【完結】どうか、ほっといてください! お役御免の聖女はあなたの妃にはなれません

Rohdea

文字の大きさ
上 下
13 / 33

13. 大事にしなくちゃいけなかったもの

しおりを挟む


「ミリア……」
「!」

  ヴィンス様のその悲しそうな声を聞いて、私はようやく自分の発した言葉がどれだけ酷かったのかに気付かされた。

「……っ、ヴィンス様、わ、私───」
「妃にはなれない、か。うん。分かった、いいよ?」
「……」

  (……え?  いいよ?)

  私が言いかけた言葉を遮って発せられた言葉は「いいよ?」だった。
  その思ってもみなかった返答に私は唖然とした。
  なのにヴィンス様は私の混乱を知ってか知らずか握った手を離さないまま苦笑する。

「別にいいんだ。ミリアがなりたくないならにならなくてもね」
「ヴィンス、様?」
「だって僕が欲しいのは“ミリア”であって“聖女”や“王子の妃”ではないんだ」

  その言葉に強い衝撃を受けた。
  ヴィンス様が欲しいのは“私”───

  言葉を失った私と目が合ったヴィンス様は優しく微笑んだ。

「ある日、突然聖女なんて呼ばれるような存在になってしまって混乱しただろうに、それでも皆の期待に応えようと必死で頑張るミリア」
「……」
「苦手なことからも逃げずに前向きに挑んでいこうとするミリア」
「……」
「あとは、うん。本当は僕のことが好きなのに意地を張っちゃうミリア」
「……すっ!?  ど……っ!」

  す、好きって!
  え?  私の気持ち……バ、バレバレ?
  動揺が隠せない。

「僕はね?  そんなミリアをずっとずっと誰よりも近くで見てきて、“君”を好きになった」
「ヴィンス……様」
「聖女だから君を好きなわけでも、王子妃に相応しいから君を好きだと言ってるわけじゃないんだよ、ミリア」

  ヴィンス様の言葉の一つ一つが私の胸に刺さる。

  (バカだ……私……本当に大バカだ……最低……)

  誰よりも“聖女”に拘っていたのは私だ。
  だって“聖女”でないとヴィンス様の隣にいられないから。
  誰からも認められないから。
  
  (勝手にそう決めつけてた)

  本当に大事なのは……大事にしなくちゃいけなかったのはお互いの気持ちだったのに。

  未来の夢が視れなくなった……だから聖女ではなくなったので追放されて当然……
  だってもう私よりすごい力を持った新しい聖女がいるんだから……
  ヴィンス様はその聖女と結ばれる運命……

  そんな事を言い訳にして、自分が傷つきたくないからってヴィンス様の気持ちを無視して楽な方へと逃げていただけ。
  レベッカ様と結ばれる事はヴィンス様の幸せにはならない。私はこの事を分かっていたはずだ。
  だからこそ、本当は聖女ではなくなってしまった何も持たない“私”でも認めて貰えるように戦わなくちゃいけなかったのに。

  (それに……)

  ヴィンス様は分かってたんだ。私が聖女という存在に拘っていること。
  だから何度も……私が本物の聖女だって言い続けてくれた。
  ヴィンス様の本音は、聖女であろうとなかろうと私を求めてくれていたのに!

「……」

  (私だって、ヴィンス様が王子様だから好きになったわけじゃなかった……)

  確かに私達の出会いは結ばれる事が定められた、王子と聖女だった。
  でも、それよりも一緒に過ごしていく中で私は、“ヴィンス”という男の人を好きになった。

  ───どうして?  どうして私はそんな当たり前の気持ちを忘れていたの?

  王子と聖女は結ばれる……結ばれなきゃいけない────そんな気持ちばかりが頭の中に……
  ズキッ……
  突然、頭に痛みが走った。

  (……あ!)

  ……あぁ、そうか……
  最近やたらと見ていたヴィンス様と過ごした昔の夢は、そんな大事なことを忘れかけていた私にその気持ちを思い出させようとしていたのかもしれない───

  また、涙が溢れそうになる。
  でも、泣かない。今の私は泣く資格なんかない!

