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30. 幸せな未来を
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❋❋❋❋
「はい、ミリア。今日の分」
「ありがとうございます!」
にこにこ笑顔のヴィンス様が慣れた手つきで私に差し出したもの。
それは、薔薇の花。
「これで、99本目かな?」
「いつの間にやら……もう、そんなになるんですね」
「そうだね」
(まさか、ヴィンス様がこれまで贈り続けた薔薇の本数をきっちり覚えていたなんて……)
40本目の薔薇を貰った時に「ミリア、気づいてる? これで君に贈った薔薇の数は40本目なんだよ?」と、言われた。
───40本目は、真実の愛を誓う、変わらない愛──
その気持ちが嬉しくて擽ったかった。
と、同時にヴィンス様がこれまでの本数を全部数えていた事を知った。
「私、ヴィンス様は薔薇の本数の意味についてあまり興味無いと思ってました」
「え! 何で!?」
ヴィンス様が驚きの声をあげる。
「ミリアの欲しい数を贈るって約束したよね?」
「そ、そうですけど……最初に話した時の反応であまり興味無さそうだな、と思いまして」
「あ……──ち、違う! あれはそうじゃ、ない」
一生懸命、否定するヴィンス様に私は首を傾げる。ヴィンス様は照れながら言った。
「あ、あんまりにもミリアがキラキラした顔で語る……から」
「キラキラ、ですか?」
「うん。すごく眩しかった…………だから、平静に努めようと……した結果……」
「……」
(本当に話してみないと分からない事ばっかりね)
私とヴィンス様が国を出てから早いもので三ヶ月程が経つ。
私達は、元の国からはかなり離れているけどヴィンス様が王子時代に懇意にしていた友人の王子様がいるという国を目指す事にした。
そこは、緑と花が溢れる自然豊かな国らしい。
そして、ようやくその国に到着した私達は新しい生活を始めた。
ヴィンス様は友人王子の計らいで仕事を与えられ、私も街で働いている。
休みの日になれば二人で街に出かけて専らデート。
王子と聖女だった頃とはまるで違う生活。
「それにしても、ここまであっという間だったね」
「そうですね」
新しい国に向かう途中、祖国の話を時折り耳にした。
数百年ぶりに聖女が誕生したはずなのに、もう力を失った、とか。聖女は駆け落ちをした、とか。聖女は祈りのため眠りについた、とか。
やっぱり色んな尾ひれがついた噂となって広がっていて、話を聞く度にヴィンス様と苦笑いした。
私は定期的にあの国にも祈りを捧げているけれど、どうやら陛下達は“聖女”についてちゃんと公表しなかったようで、国民の不満は爆発。
慌てて何らかの公表をしたようだけど、時すでに遅く、王制廃止運動が活発になって来た……とか。
レベッカ様は目覚めたのかしら?
そんな疑問は残るけど、噂を聞く限りまだ眠り続けているのかも、と思った。
覚めない悪夢は相当堪えると思う。
「でも、やっと両親に手紙が書けます!」
そう言ったらヴィンス様は優しく笑ってくれた。
聖女として王宮に上がった私が手紙を禁じられて落ち込んでいるいる事を知ったヴィンス様は、代わりに自分が手紙を出す事を決めたのだと言う。
本当は一緒にこっそり私の書いた手紙を同封出来れば……なんて考えたりもしたそうだけど、ヴィンス様の手紙のやり取りもチェックを受けていたので難しかったと話していた。
そうして、新しい国での生活を緩やかに過ごしていたある日───
「───ミリア! 約束の日が来たよ!」
「約束の日?」
仕事を終えていつもの薔薇を抱えたヴィンス様が勢いよく帰って来た。
ヴィンス様は私に薔薇を差し出しながら言った。
「───108本目だよ、ミリア」
「あ!」
それでようやく思い出した。
あの時の私がヴィンス様に欲しいと言った薔薇の数は108本だった。
(ヴィンス様のお嫁さんになりたい……そんな想いからそう口にしていたんだったわ……)
「ちょっと、待たせちゃったけど……結婚しよう、ミリア」
「ヴィンス様……」
「生活も安定してきたし、ちゃんと婚姻届を出して……結婚式も行う!」
「!」
(結婚式! そうよ、結婚式は……あの日私が───)
「ミリアが、あの日見た未来視を実現しよう!」
「ヴィンス様……」
私があの日視た、未来の夢はヴィンス様と私の結婚式だった。
王子と聖女ではなく、ヴィンスとミリアとしての結婚式。
式場にたくさん飾られていた薔薇はヴィンス様からの愛……私はそんな風に感じていた。
「ヴィンス様、大好きです」
「僕もだよ」
ヴィンス様が薔薇の花を抱えた私ごと抱きしめてくれる。
(幸せだわ……)
時々思う。
あのまま、レベッカ様が現れずに夢見の聖女としてヴィンス様の妃になっていたらどうだったんだろうって。
(多分、今ほどこんなに幸せ……とは思えなかったんじゃないかと思うの)
「……私をほっておかないでくれて……ありがとうございました」
「ミリア……」
ヴィンス様が優しく私を見つめる。
「えっと……私は“ヴィンス殿下”の妃にはなれませんが、ヴィンスさ……ヴィンスのお嫁さんにはなれます! お嫁さんにしてください!」
「あはは、ミリア」
そう伝えたらヴィンス様は嬉しそうに笑ってくれて、甘くて優しいキスが降ってきた。
────その日の夜に視た新たな未来の夢は、大きくなった私のお腹を二人で幸せそうに撫でている夢だった。
私は思った。
これから新しい家族が増えて、私たちにはもっともっと幸せな未来が待っている───と。
~完~
✼✼✼✼✼✼
これで、完結です。
お読み下さりありがとうございました。
最近の私の書く主人公はウジウジするよりカラッとしていたので、久しぶりに後ろ向きな子が主人公だったな、と。
こういう主人公は、読むほうもあれですが書く方も色々しんどいです。
あと、この話の前に書いた話(『私を裏切った~』)が悲恋物語だったので次は明るくしたいと思っていたはずが……色々気持ちを引き摺っていたようで全然違う方向の話に……
すみません。
何であれ、いつもの事ですが、最後までお読み下さった方に心から感謝を申し上げます。
お気に入り登録やエールetc.....ありがとうございました。
感想もです。
ちょっと今回全く返事を返せず申し訳ございませんでした。
私の会社は4月が年度末でして。
そのせいで仕事が多忙で……夜更新がずれ込んだり、寝落ちしてしまい頂いたコメントを読むのが朝……という日も多かったです。
多忙と言いながら、新作も始めてます。
止めると書かなくなりそうなので。
『愛する人が出来たと婚約破棄したくせに、やっぱり側妃になれ! と求められましたので。』
前に書いた『出来損ないと罵られ続けた~』という話で主人公の母が正妃になるはずが婚約破棄されて側妃になったというエピソードがありまして。
その話の主人公の母はその道を受け入れましたけど、同じような状況になって「は? ふざけるなー!」となった場合はどんな話になるんだろ?
という疑問から思いついた話。
(※キャラも世界設定もこの話とは無関係です)
よろしければ、またお付き合いくださいませ。
ありがとうございました!
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