!)

 油断するとついついナイジェル様のことを考えてしまいそうになる。

「夫人?」
「え?  あ、すみません、な、何か御用ですか?  プラウズ伯爵令息様」
「ああ、突然すみません。実は私もずっとプラウス伯爵家の貴女と話がしてみたいと思っていたもので───」

 ロイド様は他の令嬢たちが見たら、キャーッと悲鳴をあげそうな甘い微笑みを浮かべてそう言った。





✳✳✳✳✳✳


 ナイジェルはしばらくの間、マーゴットの残した庭をただ静かに見つめていた。
 そこへ、父親がやって来る。

「ナイジェル、帰っていたのか」
「……父上」
「……黙って庭を眺めていてもマーゴットがいないのは変わらないぞ」

 その言葉がズキッと胸に刺さる。

「分かっています……プラウス伯爵にも“ここにはいません”と言われました」
「……そうか」

 肩を落とした俺に向かって父上は言う。

「……ナイジェル。お前はマーゴットを探したいと言うが、彼女がお前の呪いを解けたことを確信して他の男の元に行った……とは思わないのか?」
「え?  他……の?」

 そう指摘されて心の底から驚いた。

「これは元々、“人間違い”から始まった求婚による結婚だ。マーゴットは心優しい女性だから、お前の呪いに同情して一年根気よく付き合ってくれたが、実は他に好きな相手がいたとしたら?」
「マーゴットに好きな男……?」
「そうだ。それで呪いの解呪方法があると知り、もうお前に付き合う義理はないとその男の元で幸せになろうと───」
「父上!  …………それはない!」

 自分でもびっくりするくらい強い声が出た。

「……ナイジェル?」
「いや、マーゴットの好きな男に関して……は俺が断言出来ることじゃない。だけど違う」
「違う?」

 父上が怪訝そうな表情になる。
 その顔はなぜそう言える?  と、言っている。

「もし、そんな相手がいてここから出て行くと決めたのだとしても、マーゴットならちゃんと話をしてくれる。出ていくのはその後だ!」
「……ナイジェル」
「マーゴットは手紙だけを置いて他の男の元へ……そんなことをする人じゃない!  マーゴットをそんな軽い女みたいに悪く言わないでくれ!」

 俺がきっぱり否定すると、父上の顔が一瞬苦しそうに歪んだ。

「…………一年は、長かったな」
「?  父上?  どういう意味ですか?  やっぱり何か知っているんですよね?」
「……」

 俺は父上の肩を掴んで大きく揺さぶる。

 どうして父上は何も答えてくれない?
 呪いの解呪だって誰が施したのかすら教えてくれないし……何かがおかしい。

 そうして、父上を揺さぶっているとプラウス伯爵から渡された手紙がヒラッと落ちた。
 俺は父上から手を離し、慌ててそれを拾う。

(そうだ……開封するのが怖くてまだ、中身を読めていなかった)

 探さないでくれ……と書かれているのでは?  と勝手に思ってしまったが、もしかしたら何か違うことが書いてあるかもしれない。

「ナイジェル?  それは?」
「……マーゴットがプラウス伯爵に俺が来たら渡すようにと託していた手紙だ」

 そう言って俺は、マーゴットの残した手紙をどうにか震える手で開封した。


✳✳✳✳✳✳

しおりを挟む
感想 203

あなたにおすすめの小説

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

近すぎて見えない

綾崎オトイ
恋愛
当たり前にあるものには気づけなくて、無くしてから気づく何か。 ずっと嫌だと思っていたはずなのに突き放されて初めてこの想いに気づくなんて。 わざと護衛にまとわりついていたお嬢様と、そんなお嬢様に毎日付き合わされてうんざりだと思っていた護衛の話。

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます 2025.2.14 後日談を投稿しました

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

【完結済】侯爵令息様のお飾り妻

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

処理中です...