【完結】役立たずになったので身を引こうとしましたが、溺愛王子様から逃げられません

Rohdea

文字の大きさ
上 下
32 / 34

第31話 奪われた私の力

しおりを挟む


「と、取り返す?」

  その言葉がにわかに信じられなくて聞き返した私の声はかなり上擦っていた。

「当然だよ。だって元々ルキアの魔力モノだよ?  何であんな女が持ったままにしておかないといけない?」
「……えっと」
「それに、あの女はこれから罪を裁かれて処分を受ける身だ。今後は貴族令嬢としては生きられないし、魔力なんて要らないよね」

  く、黒い!
  シグルド様の後ろからどす黒いものが見えるわ!
  思わず私はこしこしと目を擦る。

「で、ですが、どうやって?  散々調べたけれど、“魔力を奪う”という呪術は見つけられなかったわ」

  私の言葉にシグルド様はにっこり笑った。
  それもまた、どこか黒い微笑み。やっぱり黒いのは見間違いではなさそう。

「それは、魔力を奪われた方法が分からなかった時なら無理だったけど、ルキアがかけられたのが黒魔術だと分かったからね。それなら方法はあるんだよ」
「え!?」

  私が驚きの声を上げると、シグルド様が優しく私の頭を撫でる。

「ルキアが動けるなら……今から書庫に行こうか?」
「わ、私は大丈夫、ですけど……」

  私よりシグルド様の方が心配よ。そんな目でシグルド様を見つめる。

「私も大丈夫だよ。だって、ルキアの癒しの力が効いているんだからね」
「でも、魔力が少しだったから、完全では無かったわ」

  私のその言葉にシグルド様はあれ?  という顔をした。

「うーん。ルキアは、自分の力の事をよく分かっていないんだね?」
「え!?」

  言われた事の意味が分からず困った顔をする私の頭をシグルド様はまたまた優しく撫でた。

「ルキアは元々規格外の魔力量を持っていただろう?」
「ええ……」

  シグルド様の婚約者に選ばれたのもそれが理由だもの。

「だからね、普通の人とルキアは全然違うんだよ」
「どういう事?」
「簡単に言うと、普通の人が全力で出し切る必要のある魔力が、ルキアにとっては少しの魔力ですむ……みたいな」
「…………え?」

  何ですって??

「そっか。ずっと分かっていなかったのか……だからね?  ルキアからすれば私が送った魔力は微々たるものと思ってたかもしれないけど、普通の……ルキア以外の人からすればそこそこの量の魔力だったって事だよ」
「なっ!?  そんなに魔力があったらお医者様だって……」
「ルキアの魔力の器が大きいから、ルキア自身だけでなく、周りも分からなかったんだろうね」
「!!」

  私はあまりの事にポカンとし、間抜けな顔を晒してしまう。

「ははは、そんな顔をするルキアも可愛いな」
「い、今は可愛いとかではなく……つ、つまり私がシグルド様を癒した時の力は……」
「全盛時のルキアの力には足元にも及ばないだろうけど、それでも人並みだったんじゃないかな」
「!」

  シグルド様はそうでなければ、傷口までこんな簡単に塞がらないよね、と笑っている。
  笑い事では無いわよ!?

「待ってください!  つまりシグルド様はそんな魔力量を私に送っていたから」
「ブラッドの力を防ぎ切れなかったのかもしれないね」

  それには大きなショックを受ける。

  (あんなに瀕死になってしまっていたのは私のせい!)

「あ!  違う!  確かに私の魔力はかなりルキアに送っていたけど、あれは私が油断していたからだ」
「でも!」
「後は思っていたよりブラッドは叔父上から奪った力が多かったというのもある。だから、絶対にルキアのせいじゃない!」
「…………」

  シグルド様はブラッド様からの攻撃魔法を受けた時、防御魔法をしいたのだと言う。
  ブラッド様は跳ね返されるなんて思っておらず、まさかの返ってきた自分の攻撃に自ら倒れ、シグルド様は防ぎ切れなかった攻撃に倒れた。
  というのがあの時、二人が倒れていた理由だと言うけれど……

  (それでも私に魔力を与え過ぎてさえいなければ……)

「シグルド様……」
「ルキア?」

  私は言葉が見つからずギューッとシグルド様に抱き着いた。
  シグルド様は「ルキアから抱き着かれるのは嬉しいね」とだけ言って笑ってくれた。


***



「それで、どうやってミネルヴァ様に奪われた力を取り戻すのですか?」

  書庫に着いた私は黒魔術の本を拡げながら訊ねる。
  果たしてそんな方法載っていたかしら?

