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15. 偽者のやらかしと、まだ無自覚な本物
しおりを挟む「あれ……?」
一瞬、まるで闇に包まれたかのように部屋の中が真っ暗になった。
でも、私が知っている“癒しの力”が発動する時って光り輝く……だった気がするんだけど?
何で部屋が暗くなったの?
「レベッカ? 今のはなんだ?」
「……」
王太子殿下も気になったみたいで訊ねてきたけど、そんなの私が知るはずがない。
だから、私は無言でにっこり笑ったまま答えなかった。
「そうか……今のが癒しの力なのか? 思っていたのとは違ったが……それより、叔母上の様子は」
良かった~殿下は勝手に解釈してくれたみたい!
ただ、殿下も思ってたのと違うって感じたみたいだけど───……ま、ちょっと違っただけよね! 大した事じゃないわ。
と、自分に言い聞かせた。
「ご気分はどうですか? 叔母上」
「……」
王妹殿下が薄ら目を開けた。
そして、ベッドからゆっくり起き上がる。そして自分の身体を少し動かしながら言った。
「起き上がれたわ! それに……身体も軽くなった気がするわね」
(やったぁぁ!)
その声に王太子殿下も喜ぶ。
「レベッカ! さすがだ! やはり本物の聖女は違うな!」
「ふふ、当然です!」
私たちは笑顔で笑い合う。
(良かった~黒い光なんてものが出るから一瞬ヒヤヒヤしたけど~)
「叔母上、立てますか?」
「え、ええ……」
王妹殿下は王太子殿下の手を借りて立ち上がる。
「立ち上がったぞ!」
「……まさか、立てるなんて! あぁ、嘘みたい!」
嬉しそうな声を上げる二人を見ながら私も笑う。
(ふふ……ふふふ、やった! これで完璧ね! 国王陛下が私に感謝する展開来たわーーーー! 大成功よ!)
これで、私は癒しの聖女として最高位につける!
後は未来の夫──ヴィンス殿下を見つけるだけ!
───浮かれていた私は知らない。
確かに、身体が軽くなり立ち上がる事も出来た王妹殿下だったけど、その顔色は酷く青白いままだった事を。
癒しの力が効いたなら本来は顔色だって良くなるのはずなのに。
これが本物の癒しの力だと信じていた私は何も知らないし気付かなかった────
❋❋❋❋
その頃。
まさか、レベッカ様が王宮で癒しの聖女を名乗ってやらかしている事など知る由もなかった私は……
「あ、の……ヴィンス、さま!」
「……」
もう駄目、触れないでとは言わない……そう決めたけれど、ちょっと苦しいので力を緩めて?
と言うのは有りなの無しなの?
私はヴィンス様にギューっと抱きしめられながらそんな事を考えていた。
「ヴィンス……さ」
やっぱり、ちょっと苦しい。
ほんの少しでもいいので、どうにか力を緩めて貰おうと思ったその時、周囲にいた人々の声が耳に入って来た。
「今の光、見た?」
「見た見た!」
「何だったのかしら?」
(……! そうだった! ここは外!)
今更ながらその事に気づく私。
そしてやはり今の光の事は皆、気になっている様子。
(光の発信元がここだとバレてはいない……わよね?)
そっと目線を声の方向に移した。
「あ、見てほら、あんな所で抱き合ってる二人がいる」
「本当! こんな所で堂々と……」
(……!)
謎の光が私から(?)出たことはどうやらバレていないようだけど、白昼堂々抱き合っていることが話題にのぼっている。そんなの冷静に考えれば当然だった。
これは目立ちすぎるので、ヴィンス様に一旦離れてもらわないといけない!
そう思った私はそっとヴィンス様に声をかけた。
「ヴィンス様……な、名残り惜しいですけれど私たち、一旦、離れませんか!?」
「やだ」
「え!」
即答。
しかも、その子供みたいな返答に胸がキュンとしてしまった。
(こんなヴィンス様は珍しい……)
「そ、そんな子供みたいな……」
「だって、ようやくミリアが僕の腕の中にいてくれているんだ。だから、もう少しだけ……」
「……私はもう逃げませんよ?」
「分かってる……が!」
(ヴィンス様ったら……)
また私の胸がときめいた。
だけど、残念ながら今はその胸キュンを堪能している場合では無いのよ。
いくら変装していてもヴィンス様はこの国の王子様。しかも逃亡中。
こんな所で目立ってしまう事は絶対に良くない。
「な、ならせめて場所……場所を変えませんか?」
「……場所を?」
「そうです。ふ、二人きりになれる所でもっとゆっくり!」
「ミリアと二人きり!」
ヴィンス様がパッと顔を上げた。
(あ、嬉しそう……)
そんな嬉しそうなヴィンス様の表情を見て、大事なことに気付けて自分の気持ちが言えて良かった……
だから、ヴィンス様のこの顔が見れたんだわ……と、私の心もホッコリしたその時だった。
(─────!?)
突然、ゾクッとしたものが私の身体中を駆け巡る。
今まで感じたことの無い感覚で、ものすごい不快な感覚。
「ミリア!?」
「……」
(何これ……すごく、すごく気持ち悪い……)
ついには寒気までしてきた私の身体がブルブルと震え出す。
上手く言えないけれど、すごく“良くないもの”を感じる。
「ミリア、か、顔色が……大丈夫か? ミリア!」
「……ヴィ……」
「ミリア!」
心配そうなヴィンス様の顔を見ながら私はそのまま意識を失った。
──────夢を見た。
『こんにちは、レベッカ』
『ヴィンス殿下!』
聖女を解任された私が、お仕えする事になった“新しい聖女レベッカ様”の元に、婚約者だったヴィンス様が訪ねて来た。
『突然、どうなさったの?』
『うん、レベッカの顔が見たくてちょっだけ寄ってみた』
『まあ! 嬉しいです』
微笑み合う二人。
私はその光景を悲しい気持ちで見つめる。
───ついこの間まで、その場所にいたのは私だったのに。
『レベッカは今日も各地を回っていたんだって?』
『はい! 苦しんでいる人達を助けるのが私の役目ですから!』
無邪気に笑うレベッカ様の頭をヴィンス様が優しく撫でていた。
───ついこの間まで、その手は私のものだったのに。
二人を見ていると、自分の中にどんどん黒い気持ちが溜まっていく。
(奪われた……私の場所が奪われた……)
そこは私の場所……私が居るはずだった場所……
どうしてこんな後からしゃしゃり出て来た女に……!
『癒しの聖女はさすがだね』
『いえ、そんな事ないです……照れちゃいます』
『叔母上を救ったあの時も見事だった。一瞬、眩しい光が放たれた!? と思ったら、すぐに心も身体も健康的になっているなんて、さ。まるで奇跡だよ』
『ふふ、ありがとうございます』
───何が癒しの聖女よ……
私の居場所を奪って、こんな光景を見せつけて……ふざけないで!
どんどん湧き上がってくる黒い気持ち。
(壊してやる……! どんな事をしてもこの二人の仲を壊してやる)
そうね、この二人だけじゃないわ。
ずっと聖女としてこの国に尽くして来たのに。
この私をあっさり見限ったこんな国そのものも滅んでしまえばいい─────
この時、私は自分の中に“黒い力”が生まれたのを感じた。
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