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第14話 証拠の在処
しおりを挟む「このペンダントが、鍵?」
私は自分の首に掛かっている鍵型のペンダントを見せながら説明した。
「だと思うの。スフィアはわざわざあの日、コレを私に託していったのよ? 何か意味があるとしか思えないわ」
「うーん……だとしてもなぁ。そもそも何の鍵か分からないじゃないか」
お兄様は、半信半疑って感じだ。
自分でも、絶対の自信があるわけではない。でも、あのスフィアが意味もなく私にこのペンダントをくれたとはどうしても思えない。
「俺はリリアを信じるぞ」
ロベルトが、そっと近付いて来て私の手をギュッと握ってくれた。
とても心強くて、それだけでホッとした。
「ロベルト……!」
嬉しくてロベルトと見つめ合っていたら、お兄様が間に入ってきた。
「あー、あー、もー! 頼むから目の前でイチャつくな!!」
「……イチャ!? そ、そんな事してないわ?」
私は顔を真っ赤にして否定する。
イチャイチャ? ただ、ちょっと見つめ合っただけよ!
「…………無自覚かよ……」
何故かお兄様がげんなりした顔で呟いた。
何でそんな顔をするの。
「あーコホン、で、リリア? リリアはその鍵穴に心当たりはあるのかい?」
お父様がこの空気に耐えられないって顔をしながら間に入って来た。
「そ、それが……さすがにそこまでは分からなくて。スフィアもその事は何も言ってなかったから」
そうなのだ。鍵だけあっても肝心の鍵がかかってる物が分からない。
残念ながら心当たりを問われても私には思いつくものがなかった。
これは何の鍵なのだろう?
まずは、それをどうにかして探らないと!
──そんな時だった。
「なるほど。やはり鍵はミラバース伯爵令嬢が持っていたのか」
4人でうーんと悩んでいたら、背後から突然声が聞こえてきた。
誰? と思い振り返ると、そこに立っていたのは……
「フリード!」
「「「フリード殿下!?」」」
この国の王太子であるフリード殿下が部屋の入口に立っていた。
え? ちょっといつのまに!?
「伯爵、それにキース。連絡もせずに来訪して申し訳ない。どうしても確認したい事があって急いで訪ねて来たんだが」
「……王太子がほいほい出歩くなよ……」
お兄様が軽く王太子殿下を咎めた。
「もちろん、護衛もいるぞ」
「そういう問題じゃないだろ!!」
私は、びっくりしてその場から動けない。
兄が側仕えしているとはいえ、王太子殿下が我が家にやって来るなんて。
って、あら? よく見たらお父様も固まってるわね。
そうよね、驚くわよね……
しかし、何故王太子殿下が我が家に? 確認したい事って何かしら?
私が未だに動けずに固まったままでいたら、殿下は私の元に近付いて来て謝罪の言葉を口にした。
「ミラバース伯爵令嬢……いや、リリア嬢。この度は弟が申し訳ない事をした」
「……えっ?」
王太子殿下に謝られた事で驚いた私は、思わずそのまま言葉を返してしまった。
「あぁ、楽にしてくれていいよ、この訪問はお忍びだからね」
「あ、ありがとうございます」
私がそう言うと、王太子殿下はため息を吐きながら言った。
「君は今回のニコラスの件の被害者だろう?」
「被害者……と言いますか……」
「どう考えても被害者だと思うが? 君には婚約者がいるのにニコラスが君を脅して横槍を入れてきたんだろう? だから君達の婚約は今、解消に向けて動いてしまっている。違うかな?」
フリード殿下は私とロベルトを見て言う。
「違いません……」
「まぁ、この件が片付いたら元に戻せるはずだよ。俺からも陛下に口添えするからそこは安心して欲しい」
王太子殿下が直々に口添え!? 恐れ多すぎます!
