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17. 破滅に向かう国
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「聖女レベッカよ! こたびのこと、誠に感謝する!」
「ありがとうございます!」
(やったわ! 国王陛下が私に感謝しているわ! 成功よーー!)
「王太子からも話は聞いている! そなたの力は本物だ!」
そう言った国王陛下はチラッと窓の外を見た。
ちょうどそこには歩けるようになったばかりの王妹殿下が侍女と散歩をしていた。
国王陛下はその姿を見て頷くと嬉しそうに言った。
「まだ、顔色はよくないようだが長年、部屋の中でしか過ごしていなかったから仕方なかろう……だが、これを機に外の光を浴びればもっと元気になるはずだ」
「……そ、そうですね~」
私はその言葉を若干、顔を引き攣らせながら頷いた。
(それよ……歩いてる。確かに王妹殿下は歩いているんだけど)
どうして顔色が悪いままなの?
癒しの聖女の力は心身共に健康にする力のはずなのよ?
だって私が覚醒したはずの豪雨災害で怪我していた人達の時はそうだったじゃない?
あれ、皆元気いっぱいになったんでしょ?
(眩い光じゃなかった事が関係している?)
……なんて、気のせいよね!
私はちゃんと王妹殿下を歩けるようにした! その事に変わりは無いもの。
そう自分に言い聞かせた。
「そなたのお披露目も当初の予定よりも大々的にやらねばならんな」
「ふふ、ありがとうございます」
(ええ、ええ、盛大にお願いするわ!)
皆に愛されてチヤホヤされる自分を想像するだけで頬が緩んでしまう。
「ふむ。これは早く、ヴィンスも隣に並ばせんといけん────して? まだ、あいつは見つからないのか?」
最後の言葉は、側近に訊ねていた。
側近は申し訳なさそうに頷いていた。
───ああ、もうヴィンス殿下。本当に! 早く戻って来なさいよ! こんなに可愛い癒しの聖女の私を妃に迎えられるのよ?
こんなに幸せなことはないはずよ?
何であんな悪役に惚れてたのか知らないけど、役立たずの事なんか、この私が忘れさせてあげるのに~。
こうしてウッキウキの私の“癒しの聖女生活”が始まる。
─────はずだった。
「レベッカ様! これは一体、どういう事なのですか!」
「癒しの聖女様の力を信じて、私は……子供を……」
「これでは生きる屍のようではありませんか!」
あれから五日ほど経った。
私は今、大臣共に詰め寄られている。
(な、な、何なのよぉぉぉ!?)
癒しの聖女として覚醒して国王陛下にも認められた私は、大々的にお披露目された。
ヴィンス殿下との婚約発表は保留のままだけど癒しの聖女効果は抜群。
予想通り、私の元には大勢の癒しの力を求める人が殺到。
この私が、民共の所にまで行くのは面倒だったので、とりあえず手身近にいる貴族……大臣共に癒しの力を授けてあげる事にした。
(めちゃくちゃ喜んでたくせにーーーー!)
何度、誰に手をかざしても、手から出る光が暗い闇のようなのはすごく気になったけど。
それでも、私は彼らの頼みを聞いてちゃんと癒せたはずだ。
手放しで喜んでいたんだから。
「い、一度はフサフサになった髪が……す、すぐに抜け落ちて……最初より酷い状態に!」
「……」
そう言って泣きそうな顔で訴えてきた男。
髪の毛がだいぶ……いや、かなり寂しいことになっている。笑えるわ~
でも、だから何?
(そんなくだらない事に癒しの力を使わせようとするからよ)
「わ、私はあなた様を信じて……こ、子どもを診せたのに!」
「……」
「病状があ、悪化して、今、もっと苦しんでいるんですよ!?」
(えっと? 確か子供が病気で治して欲しいとか言ってたんだっけ?)
なんの病気だったかしら? 確か難病で治療法が──……
ああ、もう! そんなのいちいち覚えてられないわよ! 知らないっ!
「わ、私の妻は……」
「───あなた達、そんなに癒しの聖女の力が信じられないと言うの? 私は、私のこの力は国王陛下直々に認められているのよ!?」
いい加減、うんざりだった私はそう訴えを一蹴する。
だって、どうせ、全部言い掛かりに決まってるもの。
有名になるって仕方がないことよね……
「私はあなた達のために……この国のために平和を毎日願っているというのに……! 酷いわ」
「ぐっ……」
「レベッカ様……」
私はふふんっと勝ち誇った顔を見せる。
なんてね!
本当は毎日三回は平和を祈れって言われてるけど面倒なので、適当にサボってる。
ちょっとサボったからって王国が崩れるわけじゃないでしょ?
(むしろ、また何か起きてくれた方が真の力を皆の前で発揮出来るかも───)
そう思った時だった。
「───た、大変です! 聖女様!」
そこに誰かが飛び込んで来る。
「何かしら? 私は今、忙しいのよ?」
「で、ですが……王太子殿下が至急……と」
「殿下が?」
私は顔を顰めた。
だって、至急でこの私を呼び出すなんてただ事じゃないわよ?
「今、向かうわ。そう伝えてちょうだい」
「は!」
「そういうわけだから、あなた達との話はここまでね」
私は訴えて来た大臣たちにそう告げる。
「そ、そんな!」
「私の子供は……」
「つ、妻が!」
私はまだ、何かを訴えようとする大臣たちを無視して部屋を出た。
(そういえば、よく聞かなかったけど、三人目は何を訴えようとしていたのかしら……)
生きる屍……とか気持ち悪いことを言っていたような?
「…………聞き間違いよね」
そう呟いて私は殿下の元へと向かった。
───
「雪、ですか?」
「ああ。今朝からチラチラ降り始めて積もり始めた場所も出ているという」
王太子殿下の元に向かったらすごく深刻な顔をしていたので、また土砂降り? 土砂災害でも起きちゃった? と思ったら雪が降ってきたと言う。
(なぁんだ、そんなこと~?)
雪が降ったくらいで王太子殿下を始めとした人達がこんな青い顔をしてるの~?
王宮内は寒くもないし、ぜーんぜん気が付かなかったわ。
「えっと……それが何か問題でも? どうかしましたか?」
「は? 君は何を言っているんだ!」
「?」
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酷いわ。なんでなのよ。
「我が国で雪が降るなんて何十年に一度あるかどうかだ! それを差し置いても今は雪が降る季節ではないだろう!?」
「あ、あぁ……そう、でしたわ。失礼しました」
(へー……そうだったのね)
気にしたことないから知らなかったわ。
「しかも、積もるなんて前代未聞。さすがにレベッカ……君もこの重大さが分かるだろう!?」
「……え、ええ! 大変ですわ、ね……」
何が重大なのかさっぱり分からなかったけど、私は神妙な表情を浮かべてとりあえず適当に話を合わせることにした。
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