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20. 偽聖女、問い詰められる

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「寒いわ!  何とかしなさいよ!!」
「レ、レベッカ様……そう言われましても……」
「うるさいわね!  癒しの聖女たるこの私が凍えているのよ!?  私が倒れたらどうするつもりなの?  そうなる前に何とかするのがあなた達の役目でしょ!」

  私はここ数日のあまりの寒さに耐えきれず王宮の使用人に当たっていた。

  (何なのよ……この寒さ!)

  季節外れの雪が降り始めた、と聞いた時は、ふーん、としか思わなかったし、王太子殿下にこれは重大な事なんだ!  と言われても何が?  としか思わなかった。
  だって、王宮にいる私には関係ないじゃんって。
  でも違った。
   謎のこの異常気象は、王宮内まで凍えさせていた。
  毎日寒くて寒くてもう限界!

  (こんなこと……信じられないわ!)

  癒しの聖女の私!  が覚醒したタイミングで何で、こんなおかしなことが起こるわけ?
  これじゃ、まるで私……癒しの聖女が不吉の象徴みたいじゃないの───……

「レベッカ様……この異常気象は聖女様の力でどうにかならないのですか!?」
「……(チッ)」

  そんな声があちこちから上がっている事も知っている。
  どうにか出来たらとっくにやってるわよーーーー!

  実はこの異常気象が始まってからは、面倒でサボっていたお祈りをきちんと捧げるようになった。
  だって、それでこの異常気象が回復したら、私が皆から崇め奉られるわけでしょ?
  それなら当然やるに決まってる。
  そう思って祈ってやってんのに!  何でどんどんしてるわけ?

  このままじゃ、役立たずな聖女になっちゃう!
  悪女となるミリアと同じ目で見られるのなんて絶対にごめんよ!

「レベッカ、失礼する!」
「殿下?」

  そう言って私の部屋に入ってきたのは王太子殿下。
  久しぶりに顔を見たわね。どうしたのかしら?

「どうしたんですかぁ?  雪と寒さ対策の件で忙しいと言っていたじゃないですか~」
「……それどころじゃない!」
「?」

  なぜか王太子殿下が私を睨んだ。

  ……え?
  何で私がこんな目で見られなくちゃいけないわけ?
  
  (困ったわ。最近、アレの効果が弱まって来た気がする……)

  覚醒した事で聖女としての地位も確実なものとなったから、もう使わなくてもいいかと思ったけど、やっぱりダメなのかも。
  でも、ヴィンス殿下の分を残しておきたいし……

「レベッカ!  父上が呼んでいる!」
「え~?  国王陛下がですかぁ?  何の御用でしょう?」

  私が首をこてんと傾げながら訊ねると、またまた睨まれた。
  だから、どうしてそんな目で見るのかしら?
  殿下は私を睨みながら言う。

「───叔母上が倒れた」
「……え?」
「しかも、医者に診せたところ、症状が以前より悪化していると言う」
「あ、悪化!?」

  (何それ……どういう事!?)

  王太子殿下は更にキツい目で私を睨んだ。

「元気になったような錯覚を起こしたせいで、身体が無理した結果らしい」
「なっ!?」
「レベッカ、君の力は癒しの力ではなかったのか?  なぜ、癒されるどころか症状が悪化しているんだ!  それも元気になったように錯覚したとまで言われているんだぞ!?」

  (錯覚を起こした……? 何それ、嘘……そんなの……嘘よ、嘘に決まってる……)

   私はちゃんと癒しの力をかけたじゃない!
  それで、王妹殿下は歩けるくらいにまで回復して……

  (何で何で何で?)

  これは何かの間違いよーーーー!