「それは、ここだよ」
「え?」

  シグルド様は開いた本のとある部分を指さした。
  そこに書かれていたのは……

「呪返し?」
「そう。黒魔術は言わずと知れた禁忌の術。使う側にとって当然リスクが大きいものなんだ。その中の一つがこれ、呪返し。読んでごらん?」
「……」

  そこの記述によると、黒魔術をかけた者は、呪返しをされるリスクを背負う事になる、と書いてあった。
  “呪返し”をされない為に術者が気をつけなければならない事が───

「黒魔術をかけた相手が死に至る前に、その者に黒魔術の存在に気付かれないようにする事?  つまり、黒魔術をかけられた相手が黒魔術だと気付いた場合のみ呪返しを行う事が出来る?」
「そう。普通は呪いをかけられてから死に至るまでそんなに時間が無いからね。かけられた相手は気付く前に黒魔術の方が勝ってしまうんだろうけど……」
「私に対して中途半端にしか黒魔術をかけられなかったミネルヴァ様は私を殺せなかったから……呪返しをかけることが可能という事?」

  私の言葉にシグルド様はニンマリと笑った。

「全盛時のルキアの魔力だと呪返しをしようとすると、逆に黒魔術が完成出来ちゃいそうだけど、今のルキアの魔力ならあの女がした事をそのままそっくり返せるくらいの力だと思うよ?」

  そのままそっくり返せる……つまり、奪われた力を取り返せる!

「やるかやらないかはルキアが決める事だ。呪返しはかけられた本人にしか出来ないからね」

  シグルド様の目がどうする?  そう言っている。

「シグルド様。私は魔力を失くしたままでもあなたの隣に立ち続けたい、そう思っています」
「ルキア?」
「ですが、陛下もなかなか認めてくれないでしょうし、他にもとやかく言う人は必ず出て来るでしょう」
「そうだね、私もそう思う」

  シグルド様が少し寂しそうな顔つきになる。

「私はその人達に“魔力が全て”では無い事を知って欲しいとも思っているんです」
「うん」
「でもやっぱり、これからのシグルド様を支える為にも、魔力は返して欲しい。そう思います」
「ルキア……」

  シグルド様が優しく私を抱きしめる。

「ありがとう、ルキア」

  シグルド様が私の顔を上に向かせると唇を重ね、魔力を送り込む。

「呪返しをする前にもう少し……」
「も、もう!!」

  私の頬は真っ赤になった。
 
「あ、そう言えばもう一つ疑問なんですけど」
「うん?」
「規格外と言われる程の私の魔力……ミネルヴァ様は全て取り込んだのでしょうか?」

  私のその疑問にシグルド様はあぁ、という顔になる。

「あの女、ティティ男爵令嬢も器だけは大きいんだよ」
「器だけ?」
「ちょっと変わってるタイプだ。でも、器だけで中身が全く伴ってないけど。本人が王妃になれる~と世迷い事を口にしていたのはそのせいかと私は思っている」
「そんな器の大きさもブラッド様に目をつけられたのかしら?」
「多分ね」

   (つまり、私の力を奪ったミネルヴァ様は、実は今、かなり最強だと言える)

  それに器の大きさだけなら確かに、王妃を目指す事も可能だったのかもしれない。

「それでも肝心な時に何も出来なくては何の意味も無いのよ……」
「ルキア?」
「何でもない……シグルド様。私、奪われたものは必ず取り返してみせるわ!」
「あぁ」

  私は呪返しを行う方法の部分に目を通した。



  ────その日の夜。

  ミネルヴァ様の悲鳴が牢屋内に響き渡った。
  何事かと駆け付けた看守達にミネルヴァ様は泣きながら訴えたと言う。

「魔力……魔力が……私の魔力が──!  何で?  どういう事?  どうしてよぉぉぉ!?  こんなの聞いてないーーー」

 
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜

水都 ミナト
恋愛
 マリリン・モントワール伯爵令嬢。  実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。  地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。 「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」 ※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。 ※カクヨム様、なろう様でも公開しています。

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

芋女の私になぜか完璧貴公子の伯爵令息が声をかけてきます。

ありま氷炎
恋愛
貧乏男爵令嬢のマギーは、学園を好成績で卒業し文官になることを夢見ている。 そんな彼女は学園では浮いた存在。野暮ったい容姿からも芋女と陰で呼ばれていた。 しかしある日、女子に人気の伯爵令息が声をかけてきて。そこから始まる彼女の物語。

この国では魔力を譲渡できる

ととせ
恋愛
「シエラお姉様、わたしに魔力をくださいな」  無邪気な笑顔でそうおねだりするのは、腹違いの妹シャーリだ。  五歳で母を亡くしたシエラ・グラッド公爵令嬢は、義理の妹であるシャーリにねだられ魔力を譲渡してしまう。魔力を失ったシエラは周囲から「シエラの方が庶子では?」と疑いの目を向けられ、学園だけでなく社交会からも遠ざけられていた。婚約者のロルフ第二王子からも蔑まれる日々だが、公爵令嬢らしく堂々と生きていた。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

処理中です...