上 下
14 / 33

14. 偽・癒しの聖女の勘違い

しおりを挟む

  (ふふ、ふふふ……)

  ようやく聖女の力に覚醒した私。
  私の運命の相手、ヴィンス殿下が行方不明という気がかりな事はまだ残っているけれど、これで物語は一気に進むわ。
  この力を手に入れた私に怖いものなんてないのよ!


  
「聖女レベッカよ。新たな力に目覚めたと言う話は本当なのか?」

  私は覚醒した力の件で国王陛下に呼び出されていた。
  そして、この問いには当然、満面の笑みで頷く。

「はい!  私のこの新しい力は癒しの力です!」
「癒しの力!  ……そうか……先の豪雨による被害が綺麗さっぱりなくなったと聞いている……ふむ。さすがだな、聖女レベッカ!」
「ありがとうございます!」

  (これでもう夢見の聖女のフリはしなくてもいいわよね?)

  だって、未来視なんかしなくたって何かあればこの“癒しの力”で全部どうにかなるし~!

  ヴィンス殿下以外は私の知っている通りの行動しかしないので、未来が視えるのだと皆を騙すのはとっても簡単だったけど、やっぱり嘘は疲れるもん。
  特に今回みたいな災害について予言しろとか言われても無理よ無理!  
  だから今回は危うくバレるかと思ってハラハラしたわ。

  (だけど、本当にいいタイミングで覚醒出来たわ~~さすが私よね!)

  癒しの聖女の存在はこれからこの国の顔となる。
  民共は私の存在に熱狂し、貴族共は平伏し、王族ですら私を敬うようになる。
  とにかく最高なのよ!  想像するだけで気持ちいい。

  (あぁ、早くみんなに私のこの力を見せつけたいわ~)

  夢見の力なんて地味だもの。それに比べて癒しの力は派手だからすぐに分かるしね!

「聖女レベッカよ」
「はい!」
「それでは、その“癒しの力”で一つ頼まれ事をしてくれぬか?」 
「!」

  (よっし!  来た来た来た来たーーーー!)

  私はニヤけそうになった口元をそっと抑える。
  だけど、内心は歓喜していた。
  だってこれは、とってもとってもとっても重要なイベント!  
  癒しの聖女として覚醒して最初に起こる話よ。
  これを無事にクリアする事で国王陛下は感謝して完全に私の味方となるんだから!

「聖女レベッカ。君は私の妹に会ったことはあるか?」
「い、いえ……ありません」

  (出た、妹!  ふふ、やっぱりこの話!)

「そうか。実は───」

  国王陛下は神妙そうな顔をして語り出した。


  癒しの聖女として覚醒した私は、これから多くの人から助けを求められるようになる。
  そんな癒しの聖女への最初の依頼者はなんと国王陛下だ。
  実は、国王陛下には目に入れても痛くないくらいに可愛がっている妹王女……王妹がいる。
  
  (だけど、その王妹は昔から病弱なのよね~)  

  その事から結婚もせずに静かにひっそり王宮で暮らしている王妹殿下。
  だけど最近、その王妹は体調が悪化してしまい歩行までも困難になってしまった。
  だから……
  “癒しの力で妹の病気を治して欲しい”
  それが、陛下の依頼なのよ。

  ────そして、やっばり陛下から語られた依頼はその話だった。

「せめて……歩けるくらいには回復させてやりたいのだ」
「歩けるくらいにですか?  いいえ、全て私に任せてください!  必ずやこの私が殿下を歩けるどころか元気にしてみせます!」

  私は胸を張り堂々とそう答えた。

「そうか!  よろしく頼む。ヴィンスもそなたの“癒しの力”の評判を聞けばきっと帰ってくるだろう。戻って来たら大々的に婚約発表だ」
「はい!」

  陛下もそう言って嬉しそうに頷いてくれた。



  

  (元気にするって、ささっと癒しの術をかけるだけで終わりなんでしょ~簡単簡単!)

  私は陛下の依頼を受けて王妹殿下の部屋へと向かった。
  殿下には陛下が既に話を通してくれているらしいので、そのまま部屋を訪ねていいそうだ。

  (さて……見届け人はこの人か)

  私は横にいる人をチラッと見る。

「王太子殿下、わざわざ付き添いありがとうございます~」
「いや。叔母上の体調も心配だったのでな。それに癒しの聖女の力というのも見てみたかった」
「ふふ、そうですか~」

  (本当は付き添いはヴィンス殿下になるはずだったけど居ないんだもん、しょうがないわよね?)

  私の癒しの力を見て感激するヴィンス殿下の姿が見たかったけど、今はしょうがない。
  王太子殿下に、私の力を見せつけておくのもこれからの事を考えればいい事しかないし。
  
  ──ふふ、ふふふ……
  王妹殿下を元気にさえすれば、私の信頼度は完璧……
  想像するだけで笑いが止まらなかった。


───


「あなたが聖女レベッカ様?  お兄様から話は聞いているわ。こんな所からの挨拶でごめんなさいね」

  王妹殿下はベッドの中で私を出迎えてくれた。
  外を歩けないせいで日に当たらない生活のせいか、色白で顔色も良くない。
  痩せてるし……もうどこからどう見ても病人って感じ!  気の毒ね~

「いいえ、お目にかかれて光栄です。私が必ず元気にしますのでご安心ください!」
「ふふ、とても心強い言葉だわ。よろしくね」

  王妹殿下は微笑んだけどやっぱり元気がない気がする。
  これは相当、重病のようね……
  そんな私に向かって王太子殿下も頷く。

「レベッカ、よろしく頼む」
「もちろんです!  お任せ下さい!」

  そうして挨拶もそこそこに私は王妹殿下に“癒しの術”をかける事になった。
  そこでふと思う。

  (……ところで、癒しの術ってどうやってかければいいのかしら~?)

  そういえば、覚醒時は無意識だったから自分で何をしたのかよく分からないのよねー。
  …………あれは、いったいどうやって覚醒したのかしら?

「……」

  (うーん?  とりあえず、手っ取り早く手をかざしてみればいい?)

  そう思った私は、ベッドで横になっている王妹殿下に向かって適当に手をかざした。

「……」
「……」
「……」

  しんっと部屋は静まり返っていた。
  何故か、なーーんにも起きない。

  (ええーー?  どうしてーー?)

「……レベッカ?  どうしたのだ?」
「あの……?  レベッカ様?」

  王太子殿下と王妹殿下が不安そうな声色で私に訊ねてくる。
  ───煩いわね!  そんなの聞かれても私に分かるわけないでしょーー!?  
  そう言ってやりたい。

「えっと~、少々お待ちくださいね~……こ、これは今、気を溜めている最中なんです~!」
「そうか!」
「気を?  大変なのね、私の為にごめんなさい……」

  とりあえず適当な事を言って誤魔化した。
  これで、煩い二人は黙らせたわ。あとは癒しの力が発動するだけ……なのに!

  (なんで、何の反応もしないのよーーーー!)

  私は“癒しの聖女”なのよ!
  誰よりも凄い力を持った聖女なんだからーー!

「……あ!」

  私が強くそう思った瞬間、部屋の空気が変わった。
しおりを挟む
感想 105

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢アンナの婚約者:スティーブンが不倫をして…でも、アンナは平気だった。そこに真実の愛がないことなんて、最初から分かっていたから。

婚約者に嫌われているようなので離れてみたら、なぜか抗議されました

花々
恋愛
メリアム侯爵家の令嬢クラリッサは、婚約者である公爵家のライアンから蔑まれている。 クラリッサは「お前の目は醜い」というライアンの言葉を鵜呑みにし、いつも前髪で顔を隠しながら過ごしていた。 そんなある日、クラリッサは王家主催のパーティーに参加する。 いつも通りクラリッサをほったらかしてほかの参加者と談笑しているライアンから離れて廊下に出たところ、見知らぬ青年がうずくまっているのを見つける。クラリッサが心配して介抱すると、青年からいたく感謝される。 数日後、クラリッサの元になぜか王家からの使者がやってきて……。 ✴︎感想誠にありがとうございます❗️ ✴︎(承認不要の方)ご指摘ありがとうございます。第一王子のミスでした💦 ✴︎ヒロインの実家は侯爵家です。誤字失礼しました😵

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

処理中です...