【完結】役立たずになったので身を引こうとしましたが、溺愛王子様から逃げられません

Rohdea

文字の大きさ
上 下
1 / 34

第1話 婚約者へのお願い

しおりを挟む

  ──今日こそ!
  今日こそは私の気持ちを伝えて見せるわ!!  話を……話をするのよ!

  私はそう決意して大きく息を吸ってから、扉をノックした。
  返事を待ってから勢いよく扉を開ける。

「失礼致します。シグルド様!」
「うん?  あぁ、ルキア!  今日もとびっきり可愛いね」
「っ!」

  (……な、なんて眩しい笑顔なのかしら)

  あまりの眩しさと甘い発言のせいで、直ぐに心が怯みそうになるも、私は負けてたまるかと気合いを入れ直す。
  この決意をしたのは何度目だったかしら。
  そして、挫折するのも……

「シグルド様、あの!  私、今日は大事な」
「ルキアは凄いね。ちょうど私が休憩して君に会いに行こうと思っていたのを知っていて訪ねて来てくれたのかな?」
「え!?  なっ、何を言って……?」
「あれ?  違うの?  残念だな」

  (……っ!)

「私はルキアに会いたくて会いたくて堪らなかったと言うのに」
「っっ!」

  そう言って少し拗ねた彼の顔を見ていると、やっぱり私の心が負けそうになる。
  でも、今日こそはちゃんと言わなくては、と決めた。
  だって、やっぱりいつまでもこのままではいけない。

  (それに、シグルド様の新しいお相手だって早く──)

  その事を思うとズキッと胸が痛くなる。でも……そうも言ってはいられない。

「さぁ、ルキア、こっちにおいで?」
「え?」
「君の好きそうなお菓子があるんだよ。私も休憩する所だったから一緒にどうだい?」
「……」

  そう言った彼、シグルド様が指差した方向には確かに美味しそうなお菓子が並んでいる。自他ともに認めるお菓子大好きな私は、その中に驚くべきお菓子を見つけた。

  (あ、あれは、王都でも一二を争う有名なお店のもの……!  毎日、開店と同時に即完売するので、もはや幻と言われているお菓子ではないの!?)

  私は興奮が隠せず身体がプルプルと震え出す。
  シグルド様はそんな私の様子を見て笑いながら訊ねてくる。
  多分、私が何を思っているのかは筒抜けね。

「ふっ……どうしたの、ルキア?  身体が震えているよ?」
「うっ!  い、いえ……別に、何も」
「そうなの?  でも、私に用があったんだろう?  お菓子を食べながらでいいなら話を聞くよ」
「え、えっと」

  私は大きく躊躇う。
  何故なら私のしたい話は、呑気にお茶とお菓子を食べながらする話では決してない。

「うーん、このお菓子は、ルキアの為に用意させたんだけどな……もしかして嫌いだった?」

  そう言ってシグルド様がチラつかせたのは、まさに私がたった今、興奮していた幻のお菓子!

「い、いえ。す、好きです……」

  (すごくすごー~く食べたかったお菓子です)

「だよね」
「っ!」

  私が正直に言うと、シグルド様は嬉しそうに微笑んだ。
  そんな彼の笑顔に胸がキュンとすると同時に暗い気持ちも生まれる。

  (お願い……その顔、もう私に見せないで?  決心が鈍ってしまうの)

「ルキア?」
「え?  あ、すみません」
「ほらほら、ルキア、座って?  それでなくても君は病み上がりなんだから、ね」
「は、はい……」

  ズキッ

  (病み上がり……)

  その言葉に胸が痛くなるも、とりあえず、私は促された通り彼の隣に腰を下ろした。
  隣に座っているシグルド様は満面の笑顔。対する私は彼の顔が真っ直ぐ見る事が出来ず、顔を俯ける事しか出来ない。

「……」
「……」
「……ルキア」
「は、い?」
  
  名前を呼ばれたのでそっと顔を上げる。

「はい、口を開けて?  あーん」
「え!」

  シグルド様はその言葉と共に私の目の前にお菓子を差し出していた。
  私はついつい条件反射で、口を開けてしまう。
  長年の癖という程、恐ろしいものは無い。シグルド様は昔からこうして私にお菓子を食べさせる事が大好きだ。


「あ!」
「美味しい?  ルキア?」
「……」

  そう言いながら私に向かって微笑むシグルド様。
  その笑顔はとても眩しい……眩しすぎる。

「お、美味しい……です」
「それは良かった。この前、ルキアが小さな声で食べてみたいって呟いていたからね。色々調べたんだ。このお菓子はかなり人気らしいね?」
「……っ!  わ、私の為に……?」

  確かに呟いた事はある。
  あれは視察で共に街に行った時。このお菓子のお店の前を馬車で通った時だったと思う、

  (あの時のあんな小さな私の声の呟きを拾ったと言うの!?)

