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私、セクハラ王子と愛を育んだ覚えは無いわよ??

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  ──どういう事??
  さっぱり意味が分からないわ。 “運命の人”ってなんの事なの?

「……っ!  ビーブル殿下とお見受けします、わ。失礼ですが、苦しいので離していただけませんか?」
「……!  なんと!  まさか俺の事を覚えてくれていたのか!  キャロライン嬢!!  嬉しいぞ!!」
「!?」

  穏便に済ませたくて丁寧に話したつもりだったのに、ビーブル殿下は離れるどころか、ますます私を抱きしめる力が強くなってしまった。

  (く、苦しい……)

  嬉しいぞ!  ではないわよーー!?  本当に何を言っているのーー??
  え、隣国の王子って、まさかの話が通じない人なの?
  気持ち悪い……

  完全に私の脳内はパニックに陥っていた。

  そうよ、そんな事より!
  こんな場面をシュナイダー様に見られて誤解でもされたらどうしてくれるの!?
  私はシュナイダー様一筋なんだから!!

  (シュナイダー様はもっと優しくて愛情たっぷりに抱きしめてくれるの)

  こんな、セクハラ王子とは大違いなんだから!

「お願いですから、離しー……」
「ぐえぇぇ!!」
「!?」

  ──離してください!!
  と大声で伝えようとしたところ、ビーブル殿下は突然私から離れると苦しそうな声を上げた。

  (な、何……が起きたの?)

  ぐえぇぇって……すごい声がしたけれど、生きてる、わよね?
  王子がここで万が一にも死んでたら国際問題待ったナシだ。
  そう思って目を凝らしてよく見てみたら、ビーブル殿下(生きていた!)の後ろからどす黒いオーラが見えた。

「あ!」

  シュナイダー様だわ!
  と、私は内心喜ぶも……
  ……シュナイダー様が見た事も無いどす黒いオーラを振り撒いて、ビーブル殿下の首根っこを掴まえていた。
  それを見た私は一気に血の気が引く。

  (エディ様の言っていた、混ぜるな危険!  血の雨が降るとはこの事ーー!)

「……ビーブル殿下。これはいったいどういう事でしょうか?」
「離せ!  苦しいではないか!!」

  (こ、声が!  シュナイダー様の声が今まで一度も聞いた事がないくらい怖い声してるぅぅ!)

  ビーブル殿下は離せと喚いているけれど、シュナイダー様は一向に聞く耳を持たない。華麗に無視をした。

「先程、貴殿は私の前で“自分の妃となる運命の人を迎えに来た!”とおっしゃいましたね?」
「そうだ!  俺の運命の人だ!!  彼女……キャロライン嬢を迎えに来た!  俺の妃!」

  (──は?)

  本当にこのセクハラ王子は何を言っているの?
  
「キャロライン!」
「ぐぇっ」

  セクハラ王子の気持ち悪い言葉に私が怯えたのが分かったシュナイダー様が、セクハラ王子を投げ捨てて私の元に駆け寄る。
  そして、優しく抱きしめてくれた。

「すまない!  キャロライン……あんな気味悪い男に抱き着かれて、さぞかし気持ち悪い思いをしただろ!?」
「……シュナイダー様!」

  私もギューッとシュナイダー様に抱き着く。

  (そうよ、この温もりよ)
  
  私を抱きしめていいのは、シュナイダー様だけなんだから!
  セクハラ王子はお呼びでは無いのよ!

「キャロライン……消毒をしよう」
「……?  消毒、ですか?」

  シュナイダー様が真面目な顔でそう言った。怪我なんてしていないのに?
  と、私が内心で首を傾げていると、シュナイダー様がチュッと私の頬にキスをした。

「ひゃっ!  シュナイダー……様?」
「キャロラインは僕だけのキャロラインだからね。他の男が指一本でも君に触れた事が許せないんだよ」

  そう口にしたシュナイダー様は今度は私の手を取ると、そのまま指の一本一本に口付けをしていく。

「……本当はドレスを脱がして身体中を消毒したい所だけど……」
「!!」

  ボンッと私の顔が赤くなる。
  ダメよ!  18禁は私達にはまだ早いわ!  
  濃厚なキスだけで私は腰が砕けそうになっているのよ??

「あぁ、キャロライン、可愛い……そんな顔をして僕を煽らないでくれ……止まらなくなる」
「あ……シュナイダー、様……」

  シュナイダー様の顔が私に近付いて来て、あと少しで私達の唇が……
  って所で、大声で邪魔が入った。

「やめろ!  俺の“運命の人”に何をしてるんだァァ!」

  ビーブル殿下だった。

「……」
「……」

  “運命の人”これが愛する人シュナイダー様と交わす言葉だったなら、この上なくロマンチックな言葉となるのに。
  セクハラ王子に言われると、ただただ気味が悪いわ。

「……ビーブル殿下、貴方はキャロラインが私の最愛の婚約者だと知っていてそのような無礼な事を口にしているのでしょうか?」
「婚約している事は知っている!  だが、そんなものは“真実の愛”の前では些細な事。そして婚約は解消すれば良いだけだ!」

  ゾワゾワした。
  “真実の愛”って、私、セクハラ王子ビーブル殿下と愛を育んだ覚えは無いわよ??

「キャロライン……」

  シュナイダー様が私の肩を抱いて引き寄せる。
  私が震えているのを察してくれたみたい。

「随分と勝手な事を言ってくれる」
「貴殿の婚約者を奪う形になるのは申し訳なく思うが、今この国にはセイラが……聖女がいるではないか!  貴殿は聖女を娶れば良いだろう?」

  セクハラ王子は俺の提案は最高だろ?  みたいな顔でそんな事を言い出した。

「聖女の気持ちも考えずに勝手な事を言うな!」
「いや、そんな事は無いはずだ。セイラは貴殿の大ファンだからな」

  その言葉にチクリと私の胸が痛む。
  ダメ!  今は考えない。

「そんな事より、ビーブル殿下。貴方はキャロラインをどこで見初めたのですか。どうやら、キャロラインには全く貴方の事なんて覚えがないようなのですが?」

  シュナイダー様の氷のように冷たい声がすごい……
  しかし、そんなシュナイダー様による凍えそうな氷の刃も、セクハラ王子ビーブル殿下は全く気にならないようで、呑気に笑いながら言った。

「ははは、なんだ。やっぱり俺を覚えてはいなかったのか、運命の人キャロライン嬢
「……」
「あの日、俺と君は運命的な出会いをしたではないか!」
「!?」

  あの日ってどの日!?
  全く記憶にございません!

「はっはっは、そうか。仕方のない人だな。だが、そこが可愛い。そう、確かあれはー……」

  と、笑うセクハラ王子による気持ち悪い語り話は続いた。


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