【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました

Rohdea

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第5話 不審者の正体

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「え?  ……誰!?」

  突然、現れた男性に私はもちろん覚えがなくて戸惑う。
  不審者……とか一瞬思ってしまったけれど、さすがにそれは無いはず。ここは我が家の庭だし。
  そうなると、私の名前を呼んでいたのだから、知り合い……なのよね、きっと。
  ロベルトは知ってる人なのかしら? 
  そう思ってチラリとロベルトの方を見ると、ロベルトもどこか驚いた顔をしていた。
  そして、小さな声で呟いた。

「キース様…………帰国されてたのか」

  キース様?  
  それがあの人の名前?  帰国?

「ロベルトの知ってる方なの?」

  私がそんな疑問を問いかけると、ロベルトは何故か苦い顔をしたので思わずギョッとする。
  ロベルトは、なんでそんな顔を!?
  そんな危険な人なの??  え、やだ、怖い……
  
「あ、いや…………知ってるも何も……」

  ロベルトはそう言いかけたのだけど、それを最後まで聞くよりも前にその男性がこちらに近付いて来ていて、私は突然抱き締められた。

「リリアーーーー!!  会いたかったぞ!」
「!?!?!?」

  私は全く身動き出来ず、その男性にギュウギュウ抱き締められながらその場で固まってしまう。

  な、何故、私は抱き締められてるの?
  いや、そして、く、苦しいです……


「数年ぶりに我が家に戻ってきたらリリアの事故を聞かされた!  お兄ちゃんは心臓が止まるかと思ったぞ!!」
「ーーお、お、お兄ちゃん!?」

  驚きで声が裏がってしまった。
  聞き間違いで無ければ、今、この私を抱き締めている人は兄と名乗った気がする。
  思わずロベルトに視線をやると、彼はコクリと頷いて言った。

「正真正銘、リリアの兄、キース様だ」
「……リリア。まさか、お兄ちゃんの事も思い出せないのか!?  くそっ!  記憶喪失って話は本当だったのか……!」

  お兄様(?)は一応、事情を聞いてからここに来ていたらしい。
  けれど、どこか半信半疑だったのかもしれない。
  忘れられている事にかなりのショックを受けているようだった。

「ご、ごめんなさい……」

  両親の事すら分からなかった私なのだ。兄の事だけ覚えているはずがない。

  だけど、そう言われて納得した。
  だって、この苦しくなるくらいの抱き締め方は、お父様とお母様と同じなんだもの!
  つい最近も経験したわ。
  さすが親子、そっくり!


  そういうわけで不審者の正体は……シスコンのお兄様だった事が判明したのだけど……


「謝るな、リリア!  お前は悪くないだろう?  そりゃ、可愛い妹が、俺の事を忘れているというのは、勿論ショックだが……!  それに悪いと言うならーーーーお前だ!  ロベルト!」
「えっ?」

  突然、ロベルトを指差し悪者扱いするお兄様。
  なぜ矛先がロベルトに?  全くもって意味が分からない。

「何をこんな所でイチャついてるのだ、ロベルト!  まさか、お前は記憶のないリリアに無理矢理迫っーーーー」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください、お、お兄様!!」

  どうやら、さっきの私達の姿を見られていたらしい。
  しかも、イチャついてるって誤解までしているじゃないの!

「ロベルトを庇うのかリリア!?  あぁ、俺の妹は何ていい子なんだ!」
「ぐぇ!」

  より一層力強く抱き締められる。
  ますます苦しさが増したせいで、とんでもない声が出てしまう。
  ここ数日でよく分かったわ。我が家の人間は力が強すぎる。

  私の変な声は、聞こえていなかったのか流したのか分からないけど、ロベルトが弁解の言葉を述べた。

「……誤解ですよ、キース様。さっきはリリアが転びそうになった所を支えただけです」
「そ、そうよ!!  決して変な意味じゃないのよ!」

  ロベルトの言葉に合わせて、私も必死で弁解する。

  ──だけど、

  チクッ

  何故かしら?  ロベルトの否定の言葉を聞いたら胸がチクッとしたわ。
  当たり前の事を言われただけなのに。
  何でこんな落ち着かない気持ちになるのだろう。
  自分自身も否定の言葉を発してるというのに。

「……むっ。そうか?  そうなのか。いや、だが……」

  お兄様は、理解はしたけれど納得出来ないって顔をしている。

「だがしかし!  ロベルトはリリアが事故に合った時、傍にいたと聞いてるぞ!  おい、ロベルト!  何でお前が傍にいたのにこんな事になるんだ!?  そもそもお前達はー……」
「……えっ!?」
「っ!  キース様!!」

  ロベルトが焦ったように兄の言葉を遮る。

  ……今、何て言った?
  ロベルトが事故の時、私の傍にいた?
  今まで誰一人として、そんな事は教えてくれなかったわ。

「ロ、ロベルト?  本当なの?  事故の時あなた私の傍にいたの?」

  恐る恐る、ロベルトに問いかけてみる。

「…………」

  ロベルトは、険しい顔をしたまま答えてくれない。
  だけど否定の言葉が発せられないので、これでは肯定しているとしか思えない。

「ロベルト……」
「……あぁ、そうだよ。俺はあの時、現場にいた。…………ごめん……」

  ロベルトが、酷く辛そうな表情で謝ってくる。
  その顔を見ていたら、ずっと不思議だった事がストンッと胸に落ちてきた気がした。

  ロベルトは事故現場にいて、私を助けられなかった事に責任を感じていたのだ。
  だから、休暇だというのに領地にも帰らず、毎日我が家に顔を出して、私の様子を気にしているのだ。

  つまり、そこには特別な感情などは無くて……
  あるのは、単なる責任。
  
  なんだ……私、1人で勘違いしていたのね。
  もしかしたら、少しだけ特別な意味があるのでは?  なんて期待してしまっていたみたい。

「……リリア?」

  急に俯いて黙り込んでしまった私を心配そうにロベルトが覗き込んでくる。
  何か言わなくちゃって思ってるのに、うまく喋れない。

「あ、謝らないで?  その、事故はロベルトのせいじゃないのだから……」
「リリア……」

  どうにか口に出来たのはこの言葉だけだった。
  顔をあげるのが怖い。私は今どんな顔をしているのだろう。

「……そろそろ、戻るか?  キース様も」
「あ、あぁ」

  ロベルトがポソりと言う。願ってもない提案だ。
  このままここに居てもどうすればいいか分からないもの。
  私は、無言のままコクリと頷く。

  気まずい空気を醸し出したまま、屋敷に戻る私達をお兄様がどこか困ったような心配するような目で見ていた。

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