31 / 33
29. それから ①
しおりを挟む「ヴィンス様!?」
突然、目を回してしまったヴィンス様。
一体、何が原因でこんな事に? と、私はオロオロする。
(は! まさかキスが原因!?)
とっても幸せだったけど、先程までのヴィンス様のキスは苦しくなるくらい長かった。
それで、酸欠になってしまったとか?
私は少し考えた後、そっとヴィンス様の頭を自分の膝に乗せてみることにした。
(これで少しは呼吸が楽になればいいと思うけれど……ちょっと恥ずかしい)
ついでにヴィンス様の柔らかい髪と頭を撫でてみる。
普段、私が撫でられる事はあっても私から撫でることはない。
せっかくなのだから、普段出来ないことをしちゃおう! そう思った。
「ヴィンス様……大好きです」
「……」
当たり前だけどヴィンス様は答えない。でも、私は静かに微笑みながら続ける。
「これからもずっと一緒に…………ふわぁ」
そこまで言いかけたら、突然、強い睡魔に襲われた。
眠っては駄目……そう思うのに瞼が言うことを聞いてくれない。
(ヴィンス……様)
私はヴィンス様の頭を膝に乗せたまま静かに瞳を閉じた。
─────
(あぁ、これ未来視だわ)
これまでの経験ですぐにそうだと分かる。
力は失くしたとばかり思っていたけれど、やっぱり自分で封印していただけだったんだ、と、この時に確信した。
(だけど、国を出ようとしている私になんの未来を視せようと言うの───?)
基本的に私の視る予知夢は“国”に関することだった。
でも、レベッカ様が現れる前に一度だけ自分の未来を視た事がある。
それは、本当に昔から私とヴィンス様が望んだ未来そのものだった。
───王となった兄王子を王弟として支えるヴィンス様。そして、そのヴィンス様を支える王子妃となった私。
私はずっとレベッカ様が現れるまでその未来を信じて目指していた。
……だけど、その未来はもうやって来ない。
だから、きっとこれから視る夢は、今後の私が目指すべき新しい未来のはず────
「───……ミリア」
ヴィンス様の声がする。優しく私の名前を呼ぶ声……
身体が揺さぶられている。
「──ミリア、起きて?」
「ん……」
「ミリア! き、君はまた、そんな色っぽい声を……!」
(ヴィンス様の声がどこか焦っている? いったい……何の話かしら?)
「……ミリア、起きないならお寝坊姫を起こすとっておきの方法を……」
(───!?)
何だか怪しい空気を感じたので私は目を開けた。
目の前には私を覗き込むヴィンス様の素敵な顔。
「あ、起きちゃった、残念」
「……ヴィンス様」
ヴィンス様が心底残念そうな顔をする。
「き、聞こえていました! 寝坊姫を起こすとっておきの方法って何ですか!」
「あれ? 聞こえてた?」
私がプンブンと勢いよく頷くと、ヴィンス様ハハハと笑う。
そして直ぐにじっと私を見つめた。
「ヴィンスさ──」
「それは、もちろん。こういう事だよ」
そう言ったヴィンス様の手が伸びて、私の後頭部に手を添えると同時に優しく私の唇が塞がれる。
(あ……もう!)
今度のヴィンス様は、チュッチュッと何度も優しいキスを繰り返す。
「ミリアは可愛い……大好きだ」
合間に囁かれる愛の言葉に胸がドキドキした。
今回の騒動を経て、ヴィンス様は急に積極的になった気がする。これまでの彼はこんな風に私に触れることは無かったのに……
「愛してるよ、ミリア」
「私……も」
そう言って何度目かも分からないキスをしていたら、馬車の扉がコンコンと叩かれた。
「!」
「!!」
その音にハッとした私たちは慌てて離れる。
「……きょ、今日泊まる宿に着いた……から、ミリアをお、起こしたんだった……」
「そ、そうでした、か!」
ヴィンス様も私もどこか声が上擦っている。
「……め、目が覚めたらさ」
「はい?」
「僕の頭がミリアの膝の上にあって……」
「あ!」
そうだったわ! 私、ヴィンス様の頭を勝手に膝に乗せてたわ!
「す、すみません! つい……」
「いやいや! なんで謝るの? すごく幸せな夢を見たんだけどこのおかげだったんだと分かったのにさ」
「ヴィンス様……」
「ミリアの膝枕と可愛い寝顔が見れて僕は大満足──…………って何を言っているんだろ」
そう言って顔を赤くして照れるヴィンス様が可愛く見えた。
国王陛下に怒っていた時の姿はあんなにカッコ良かったのに。こんな時は可愛くなるなんてヴィンス様はどれだけ私の胸をキュンキュンさせたいのかしら?
なんてキュンキュンしていたら、コンコンと再び扉をノックされる音がした。
その音で現実に戻される。
これは、いい加減に外に出ないと……私達は顔を見合わせて静かに頷き合った。
宿の部屋に入った私たちは、これらからどうするかを話し合うことにした。
その話より前にどうしても言っておこうと思ったので先に私は口を開いた。
「ヴィンス様、私、予知夢を見ました」
「え? でも、ミリアは力を失くしたと言ってたよね?」
「……そう思っていたんですけど」
私が夢を視れなくなった経緯を説明すると、ヴィンス様はどこか悲しそうな表情を浮かべながら、優しく私の肩を抱き寄せる。
「つまり、ミリアが再び未来視が出来るようになったという事は──」
「色々と吹っ切れたんだと思います。本当にご……」
「ミリア」
謝ろうと思ったのにヴィンス様がちょっと強引に私の口を塞ぐ。
「謝罪は無しだよ、ミリア」
「ヴィンス様……」
「僕は今、こうしてミリアが僕の腕の中に居てくれるだけで幸せなんだ」
「……私もです」
「うん……」
そうしてしばらく静かに互いの温もりを感じていた私たちだったけれど、ふと気付く。
「……ヴィンス様、夢の、予知夢の内容を聞かないのですか?」
「うん。ミリアが聞いて欲しいならもちろん聞くけど無理やりは聞かない」
「……」
夢見の聖女となってから、そんなこと初めて言われた気がする。
私が固まっているとヴィンス様はそっと私の頭を撫でた。
「あ、でも一つだけ聞きたい」
「は、はい!」
真面目な顔つきになった私にヴィンス様は柔らかく微笑んで言った。
「……それは、ミリアにとって幸せな夢だった?」
「!」
その言葉で視た夢の内容を思い出す。あの時に視た新たな未来の夢は───……
「……」
私は満面の笑顔で頷く。
「はい! とっても幸せな夢でした!」
「良かった! それならいいよ」
ヴィンス様も嬉しそうに笑ってくれた。
❋❋❋❋
「え? この国を出る前に行きたい所……ですか?」
「うん。申し訳ないけど付き合ってくれるかな?」
「……どうしても最後にミリアと行っておきたい」
この宿を出発したらすぐに国外に出るつもりなのだと思っていたら、ヴィンス様にはどうしても最後に行きたい所があるのだと言う。
(ヴィンス様に、そんな思い入れのある場所ってあったかしら?)
私は内心で首を傾げながらも頷いた。
そうして乗り込んだ馬車で時間をかけながらも辿り着いたその場所は───……
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
4,027
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる