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14. 偽・癒しの聖女の勘違い
しおりを挟む(ふふ、ふふふ……)
ようやく聖女の力に覚醒した私。
私の運命の相手、ヴィンス殿下が行方不明という気がかりな事はまだ残っているけれど、これで物語は一気に進むわ。
この力を手に入れた私に怖いものなんてないのよ!
「聖女レベッカよ。新たな力に目覚めたと言う話は本当なのか?」
私は覚醒した力の件で国王陛下に呼び出されていた。
そして、この問いには当然、満面の笑みで頷く。
「はい! 私のこの新しい力は癒しの力です!」
「癒しの力! ……そうか……先の豪雨による被害が綺麗さっぱりなくなったと聞いている……ふむ。さすがだな、聖女レベッカ!」
「ありがとうございます!」
(これでもう夢見の聖女のフリはしなくてもいいわよね?)
だって、未来視なんかしなくたって何かあればこの“癒しの力”で全部どうにかなるし~!
ヴィンス殿下以外は私の知っている通りの行動しかしないので、未来が視えるのだと皆を騙すのはとっても簡単だったけど、やっぱり嘘は疲れるもん。
特に今回みたいな災害について予言しろとか言われても無理よ無理!
だから今回は危うくバレるかと思ってハラハラしたわ。
(だけど、本当にいいタイミングで覚醒出来たわ~~さすが私よね!)
癒しの聖女の存在はこれからこの国の顔となる。
民共は私の存在に熱狂し、貴族共は平伏し、王族ですら私を敬うようになる。
とにかく最高なのよ! 想像するだけで気持ちいい。
(あぁ、早くみんなに私のこの力を見せつけたいわ~)
夢見の力なんて地味だもの。それに比べて癒しの力は派手だからすぐに分かるしね!
「聖女レベッカよ」
「はい!」
「それでは、その“癒しの力”で一つ頼まれ事をしてくれぬか?」
「!」
(よっし! 来た来た来た来たーーーー!)
私はニヤけそうになった口元をそっと抑える。
だけど、内心は歓喜していた。
だってこれは、とってもとってもとっても重要なイベント!
癒しの聖女として覚醒して最初に起こる話よ。
これを無事にクリアする事で国王陛下は感謝して完全に私の味方となるんだから!
「聖女レベッカ。君は私の妹に会ったことはあるか?」
「い、いえ……ありません」
(出た、妹! ふふ、やっぱりこの話!)
「そうか。実は───」
国王陛下は神妙そうな顔をして語り出した。
癒しの聖女として覚醒した私は、これから多くの人から助けを求められるようになる。
そんな癒しの聖女への最初の依頼者はなんと国王陛下だ。
実は、国王陛下には目に入れても痛くないくらいに可愛がっている妹王女……王妹がいる。
(だけど、その王妹は昔から病弱なのよね~)
その事から結婚もせずに静かにひっそり王宮で暮らしている王妹殿下。
だけど最近、その王妹は体調が悪化してしまい歩行までも困難になってしまった。
だから……
“癒しの力で妹の病気を治して欲しい”
それが、陛下の依頼なのよ。
────そして、やっばり陛下から語られた依頼はその話だった。
「せめて……歩けるくらいには回復させてやりたいのだ」
「歩けるくらいにですか? いいえ、全て私に任せてください! 必ずやこの私が殿下を歩けるどころか元気にしてみせます!」
私は胸を張り堂々とそう答えた。
「そうか! よろしく頼む。ヴィンスもそなたの“癒しの力”の評判を聞けばきっと帰ってくるだろう。戻って来たら大々的に婚約発表だ」
「はい!」
陛下もそう言って嬉しそうに頷いてくれた。
(元気にするって、ささっと癒しの術をかけるだけで終わりなんでしょ~簡単簡単!)
私は陛下の依頼を受けて王妹殿下の部屋へと向かった。
殿下には陛下が既に話を通してくれているらしいので、そのまま部屋を訪ねていいそうだ。
(さて……見届け人はこの人か)
私は横にいる人をチラッと見る。
「王太子殿下、わざわざ付き添いありがとうございます~」
「いや。叔母上の体調も心配だったのでな。それに癒しの聖女の力というのも見てみたかった」
「ふふ、そうですか~」
(本当は付き添いはヴィンス殿下になるはずだったけど居ないんだもん、しょうがないわよね?)
私の癒しの力を見て感激するヴィンス殿下の姿が見たかったけど、今はしょうがない。
王太子殿下に、私の力を見せつけておくのもこれからの事を考えればいい事しかないし。
──ふふ、ふふふ……
王妹殿下を元気にさえすれば、私の信頼度は完璧……
想像するだけで笑いが止まらなかった。
───
「あなたが聖女レベッカ様? お兄様から話は聞いているわ。こんな所からの挨拶でごめんなさいね」
王妹殿下はベッドの中で私を出迎えてくれた。
外を歩けないせいで日に当たらない生活のせいか、色白で顔色も良くない。
痩せてるし……もうどこからどう見ても病人って感じ! 気の毒ね~
「いいえ、お目にかかれて光栄です。私が必ず元気にしますのでご安心ください!」
「ふふ、とても心強い言葉だわ。よろしくね」
王妹殿下は微笑んだけどやっぱり元気がない気がする。
これは相当、重病のようね……
そんな私に向かって王太子殿下も頷く。
「レベッカ、よろしく頼む」
「もちろんです! お任せ下さい!」
そうして挨拶もそこそこに私は王妹殿下に“癒しの術”をかける事になった。
そこでふと思う。
(……ところで、癒しの術ってどうやってかければいいのかしら~?)
そういえば、覚醒時は無意識だったから自分で何をしたのかよく分からないのよねー。
…………あれは、いったいどうやって覚醒したのかしら?
「……」
(うーん? とりあえず、手っ取り早く手をかざしてみればいい?)
そう思った私は、ベッドで横になっている王妹殿下に向かって適当に手をかざした。
「……」
「……」
「……」
しんっと部屋は静まり返っていた。
何故か、なーーんにも起きない。
(ええーー? どうしてーー?)
「……レベッカ? どうしたのだ?」
「あの……? レベッカ様?」
王太子殿下と王妹殿下が不安そうな声色で私に訊ねてくる。
───煩いわね! そんなの聞かれても私に分かるわけないでしょーー!?
そう言ってやりたい。
「えっと~、少々お待ちくださいね~……こ、これは今、気を溜めている最中なんです~!」
「そうか!」
「気を? 大変なのね、私の為にごめんなさい……」
とりあえず適当な事を言って誤魔化した。
これで、煩い二人は黙らせたわ。あとは癒しの力が発動するだけ……なのに!
(なんで、何の反応もしないのよーーーー!)
私は“癒しの聖女”なのよ!
誰よりも凄い力を持った聖女なんだからーー!
「……あ!」
私が強くそう思った瞬間、部屋の空気が変わった。
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