【完結】どうか、ほっといてください! お役御免の聖女はあなたの妃にはなれません

Rohdea

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18. 聖女の決意

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「……本当に大丈夫?」
「大丈夫です。ローブを被ればある程度は隠せますし!」
「それはそうなんだけど……でも、ミリア……」

  切なそうな声で私の名を呼ぶヴィンス様の顔はやっぱり心配そうだわ───……


─────


  もしかしたら、聖女として振る舞っているレベッカ様の持っている力は、“黒くて良くないもの”で……レベッカ様がその黒い力を王妹殿下にかけたかもしれません───

  私がそう伝えたら、ヴィンス様は驚いていた。
  あくまでも夢で見た内容からの推測でしかないこと。でも、私が倒れた時に感じた感覚を説明すると、ヴィンス様は頷いた。
  その後も議論しておそらくこの仮説は間違いない、二人でそう結論づけた。

『ミリアはその黒い力?  良くないもの……は何だと思ってるの?』

  ヴィンス様にそう訊ねられて、しっくりくる言葉はなんだろう?  と、考えた。
  そして思い当たったピッタリの言葉は一つだけだった。

『呪い……ですね』
『……呪い!』

  ヴィンス様が衝撃を受けた顔になる。

『もしかすると呪いを受けた者は一見、回復したように見えるのかもしれません。でも、きっとそれは見せかけで内部では呪いの進行がどんどん……』
『……』

  その先は考えたくない。

『……ミリア。それってもしも、あの女……偽者の聖女レベッカが王国の平和なんてものをその状態で祈り続けたら……』
『それはー……国を呪う事になりますから…………間違いなく崩壊に向かう、のでは無いでしょうか?』
『だよね』

  私達は黙り込んだ。
  この推測がどこまで当たっているかは分からない。でも、ハズレでは無い。そんな気がしている。
  それに、呪いの被害者だって王妹殿下だけとは限らない。
  今、この瞬間もどんどん増えている可能性だってある。

  (だって、もう倒れるほどでは無いけれど、なんとなくずっと今も黒い気配を感じる)

『ミリア……』
『ヴィンス様?』

  ヴィンス様が真剣な目で私を見つめる。
  この密着状態のせいか、凄く胸がドキドキした。

  (そうよね……ヴィンス様は王子様だもの。国のことが心配よね)

  ヴィンス様の事だからきっと、王都に戻る……そう言い出すに違いない。
  それなら、私は──

『そうだなぁ…………うん!  よし!  二人でこのまま他国に逃げちゃおうか?』
『はい……そうで』

  (────ん?)

  今……ヴィンス様、なんて言った??  私、聞き間違えた?
  私はポカンとした顔でヴィンス様の顔を見た。

『ヴィンス様?』
『どうしたの?  ミリア。そんなきょとんとした可愛い顔をして』
『きょ……』

  ヴィンス様はニコッと笑顔を浮かべてそんな軽口をたたく。
  こんな時に何を言っているの、と言いたい!

『い、今なんて……?』
『え?  だから二人で逃げちゃおうかって』
『……』

  逃げ……?  逃げる?  
  今すぐ王都に戻ろう!  ではなくてーー?

  私の脳内が大混乱に陥った。
  そんな私の様子がおかしかったのかフッと笑ったヴィンス様の顔が近付いてきた。

『ヴィンス……様?』

  チュッと音を立ててヴィンス様は私の額にそっとキスをした。

『ミリアさ……まさか僕がそんな事を言うなんて!  と思った?』
『はい、思いました……』

  私は頷く。
  私の知っているヴィンス様はいつだって国の事を考えていたはずだ。

  ───ミリア。僕は将来国を背負う兄上の力になりたい。だからミリアと僕で兄上の治世を一緒に支えよう!

  そう言っていたじゃない?

