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10. 新しい聖女の吐いた嘘
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───その頃の王都では。
突然、天気が急変して嵐が吹き荒れていた。
一度に降る雨の量が多すぎて、土砂災害や川の氾濫、建物への浸水などの被害も出始めていた事から、王宮ではその対応に追われていた。
「レ、レベッカ様! どうして……どうしてこの事態をもっと早く予言してくださらなかったのですか!」
「……っ!」
「こんな天気が急変して酷い嵐が来ると分かっていたなら前もって言って下さらないと!」
新しい聖女となった私は今、大臣達に詰め寄られていた。
理由は私が“大きな自然災害”が起きるという未来の予言をしなかったかららしい。
(そんなもの私が知るわけないでしょーー!?)
私がこれから授かる“力”はそんなものじゃないのよ!
もっともっと凄いんだから!
土砂災害? 川の氾濫? そんなものは適当にあんた達がどうにかすればいい事でしょ!
「前の夢見の聖女様は、ここまで酷い場合はきちんと我々に危険が起きる可能性があると伝えてくださっていたのに! だからこそ、我々はいつも事前に対策を……」
「レベッカ様! このままでは街への被害が広がってしまいます! 教えてください! この先、雨はどうなる予定なのですか!?」
「────落ち着け! いいから今、分かっている被害を順に話すんだ」
私の横にいた王太子殿下が、間に入ってくれたので、とりあえず煩い大臣共は静かになった。
だけど、またすぐに矛先はまた私に向かうはず。
未来ではどうなる予定ですかって。こんなのやってられない。
(自然災害を察知? あの元聖女ミリアはそんな夢ばかり視ていたわけ?)
私の知っている未来は、私を幸せにする為の未来なのよ?
直接、私に関わらない他の人なんてどうでもいいじゃない?
災害で何人か犠牲者が出たからって別に国が滅ぶわけでもないし?
この大臣たちってキャンキャン煩いのよねぇ……
静かにさせる為にも、アレで王宮の人達みんなを私の虜にしたい所だけど、ヴィンス殿下に使いすぎたわ……
(そして本当にあの王子はどこに行ったのよ……!)
行方不明のまま未だに場所が掴めない。
全然、アレが効いてくれない上に反抗までするから、王太子殿下にお願いして鎖に繋いで監禁してもらったわ。
そろそろ観念したかと思って会いに行けば、ずっと私の事を睨んでいる。
口を開けば、ミリアはどうした、ミリアに何かしたら許さない……ミリア、ミリアととにかく煩かった。
(何で私を溺愛することになる王子が悪役を愛でてんのよ? おかしいでしょ?)
闇堕ちしたミリアは、全てを手に入れた私に嫉妬して、色々やらかしてくれないと困るのよ。
ヴィンス殿下は私をミリアの魔の手から庇ってくれるの!
それで私とヴィンス殿下の絆はどんどん深まっていくんだから!
そして、もちろんミリアは最後に報いを受けるの。スカッとするわ~
で、私はヴィンス殿下と結ばれて王子妃となる! これが未来よ!
「──レベッカ」
「は、はい? 殿下、どうしましたか~?」
ついついこれからの未来を思って考え事に没頭していたら王太子殿下に呼ばれていた。
「奴らがうるさくてな。すまないが、この嵐が今後どうなるかだけでも未来視してもらえないか?」
「……え!」
「元聖女のように、事細かに傾向をよんで対策まで述べる事まではしなくても構わん。視るのは今後の動きだけでいい。この嵐は落ち着くのか、それとももっと酷くなるのか」
(は? 傾向をよんで対策まで述べていた?)
ミリアの奴、なんて事までやってたのよ!
それ夢見と全く関係ない範疇よね?
迷惑! なんて迷惑なの!
そして、殿下も殿下よ! 今後の未来を視てくれ? バカ言わないでちょうだい。
でも、何か言わないと後々、面倒なことになっちゃうし……もぉ~~!
(そうね……この天気も突然の急変だったわけだから……ずっとこんな凄い大雨が続くはずがないわよね?)
「……大丈夫です! この嵐は夜までにはおさまりますよ~。だからご安心ください」
「そ、そうか!」
王太子殿下はデタラメの回答なのにホッとしたようで声高々に大臣共に告げる。
「聞こえたか! これが、あのように大して使えない夢見の元聖女よりも万能な新たな聖女レベッカの言葉だ!」
「聞きました!」
「では、あと数時間耐えれば大丈夫なのですね!?」
「ええ、そうよ! (多分)」
「ありがとうございます! レベッカ様!」
(ふふ、やーっと静かになったわ~)
大臣たちも安心したのか、もうすぐ止むならば……と、ホッとした顔を見せたので、私も満足した。
(ふふん。後は雨が止むだけ~早く止まないかしら~?)
私はそう思いながら、今も叩きつけるような雨が降っている窓の外を見た。
❋❋❋❋
──レベッカ様が未来を見れていないと周囲が実感する頃?
「ヴィンス様、それって……」
「例えば今、王都で何か災害が起きていたとしたら、何故、予言しなかった! と非難はあの女に向くだろう?」
「それは……まぁ……」
未来が視えていると公言しているのだから、そう言われるでしょうね。
「さすがに聖女を名乗っている以上、何故、未来視が出来なかったのか返答しなくてはいけなくなるはずだ」
「え、ええ」
「だが、未来なんて本当は視えていないあの女の事だ。その場で詰め寄られて適当な嘘をつくと僕は思っている」
「え!」
「だからさ、その通りにならなければ、あの女の信用はガタ落ちになるだろうね」
「……」
いくらなんでもそれは無いでしょう?
素直にその未来視はできなかったと言えばすむ話……
私はそんな目でヴィンス様を見る。すると、ヴィンス様は首を横に振った。
「いや、そういう女なんだよ。レベッカ・バラバルは」
「……」
「ましてや、今は本物の聖女であるミリアから、卑怯な手を使って立場を奪えたという高揚感でいっぱいのはずだ。口が裂けても“視えない”とは言わないよ」
すごくハッキリした口調だと思った。
(ヴィンス様のレベッカ様へのこの態度……いったい何があったの?)
それに、卑怯な手とは?
そこで私はふとヴィンス様の腕にあった不自然な怪我を思い出した。
まさか、あの怪我……レベッカ様が関係しているのでは……?
「ヴィンス様、腕を見せてください」
「え?」
ピタリと足を止めたヴィンス様が私を凝視する。
気になってしまった私は聞かずにはいられない。
「この間見てしまいました。腕を怪我……していますよね?」
「……」
「ヴィンス様、護衛もおらず、お一人という事はまともに治療も手当もしていませんよね?」
「……」
ヴィンス様がそっと目を逸らす。
もう! やっぱり! 分かりやす過ぎるわ!
「───見せてください!」
「ミ、ミリア……」
「いいから! さっさと袖を捲って見せてください!!」
私の剣幕に驚いたヴィンス様は、観念したようにそっと腕見せてくれた。
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