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第13話 これからすべきこと
しおりを挟む「私は殿下に見初められたわけじゃないの」
「えっ?」
長い長いキスを終えて、さっきまでの甘い雰囲気を断ち切るように、私は告げた。
スフィアが酷い目にあってるというのに、自分だけ甘い世界に浸っているわけにはいかない。
ロベルトもその事を思い出したのだろう、先程までとは雰囲気が変わり真剣な声で聞き返してくる。
「どういう事だ?」
「そのままの意味よ。ニコラス殿下は私に好意を持って愛妾になる話を持ってきたわけじゃないのよ。……あれは脅しなの」
「脅し!? ……いや、それよりもリリア」
ロベルトは、大きく狼狽えている。
「……? あ、もしかして記憶の事? ごめんなさい。先に言うべきだったわ…………全部思い出したの」
「リリア……」
ロベルトは私の言動で、記憶が戻ったのでは?
と、薄々感じてはいたみたいだけど半信半疑だったようだ。
「……お兄様達にも話さないと。下の部屋に居るの?」
「あ、あぁ。応接間にいるはずだ。とりあえず、俺だけがリリアの様子を見に来てたから」
「それなら、応接間に行きましょう」
私はベッドから出ようとする。
「動いて大丈夫か?」
「大丈夫! 今は色々スッキリした気分なの」
「無理はするなよ?」
そうして私はロベルトに支えられながら、応接間に向かった。
部屋に着くとお父様とお兄様が深刻な顔をして話をしていた。
「お父様、お兄様……」
私が声をかけると、2人は勢いよくこちらに振り返った。
さすが親子! 息がぴったり!
「リリア!! 大丈夫なのか!?」
お兄様が身を乗り出して心配してくれた。その顔色は悪い。まぁ、目の前で倒れられたのだから仕方ないわよね。本当に申し訳ない。
「大丈夫です。心配かけてごめんなさい。それと……酷く取り乱してしまって……」
「いや、いいよ。大丈夫なら安心した。それより、リリア……」
お兄様は私の様子を見て安心したようだ。
「はい」
私は、取り乱していた時、明らかに記憶を取り戻していないと分からないような事を口走っていた。
だからこそ、お兄様はずっと気になっていたのだろう。
「……お父様、お兄様、私、全て思い出したわ。……ニコラス殿下と私の間に起きた事も」
「倒れる前に、“脅された”とリリアは言ってたな。その事か?」
お兄様の言葉に私はコクリと頷く。
私は3人に、ニコラス殿下のとセレン男爵令嬢の話を聞いてしまった事、そこから脅しを受けた事、自分を愛妾にと望んだのは監視下に置くためだった事などを事細かに説明した。
「……だから、か」
話を聞き終えたロベルトが小さく呟いた。
「……学院でもろくに接点が無かったし、毎日セレン男爵令嬢を人目も憚らず溺愛行動してるような殿下が何で突然リリアを望んだのかが疑問だったんだが……」
「言えなくて、ごめんなさい……」
脅され口止めされていた上に、巻き込みたくなくて言えなかったのに結局、余計に事態を悪化させてしまった。
「いや、でもこれで色々繋がった」
ロベルトは安心したように笑う。
「……ニコラス殿下が色々と企んでいるのは知ってたが、まさかリリアが巻き込まれているとは、な」
お兄様が続けて言う。
「そうなの!?」
「あぁ。だから俺はフリード……王太子殿下の命令で帰国を早めたんだ。予定より早い帰国だっただろう? ニコラス殿下が王位を狙ってる話は向こうで耳にしていたんだ」
「知っていたのね……」
「俺はフリードより一足先に帰国したんだが、フリードも今朝、無事に帰国したよ」
あの日から記憶を失くすまで、私はずっと王太子殿下の暗殺を彼らが企んでいる事がずっと気がかりだった。私はその計画を知ってしまったのに誰にも言えないでいる。
王太子殿下は大丈夫なのか、と……
もちろん、まだ油断は出来ないけど無事に帰国されたなら、ひとまず帰国の隙を狙った暗殺計画は破綻した事になる。
「そう言えば、お兄様も王太子殿下も予定では私達が学院を卒業する頃が帰国予定だったわ」
「そうだな…………ただ、まぁ、フリードが帰国を早めようとしたのはニコラス殿下の暗躍が理由じゃなかったんだけどな」
「えっ?」
