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偽聖女との対決 ②
しおりを挟む「───は?」
レベッカ様が目を大きく見開いて私の事を見る。
「ちょっと……え? 何で、ミ……」
と、そこで変な間が開いたと思ったら。
「ふ……ふっざけんじゃないわよーーーー! 何? 何であなたがここにいるのよ!」
「……何で、と言われましても」
ふざけるな、と言われても困るわ。こっちは真剣なのに。
「何でよ! それも、まさかヴィンス殿下と一緒にいたの!? どうして戻って来てんのよ!」
「──“聖女”として、どうしてもしなくてはならない用事がありましたので」
「は? 聖女として? 夢見の聖女はもう用済みでしょ!?」
分かってはいたけれど、レベッカ様は絶対に譲らない。
私は部屋の中のいる他の人達をこそっと横目で見る。
彼らは完全に放心状態だった。
(その方が都合がいいわ。騒がれると邪魔だもの)
「はっ……ちょっと待って! そうよ、今の光……なに? まさかあんたが出したの?」
「……」
とりあえず、レベッカ様のその質問には答えずに私はヴィンス様に訊ねる。
「ヴィンス様……香り、しますか?」
「うん、すごく酷い。部屋中に充満しているよ。かなり濃く香っている」
ヴィンス様が顔をしかめながらそう言った。
相当嫌そうな表情なので相当だ。
「そうですか……」
予想が当たっていた事を喜ぶべきなのか悲しむべきなのか……
何であれ、この事態を黙って見過ごすことは出来ない。
今のところ、ヴィンス様にその香りが効いている様子はないけれど、レベッカ様はヴィンス様にも使うつもりだと言っていたから油断は出来ない。
「何をごちゃごちゃ話してるのよ。本当に何をしに…………って、ああ!」
「?」
「ふふ、そう。やっぱり考え直して、癒しの聖女としての力が目覚めた私の補佐になりに来たのね? なぁんだ、そういうこと」
レベッカ様が嬉しそうに笑いだした。
(───……?)
そこで笑顔になる理由が全く分からない。
レベッカ様は何でここにいるのよ! と、怒っているくせに私が補佐になる事を望んでいる?
正直、レベッカ様が何を考えているのかよく分からなくて不気味ではあるけれど、私は私のするべき事をするだけ。
そう思って顔を上げるとヴィンス様と目が合った。
こっそり手を繋ぐと私達は微笑み合って無言で頷いた。
やっぱり、ヴィンス様がいてくれるだけで心強い。
「えっと、レベッカ様。申し訳ございません。私、あなたの補佐になる為に戻って来たわけではありません」
「……は? 何を言ってるの? 聞いていたんでしょ、私は癒しの──」
「ですから! それは“呪い”だと申し上げたはずです!」
私はレベッカ様の言葉を遮ってもう一度、はっきり“呪い”だと言葉にする。
当然だけど、レベッカ様は認めようとはしなかった。
「呪いですって!? そんな事、あるはずないじゃな……」
「なら、どうして今、王都はこんな雪まみれになっているんですか? 国を救う貴重な癒しの聖女だというのにレベッカ様はなぜ、今も雪を放置しているんですか?」
「それはっ! ちょっと……ち、力が使えない日があった……だけ、よ!」
レベッカ様は気まずそうに目を逸らす。
おそらく止めようと力を放っては呪いの力のせいでどんどん悪化した結果がこれ……
そしてここ数日は力そのものが押さえ込まれていたから何も出来なかった、そんなところだろうと思われた。
「おそれながら、陛下たちはこの事態で、癒しの聖女レベッカ様の力に満足されているのでしょうか?」
私は国王陛下達に向かって訊ねる。
彼らはハッとした様子で答えた。
「もちろんだとも!」
「レベッカのおかげで元気になった者は多いからな」
「今は、ただ力が不安定な時だと聞いたから仕方が無いのよ」
「すぐに安定すれば、こんな雪、聖女の力で、消し去ってくれるわ!」
陛下も王太子殿下も王妃様も王太子妃様も完全にレベッカ様に心酔していた。
後で必ず聖女様がどうにかしてくれる……と。
(いくら変な力を使われたのだとしても……国のトップ達がこんな……情けない)
「……それよりも、元聖女ミリア。そなたは追放したはずだ。今さら何をしに来たのだ? しかもヴィンスと……はっ! まさかお前たち……」
「ええ。僕とミリアは一緒にいましたよ? 父上、言ったでしょう? 僕はミリアと結婚する、と」
「ヴィンス! なぜ分からん! 聖女は」
「ですから、何度も言っているように聖女はミリアです。そこにいるのは偽者だ!」
ヴィンス様のその声に合わせて私は光を放つ。
これ以上、ごちゃごちゃ言われるのは正直、邪魔だ。
本当の癒しの力を見てもらうためにも彼らには目を覚ましてもらうわ!
(そういえば……この、レベッカ様の人を虜にする力って王族だけでないのかも?)
そう思った私は王宮内にも範囲を広げる事にした。
そして部屋の中全体が眩い光で包まれる。
「え? は……? 何……眩しっ」
レベッカ様が戸惑いの声を上げる。
「……レベッカ様、“癒しの力”って光り輝くんですよ。決して黒いものなんて出て来ません」
「っ!」
レベッカ様が息を呑んだ。
(あら? この反応……実は分かっていた……?)
おかしいと分かっていてその黒い力を使い続けたのだとしたら、ますます許せそうにない。
「まずは、あなたが持つその謎の香りで心を惑わされた人達にかかってる呪いを浄化させてもらいますね」
「───は? ちょっと! ミリアのくせに何を言って…………あ!」
光が収まると同時に、私とヴィンス様とレベッカ様以外の人達がその場に倒れた。
「ミリア、大丈夫?」
ヴィンス様が私の身体を支えてくれる。
「はい。でも、これで変な作用は消えた……と思います」
「うん……ありがとう。確かにあの不快な香りが部屋から消えている」
「良かった……」
私はホッとする。
自分では分からないから、そう言ってもらえて助かった。
「やっぱりミリアの力は凄いね」
「ヴィンス様……」
私達が微笑み合う傍らで、レベッカ様は困惑していた。
「あんた! いったい、な、何をしたのよ……!」
「だから、浄化です」
「浄化? で、デタラメを言うんじゃないわよ! それから、私のヴィンス殿下と何で密着しているの! 離れなさいよ!」
「え? 嫌です」
私は首を横に振る。
レベッカ様はそんな私の仕草に目を大きく見開いて固まっている。
「ヴィンス様の婚約者は私です。ですからレベッカ様、あなたに指図されるいわれはありません!」
「な、何ですって!?」
「ですから、その汚い手で私の大事なヴィンス様に触れないでください!」
「きっ!?」
汚い手……という表現はレベッカ様のプライドを傷つけたようで顔を真っ赤にして怒り出した。
「汚いのはそっちでしょーー!? 突然戻って来て人の力を呪い呼ばわりして! いいこと? 私が授かった力は呪いなんかじゃ……」
「……レベッカ様。その話の続きは陛下達が目覚めてからにしましょう」
「は?」
国王陛下達にはちゃんと、正気に戻ったその目で見てもらわないと。
ヴィンス様の言葉に耳を傾ける事もせず、むしろ彼を無理やり黙らせて閉じ込めて……挙句の果てにこの国を疲弊させたこの事態を───
私がそう考えていた時、倒れていた陛下達の意識が戻ったのか、それぞれ唸り声を上げながら動き出した。
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