11 / 34
第11話 悪夢
しおりを挟む「ルキア!」
(……え?)
とりあえず、いつまでも床に蹲っているわけにはいかない。
そう思った私が痛む足を抑えながら何とか立ち上がろうとしていると、少し離れた所からシグルド様の声が聞こえた。
「大丈夫か? ルキア」
彼は息を切らして私の元に駆け寄って来る。
「シグルド様? な、何故、ここに?」
「私に連絡があったからだよ、ルキアがティティ男爵令嬢に絡まれているって」
「絡まれている……」
「そんな事より、何があった? どうして床に座り込んでいるんだ?」
「あ……それは」
私はそっと自分の足に視線を向ける。その視線だけでシグルド様は何があったか察したらしい。
「足? あの女……まさか、私のルキアに怪我を負わせたのか!?」
「……えっと」
──目が! シグルド様の目が据わっているわ!!
しかも“あの女”呼ばわりしている。シグルド様らしくない。
「そうか……私のルキアを傷付けたか……」
「シ、シグルド、様? ──ひゃっ!?」
シグルド様は黒いオーラを出したまま、よいしょっと私を抱き抱える。
「私のルキアを傷付けた罪は重い。あの女の始末は必ずするからルキアは安心していてくれ。何で始末しようか? 抹殺、撲殺、毒殺、刺殺……私は何でも構わないよ?」
「え、いや、えっと……」
(全部、死んでる! 死んでるから!)
あんな様子だけど、貴重な属性と力の持ち主なのよ? なのに、そんな簡単に始末だなんて……
「今すぐ殺りたい所だが、今は大事な大事なルキアの手当の方が先だ」
「えっ」
「手当てが済んだら何があったか話してくれ」
「は、はい……」
シグルド様はどす黒いオーラを撒き散らした笑顔を浮かべながら私をお医者様の元へと運んだ。
───
(力が使えていたらこんな怪我、直ぐに治せるのに)
まぁ、軽く捻った程度の怪我だからこれは自然治癒に任せた方が良いのだけど。
───ただ、このままだとシグルド様が。
「ルキア、大丈夫か?」
「ルキア、痛みはどうだ?」
「ルキア、変わりはないか?」
「ルキア、移動する時は私に声をかけてくれ! 抱っこする」
(抱っこ……!)
シグルド様はこんな様子で5分毎くらいに私に足の様子を訊ねては、甲斐甲斐しく世話を焼こうとする。
「シグルド様、心配して頂けるのは大変嬉しいのですが、その……5分毎に訊ねられても変化はそうそう起きません」
「……そうか?」
(やっぱり私の事になるとこの方は目が曇る)
「そうですよ、急に悪化したりもしませんから、今はお仕事に戻って下さい」
「だが……」
「帰る前には声をかけますから、ね?」
「ルキア……」
シグルド様の目が、とにかく私の事が心配で心配で堪らない。そう言っている。
私はこれ以上心配かけたくなくて笑顔を浮かべた。
でも……
「ルキア。私は騙されない」
「な、何がですか?」
「ルキアが、心から笑う時の笑顔はもっと可愛いんだ」
「え?」
そう言いながらシグルド様の手が私の頬に触れて来たのでドキッと胸が跳ねた。
「ルキア……」
「シグルド様……?」
シグルド様の顔がどんどん近付いて来て、チュッと私の額に触れた。
「……額なら触れても許されるか?」
「許すも許さないも、もう触れてるじゃないですか……」
「ははは、それもそうか。じゃあ、頬も」
そう言って頬にもチュッとキスをする。
「~~~!」
「すまない。ルキアが可愛くてつい我慢が出来なかった」
シグルド様は苦笑いを浮かべるとそっと私から離れた。
「よし! ルキアは元気そうだな。仕事に戻るよ」
「……はい」
(ダメ。寂しいなんて思っては……ダメ!)
「では、また後で様子を見に来る。いい子で待っていてくれ」
「なっ!」
「ははは、ルキアはやっぱり可愛い」
シグルド様はそう言って笑いながら部屋から出て行き、顔を真っ赤にした私だけが残された。
───
シグルド様が一人で騒がしかったからか居なくなってしまったら部屋の中が一気に静かになった。
(動けないし、人もいないし……暇だわ)
シグルド様は部屋の外に護衛は置いていると言っていたけど、私に気を使ったのか部屋の中には人を置いていかなかった。
もちろん呼べば直ぐに誰か来てくれる事にはなってはいる。
でも、ここに誰かを呼びたいと言う気持ちに全くならない。
「役立たずと呼ばれる今の私は王宮の人達から全く人望が無いもの」
なのに、魔力がなくても癒しの力が使えなくても、シグルド様は私が良いと言う。
「変なの。なにもかも無くなってしまった私の価値って何処にあるのかしら? シグルド様はいったい私のどこを…………んー……」
そんな事を呟きながら、私は段々ウトウトしてしまい気が付けば夢の世界へと入り込んでいた。
────────…………
『ルキア、君との婚約は解消しようと思う』
『!』
『やはり、魔力の無い君は将来の王太子妃に相応しくない。癒しの力も使えない君は王家の役にも立てないだろう? だから、君の望んだ通り、私は私に相応しい人を選ぶ事にする』
ズキッ
何故かその言葉に胸が痛んだ。どうして? 自分が望んだ展開になったはずなのに。
『……誰をお選びになるのですか?』
私の質問にシグルド様はにっこり笑う。
『もちろん、そんなの決まっている。ティティ男爵令嬢だ!』
『そう、ですか……』
『最初は不安定そうだった癒しの力も今は使いこなせているそうだし、貴重な属性の持ち主だ。残念ながら魔力量は人並みらしいがそれ以外の部分で充分、周りには王太子妃として認められるだろう』
(王太子妃……)
『幸い、王宮の者達も彼女の事を快く受け入れてくれている』
『そうですか……おめでとうございます』
『あぁ』
(私が、ずっとあなたの隣に……)
『今までご苦労だった、ルキア』
『──っ!』
そう言われた瞬間、頭の中に声が聞こえて来る。
────ヤクタタズノオマエハイラナイ。
────ズットクツウダッタ。
────コレデ、ホントウニスキナヒトトシアワセニナレル!
(痛っ……頭が痛い!)
私は役立たずだから。
シグルド様には相応しくない。
だから私はもう生きている価値なんて無──……
何? 何かに気持ちが引きずられる!
(怖い! 何これ、嫌だ……)
ズキッ! ズキンズキン……
そして頭痛は更に酷くなる一方。
「……けて」
「いや、助け……」
「助けて! シグルド様ーーーー!!」
「ルキア!!」
私は、手を伸ばしそう叫びながらパチッと目を覚ます。
叫んだと同時に名前を呼ばれて、宙に伸ばした手を取られていた。
(──え?)
「ルキア、大丈夫か?」
「……シグ、ルド、様……?」
目の前にはシグルド様の顔。とても心配そうに私の事を見ている。
「そうだよ、私だ」
「……」
これは夢? 夢の続き?
でも、婚約は解消……したよわよね? あれ? 違う。それは夢で……
(え? え!?)
頭の中が混乱を起こしていた。
シグルド様はそんな私の手をギュッと優しく握る。
その温もりが私は昔から安心出来て大好きで……
(夢じゃない。ここに居るのは私の大好きなシグルド様)
「……」
そう思ったら段々落ち着いて来た。
「様子を見に来たらルキアが魘されていた。大丈夫か?」
「……大丈夫、です。ありがとうございます。ちょっと嫌……な夢を見ました」
「夢?」
「そうなんです……嫌な夢に……気持ちが引きずられそうになって」
私がそう言いながら力なく微笑むとシグルド様の顔つきがスっと真剣なものに変わる。
「ルキア」
「シグルド様?」
「すまない、ルキア」
「え?」
何故か謝られた? と思った瞬間、私の唇に柔らかい物が触れた。
(───えっ!? キス……されてる?)
と、同時に何か温かいものが私の身体の中に流れ込んで来るような感覚があった。
40
お気に入りに追加
4,082
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された私の結婚相手は殿下限定!?
satomi
恋愛
私は公爵家の末っ子です。お兄様にもお姉さまにも可愛がられて育ちました。我儘っこじゃありません!
ある日、いきなり「真実の愛を見つけた」と婚約破棄されました。
憤慨したのが、お兄様とお姉さまです。
お兄様は今にも突撃しそうだったし、お姉さまは家門を潰そうと画策しているようです。
しかし、2人の議論は私の結婚相手に!お兄様はイケメンなので、イケメンを見て育った私は、かなりのメンクイです。
お姉さまはすごく賢くそのように賢い人でないと私は魅力を感じません。
婚約破棄されても痛くもかゆくもなかったのです。イケメンでもなければ、かしこくもなかったから。
そんなお兄様とお姉さまが導き出した私の結婚相手が殿下。
いきなりビックネーム過ぎませんか?