  王太子殿下に連れられてお会いした国王陛下は明らかに私に対して怒っていた。
  私は怒りの視線を感じながら頭を下げる。

「聖女レベッカよ。これは、どういう事なのか説明してもらおうか」
「……」

  何も言えない。だって分からない……どうしてこうなったか、さっぱり分からないの。

「聖女レベッカ!  その力は癒しの力ではなかったのか!?  さきの豪雨災害で発揮した治癒力は何だったのだ!」
「あ、あれは……」
「あの時、癒しの力を受けたもの達は今もピンピンしていてこの寒さにも負けずに元気だと言う。さらに!  あの時に負った怪我以外にも古傷が治ったり、慢性的な病気までもが回復したという報告も受けている!」

  そんな事言われても……あれは覚醒した時のものだから……自分じゃ分からないもん!
  だけど、そんな事を口にしたら今すぐその辺の剣で斬られそう……
  どうしよう……

「……まさか、手を抜いたのではあるまいな?」

  (……ひっ!)

「そ、そんな事していませんっっ!」

  私は必死に首を横に振る。
  陛下はジロリと私を睨んだ。

「では何故だ?」
「そ、それは───……」

  (そうよ、王妹殿下の件は調子が悪かったとか何とか言ってとりあえず誤魔化そう!)

  私が声を震わせながらどうにか取り繕おうとした時だった。

「陛下!  王太子殿下、失礼致します!」
「癒しの聖女、レベッカ様について、ぜひ、我々の話も聞いてください!」
「なんだ、お前たち?」

  (───っ!)

  天の助け?  と、思った私が見たのは部屋に乗り込んで来た数名の大臣たちだった。

  (あら?  この大臣たちって……)

  どこかで見た顔だわ……って言うか、私が癒しの力をかけてあげて……それで、確か……この間……

「陛下……発言をお許しください。我々はレベッカ様に癒しの力をかけてもらいました」
「ほう?  それで?  なんだ、お前たちは聖女に助けられたと擁護でもするつもりか?」
「いいえ、我々が言いたいことは一つです!」

  (い……嫌な予感がするわ)

  私はブルッと身体を震わせる。もちろん寒いというのもあるけれど、それだけじゃない。
  だってこの大臣たち……って、あの日私に詰め寄ってきた人たち、よね?

「陛下!  レベッカ様の“癒しの力”は全くの偽物です!」
「レベッカ様の癒しの力は嘘ばっかりだ」
「むしろ、悪化の一途を辿る……最低最悪な力!」

  (最低最悪ですって!?  ───ちょっとぉぉおぉぉ!?)

  よりにもよってあの日、私が追い返した大臣たちがとっても最悪のタイミングでやって来やがった。

  (ま、まずいわ……なんでこのタイミングなのよ!)
   
  私の背中に冷たい汗が流れる。
  国王陛下も王太子殿下も、そして大臣たちも……みんなみんな私を冷たい目で見ていた。
  聖女は私よ!  私なのに!?

「国の為に祈りを捧げているなどと言っていたが、どこまで本当なのやら……」
「それなのに、この異常気象。しっかりとした説明が欲しいですね」
「こんな事なら、前の夢見の聖女様の方が良かったのでは?」
「ああ、思い返せば……ミリア様は、確かにいつも我々に寄り添ってくれていた」

  聞き捨てならない名前が聞こえた。

  (───また、ミリア!  許せない!)

  私はギリッと唇を噛んだ。

「陛下!  いっその事、前・夢見の聖女様を王宮に呼び戻してはどうでしょう?」
「なに?」
「そうですよ!  ミリア様ならこの異常気象も何が原因なのか分かるかもしれません」
「……ふむ」

  (はぁ?  大臣たちこいつら何を言っているの!?)

  あの女は悪役!  聖女なんかじゃないのよ!?  私こそが聖女なの!
  なのにどいつもこいつも───

  (ミリア、ミリア、ミリア……!)

「ふ……」
「……ん?  おい?  レベッカ?  どうした?」
「っ!」

  私に向かって手を伸ばそうとした王太子殿下の手を振り払って私は大声で叫んだ。

「ふ、ふざけんじゃないわよーーーー!」
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