私は思わず慄いた。
「……それよりも、まず今はその鍵の話だな。実はさっき地下牢にいるスフィアの元へ行ってきてね。色々問いつめて来たんだよね」
王太子殿下は、ニッコリ笑って事も無げに言う。
問いつめた!? フリード殿下はいったいスフィアに何を……
「俺としては小一時間くらい問いつめたい事が山ほどあったんだけど、警備の隙をついて行ったから時間が無くてさ……」
「フリード! そこはいいから話を戻せ!!」
お兄様がすかさずツッコミを入れる。
えっと……色んな意味で続きが気になります……が、さすがに口には出せない。
「チッ……で、そこでスフィアから、どうにかこの箱の情報を聞き出してね、でも鍵がかかっていて。残念ながら鍵の在処までの話は時間切れで出来なかったから、何か知ってる事あるかと思ってミラバース伯爵家を訪ねて来たわけだ。どうやら当たりだったみたいだな」
そう言ってフリード殿下は1つの箱を私達に見せてきた。
この中に、何か証拠となるものが入っているの?
「……スフィアは大丈夫でしたか?」
「うん。俺から逃げようとするくらいには元気だったよ」
「へっ!?」
逃げる? スフィアとフリード殿下ってどんな関係なの……
そんな疑問が私の中に浮かんだ。
「あの……何故、殿下はスフィアが証拠を持っていると知っていたのですか?」
「あぁ、スフィアには、“影”がついてるからね」
「それはニコラス殿下の婚約者だからですか?」
王族の婚約者だからつけられているのかも、と思っての発言だったけれど、私の言葉にフリード殿下は首を横に振って言った。
「違う。スフィアには俺の影がついてるんだ」
「えっ!?」
何で!? フリード殿下の影がスフィアにつくの?
本当に二人はどんな関係なの!?
どうやらそんな疑問が今度は思いっきり顔に出ていたようで、フリード殿下がニッコリ笑って答えてくれた。
「スフィアは俺の大事な人だからね。……まぁ、そこのところ本人は全然分かってないみたいだったけど」
「…………!?」
大事な人? それって、つまりフリード殿下はスフィアの事を……?
「で、俺はスフィアを取り戻す為、動いてるってわけだ。……協力してくれるよね?」
何だか黒い笑顔って言葉がぴったりな微笑みを浮かべてフリード殿下はそう言い切った。
「……は、はい。勿論です」
当然ながら断る事など許されない空気だった。
「……王宮に出入りしてる人達の中では有名なんだぞ」
「?」
お兄様が、私の耳元でコソッと小声で言った。
「フリードがスフィア嬢を溺愛してる事」
「ふぇ!?」
その言葉に私は思わず目が点になった。
知らなかった……! スフィアからも、そんな話はもちろん聞いたことが無い。
これは殿下がスフィアは全然分かってないと言っていたからだろうか。
「確かに、スフィアはその辺りの事が本当に鈍いみたいで、昔から殿下の態度は分かりやすかったのにも関わらず全くその気持ちには気付いてなさそうなんだよな」
お兄様の言葉にロベルトも乗っかる。
「…………そろそろ、いいかな? まぁ、俺も時間さえあるならスフィアへの愛を語り尽くしたい所だけど。残念ながら今は時間が無いのでね」
またしてもとんでもない発言を聞いた気がする。
聞かなかった事にしよう。
しかし、フリード殿下ってこんな人だったのね。
……好きな女性が絡むとちょっとおかしな方向になるのは、血筋なのかしら?
でも、フリード殿下はニコラス殿下と違ってまともな方……よね?
そうでないと困るわ!
失礼ながらそんな事を考えてしまった。
「えっと、それではペンダントの鍵でこの箱を開けてみればいいんですね?」
気を取り直して私は箱へと向き合った。
そろそろと箱の鍵穴に鍵を差し込む。
………………カチリ
やはり、この箱の鍵だったらしい。
ドキドキしながら、箱の蓋を開けてみた。
そして、私はそこに入っていた物を取り出した。
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