【完結】貧乏男爵家のガリ勉令嬢が幸せをつかむまでー平凡顔ですが勉強だけは負けませんー
華抹茶
恋愛
家は貧乏な男爵家の長女、ベティーナ・アルタマンは可愛い弟の学費を捻出するために良いところへ就職しなければならない。そのためには学院をいい成績で卒業することが必須なため、がむしゃらに勉強へ打ち込んできた。
学院始まって最初の試験で1位を取ったことで、入学試験1位、今回の試験で2位へ落ちたコンラート・ブランディスと関わるようになる。容姿端麗、頭脳明晰、家は上級貴族の侯爵家。ご令嬢がこぞって結婚したい大人気のモテ男。そんな人からライバル宣言されてしまって――
ライバルから恋心を抱いていく2人のお話です。12話で完結。(12月31日に完結します)
※以前投稿した、長文短編を加筆修正し分割した物になります。
※R5.2月 コンラート視点の話を追加しました。(全5話)

【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。
❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。
それは、婚約破棄&女の戦い?

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。
ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。
なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。
妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。
しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。
この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。
*小説家になろう様からの転載です。

伯爵令嬢は身代わりに婚約者を奪われた、はずでした
佐崎咲
恋愛
「恨まないでよね、これは仕事なんだから」
アシェント伯爵の娘フリージアの身代わりとして連れて来られた少女、リディはそう笑った。
フリージアには幼い頃に決められた婚約者グレイがいた。
しかしフリージアがとある力を持っていることが発覚し、悪用を恐れた義兄に家に閉じ込められ、会わせてもらえなくなってしまった。
それでもいつか会えるようになると信じていたフリージアだが、リディが『フリージア』として嫁ぐと聞かされる。
このままではグレイをとられてしまう。
それでも窓辺から談笑する二人を見ているしかないフリージアだったが、何故かグレイの視線が時折こちらを向いていることに気づき――
============
三章からは明るい展開になります。
こちらを元に改稿、構成など見直したものを小説家になろう様に掲載しています。イチャイチャ成分プラスです。
※無断転載・複写はお断りいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる