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アンネの野望

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  ───私、アンネ・クンツァは平民でありながら、貴族のための学園に特待生として通っている。
  この学園は、毎年難関な試験を突破した数名の平民を“特待生枠”として入学させていて、私はそんな今年の試験を突破して入学したのだけど───

  (誰も私に注目しないじゃないのーーー!)

  意気揚々と入学した私を待っていたのは、全く持って注目されない日々。

  (おかしい……特待生ってもっと一目置かれる存在ではないの??)

  皆から、チヤホヤされる未来を夢見ていた私には辛すぎる現実だった。
  どうしてこうなったのかと振り返ってみると、まず、最初からつまづいていた事に気が付いた。

  入学して直ぐに行われた試験。
  私は、まずあの試験でトップを目指す事を決めていた。特待生でトップを取れば一気に私の名前は学園中知れ渡るから。

  (王子様の目にも止めるかも!)

  なーんて淡い期待も抱いた。  
  平民の私が王子に見初められて……なんて夢も見た。

  だけど、その夢は試験の結果と共に粉々に打ち砕かれてしまった。


  ───1位    リュシエンヌ・ルベーグ

  (…………誰?)

  その名前を見た時、心の底からそう思った。
  私の名前じゃない女の名前が載っている。信じられない!!
  私は負けたの……?
  なら、私はどこにいるの?  2位?  そう思ってその横に目を通すもそこに私の名前は無い。

  (えっと、2位の欄の人……これって王子様の名前よね……凄いわ!  さすが!)

  などと、王子様に感心したけれど肝心な私の順位は何位なのよ?  と横をどんどん見ていくと……

  (あった!)

  ようやく見つけた私の順位は6位。
  真っ先に思う。なんて中途半端なのかと。

  あぁ、失敗した。
  私の華麗なる学園デビューが大失敗に終わったわ。

  そんな呆然としている私の近くでイチャイチャしているカップルが目に入った。




「…………それに、もうさっきからその顔が……はぁ」
「え?」
「…………何でも無いよ。これからの僕が大変なだけ……」
「?」
「隠しておきたかったなぁ……」

  (はぁ?  何なのこの会話……甘ったる!)

  これは明らかに男性の示している好意を女性が気付いていないパターン。

  (いるのよねぇ、そういうあざとい女)

  周囲もこの二人に興味津々な様子。
  それはそうよね~こんなところでイチャイチャ繰り広げてるんだもん。そうなるわよ!

「……教室に戻りたいです」
「うん、行こうか」

  そうしてその二人は周りからの視線を受けながら、手を繋いだまま教室へと戻っていった。
  私は呟かずにはいられない。

「…………何アレ?」

  (単なるバカップル?  貴族にもいるのねぇ……)

  そして、この時の私は知らなかった。
  この二人がステファン殿下とその婚約者である事を。



****



  (はぁ……全然私の思い通りに行かない!)

  せっかく王子様と同じ学園にいるのに接点すら持てないとか……無駄に時間だけが過ぎていく。
  私はつまらない学園に入ってしまったと後悔し始めていた。


  
  それから、何日たっても私は誰からも注目される事もなく過ごしていた。
  この頃から私は自分が誰からも注目されないのはのせいだと確信した。

  (あれもこれもそれも、私から1位を奪った女のせいに違いない!)

  リュシエンヌだかなんだか知らないけど目障りな女!
  だけど、調べたらあの女は伯爵令嬢で何と王子の婚約者だという。
  その事実を知った私は私はますますその女に腹が立つ。

  ───なんでよ!  何であの女は私が欲しいものを全部持ってるのよ!! 
  見た目も私に劣ってるし、たいして可愛いくもない。それなのに王子の婚約者とかふざけてる。だからこそ思う。

  (私が貴族だったなら絶対私が王子の婚約者に相応しいし選ばれるはずなのに……)

  何で自分は平民なのかしら。
  それだけが悔しかった。


  ────……


  そんなある日の事だった。
  いつものようにつまらない学園生活を送っていたら、クラスメートの会話が耳に入ってきた。
  クラスメートの一人であるどっかの令息が格上の家に養子に入ったという話だった。

  養子!

「そっか!」

  そうよ、養子って手があるじゃない。私を養子にしてくれる貴族がいればいい!
  そうすれば、私は王子の隣に立つのに相応しい身分を手に入れられる!
  そして、あの邪魔な婚約者を押し出して私が代わりに王子様の婚約者になれるじゃない!

  だからと言って私が直接貴族に向かって「養子にして下さい」と突撃するのは有り得ない。それくらいは分かる。
  でも、王子からの言葉なら?
  私と恋人になった王子からの言葉なら手を挙げる貴族もいるのではないかしら?

  ───つまり、私と王子が恋仲になればいいのよ!

  (完璧だわ!)

  そうして考える。
  王子と恋人関係になるには、まずは王子とあの女を引き離さないといけない。
  噂だと二人はいつも行動を共にしているとか。

  (何て図々しい婚約者なの。きっと嫌がる王子に無理やり付きまとっているに違いない!) 

  ──待ってて王子様!  この私があなたを解放して差し上げるわ!





  どうやってあの女と王子様を引き離そうかと考えている時だった。
  放課後にあの女が一人でいるのを見つけた。
  ちょうど私のいる階段ところより少し下の階段を降りていた。
  
  (このまま私がここから飛び降りてあの女を下敷きにしたら、きっとあの女は怪我をするわよね?) 

  怪我をすればさすがにあの女も学園を休むだろう。
  そうすれば、王子に一人の時間が出来る!!
  その隙を狙って王子に接近して私の魅力でメロメロにすれば!
  ……ふふ。

  ───いける!

  (このくらいからの高さなら私は受け身をとればちょっとした怪我で済むはずーー)
 
  あの女も死ぬ事は無いでしょ。
  それに……
  階段から落下だなんて可哀相な理由で怪我をした事で、私に注目も集まるかもしれない!

  (一石二鳥よ!  さて行くわよ、私!)

「きゃぁぁぁーーーー!」

  そうして、私は悲鳴をあげながら飛び降りた。





  あの女が失神したから上手くいった!
  そう思ったのに。
  先生が「殿下がお呼びです」って言うから、もう私の事を心配してくれたの?  と、期待していそいそとついて行ってみれば!

  待っていたのは王子からの冷たい目。(何で?)
  これはいけないと思って“可哀相な私”のフリをしてみた。(完璧!)

  なのに……

  (どうして?  どうして王子はそんな目で私を見るの??)

  こんなのおかしい!
  更に王子はまるであの女……婚約者に惚れているかのような言動や態度を取り始めた。
  お姫様抱っことか何してんのよ!?
  それで、私を置き去りにするとかどういう事?

  (なんて事なの……そんなにもあの女の洗脳が深いなんて……!)

  これは一刻も早く殿下を救ってさしあげないといけないわ!


  ───その日、私はそう決意した。

 
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