【完結】どうか、ほっといてください! お役御免の聖女はあなたの妃にはなれません

Rohdea

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25. 浄化

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「───ミリアっ!」

  その声と手を握られた感覚で目が覚めた。

「……ヴィンス、様」
「ミリア、良かった……目が覚めた……」

  真っ先に視界に飛び込んで来たのは、泣きそうな顔をしたヴィンス様。
  私は彼にそんな顔をさせているのにホッとしてしまった。
  だって、目の前にいるのは、今、見ていた夢……悪夢の中の彼とは違う。
  私の大好きなヴィンス様だったから───……



「ミリア、身体は?  痛くない?」
「……」

  そう言われて少し体を動かし、起き上がってみる。
  意識もハッキリしているし、特に痛いところもない。問題なさそうだった。

「大丈夫みたいです」
「良かった……」

  ヴィンス様が優しく抱きしめてくれた。
  私もそっと背中に腕を回す。

「……ヴィンス様が」
「え?」
「ヴィンス様の声が……闇にのまれそうになっていた私を助けてくれました」
「闇……に?」
「闇と言う名の悪夢です。ありがとうございます……」

  私は微笑んでお礼を言いながら、ヴィンス様に言われた事を思い出していた。

  ───僕が絶対にミリアを暗闇そこから救ってみせるよ

  (本当にその通りだわ)

  ヴィンス様がいなかったら、私はあの闇に捕らわれてずっと悪夢を見続ける……そんな事になっていた気がする。
  果ては絶望して私の力もレベッカ様のように黒いものに……

  (戻ってこれてよかった)

  あの悪夢の内容が何かは分からない。もしかしたら、前にも見た起こるはずだった世界……の夢だったのかもしれない。
  そう。
  レベッカ様が望む、彼女が聖女となりヴィンス様と結ばれるという世界────

「……!  そうだ、レベッカ様は!?」
「……」
「私が倒れている間に変な事が起きたりしていませんか?」

  あれだけ酷い負の気持ちで黒い力を放っていたレベッカ様。
  普通に考えれば本人も無事とは言えないのでは?
  そう思って訊ねると、ヴィンス様は静かに視線をレベッカ様のいる方に向けた。私もそちらに顔を向ける。

  (あ……)

  レベッカ様は、真っ青な顔で膝をついていた。
  苦しそうに肩で息をしているので相当、体力が削られたのかもしれない。

「ミリアが倒れた後は、“ほら見なさい!  私の勝ちよ!”とか言って高笑いしていたんだけどすぐに力尽きたのかあんな感じになった」

  それならば、と私は立ち上がる。

「ミリア!  まだ、無理をしてはダメだ!」
「いいえ……レベッカ様に分からせるなら今が一番の好機だと思うのです。ヴィンス様、私を支えていてくれますか?」
「ミリア……」

  ヴィンス様は心配そうな表情を見せたけれど、「分かった」と、しっかり頷いてくれた。
  そうして、私はヴィンス様に支えられながらレベッカ様の元に向かう。

「───レベッカ様」

  私の呼びかけにレベッカ様の身体がビクッと跳ねた。
  
「……もう、終わりにしましょう。認めてください。あなたのその力は癒しなんかじゃない。闇……呪いの力です」
「ち、ち、違うわ!  呪いなんかじゃないわ!」

  顔色も悪いのに首を横に振って否定するレベッカ様。
  ここまで来ても認めようとしないのか、と悲しくなる。
  レベッカ様は何でそんなに聖女に執着するの?

「これは、聖女の……聖女の持つ癒しの力なんだから───!」
「違います!  癒しの力は人を幸せにする力です!  レベッカ様のその力では、人を幸せには出来ません!」
「なっ……!」

  私はそう言って、ここ一番の祈りを込める。
  本当はレベッカ様の力を封じてからにするつもりだったけれど、この分からずやには先に見てもらった方がいい。

「───レベッカ様!  見ていてください。これが本物の聖女の癒しの力です!」
「は?  ちょっ……」

  ────お願い。
  闇の力に……呪われた全ての人と物にこの力を────全てを癒して!  そして元通りに!

  私がそう願った瞬間、辺りはこれまでにないくらいの眩しい光に覆われた。




  部屋の中はしんっと静まり返っていた。

  光が収まった後も、暫くの間は誰も動かず何も言わなかった。
  レベッカ様もポカンとした顔で宙を見つめているだけ。

  (……ちゃんと、浄化……出来たわよね?)

  クラっと目眩がしたところをヴィンス様が支えてくれる。

「ミリア!」
「ヴィンス様、ありがとう、ございます……」

  私が弱く微笑んだ時、ずっとこの状況にどうすることも出来ず、ただ部屋にいただけの王妃殿下と王太子妃殿下が窓の外を見ながら声を上げた。

「───雪が!」
「止んでますわ!」

  二人のその声に安堵する。どうやら、ちゃんと私の力は効いたみたい。

「そ、それだけじゃない!」

  次に驚きの声を上げたのは王太子殿下。同じように窓の外を見て目を丸くしていた。

「……あんなに積もっていたはずの雪も…………ない。無くなっている!」
「これが本物の聖女の力……なのか」

  陛下も外を見ながらそう呟く。
  私はそれを横目に見ながらレベッカ様に告げる。

「レベッカ様、お分かりいただけましたか?」
「……っ!」

  レベッカ様は目に涙を溜めて私を睨む。

「あなたは何かと言い訳をしていましたが、そもそもこの異常気象が起きたのも、それがどんどん悪化したのも……全部全部レベッカ様、あなたのその力のせいです!  いい加減に認めてください!」
「……わ、私のせい!?」
「あなたが祈れば祈るほど、雪は止むどころか酷くなったでしょう?」
「!」

  レベッカ様は心当たりがあったのか、絶望の表情になった。

「私……私が、元凶……」
「人の心を洗脳してまで聖女になりたかったみたいですが、あなたは聖女じゃありません!」
「聖女……じゃない?  嘘……そんなの」

  相当、この事実が受け入れられないのかレベッカ様の目が虚ろになる。
  ここまで付け上がったのは、聖女ともてはやした周囲のせいもあるとはいえ、これまでの事に同情は出来ない。なので、ここまで弱ったならもう封印してしまおう。
  
  そう思った時だった。

「聖女になれないなら……どうすれば……私の幸せ……」
「レベッカ、様?」
「そんな事……有り得ない……」

  ブツブツ呟いているレベッカ様だけど、何だか様子が変……?
  そう感じた瞬間、レベッカ様の身体から黒い闇の力が再びジワリと現れる。

  (───あ!)

  だけど、その闇の力はこちらに攻撃をしてくるわけでもなく、レベッカ様自身を囲み始めた。
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