「当然。可愛くて愛しい婚約者の喜ぶ顔が見られる事ほど幸せな事は無いからね」
「か、可愛っ……」

  その言葉に私が焦るとシグルド様はニッコリ微笑む。

「それそれ!  その直ぐに赤くなる顔だよ。うん。やっぱり私の婚約者は今日も最高に可愛い」
「~~~!」

  しまった!  今日もこうしてシグルド様のペースに乗せられてしまったわ。
  だって、こんな空気の中、どうやって切り出せばいいの?



  ───私は、もうあなたのお役に立てそうにありません。
  ───どうか、私と婚約解消して下さい。
  ───あなたの新しい婚約者はどうぞ、例の“彼女”を。きっとあなたの助けになってくれるはず。





  私、ルキア・エクステンド。
  エクステンド伯爵家の娘。私には幼い時から婚約者がいる。
  それが今、この目の前で私を可愛い可愛いと言いながら微笑んでいるこの方。

  シグルド・アクリウム様。
  この国の王太子殿下。

  伯爵令嬢に過ぎない私が彼、シグルド様と婚約しているのは当然、理由がある。
  それは、私が子供の頃からとんでもない魔力量を保持していた事。
  そして、貴重な光属性持ちで癒しの力を使えた事。
  これだけ。

  それだけで、私と彼は10年も婚約している。
  初めて出会ってから、そして婚約が結ばれてから将来は王太子、やがて王となる彼の支えになりたいと私自身もこの10年間、必死に努力を重ねて来た。

  (……でも、そんな努力も全て無意味なものとなったわ)

  私はもうただの役立たず。彼の隣に立つのに全く相応しくない。
  私の代わりに相応しい人は別にいる───そう、彼女……

  (少し性格的に気になる所はあるけれど……)



  そもそも、お父様を通して
  なのに、シグルド様は何も言わない。今も変わらず私を婚約者として扱おうとする。
  だから、埒が明かないので私から“婚約解消”をお願いすると決めたのに……

  愛しい婚約者だの、今日も可愛いだのという甘い言葉と大好きなお菓子に翻弄されて、結局、今日も私はその話を切り出せずにいた。


しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された私の結婚相手は殿下限定!?

satomi
恋愛
私は公爵家の末っ子です。お兄様にもお姉さまにも可愛がられて育ちました。我儘っこじゃありません! ある日、いきなり「真実の愛を見つけた」と婚約破棄されました。 憤慨したのが、お兄様とお姉さまです。 お兄様は今にも突撃しそうだったし、お姉さまは家門を潰そうと画策しているようです。 しかし、2人の議論は私の結婚相手に!お兄様はイケメンなので、イケメンを見て育った私は、かなりのメンクイです。 お姉さまはすごく賢くそのように賢い人でないと私は魅力を感じません。 婚約破棄されても痛くもかゆくもなかったのです。イケメンでもなければ、かしこくもなかったから。 そんなお兄様とお姉さまが導き出した私の結婚相手が殿下。 いきなりビックネーム過ぎませんか?

【完結】貧乏男爵家のガリ勉令嬢が幸せをつかむまでー平凡顔ですが勉強だけは負けませんー

華抹茶
恋愛
家は貧乏な男爵家の長女、ベティーナ・アルタマンは可愛い弟の学費を捻出するために良いところへ就職しなければならない。そのためには学院をいい成績で卒業することが必須なため、がむしゃらに勉強へ打ち込んできた。 学院始まって最初の試験で1位を取ったことで、入学試験1位、今回の試験で2位へ落ちたコンラート・ブランディスと関わるようになる。容姿端麗、頭脳明晰、家は上級貴族の侯爵家。ご令嬢がこぞって結婚したい大人気のモテ男。そんな人からライバル宣言されてしまって―― ライバルから恋心を抱いていく2人のお話です。12話で完結。(12月31日に完結します) ※以前投稿した、長文短編を加筆修正し分割した物になります。 ※R5.2月 コンラート視点の話を追加しました。(全5話)

【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。

❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。 それは、婚約破棄&女の戦い?

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

伯爵令嬢は身代わりに婚約者を奪われた、はずでした

佐崎咲
恋愛
「恨まないでよね、これは仕事なんだから」 アシェント伯爵の娘フリージアの身代わりとして連れて来られた少女、リディはそう笑った。   フリージアには幼い頃に決められた婚約者グレイがいた。 しかしフリージアがとある力を持っていることが発覚し、悪用を恐れた義兄に家に閉じ込められ、会わせてもらえなくなってしまった。 それでもいつか会えるようになると信じていたフリージアだが、リディが『フリージア』として嫁ぐと聞かされる。    このままではグレイをとられてしまう。   それでも窓辺から談笑する二人を見ているしかないフリージアだったが、何故かグレイの視線が時折こちらを向いていることに気づき――   ============ 三章からは明るい展開になります。  こちらを元に改稿、構成など見直したものを小説家になろう様に掲載しています。イチャイチャ成分プラスです。   ※無断転載・複写はお断りいたします。

処理中です...