お兄様が小さく何事か呟いたが、よく聞こえなかった。
「気にするな。それより、リリアの話だとどちらかというとセレン男爵令嬢がニコラス殿下を唆している印象を受けたが?」
「それは私も思ったわ。ニコラス殿下は最初、躊躇ってたように感じたもの」
私がそう答えると、
「フリードとニコラス殿下は、昔は仲が良かったんだよ。ニコラス殿下はいつも兄上、兄上! と言って、フリードについて回ってたし。フリードの側にいる俺は何度敵視の目を向けられた事か……」
そう言いながら、お兄様がどこか遠い目をする。
ニコラス殿下が、ブラコン拗らせた人みたいになっているんだけど……全然想像がつかない。
「……確かにセレン男爵令嬢と会うまでのニコラス殿下はそこまでじゃなかったな。目に余る行動を起こすようになったのもここ最近だ」
ロベルトも、そういえば……といった様子で語る。
私自身もあの時そう思ったわ。
何だか全ての元凶は、セレン男爵令嬢にある気がしてならない。
彼女にとってスフィアはとにかく邪魔な存在だったのだろう。
だからといって、有りもしない罪をでっち上げて捕らえるなんて許される事ではない。
「……お父様……スフィアは、今はどうしているの?」
王宮内の事は、お父様の方が詳しいはずだ。そう思って聞いてみる。
「現状、変わらずだな。牢屋に繋がれてると言っても、上級貴族専用の牢だからね。酷い扱いは受けてないはずだよ。今は取り調べを受けてる頃だと思うが……」
お父様の言葉にひとまずホッとする。もちろん安心は出来ないけど。
「夜会でのスフィア嬢は、ニコラス殿下の追求に肯定も否定もしなかったらしい」
お兄様の言葉に衝撃を受けた。
学院で嫌がらせを受けている時も、スフィアは誰かにその事を伝えようとしていなかった。どうしていつも黙ったままなの!?
「……何か考えがあっての事なのか……」
ロベルトがポソリと呟く。
確か、ロベルトはさっきスフィアはこうなるって分かってたのでは? と言っていた。
「……どうも、あの夜会で集まっていた貴族達はニコラス殿下派のヤツらばかりだったらしい。だから、スフィア嬢を守る者も擁護する者も居なかった。スフィア嬢はそれを分かってたんじゃないのか?」
お兄様が悔しそうな顔で言う。
「どうしたら、スフィアの無罪を主張出来るのかしら? 何かニコラス殿下達の企みの証拠となるものがあればいいのに……」
私が脅されていた事は、形に残っていないから証拠にはならない。
ニコラス殿下とセレン男爵令嬢の企みが明らかになるような何か形として残ってる証拠があればスフィアを救えるはずなのに!
「アイツもそれを探してるんだよな……スフィア嬢が捕まる前にどこかに残してるはずなんだ! って言ってるんだけどな」
そうお兄様が呟く。
…………アイツって誰?
気になったけど、今重要なのはそこじゃない。
スフィアが残したもの……残したもの……私はブツブツ呟く。
その時、身体を前に屈めていたせいで、首に掛かってたペンダントが服から出てきてしまった。
「…………ん?」
そういえば、このペンダントはー……
あの日スフィアはわざわざコレを私に渡しに来たと言っていた。
私には幸せになって欲しい、と。
まるで、自分の幸せなど構わないと言うように。
そうだ。別れ際も『またね!』とは言ってくれなかった!
もう、会えないと思っていたから?
ロベルトの言うように、スフィアは自分が捕まる事を分かっていたから?
あぁ、あの時チラッと抱いた違和感はこれだったんだ。
記憶が無かったとしても、何でもっと早く気付かなかったの!
あの時のスフィアの返しは不自然だった!
間違いない……スフィアは何か証拠を持っていて、あの日私とロベルトにその証拠を託したんだわ。
その鍵となるのがこのペンダント……
だけど同時に思った。
きっと、スフィアはその証拠を自分を助ける為に使って欲しいとは思っていない気がした。
疑問はいっぱいある。
だけど、スフィアが望んでいなくても私は彼女を助けたい!
私はギュッとペンダントを握りしめて声をあげた。
「このペンダントが証拠を握る鍵だと思うの!」
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