  私は、ヴィンス様から手を離すと自分で涙を拭う。
  そして頭を下げた。

「ミリア?」
「────ヴィンス様、ごめんなさい。私……私が間違っていました」
「え?」

  今、私がヴィンス様に伝えなきゃいけなかった言葉は、聖女がどうだとか婚約者にはレベッカ様がなるからとか、私では妃になれないとかじゃない。
  ヴィンス様が聞きたかったのもそういう事じゃない。
  彼が聞きたかったのはそんなしがらみを全部取っ払って残る“私の気持ち”だったのに。

  (───あぁ、ここに薔薇の花があればいいのに)

  ううん、駄目。そうじゃない。
  これはちゃんと自分の口で伝えなきゃいけないんだ。何かに頼っては駄目だ。
  私はもう一度涙を拭って顔を上げた。

「……好き、です」
「ミリア?」

  ヴィンス様の目をしっかり見つめる。

「私……もヴィンス様のことが、好き……なんです」
「……」
「聖女じゃなくてもいいから……妃にはなれなくてもどんな形でも……ヴィンス様と一緒に……いたい、です」
「……」
「あ、あなたが“王子”でなくても……好き!」

  ヴィンス様が黙り込んでしまった。

  (何を今更、調子のいい事を……とか思われてる?)

  ───それでもいい。

  私はぐっと拳を握る。
  それなら、今度は私がヴィンス様を追いかけるだけ!

「わ、私だって、ヴィンス様を守りたい!  あなたが好きだから!」

  私を信じ続けてくれたあなたを。
  そして、私の為に傷付いたあなたを、今度は私が守るわ!!

  ───私がそんな決意を込めた時だった。

  辺り一面に一段と眩しい光が放たれた。

「な、に……?」

  これまでの光とは比べものにならないくらいの眩しい光に驚きが隠せない。
  でも、この光はオロオロしているうちにすぐにスッと消えてしまう。

「な、何だった……の?」
「……」
「なぜ……」

  指輪が反応しているから、お花の件や先程のヴィンス様の怪我を塞いだのと同じ力……?
  でも、それにしては光の強さが桁違いだったわけで……
  ふと、そこでヴィンス様がずっと黙り込んだままでいる事に気付く。

「ヴィンス様……?  あの?」
「……」

  ヴィンス様がじっと自分の両腕を見つめている。
  そして突然、服の袖を勢いよく捲った。

「ヴィンス様……!?  いったいど……」

  突然、どうしたのかと声をかけようとして私はその光景にハッと息を呑んだ。

「……傷跡……が、消えている?」
「そうなんだ……」

  ヴィンス様も呆然とした顔で自分の腕を見つめている。
  さっきまで消えずに残っていたはずのヴィンス様の傷が今度は綺麗さっぱり消えていた。

  (どういうこと……?  まさか今の強い光が────)

「ミリア……」

  弱々しい声で私の名前を呼んだヴィンス様がそっと腕を伸ばす。
  そして、私をギュッと抱きしめた。

「ありがとう。君の気持ちが聞けて嬉しかった」
「ヴィンス様……」

  (もう、駄目……私に触れないで!  とは絶対に言わない)

  ここにいたいから。
  だから、私はそっと自分の腕をヴィンス様の背中に回した。

「……ミリア!」

  嬉しそうな声を出したヴィンス様の私を抱きしめる力がちょっと強まった気がした。







  ───そんな謎の光がちょうど辺境の地で放たれた頃……の王宮では。


  (……あ!  やったわ!)

「雨が……」
「おお!  本当に止んだぞ?」

  あんなに酷かった大雨が突然、ピタリと止んだ。
  
「レベッカ様の言う通りだった!」
「さすが聖女様!」

  (きゃーー!  さすが私!  適当な事を言っただけなのに天すらも味方につけちゃうなんて~!)

  先程までの嵐が嘘のように静かになり、なんと空には太陽まで現れた。

「ははは!  だから言っただろう?  聖女レベッカは凄い力の持ち主なのだと!」

  王太子殿下も一緒になって私を持ち上げてくれる。
  偶然なのか何なのか知らないけど、これは最高よ!  最高のタイミングだったわ!
  と、私が浮かれていると、そこへ大臣が飛び込んで来る。

「王太子殿下!  聖女様!  大変です」

  大変?  やめてよ、せっかくのいい気分の所なのに……

「は、氾濫していた川……起きていた土砂災害……そして避難中に怪我をした住民……全てが元通りになっています!」
「は?  元通り?」
「え?」

  私と殿下は同時に声を出す。

「ま、まるで……綺麗さっぱり、も、元の状態に戻っているのです!」
「そんなことが!?」
「~~……!」

  驚きの声を上げる王太子殿下。
  その横で私は喜びの悲鳴を上げそうになったのをどうにか堪えた。

  (────やったわぁぁあ!  私……ついに“覚醒”したんだわ!)

  ありとあらゆる全ての物を癒して浄化する最強の力よーーーー!
  何故かあるはずのは見られなかったけど、これは間違いないわ!  私の力よーーーー!
  だって、こんな事が出来るのは私しかいないもの───

「レベッカ!  これも……君の力なのか!?」
「そうですよ~殿下。これも聖女たる私の力ですよ!」

  私はニヤけそうになる口をどうにか抑えて微笑みながら答えた。
  ───そう。この先、大後悔する事になるこの一言を……

「ふふふ、この世に私に癒せないものなどありませんから!」

  王宮内は歓喜に湧いた。
しおりを挟む
感想 105

あなたにおすすめの小説

どうかこの偽りがいつまでも続きますように…

矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。 それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。 もう誰も私を信じてはくれない。 昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。 まるで人が変わったかのように…。 *設定はゆるいです。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

目を閉じたら、別れてください。

篠原愛紀
恋愛
「私が目を閉じたら、別れていいよ。死んだら、別れてください」 「……無理なダイエットで貧血起こしただけで天国とか寝ぼけるやつが簡単に死ぬか、あほ」 ------------------- 散々嘘を吐いた。けれど、それでも彼は別れない。 「俺は、まだ桃花が好きだよ」 どうしたら別れてくれるのだろうか。 分からなくて焦った私は嘘を吐く。 「私、――なの」 彼の目は閉じなかったので、両手で隠してお別れのキスをした。 ―――― お見合い相手だった寡黙で知的な彼と、婚約中。 自分の我儘に振り回した挙句、交通事故に合う。 それは予期せず、防げなかった。 けれど彼が辛そうに自分を扱うのが悲しくて、別れを告げる。 まだ好きだという彼に大ウソを吐いて。 「嘘だったなら、別れ話も無効だ」 彼がそういのだが、――ちょっと待て。 寡黙で知的な彼は何処? 「それは、お前に惚れてもらうための嘘」 あれも嘘、これも嘘、嘘ついて、空回る恋。 それでも。 もう一度触れた手は、優しい。 「もう一度言うけど、俺は桃花が好きだよ」 ーーーーーー 性悪男×嘘つき女の、空回る恋 ーーーーーー 元銀行員ニューヨーク支社勤務 現在 神山商事不動産 本社 新事業部部長(副社長就任予定 神山進歩 29歳 × 神山商事不動産 地方事務所 事務員 都築 桃花 27歳 ーーーーーー

頭頂部に薔薇の棘が刺さりまして

犬野きらり
恋愛
第二王子のお茶会に参加して、どうにかアピールをしようと、王子の近くの場所を確保しようとして、転倒。 王家の薔薇に突っ込んで転んでしまった。髪の毛に引っ掛かる薔薇の枝に棘。 失態の恥ずかしさと熱と痛みで、私が寝込めば、初めましての小さき者の姿が見えるようになり… この薔薇を育てた人は!?

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...