『そうだね。昔の僕ならこんな事は言わない』
『昔の?』

  頷いたヴィンス様の手がそっと今度は私の頬に触れる。

『でも、今の僕は、ミリアの価値も分かろうとしないこんな国、サクッと捨ててもいいんじゃないかなって思ってる』
『ヴィンス様!?』
『国のこの事態は、自業自得なんだよ』

  国を捨てる?  王子様がとんでもない事を言い出したわ!?
  私は慌てた。なのに、ヴィンス様は冷静だった。

『だって、そうだろう?  散々、ミリア、ミリア……夢見の聖女様!  ってこれまで頼って来たくせに、あんなぽっと出のいかにも怪しい女にあっさり騙されたんだよ?』
『それは……』
『ミリアも妃にはなりたくないわけだし、僕はミリアがずっと一緒にいてくれればそれでいいし。ほら、ちょうどいいと思わない?』
『……っ!』

  その言葉に私の心は揺れた。

  あっさり私を要らない者扱いした国の事なんて忘れて、自分の好きな人と自由に生きる。
  国がどうなっても私にはもう関係がない。滅ぶならご勝手に。だってレベッカ様を選んだのはあなた達なのだから。
  そんな気持ちは…………ある。凄くある。だけど……

  (心の底からそう思えたら良かったのに───)

『……ミリア』
『んっ……』

  ヴィンス様がもう一度、私の額にキスをした。
  唇を離したヴィンス様は私に向かって優しく微笑む。

『ミリアは優しいね』
『……』
『だからと言って国を見捨てられないんだろう?』
『……決してレベッカ様や王族の皆さんを許したわけではないです。ただ、国民が……』

  私の新しい力があれば国民だけでも救えるかもしれない。
  癒しの力は呪われた力を浄化出来るんじゃないかって。

『知ってるよ。僕はそんな風に人を思えるミリアだから好きになったんだ』
『ヴィンス様……』
『僕はミリアの気持ちを尊重する。ミリアはどうしたい?』

  ヴィンス様はそう言って優しく私を抱きしめてくれた。


─────


  そうして、ヴィンス様は私の願いを聞いてくれて一緒に王都に向かう選択をしてくれた。
  追放された身で王都に戻るのは、“どうぞ捕まえて下さい”と言うようなもの。
  とりあえず、様子見で王都近くの街まで向かう事にした。

  ヴィンス様と王都に向かうことを決めた後、その話を店主さんにしたら、彼女は結婚の挨拶だと勘違いして嬉しそうに笑った。

「ミリアさんの部屋に薔薇の花が飾られていたからね!  何だか本数が日に日に増えていたし。近々そんな話になると思ってたわよ」
  さらに、
「相手の男性が私が店を空けてる時間を狙ってミリアさんに会いに来ていたのも知っているわ」
  と、何もかもバレバレだった事を知った。


  そうして、支度を終えて王都に向けて出発──となったのだけど。
  馬車の中でヴィンス様がちょっと拗ねている。
  さっきの表情からとにかく心配しているらしい、

  (自分だって逃亡者なのに……)

「王都が今、どんな状態か知らないけど、僕としては無理して戻らなくてもここでミリアが国民の平和を祈れば全部、何とかなる気がするんだけどなぁ……」
「……その通りかもしれないですけど、それは駄目です」
「何で?」

  ヴィンス様が首を傾げる。

「それだと、レベッカ様が自分の手柄にしてしまう気がします」
「あー……」

  彼女が自分の黒い力が何なのか分かった上で使っているのか、それとも何も知らずに使っているのか……
  それを知るためにはやっぱり、会いに行かなくてはと思う。

「あと、レベッカ様にはヴィンス様は私のです!  って言ってやります」
「ミリア……!」 
「もう、レベッカ様に婚約者面なんてさせません!」

  私がそう意気込んだら、ヴィンス様が突然腕を伸ばしてギュッーーっと私を抱きしめた。

「ヴィンス様!?  いくら貸切の馬車でも……!」

  ヴィンス様は私の抗議には答えずに私の耳元に顔を寄せ、囁いた。

「ミリア……好きだよ」
「うっ!」
   
  (み、耳が蕩けそう!)

「大好きだ、ミリア」
「~~~!」

  ヴィンス様の愛の言葉は、馬車が止まるまで続いた。




  そして、私達は王都近くの街に辿り着いたので、馬車を降りる。

「え!」
「寒っ!?」

  私もヴィンス様も地面に降り立った瞬間、思わずそんな声を上げていた。

  (何この寒さ!  今はそんな季節では無いはずよ?)

  辺境の地ではこんな事になっていなかったのに。
  いったい何が起きているの?

  言葉に出来ない不安が私を襲った。
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